第35話 「みんな」の力
七海は、高橋先生と小林さんへのインタビューを、みんなとのランチで報告している。
刺激も学びも多かったので、七海は、少し興奮気味だ。
七海「まずはじめに。美月が言ってた、『親友と一緒に勉強すると成績上がる』っていうやつ、調べてみました」
美月「おお、やっぱり、正しかった?」
七海「うん。正しかった。こうしてみんなで勉強すると、学習効果が高いって。でも注意もあったよ。人任せにしてサボる人が出てくる(※1)」
夢咲「うーん、それな」
七海「この問題を回避するには、全体目標と、個人の役割を明確にするのが重要だって。全体目標は、『みんなで医療系の理解を深める』として、個人の役割は、私は『医療系に関することを自分のペースで調べる』でどうかな。で、みんなは『七海の話を聞いて、アドバイスする』みたいな?」
美月「それくらいなら、負担ないし、気軽でいいな」
七海「それと、もう一つ注意。みんなで勉強するとき、それが匿名だったり、人数が多すぎたり、課題が退屈だと、モチベーションが低下するみたい(※2)」
夢咲「人数が多すぎるとって、難しいね。仲間はずれとか、したくないし」
美月「そうだね。私も、医療系に興味ある人とか、ここに呼ぼうかと思ってた。けど、難しいんだね。よく考えないと」
カイオ「いったんは、このメンバーだけにして。成果がまとまったら、新聞部に協力してもらって、成果だけでも校内に伝わるようにしたらどうかな? 進路指導室の先生に相談して、成果発表会みたいなのを、別にやっても面白いかも。気が早いけど、『医学研究会』みたいな部活にしちゃうのも、楽しいかもね」
御影「さすが、カイオ。そういう発想、俺にはない」
七海「部活かぁ。私、家のことがあって、部活とか無理って思ってた。でも、そうだよね。部活にしたら、先輩とか後輩も、医療系に興味ある人が集まれるってことか」
美月「成果がたまって、興味ある人が多かったら、部活として申請する」
夢咲「部活として認定されたら、予算つくよね。そしたらみんなで、医大とか、看護学校を見学するための交通費とか出るね」
カイオ「それで人数が増えたら、医学、看護学校受験、スポーツ科学みたいに、部内で担当を分けて、それぞれに調べてもいいよね」
御影「いちいち、発想がすごいな、カイオ」
七海「夢が膨らむなぁ。みんなと進めるって、すごいなぁ」
御影「まだ、七海のインタビュー報告が始まっていないけど、俺からも、報告したいことがある」
夢咲「なに? こわいんだけど」
御影「恋愛は、健康に良いってこと。医学系のエビデンスが多数あった。もちろん、恋愛の中身にもよる。お互いに支え合うような、質の高い恋愛は、健康に良い。72,000人もの人のメタ分析でも、そういう結果になってる(※3)」
美月「それって、精神的な健康?」
御影「いや、精神的にはもちろん、肉体的な健康にも、かなり影響する。そもそも、死亡リスクが減って寿命が伸びる。パートナーの写真をみるだけで、痛みが減るとかもある(※4)」
七海「良い恋愛、良い夫婦関係について考えることも、医学なんだ。誰かの恋愛や人間関係がより良いものになるよう工夫することも、医学なんだ」
御影「七海は、俺と出会ってからずっと、医学をしてきたことになるね」
七海「決めた!」
夢咲「ハトヤ? ハトヤなのか?」
七海「私、いつか、医学研究会を立ち上げる! で、その中で、恋愛学を担当する!」
七海は、止まれない。インタビュー報告もそこそこに、七海は「図書室で、調べたいことがある!」と、一人で行ってしまった。
七海にも、こうして「御影を置き去りにしてでも調べたいこと」ができた。
この事実に、七海はまだ気づいていない。
もう、第35話までお読みいただきました。ありがとうございます。嬉しいです。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
ひとりじゃなく、みんなで取り組む。それで物事が上手くいった経験、したことありますか? 逆に、ひとりでやった方が早いって思うこともありますよね。でも、一度でも、みんなで取り組む素晴らしさを知ると、病みつきになります。こういう小説みたいなのも、やはり、読者があればこそです。ひとりで書いているわけじゃないって思います。
引き続き、よろしくお願い致します。
参考文献;
1. Roseth, C. J., Johnson, D. W., & Johnson, R. T. (2008). Promoting early adolescents’ achievement and peer relationships: The effects of cooperative, competitive, and individualistic goal structures. Psychological Bulletin, 134(2), 223–246.
2. Karau, S. J., & Williams, K. D. (1993). Social loafing: A meta-analytic review and theoretical integration. Journal of Personality and Social Psychology, 65(4), 681–706.
3. Robles, T. F., Slatcher, R. B., Trombello, J. M., & McGinn, M. M. (2014). Marital Quality and Health: A Meta-Analytic Review. Psychological Bulletin.
4. Master, S. L., et al. (2009). A Picture’s Worth: Partner Photographs Reduce Experimentally Induced Pain. Psychological Science, 20(11), 1316–1318.




