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第79話 面倒くさい男(10)




「だから詳しくは知らないって。俺も親父から伝えられただけなんだ!」


そう必死の形相で訴えてくるのは何度目かわからない再会をした羊飼いだ。

彼からするともう早く刑務所でもなんでも行くから、アイクとは関わりたくはないというのが本音だろう。


「役立たずが」


吐き捨てるように言い、男は震える声で問い返した


「おい、俺をどうするつもりなんだ?」


「自由になれるんだよ。不自由な世界でな」


アイクは振り向きもせずに答え、彼の家から出る。


「これで作り話の線はなし。息子の方も一言一句同じで、祖父もよく口ずさんでいたと」


そこへ彼の息子と話していたマイクが合流、詩についての裏をとる。


「羊の方はどうだ?」


「誇りを失ったる奴がいます」


この場には二人しかいないのにも関わらず、彼らとは違う色の声が、誰もいない空間からはっきりと聞こえる。


その正体はフランの声だった。

アイクの魔法を応用し、声だけを転移させリアルタイムで会話を成立させている。


「角が折れてる」


フーベルトがフランの言葉を捕捉する。


「そいつをゲートに通せ」


「了解」


すぐにマイクの腰半分ぐらいの高さのゲートが出現し、そこから角の折れた羊が一匹出てきた。


アイクはその角の断面をまじまじと見る。


「折れてると言うより抜けたに近いな」


マイクが羊についてそう評価する。


「この抜け方は・・・」


アイクが何かを言おうとした時にゲートの向こう側、つまりフラン達の羊達がいる場所の空気が変わったのを感じた。


「・・・まずい」


「どうした?」


「羊の最後の仕事だ」





「キールが俺の周りを嗅ぎ回ってる」


そう言ったのはアイクで、彼例の如くワシントンのオフィスにいる。


「・・世界が終わりかけてるのにお前は自分の心配か」


フーベルトとフランによると、気づかないうちに急速に厚い雲が展開し、今の滝は陽の光さへ届かなくなっているらしい。


「どうせ審判の時までにあと1日以上ある」


「キールがお前のことを目の敵にするのはいつものことだ。気にするな」


ワシントンはアイクの言葉を軽く受け流し、まともには聞かない。


「それが間接的じゃなく、直接的だったらな」


その言葉にワシントンは手を止める。


「部下か?」


「何かしたんじゃないのか?」


「キールぐらい器が小さくなると、どれに恨みを持っているのかまるで分からん」


それにワシントンが少し笑う。


確かにキールの器の大きさは人よりとびきり小さく、壊れやすい。

だがそれを加味した上でも魔法犯罪を取り仕切る立場にいるのは単に能力高さからだ。


「気にしすぎじゃないのか?」


「チビに見えないとこでうろちょろされるのは耐えられん」


「それに臭う、か。マイクにも気をつけるように言っておけ」


流れるように出たマイクという名前に、アイクが不思議に思う。


「なぜマイクだとわかった?」


「キールならそうするからだ」


これも淀みなく口から出る。

だがアイクはそれを追求することはせず、無言で部屋から出ていく。

あたまの中でまた一つ可能性が浮かんだのだ。


「どこにいく?」


「世界を救いに」


そう答えて扉を閉めた。

ワシントンは一人残され、再び机に向かう。まるで、アイクが来る前から何も変わっていないかのように。



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