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第26話 文化祭準備、からの論文検索

 北高の文化祭「北灯祭」、1年B組の出し物は、メイド喫茶で決まっていた。一学期末には企画が固まり、クラスでこれまで、準備を進めてきた。


 しかし、ここにきて、問題が発生した。


 3年C組の出し物は、コスプレ喫茶だと聞いていた。しかし実際には、メイドのコスプレが多く、出し物として1年B組と(かぶ)ることがわかったのだ。


 なにか、パンチのある修正が必要だ。そんな議論をしているとき、夢咲が


夢咲「男子にも女装させて、メイドやってもらうのはどうよ?」


 この夢咲の提案があって、数秒後。


 クラス中の視線が、生暖かく、御影 蓮(みかげ れん)に集まる。クラスメートたちの脳内が、絶妙にシンクロする。ホワーン、ホワワーン。


女子A「女装した御影くんに、これっぽっちも勝てる気がしない……」

男子A「なんか、新しい世界が開けそうで、こわい……もう、恋が始まってる」

男子B「俺、想像しただけで……御影のこと、もう、好きかも……」


担任「あ、ありかも……」

 

御影「あ、あの、みなさま? 俺は、嫌ですよ? っていうか、先生まで?」


 御影は、思わぬ注目を浴びて、頬を赤くしている。クラスメートたちの脳裏に、女装する御影の姿がはっきりとみえた瞬間である。


クラス一同(やばいかも、これ、本気でかわいいやつだ!)


七海「私は、そんな……私だけが知ってる、秘密にしたい『かわいい蓮くん』を、みんなにみられることに……強く、嫉妬します! だから、却下っ!」


美月「なに言ってるんだ? 脳バグってるぞ、七海」


女子B「みるくらい、いいじゃん! 御影くんを奪うわけじゃないし!」

女子C「そうだ、そうだ! みて楽しむ自由まで取るな! 横暴だ!」

夢咲「そうだ! みたいものは、みたいんじゃ!」


七海「ダメー! 蓮くんは、私だけの旦那様なのー!」


 ギャーギャーしている。そして、一人の女子がつぶやく。


女子D「御影くん、七海と同じメイド衣装着て、隣に立つの……厳しいかも」

女子連合「それな……」


男子D「じゃあ、御影と七海ちゃんには、『広告塔』として客寄せしてもらえばいいじゃん」


 美月による「有象無象の来校者の中、七海(ななみ)を一人で歩かせるのは危険」との意見によって、それではと、御影(みかげ)と七海は、一緒に校内を歩き回ることが決定された。


 ふたりきりで、「文化祭デート」ができることを理解した七海は、


七海「そ、それなら、蓮くんの女装も仕方ないかな」


夢咲(美月、ナイス)



 その日の放課後、七海は、美月(みつき)たちの家庭教師をしていた。勉強がひと段落したところ


美月「うちのクラス、仲良くなったよねー」


七海「1学期の頃は、かなり険悪だったのにね」


御影「そうなの? 想像できないな」


七海「なんでなのかな? 関係性を育てるスキルが隠されてる気がする」


御影「論文、調べてみようか。美月、パソコン借りていい?」


七海「あっ、論文の調べかた、教えて! 私、それ、自分でできるようになりたい!」


 御影は、丁寧な解説を始めた。


 わかりやすい解説は、人を()きつける。


 まず、七海、美月が興味を示し、弟、妹、美香も、その輪に加わる。小さな子どもには理解できないことも多かったが、子どもなりに、学べることもあった。


 仮説の分解、キーワードの設定、論文検索エンジンごとの特徴、検索の基本、総説・メタ分析の入手、論文の信頼性評価、反証の探しかた、無料で論文を入手するハック——


七海「やってみるから、蓮くん、みてて」


御影「うん」


 七海は、教わった通りに、論文検索を開始した。美月も、七海に加わって、ああでもない、こうでもないとやっている。


 七海は、美月に教えられた翻訳ソフトに感動する。「英語を真面目に勉強してた私、バカみたい」とのこと。


美月「御影、七海、今日うちでご飯食べて行きなよ。お母さーん、いいよね?」


美月母「もちの、ろん!」


 七海(ななみ)美月(みつき)は、そうしてパソコンにかじり付いた。


 御影は、美月の弟、妹、美香のおもちゃにされている。


 どうやら、満足のいく論文検索ができたようだ。夕食を終え、子どもたちとTVゲームをさせられていた御影。その御影を呼び出し、七海は、見つけた論文の内容を、誇らしげに披露し始める。


七海「まずですね、仮説は『人間関係は、共通の目標に向かう共同作業によって、より良好なものになる』としました」


御影「いいね」


七海「で、教わった通りに論文検索をした結果、メタ分析(複数の論文を統計的・横断的にまとめた分析で信頼性が高い)がすぐにみつかりました。そこから、興味のわく論文が芋ずる式にみつかりました」


御影「完璧」


七海「で、そうした論文の『アブストラクト(論文の内容を要約した部分)』を読み、そこから、わかったことをまとめてみました」


御影「メタ分析があると、楽だよね。でも、メタ分析が見つからない場合もあるから、注意ね。メタ分析がないと、論文検索は、もっと大変になる」


七海「その場合は、また教えてください」


御影「了解」


七海「では、わかったことを発表します」


 七海に、みんなの視線が集中する。美月の両親も、聞いている。


七海「まず、パートナーの間で、目標が一致すればするほど、目標達成の可能性だけでなく、関係の質も向上します(※1)。だから、パートナーは、目標を一致させるために話し合うことが大切です」


七海「次に、そうした目標の達成が、パートナー双方の利益になると良いです。親密感が向上し、ラブラブ化します(※2)。だから、目標を設定する前に、みんなの利益について理解しておくことが重要です」


七海「さらに、目標を達成させるための行動が、共同作業であると、関係性を向上させる効果が高いです(※3)。例えば、メイド服を一緒に作るみたいに、同じストレスを共有するイメージです」


七海「最後に。カップルが別れてしまわないためには、目標を立て、行動することを『計画的に行う』ことが重要です(※4)。そこで私は、(れん)くんに提案があります」


七海「奇数月は私、偶数月は蓮くんが、デートの企画を担当します。デートの目標は『どちらにとってもワクワクすることを一緒に体験する』です(※5)。費用の上限は各自3,000円、合計6,000円までとします」


御影「いいね、やろう。俺から始めたいから、奇数月を蓮、偶数月を七海にして」


七海「了解であります」


御影「これが俺たちの初めてのデートになる。約束した通り、七海のお父様のお墓参り。それを、不謹慎にならないように注意しつつ、ワクワクできるものに企画する」


 七海は、約束を思い出して、目頭が熱くなる。泣いてしまうことを我慢する七海。しかし、自分が御影に大切にされていることを実感し、どうしても止められない嬉し涙が溢れてくる。涙声で、


七海「人生には、必ず、困難があります。きっと……私と蓮くんにも、これから、たくさんの困難があるのでしょう。しかし、そうした困難に直面したとき、それを『私の課題』ではなく『私たちの課題』とする態度が、私たちの関係を、どこまでも強くするのです」


七海「以上です。ご清聴、ありがとうございましたっ」

第26話です。こんなにも、ずっと、この物語をお読みいただきました。本当に、ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


ホワーン、ホワワーン。御影の女装、想像できましたか? ツンデレの理想みたいなイメージです。さて、論文検索です。今は、AI を使えば、素人でも、かなり簡単にできるようになってます。トライしてみてください。


引き続き、よろしくお願い致します。


参考文献;

1. Fitzsimons, G. M., Finkel, E. J., & vanDellen, M. R. (2015). Transactive goal dynamics. Psychological Review, 122(4), 648–673.

2. Gere, J., Schimmack, U., Pinkus, R. T., & Lockwood, P. (2011). The effects of romantic partners’ goal congruence on affective well-being. Journal of Research in Personality, 45(6), 549–559.

3. Falconier, M. K., Jackson, J. B., Hilpert, P., & Bodenmann, G. (2015). Dyadic coping and relationship satisfaction: A meta-analysis. Clinical Psychology Review, 42, 28–46.

4. Gere, J., Almeida, D. M., & Martire, L. M. (2016). The effects of lack of joint goal planning on divorce over 10 years. PLOS ONE, 11(9), e0163543.

5. Aron, A., Norman, C. C., Aron, E. N., McKenna, C., & Heyman, R. E. (2000). Couples’ shared participation in novel and arousing activities and experienced relationship quality. Journal of Personality and Social Psychology, 78(2), 273–284.

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