第61話 私は
5歳のとき。
まだ、男性のことを「こわい」と感じなかったころ。
私は、蓮くんのことを好きになり、「結婚」したいと願った。
しかし私は、蓮くんと、すれ違ってしまう。
心の奥底で、私はずっと、蓮くんのことを求めていた。
私は、男性からの視線に苦しむようになった。
そして私は、男性を「こわい」と感じるようになった。
女性から敵視され、男性からは「モノ」として求められ続けた。
誰も、「ありのままの私」には、興味を示してくれなかった。
それで私は、「ありのままの私」には「価値」がないのだと思った。
私は、ずっと「ひとり」だった。私には「価値」などなかったから。
夢咲と美月が、私から「ひとり」を奪ってくれた。
私は、「ありのままの私」を受け入れてくれる「ふたり」と出会えた。
私が、急に「さんにん」になった。
そんなとき、蓮くんが、来てくれた。
5歳の頃から、ずっと「ありのままの私」と向き合ってくれていた男性。
だから、私にとって蓮くんだけが、ずっと「こわくない男性」だった。
蓮くんが、手をつないでくれた。
男性のことを「こわい」と感じる気持ちを、蓮くんが「治療」してくれた。
蓮くんだけが、私を「人間」にしてくれる。
蓮くんを失えば、私はまた「モノ」に戻ってしまう。
蓮くんを、失いたくない。蓮くんは、私のすべて。
だから蓮くんと「結婚」した。
蓮くんが、だんだん、私のこと、知るようになる。
でも、「ありのままの私」には、ほんとうは「価値」なんてない。
私は、弱くて、誠実じゃなくて、犯罪者で、カンニングする「偽物」。
これ以上、「ありのままの私」を知られたくないと思った。
私は、蓮くんと話すのが「こわく」なった。
蓮くんだけが、私にとって「こわい男性」になってしまった。
私は、蓮くんの愛を信じきれない。
私は、蓮くんと、ほんとうは「結婚」できていなかった。
私にも「価値」があると思わせてくれる蓮くんに、ただ、依存していただけ。
そして私は、蓮くんに、「モノ」としての自分しか、捧げられていなかった。
私の、一方的な、蓮くんへの依存。それは「結婚」とは言わない。
年齢とともに、「モノ」としての私の「価値」は劣化する。
だから、私と蓮くんの「結婚」は、このままでは、必ず、破綻する。
でも。
私は、蓮くんのことが好き。大好き。きっと、愛している。
これだけが、私の、ほんとうの気持ち。
誠実とは、嘘いつわりなく、心の底からの思いで人と接すること。
蓮くんのことが、好き。嘘いつわりのないここから、「ありのままの私」を育てる。
蓮くんに相応しい、「ありのままの私」になる。
そして、蓮くんと、ほんとうの「結婚」をする。
第6章に突入しました。この第61話までお読みいただけたこと、本当にありがとうございます。嬉しいです。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
七海の独白です。ノートに書いているイメージです。これまでは、ほぼ、三人称の視点(神の視点)で書いて来ました。しかしこのエピソードでは、あえて一人称の視点(七海の視点)を導入しています。通常、小説のような物語では、人称を混ぜないのが自然で読みやすいとされます。ただ、ここでは、七海がどのように自分を理解しているのかを強調するため、こうしています。混乱させてしまったら、ごめんなさい。次のエピソードから、また、三人称に戻ります。
引き続き、よろしくお願い致します。




