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第85話 聖人と君主(11)




「なぜおまえがここにいる?」


アイクが低く問いかけた。

だがガーリングは、まるで聞こえなかったかのように無視した。


「やっと帰ってきたか」


アセンシオはガーリングとの面会はすでに終えているようで、国王の頼みで何かしらとyさに行っていたであろうことが覗える。


「申し訳ございません。予想以上に結界が堅固だったもので」


その一言で、教会の結界を破る任務だったことが明らかになる。


「キールめ」


そしてアイクは自分をここに来るように差配した同僚に恨みの感情をぶつける。


「紹介遅れました、聖統護国連隊所属、そして恐れ多くも聖人の冠位を賜りました、名をガーリング、性をクラウスと申します。以後お見知りおきを」


軍人特有の敬礼をしながら自己紹介をするガーリング。

フランは名前より、ある部分に引っかかりを覚えた。


「聖人?」


「軍人としては最高位に最も近い冠位だ。人間に限ればこの世に現命しているのはたった二人しかいない」


フーベルトは一時期、軍を志望していたこともありその辺の情報には詳しい。

答えを聞いたフランは何か思考に耽っているようだった。


「見るのは初めてではないはずだが・・・まあいい」


そんなガーリングは満足そうな顔だ。


「なぜ、そんな聖人ともあろう方がこんな端っこにある国へ?」


アイクが皮肉を交えて口を開く。


「先生」


マイクが制止しかけたが、アセンシオが片手を挙げて止める。


「よい、余は気にしない。事実である」


王が笑みを含んで認めたため、マイクはそれ以上言葉を飲み込んだ。


「まあ、こっちはこっちで大変なのさ。クロックのおかげ上の連中は総入れ替え。だから今はスポンサーを集めている最中。・・というかそれはこっちの台詞だろ。お前のようなインドアが外に出てくるとは。相当痛みがひどいらしい」


「・・・黙れ」


ガーリングが笑いながら言う言葉にアイクが反応する。


「お前たちも苦労する。イカれた老人の介護をこんな遠い国に来てまで。老人が若者を食いつぶすとはあながち間違いではないらしい」


ガーリングの言葉は冷たく、刃のようだ。


「黙れ」


「先生やめましょう」


そこに先ほどまで考え事をしていたフランが仲裁に入る。

だがアイクの頭にはそのことをほとんど意識できていない。


「廃人だなアイク。見るに堪えない。以前あった時とは別人のようだ。戦線から身を引き、安全圏から謎解きを楽しみ、お気に入りの部下たちに囲まれた余生。だがそこにいたのが俺ならすぐにでも首を落としてもらうが」


アイクがそれに口で返すことはなかった。


口より手を動かしたからだ。

それに反応するように後出しでガーリングが動く。

確実にアイクに危害を加えるために。


「やめて!」


両者の間にフランが割り込む。

彼女の魔法で無理やりに発動したアイクの弱りきった転移魔法は強制解除されたが、ガーリングの方には手応えはない。


ガーリングが発動する魔法にはフランの妨害系の魔法が効くことはなかった。

アイクに向けられた害が間に入ったフランへと向かう。


だがそれを許容するような神童ではない。

彼はアイクを庇ったフランを庇う形で魔法を発動させる。



「やるな」


紙一重のタイミングでフーベルトはガーリングの魔法の防衛に成功、窮地を脱する。


「・・ッ」


フランの防衛に成功したのはいいものフーベルト自身は無事ではない。

意識を刈り取られたフーベルトがその場へと倒れ、彼の元へフランが駆け寄る。

同じくアイクも無理やりに魔法を発動したせいで倒れこんだ。


「アセンシオ国王陛下、御前でのお目汚し、お許しください。すべては私の不覚、不徳の致すところ。いかなる処罰も厳正にお受けします」


無傷で何ともないガーリングは遜りながらそう言う。


「顔を上げよ。そなたは連合の使者、余の主権が及ぶことはない」


「陛下の御器の広さ、恐れ入り奉ります」


それが当たり前かのように腰を上げ、アイクを一瞥もせずに部屋を出る。


「・・・少し場を再調整する必要があるな」


招集した者たちの顔を順に見渡しながら、賢帝は自らの選択が果たして正しかったのかを、静かに考え始めた。



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