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第53話 カウントダウン

 今回の事件を受けて、信頼性の高い論文を複数見つけた。法的に結婚していると、ストーカーに狙われる確率は下がるのだという。


 ストーカー被害(過去12ヶ月)は、既婚者 0.8% / 未婚者 1.7% / 離婚者 2.5% / 別居者 3.8%の確率になる(※1)。さらに、「若いこと」は、ストーカーされるリスクを上げてしまう(※2)こともわかった。


 御影(みかげ)(17歳/6月22日生まれ)と七海(ななみ)(16歳/10月15日生まれ)は、事実婚をしているとはいえ、法的には結婚していることにならない。そして、ふたりは若いからこそ、ストーカー被害に遭いやすい。


 そこでふたりは、法的にも結婚することに決めた。


 しかし、今の日本の法律では、18歳になるまで、結婚できない。かつては、未成年でも父母の同意があれば結婚できた時代もあった。しかし、その法律は削除(2022年4月1日)されている。(注)


 ・民法731条(婚姻適齢)「婚姻は、十八歳にならなければ、することができない。」

 ・民法737条(未成年者の婚姻に父母の同意)「第七百三十七条 削除」

 

 度重(たびかさ)なるストーカー行為や、それに準ずるグレーな誘いを受け続けてきた七海(ななみ)。御影も、よく女子に付きまとわれてはいる。しかし御影は、それに危険を感じたことは、ほとんどなかった。


 この問題。より危険なのは、七海だ。


 七海のリスクを下げる。そのために、13ヶ月後、七海が18歳になった時点で、法的にも結婚する。双方の親も、この線で納得してくれている。事実婚を認めてもらっているいま、これは難しくない説得だった。


 あと13ヶ月を、どのように乗り切るかを、七海と御影は話し合った。


——蓮くんが、私の安全を、本気で考えてくれている。嬉しい


 まずは、安全対策。七海は防犯ブザーを持ち歩き、トイレには一人で行かない。SNSへの投稿は避け、位置情報を可能な限り秘匿する。御影がいないときは、いつも誰か、女子と一緒にいるよう注意する。


 ストーカーの67%は、被害者と顔見知り以上の関係である(※3)。なので、ふたりは特に、北川高校の生徒を警戒しなければならない。


 同時に、33%もの割合で、顔も覚えていないストーカーからの被害があることにも注意が必要だ。こうしたストーカーは、内面的な魅力ではなく、外見的な魅力だけを追いかけている可能性が高そうだ。


 もちろん、御影は護衛も兼ねて、できる限り七海と一緒にいる。そして、御影の魅力をアピールすることも、他の男子に、「可能性がない」と思わせるために重要だと結論づけた。


 バカップルを、楽しむ。


 それが、ふたりの結論だ。とにかく、幸せそうなカップルであることが、ストーカーの抑止になる。どうせなら、幸せなフリをするのではなく、本当の幸せを追求しようということになった。


 そして歳を重ねていけば、ストーカーされる確率は下がっていく。別居は最もリスクが高くなり、避けるべきというデータも、将来を考える上で参考になる。七海は、それが嬉しい。


——別居がいちばん危険! 蓮くんが留学することになっても、ついて行く理由ができた!


 ところで、いつまで、七海は、こうして男性から追われるのだろう。いつまで、ストーカーをこわがりながら、彼氏や夫の存在を、アピールする必要があるのだろう。


 もちろん、個人差が大きい話だろうとは思う。


 ただ、研究によれば、女性の「外見に関する、男性からの望まれやすさ」は、18歳を頂点として、加齢とともに60歳まで一貫して低下するのだという(※4)。


 とはいえ、18歳はあくまで男性の理想。男性が実際にアプローチしている女性の年齢の頂点は、おおむね18〜20代前半とのことだった。


 さらに同研究によれば、男性は年齢が上がるほど、「女性からの望まれやすさ」が増え、50歳前後が頂点とのこと。男性と女性で、異性に求める年齢的な理想が、全く違うことに驚いた。


 こうしたわけで、女性が注意すべきストーカーの脅威は、統計的に考えると、18歳のとき最も大きくなりそうだ。実際のアプローチを考えても、20代前半を超えれば、脅威は減る可能性が示唆される。


——法的に結婚できる18歳。そこが警戒のピークになりそう


 もちろん、この話は、年齢とともに上がる可能性のある「内面的な魅力」については、検討されていない。なので、実際の交際関係には、年齢以外の要因も多く、もっと複雑になるはずだ。


 ただ、少なからぬ割合のストーカーは、相手の内面を理解するほどに、相手との対話をしていない。なので、ストーカーについて考えるのであれば、やはり、18歳を一旦のピーク、参考値として、問題なさそうだ。


 この話を逆手に取れば、実際の年齢よりも大人っぽく見せることが、ストーカー対策の一つとなり得るかもしれない。少女っぽい格好、メイク、仕草ではなくて、大人っぽさを勉強して身にまとう。


——大人っぽい美月から、アドバイスをたくさんもらおう。あ、お母さんからも、もらおう


 今回の論文調査から、残り13ヶ月のカウントダウンが開始される。今回は、こわい話を学んだ。ただ、あと13ヶ月、無事に乗り切れば、その後はリスクが低下していく。これには、大きな希望が感じられる。


 そんなことを考えて、婚姻届を手に入れた。


 七海と御影は、その婚姻届に、必要事項を全て記入した。婚姻届には、有効期限がない。あとはただ、七海の18歳の誕生日に、届出が受理されれば、それで法的な結婚となる。


 この婚姻届を提出するのは、13ヶ月後。


 それまでは、この婚姻届をクリアフォルダに入れて、下敷きにする。よりリスクの高い七海が、使用する。わざと、周囲にみせるためではある。でも


——嬉しい。こんな紙切れが、こんなに愛おしいなんて。「モノ」だからって、それだけで否定することなんて、できないんだな


 ちょっと心配になって、事実婚についても、ふたりは調べてみた。


 日本の法律は、届出のない、「婚姻同様の実体」を「内縁」として広く保護している(財産分与・遺族年金など)。行政手続きでも「夫(未届)/妻(未届)」の記載が可能だ。


 七海と御影が注意しなければならないのは、未成年・青少年保護や、性犯罪規定に触れる場合であることがわかった。


 関係者が青少年の場合、都道府県の青少年健全育成条例(18歳未満との「みだらな行為」等の規制)や、性犯罪法改正(同意年齢16歳)の規定に抵触し得る。


 関係そのものではなく、事実婚にともなう行為が、違法になる可能性があった。18歳までは、大人しくしている必要がありそうだ。


 これには、七海の方が、かなり露骨にがっかりしている。

【筆者注】2025/9/1時点での情報です。あくまで、このフィクションの執筆する上で、必要となり調べました。筆者は法律の専門家ではありません。法律に関することを正しく知りたい場合は、この記述を参考にせず、専門家にお尋ねください。


ここまで、第53話もお読みいただきました。本当に、ありがとうございます。嬉しいです。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


ストーカー被害にあっている人は、既婚者でも0.8%もいるというところ、驚きでした。誰にとっても身近な問題なのです。よくニュースにもなりますが、危機意識を持たないとなりません。ただ、そもそも、ストーカーの33%が、顔も知らない他人とのことです。ですから、危機意識だけでは全然、足りないのでしょう。困った問題です。


引き続き、よろしくお願い致します。


参考文献;

1. Bureau of Justice Statistics. Stalking Victimization, 2019. Washington, DC: U.S. Department of Justice, February 10, 2022.

2. Ngo, F. T. “Responding to Stalking Victims…,” Journal of Family Violence (2020).

3. Morgan, R. E., & Truman, J. L. (2022). Stalking Victimization, 2019. U.S. Department of Justice, Bureau of Justice Statistics. NCJ 301735.

4. ruch, E. E., & Newman, M. E. J. (2018). Aspirational pursuit of mates in online dating markets. Science Advances, 4, eaap9815.

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