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第95話 侍女(13)




「無理を承知で懇願いたします。この一件、教唆人であるシャルリーヌ一人の首をもってして、どうか治めてはいただけませぬか」


目の前で老婆が深々と頭を下げ現国王へと願い出た。


「教唆人?」


フランが問い、老婆――シャルリーヌは静かに頷いた。


「いかにも。お姫様がこのような荒事を働いた原因は、恐れ多くも私一身によるものでございます」


そう前置きして彼女は語り始めた。


「お姫様がお生まれになった折、陛下は私めを第一の侍女としてお仕えさせてくださいました」


シャルリーヌは昔を思い返すように、どこか柔らかな表情を浮かべる。


「身寄りなき私のような者に先代国王様は直々にお声掛けくださった。これ以上ない栄誉でございました。さらに王孫殿下の教育係など、身に余る大役まで任せていただき、恐悦の限りでございます」


「ならなぜこのような蛮行を?」


フランの問いに、シャルリーヌはうっすらと眉を伏せる。


「お姫様は御父上の素質をより濃く受け継いでおられます。明晰な頭脳、底の見えぬ器量。そして王妃様から受け継いだ胆力。立派にご成長なされば、この国をより大きく、強い国へと導くのは疑いようもございません」


しかし、とシャルリーヌは胸元へ手を添えた。


「・・誠に遺憾ながら私がその姿をこの目で見ることは叶いませぬ」


その声には、隠し切れぬ悲痛が滲む。


「病か」


アセンシオが静かに問う。


「左様でございます。残された時間は、長くて一年。お姫様の晴れ姿を見ずに死ぬことなど、私には到底できませぬ」


「だから王女を誑かし、クーデターを図ったと? だが情報では、王女殿下は巻き込まれたのを利用した形だと聞いているが」


フランが整合性を求める。


「その“巻き込み”を誘致したのは私でございます。お姫様は優秀。しかしお父上に比べ、少し口下手なところがある。それではこの革命は成功いたしませぬ」


シャルリーヌの声は弱いが、確かな決意を帯びていた。


「ゆえにかつての伝手を頼り、愚かにもテロリスト共を教会へ招き入れ、お姫様の御身を危険に晒す賭けに出ました」


場に沈黙が落ちる。


「そして、マクリーンに心酔するガーリング殿を呼び出し、余を強制的にこの“ゲーム”へと引きずり込んだと」


アセンシオが確認するように言うと、シャルリーヌは深く頭を垂れた。


「ガーリング殿も被害者にございます。責はすべて私一人が負います」


彼女は続ける。

ガーリングがいれば武力の問題は片付く。残るは正統性のみ。


「誤算だったのは魔法協会の存在でございます。お姫様は御父上が、ご自身のために多額の資金を投じて協会を誘致したなど、思いもしなかったのでしょう」


「魔法協会に聖統護国連隊、王国。それらを相手に革命を成し遂げられるほど、我らも愚かではありません」


そしてもう一度、シャルリーヌは限界まで頭を下げる。


「どうか何卒、この醜く軽い首一つで事を治めてはいただけぬでしょうか」


ただ、国王の言葉を待つ。

この場で断を下せるのはアセンシオただ一人。


やがて彼は口を開いた。


「先程から不敬であろう」


わずかな圧を帯びた声が、教会に響く。


「余を誰と心得る。ジークフリートの国王であり、マクリーンの父であるぞ。あやつが何を考え、何を思って事を実行したのかなど顔を見ずとも分かる」


アセンシオの声音はゆっくりと優しさを帯びていく。


「シャルリーヌ。貴様はマクリーンに病を隠そうとしたのだろう。しかしあやつを欺ける者などおらぬ」


「正直に打ち明けざるを得なかった貴様から、余命を聞き出し、どうにもできなくなった」


「マクリーンは気丈で傲慢に見えるが、根は優しく、甘いやつよ」


「貴様に尋ねたのであろう、最後の願いを」


アセンシオはシャルリーヌと視線を合わせた。


「マクリーンは余の国政に不満を抱いていた。なぜ自分の娘より国を優先しないのか、と」


かつて投げつけられた厳しい言葉を思い出す。


「だができるはずがない。マクリーンはレインとの唯一の繋がりであり、ただ一人の家族なのだ」


亡き王妃を、娘の姿に重ねながら。


「中途半端に娘を愛し、賢帝などと呼ばれてはいるが、所詮は優柔不断で危険を冒せぬ小心者よ」


深い自嘲が混じった声だった。


「マクリーンは秤にかけたのだ。父たる王国と、侍女の願いを」


「そして選んだのは・・シャルリーヌ、貴様であった。業腹だが余の負けよ。何を言う資格はない」


アセンシオは腰の王剣を外し、静かに掲げる。


「余がこの座を戴冠したのは十九の折。あの日、父上は式に現れなかった。マクリーンは賢帝と称される余よりも賢く、レインの大器を受け継ぎ、世界から愛されている」


「その在り方は、周囲から一線を画し、あやつをより特別な存在にしている」


そして王が口にする。


「神の寵愛を一身に受けるあの姿こそ、真の王。この国の正統後継者よ」


ジークフリートにおいてそれが認められる場合は一つだけだ。


「そのためなら余は喜んで礎となろう」


王の退位時にのみ限られる。






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