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第66話 ジャッジメント(9)


「魔法?」


ヴィアラの眉が僅かに動く。


「負けが込み始めて否や、相手を自分の得意な場へと引き摺り込もうとしている」


「なら降りるか?」


アイクが肩をすくめながら、口の端を上げる。


「いや、コールだ。俺は構わん」


ゴードンが無表情で答える。

その顔には確かに余裕が混じっている。


「なら私もコールで。ただし言われた通りというのは少し危険だと思う次第。提案があります」


「何だ?」


「魔法を使う場合、このテーブル、つまり場にしか影響しない魔法に限るという条件で」


「・・・いいだろう。他人に影響を及ぼす付合系は禁止だ」


アイクは鼻を鳴らしながら答える。


「決まりなら、ルールを説明してください」


「基本的にはタクス・ホールデムと同じ。違うのはコールやレイズと同じようなアクションが一つ増える。それは


―――ジャッジ


プレイヤーの任意のアクション時に名指しで宣言可能。

単独使用は不可能。

ラウンド中のプレイヤー、一人につき一回。

3ターン目(4枚目公開)以後のジャッジは不可。


ジャッジを宣言された対象プレイヤーはその時点で魔法によるイカサマをしていた場合、即フォールド+ペナルティとしてそのラウンドで投じたチップの50%をジャッジ成功者へと配分される。


イカサマをしていなかった場合、ジャッジ宣言者はペナルティとして場とは別に所持しているチップの総額の25%を被ジャッジ者へと支払う。

もし真の魔法行使者がいる場合は疑われた者が新しいジャッジ権かノーリスクのジャッジ権を獲得することができる代わりに発動中の魔法は解除する。(そのターンでのみ有効)


ショーダウン後のジャッジと魔法は不可。



魔法に関するルール。


一度発動した魔法は原則解除不可能。

使用のタイミングは完全に自由だが、3ターン目(4枚目公開)以後に行使は不可能。 

しかし継続は可能。



だが例外として4ターン以後の魔法行使、もしくはジャッジを宣言するのはオールイン時のみ可能。

それぞれ失敗時(被ジャッジや、ジャッジ失敗)のペナルティは即フォールド。





「・・・なるほど」


ヴィアラは小さく頷いた。チップ差が生まれても、安易にジャッジを振るえない絶妙な縛り。


「ジャッジ時の確認は誰が?」


ゴードンがアイクは問いかける。


「もちろん公正公平な第三者、精霊にやらせる」


ゴードンは納得する様に頷く。

そしてアイクは声を上げる。


「ワシントン!」


「なんだ」


違うテーブルに座るワシントンを呼ぶ。


「立会をしてくれ」


ワシントンは少しだけ考えたが、頷いた。


「・・・それぐらいならいいだろう」


ディーラーとそれぞれが顔を合わせる。


ディーラーとアイクたちそれぞれが精霊を介して契約を結ぶ。

この誓約を破ればいつ何時どのぐらいのペナルティが降りかかるかは精霊以外予測不可能。

一度結んだ契約を途中破棄することはできず、解除の典礼を行わない限り死ぬまで一生背負っていく十字架のとなる。

そしてそれを行えるのが立会人であるワシントンだけだ。


契約が正しく興された事を確認したワシントンが両手を勢いよく合わせ、軽快な音が鳴る。

その音の直後、アイクの身になんとも言えない束縛感が生じる。

だがそれは一瞬の出来事で気には留めなかった。

世界が承認したことを確認し、ワシントンは役目は終わったとばかりに席へと戻る。



残されたものはただその契約を元に戦うしか選択肢はない。





「ゲーム開始だ」


アイクのその言葉と同時に2枚のカードが各プレイヤーに配られる。


静かにマークと数字を確認し、それぞれが再び裏へと戻す。

勝負の幕があがる。


第一アクション、ヴィアラからだ。


「コールで」


そう言ってチップを場へと出す。ジャッジはない。

序盤の様子見だ。


続くは中央のゴードン。


「同じくコールだ」


淡々とした進行。それが不穏の兆しでもある。


最後にアイク。


「同上」


ディーラーが5枚のカードを場へと出し、順番に2枚裏返す。


―――ハートの7、ハートの9。


場が少し緊張する。

だが、それを破ったのはヴィアラだ。


「レイズです」


その顔は意味深に笑っている。

このゲームは魔法もジャッジもしないというのがリスクが最小に思える。

だがそれは裏を返せばイカサマの温床だ。


使える魔法が限られているといえ、実際はほとんど無限に近いほどの可能性がある。


だからこそヴィアラでも勝機はある。

相手が魔法協会でり、碧翠院であっても。


ゴードンが一泊空けてから、口を開く。


「コールだ」


ヴィアラはその表情の全てを見落とすことなく観察する。

だが彼の表情はピクリとも動かない。


アイクのターン。

ヴィアラは彼の表情を見て、少し怖気付く。


「レイズだ」


その顔には異常とも言えるほどに笑みが張り付いていた。


ヴィアラはジャッジを行使する衝動に駆られるが、明らかな陽動だと自分に言い聞かせる。

だが、あえてそう思わせている可能性もある。


彼の頭に諄々とした考えが回る。

だが思考停止しかけた脳を無理やりにも動かし、唱える。


「・・コールで」


アイクの表情が一瞬だけ崩れる。

その彼の顔は心底面白くなさそうに見える。


だが気を緩めてはならない。

奴はそう言うことを平然とやってくる男。

あまり表情を頼りにしすぎるのもよくないだろう。


「コール」


ゴードンも静かに応じる。

順番が一巡し、再びディーラーが3枚目を捲るーーがその瞬間ヴィアラは目を見開く。




――スペードの9、そして・・・ハートの10


そこにあるべきは一枚のカードだけ。だが場には6枚ある。


3枚目のスペードの9、さらにその横にあるはずのないハートの10が並んでいたからだ。

先程まで5枚しかなかったカードが瞬きの間に6枚に増えている。


ありえない。

つまりイカサマだ。


だが、ここまであからさまなイカサマをしてくるとは予想していなかった。


どっちだ?


スペードの9とハートの10どっちが真の三枚目か。

そして魔法を行使したのはアイクか、ゴードンか。

どちらもありうる。


ヴィアラは一度、冷静に考える。


もし片方だけが発動しているとすればもう一人の方はヴィアラと同じように見えていると言うこと。


ここは片方動くのを待つか、それともジャッジを行使するか。

ジャッジは一ラウンドに一度しか使えない。

そした今はまだ3枚目が公開されたターン。


ここで失敗すれば彼らを止めるブレーキはヴィアラの手からはなくなる。


ヴィアラの手札はクラブの8、ダイヤの5。

普通なら様子見でもいい場面だ。


そう、普通ならだ。

ここでその思い通りにはさせない。



「コール+ジャッジだ」


ヴィアラの声が響く。


「誰に?」


ディーラーが確認する。

ヴィアラは落ち着いて思考を組み立て、理論的に考える。

そして落ち着いた声で呟く。


「アイクだ」


アイクは一瞬の沈黙の後、肩をすくめる。


「詰む前に動けるようになったか。だか・・・」


「ハズレだ」


ゴードンがそう言うと、目の前の幻影が消える。


つまりカードを増やしていたのは


「少し焦ったな」


無表示を崩さないゴードンだった。


もちろんアイクは目の前の魔法に気づいていた。

だがヴィアラで遊ぶために黙っていたのだろう。

どこまでいってもヴィアラの癪に触る。


ペナルティとして25%をアイクへと渡し、そしてゴードンは新たなジャッジ権を得る。


「優しいねぇ」


アイクの軽口に拳を握るがひとまず我慢する。

まだ勝負は終わっていない。


「ヴィアラのコールから」


ディーラーが続きを続行するようにゴードンに言う。

彼の魔法はすでに解除されており、目の前には正規の数字であるハートの10がある。


「レイズだ」


今度はゴードンが先に仕掛けてくる。

アイクは面白そうに見つめる。


「乗るぞ。コール」


「コールです」


ヴィアラも続け様に答える。


ジャッジ、そして魔法を行使できるラストターン。

4枚目が開かれる。


―――ダイヤのJ。


ヴィアラの手にはストレートが完成する。

心理戦のことも考えるが、ここは勝負所だと判断する。


「レイズ」


そして続けてゴードンが言う。


「コール、そしてジャッジだ」


「誰?」


「アイク」


全員の視線がアイクに向けられる。


「チッ」


アイクが舌打ちをする。


「本当の手札を見せろ」


ゴードンの言葉から魔法を解く。


「ジャッジ成功。アイクは強制フォールド。そしてペナルティで場にあるチップ50%の支払いです」


ダイヤのジャックがだんだんとぼやけていき、そこから現れた数字とマークを見てヴィアらは絶句する。


そこにはハートの3が現れた。

すぐに自分がレイズしたことを後悔する。


だがそんな後悔に時間は与えられない。

最後の一枚が明らかになる。


―――クラブのキング。


なんの役も持たないヴィアラは場にあるカードをただ見つめることしかできなかった。

 



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