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第23話 夢咲スキル

 七海(ななみ)は、ウキウキしている。


 七海は、御影(みかげ)との関係に不安を感じていた。しかしそれは、関係を「運命」まかせにしていたから。


 この不安をなくすには、関係を「運命」に丸投げせず、好ましい関係性を育てるスキルを学べばいい。七海は生まれてはじめて、テスト勉強以外の勉強を意識した。


——自分が学ぶべきことは、自分で決める


 そこで七海は、まず、夢咲(ゆめか)のスキルから学ぶことにした。七海は、このとき、亡くなった父親に()められている気がした。


——私たちは、大丈夫だ。


 いつもの教室、2時間目と3時間目の間、少しだけ長い休み時間。


 空いていた、夢咲の隣の席に座って


七海「ねえ、夢咲」


夢咲「お、なに? 珍しいね、七海のほうから仕掛けてくんの」


七海「あのね、夢咲(ゆめか)ってさ、よく、『なにかいいことあった?』って聞くよね?」


夢咲「そうかな? あー、言われてみれば、そうだ」


七海「なんで?」


夢咲「だって、世の中、暗い話ばっかりじゃん? 数学の赤点とかさ。だからせめて、良いニュース聞きたいなって」


 美月(みつき)も「なになに?」とやってくる。


七海「ほうほう」


夢咲「な、なに? こわいんだけど」


 そこで七海(ななみ)は、こうしてインタビューをしている事情を、夢咲と美月に説明した。


美月「あんたも、苦労してんだねー」


七海「私、ずっと友だちいなかったから。人間関係を豊かにするスキルが鍛えられてないって、やっと自覚できたの」


夢咲「あんたほどの超絶美女でも、普通に、『捨てられちゃうかも』って不安になるんだね」


七海「からかわないでよ、私、真剣なの!」


夢咲「わーった、わーった。で、なに聞きたいの?」


七海「ちょっと、私と美月(みつき)の会話、みてて」


 七海は、役者になったような感じで、背筋を伸ばし、息を整える。


七海「美月、おはよー」


美月「お、おう。おはよう」


七海「美月、機嫌良さそう! なにかいいことあった?」


美月「ぬー、特に、これといってないかな……」


七海「……」


 夢咲(ゆめか)が、なにかに気づく。夢咲は、少し考えてから、おもむろに話し始めた。


夢咲「美月(みつき)、この間、カイオが嫉妬してたぞ」


美月「え、なんで? なんでカイオが嫉妬?」


夢咲「美月、このまえ、F組のやつに告られてただろ? 噂になってたぞ」


美月「ああ、そんなことあったね。でも、ちゃんと断ったよ」


夢咲「カイオがさー、それで『美月ちゃん、可愛いからなぁ……ちゃんとガードしないと』とか言って、ため息ついとったぞ。ガチで落ち込んでた」


美月「マジで? あいつでも不安になるの? 私から告って付き合ってんのに?」


夢咲「愛されとるなー、おぬし」


 わらわらと、教室にいた他の女子たちが、美月(みつき)の周りに寄ってくる。


女子A「なになに? 美月、いいことあったの? おめでとー」

女子B「えー、美月、カイオくんとうまくいってんのねー、うらやま」


美月「いや、いいことっていうか、まあ、嬉しいかな」(赤くなる)


——あれ? 美月ってこんなキャラだったっけ?


 夢咲(ゆめか)が得意そうにしている。七海は腕組みをして、下を向いてなにかを考えている。


 夢咲は、完璧だった。その場の空気がハッピーになった。みんなが、少し仲良くなった。


夢咲「七海(ななみ)。いいことっていうのはさ、待ってないで、こっちから探すんだよ」


七海「な、なるほど」


夢咲「今回はさ、『美月が告られて、カイオが落ち込んでた』っていうニュースを、私が、事前に仕入れてるわけ」


美月「やめてよ」(また赤くなる)


女子A「なんか、美月(みつき)、最近、キレイになったよね!」


 女子A、女子Bが美月をキャッキャと囲む。「うらやましいぞ」「あれ、ネイル変えた?」


夢咲「誰かのニュースに敏感ってことはさ、その誰かのこと、気にかけてるってことじゃん? その誰かからすれば、そういうの、嬉しいよね」


七海「そこまで考えてるんだ……」


 天然じゃない。ちゃんと、夢咲は考えて行動している。どうすれば、みんなが嬉しい気持ちになるか、知っている。これは、確かにスキルだ。


夢咲「みんなで嬉しそうにしてると、ほかの人も『なになに?』って寄ってくるわけ」


七海「寄ってきてるね」


夢咲「そうするとさ、よかったことがさ、思い出になる。寄ってきてくれた人のこと、ちょっと好きになる」


七海「すごい夢咲(ゆめか)、ほんとうに、すごいね! ありがとう!」


 七海は、これを「夢咲スキル」と名付けた。御影ともその感動を共有した。さらに、御影には「関連する論文があれば、教えて欲しい」と伝えている。



 次の日の昼休み。


御影「えっと、ピックアップした論文は3本(※1,2,3)」


七海「ありがとう!」


御影「内容を簡単にまとめると……相手に起こった『よかったこと』を見つけ、質問をして具体的に深掘り、一緒に喜ぶ。このステップを意識すると、相手との関係性が良好になる」


 七海(ななみ)は、真剣にメモしている。


七海「論文、私もちゃんと読みたいから、プリントアウトもよろしくね!」


御影「姫様、お安い御用です」

第23話まで、お読みいただき、本当に、ありがとうございます。嬉しいです。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


夢咲は、僕の中では、本当は、七海以上に重要なキャラです。なぜなら、僕自身とは真逆のキャラだからです。真逆というか、理解不能? まだまだ、彼女には、多くを語ってもらう必要があります。僕が本当に「知りたい」のは、夢咲かもしれないです。


引き続き、よろしくお願い致します。


参考文献;

1. Gable, S. L., Reis, H. T., Impett, E. A., & Asher, E. R. (2004). What do you do when things go right? The intrapersonal and interpersonal benefits of sharing positive events. Journal of Personality and Social Psychology, 87(2), 228–245.

2. Gable, S. L., Gonzaga, G. C., & Strachman, A. (2006). Will you be there for me when things go right? Supportive responses to positive event disclosures. Journal of Personality and Social Psychology, 91(5), 904–917.

3. Reis, H. T., Smith, S. M., Tsai, F.-F., Carmichael, C. L., Caprariello, P. A., Rodrigues, A., & Maniaci, M. R. (2010). Are you happy for me? How sharing positive events with others provides personal and interpersonal benefits. Journal of Personality and Social Psychology, 99(2), 311–329.

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― 新着の感想 ―
参考文献つき恋愛小説、やっぱりオモロいです! そしてこんな論文があることに驚く…
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