第7話 結論(1)
「呪いの方はハズレでした。検査結果からは何もわかりません、ですが」
少し表情が明るくなったフランの様子を見て、アイクは自分が正解だったのだと確信した。
「そっちはどうでもいい、俺の方は?」
フランはアイクの言葉に少し、眉を顰めたがそれも一瞬だけだった。
「大当たりです。確か、彼らは同じ時期に同じ国へ行っていたことがわかりました」
「どこへ行っていた?」
「アリソンという小さな国です」
アリソンは夏に行くと、きれいな海があり良いバカンス先と言える。
アイクは友人たちに対抗してアリソンに行くことを決意した。
*
「さて答え合わせの時間だ」
部下たち三人は未だ何が原因かわかっていないようだった。
アイクは優越感に包まれたまま話し始める。
「始まりは四年前アリソンという国の祭りで起こった事件だ。これを知らなければ俺との議論の土俵にも立てないぞ」
アイクは以前ステイへの嫌がらせで、魔法協会の名前で勝手に定期購入していた新聞に書いて合ったアリソンでの事件の記事のことを話した。
アリソンでは夏に世界でも大きな祭りが開かれることになっており、そこにはアリソン以外の人も大勢くる。
それを狙った愚かなテロ犯がおり、彼は魔法を発動したところで捕えられてしまった。
アイクはその程度の事件を物珍しげに見るような人物ではない。
このことをアイクが記憶しているのと、この事件が起きたのには原因がある。
犯人を捕らえる直前に護衛隊がおそらくヘマをしたのだ。
犯人は捕まったと同時に意識不明になった。
そしてそのまま意識が戻らず、その間はずっと病院で護衛隊に監視され続けていた。
だが最近になって目覚め、待ちに待った服役生活を送っているという記事を見たのだ。
アイクはこれを護衛隊の不祥事と考えていつか使えないかと考えていたから細やかなところまで記憶していた。
「それが4日前の出来事だ。4日前に起こったイベントといえば?」
「双子現象ですね」
アイクの質問にフランが素直に答える。
「やつの魔法は起動はしたものの、おそらく魔力の供給が途切れたから停止。そして意識が回復したと同時に術者本人すら覚えていない魔法が発動した」
一見して共通点がないような被害者、彼らはただ四年前、観光に行ったとある国で、偶々そこに居合わせただけの善良な市民だった。
「ですがなぜ彼らだけなんです?祭りにいた人は他にもいたでしょう」
マイクが疑問はまだ残っていると言う。
だがそれはアイクの中ではもう解決済みだった。
「いい質問だ、テロ犯は魔力を制限された状態で牢獄にいる。万全の状態で発動できるように構築した魔法に搾りながらの魔力を通したとしても効果は不完全にしか発動しない」
マイクは完全に納得した様子で、護衛隊へと連絡を取るため部屋を出て行った。
*
「お見事ですね」
そう言って先生の部屋に入ったのはフランだ。
アイクはそれに構うことなく、荷造りを続ける。
「私では解決できませんでした」
無力感が詰まった声でフランが呟く。
アイクはそこでフランと目を合わせ、口を開く。
「お前が俺に勝てるわけないだろ?」
アイクが煙草をふかしながら言う。
フランはその言葉よりもタバコの方へと注意が言っているようだった。
「それは、煙草ですか?」
フランの顔がだんだんと変化していく。
その顔は怒りというよりも畏怖だった。
だが、アイクはそんなことも関係なく吸い続ける。
「それ、市販ではないですよね。・・まさか自分で調合したんですか?」
「・・なんで分かった?」
アイクの煙草が特注であると知っているのは片手で数えられる程しかいない。
ステイが抑止力としてフランに漏らした可能性を考え始める。
「資格を持っているのなら問題はないですが、もし持っているのならこんな臭いの強い素材は使わないもの」
「知っているのか」
「アルマドという依存性が高い植物ですね」
ステイではないという可能性も出てきた。
そもそも彼女が本気になってアイクの邪魔をしようとするのならこんな遠回りな手は使わないだろう。
「吸うのをやめてください」
フランがだんだんと近づいてくる。
アイクは気にすることなく口のタバコの煙を肺に広げる。
そうすると頭の倦怠感が晴れ、一気に覚醒するのを感じる。
「煙草の個人による製造は禁止されています。2度目です」
フランがアイクの口から煙草を取り上げる。
「返せ」
「いやだ」
アイクはフランから煙草を取り返すことを諦め、新しいタバコに火をつける。
それを見たフランはもう意味がないと判断し、何も喋らずアイクの部屋から出ていくことにした。