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第62話 懐かしの敵(9)




ワシントンが魔法を使いながら、20分程度で転送された場所から会場へと帰って来た。

怒鳴ることも責めることもなく、ただ深く息をつき席に戻る。


そしてある程度落ち着いたところで、今回の会議の主催者が現れた。


「少々遅れました。我々のスケジュール管理の不届で迷惑をおかけして申し訳ありません。すでに7分を経過してますが、これより横断学術会議を始めさせていただく次第」


特徴的な語尾。

そしてきっちりとしたスーツに疲労の色が強い顔色。

アイクは最近彼の顔を見ている。

聖方連合のヴィアラだ。


アイクはそれにすぐに気づいたが、ヴィアラの方は未だわかっていないようだった。


ヴィアラの方へ何度か手を振ったが、彼は一瞥すらせずに会議を進行していく。


「・・注意事項は以上になります。では10分後、西方魔法ギルドからの発表になります」


それだけ言い終え、すぐに去ってしまった。

それを面白くなさそうに見ていたアイクは席を立ち、後を追いかけてきそうだったワシントンに言う。


「便所だからついてくるな」


ワシントンは見え見えの嘘だと気づいていたが今度アイクの魔法で外へと飛ばされてしまえば、もう会議には間に合わない。

利益と損失を天秤にかけ、結局アイクに構わないことにした。


アイクはそれに満足げに頷き、ヴィアラが出てきた方の扉へ向かう。

そして一切の躊躇なくそれを開ける。


そこにいたのはこれ以上ないぐらいきっちりとスーツを着込んだヴィアラの部下達が机を囲むようにして話し合っていた。

その中央にもちろん彼自身がいる。


「・・何か要か」


微かに震える声でヴィアラが尋ねる。


「いや、挨拶は社会人の基本だろ」


ヴィアラは言葉を失ったように黙り込む。


「会いたかったよ」


アイクはそう言って手を前に出す。

それを見たヴィアラは少し笑ってから言った。


「因縁はあるが、ここでは関係ない。今回もよろしく頼む」


そうして彼らは熱い握手を交わしたのだった。





「まるで主人公とそのライバルみたいね」


不意に部屋に入ってきたフランが茶化す。


「お前は仕事しろ」


アイクが不機嫌そうに言う。


「昼休憩中」


フランは意に介さず、手に持っているものを見せる。

その手には市販されている菓子パンがあった。


「なら休憩してこい」


アイクが呆れ混じりに返すと、フランが少し笑った。


「アイク、あなたがそんな人へのリスペクトを感じるような人ではないのはわかってるわ」


タイミングを見計らったようにステイが話を戻す。


「言い過ぎだと思わないか?」


アイクはここに存在しない仲間へと共感を求める。


「変に隠さないで正直に答えて。さもないと一日減るわよ」


ステイが無表情のまま少々の脅しをかける。


「何が?」


事情を知らないフランがそのきょとんとした顔で首を傾ける。

アイクは固まったように沈黙し、少し考えてから答える。


「・・・わかった」


口調は渋々でも、そこにはどこか観念したような色が滲んでいた。





「何か要か」


僅かに震える声でヴィアラが言う。


「いや、挨拶は社会人の基本だろ」


アイクが皮肉げに笑う。どんどんとヴィアラへと近づく。


「・・・あなたもこんな所にくるとは。する仕事がないのだと思う次第」


ヴィアラは皮肉めいた笑みを浮かべながらアイクのことを見る。


「俺は罰ゲームみたいなもんさ」


アイクは肩をすくめる。

ヴィアラから笑みが削がれ、猜疑心だけが残る。


「・・・頼むから大人しくしててくれ」


ヴィアラは無反応のアイクを見て、周りにいる部下達と耳打ちを交わす。


「・・・もちろん」


それを見たアイクは口を開く。

彼の顔は無邪気な笑顔だ

どこまで本気かは読めない。


「おい。頼んだぞ」


ヴィアラがそう言うとその場にいた連合の一人が頷く。


「これだから有名人は困る」


アイクはこれで目的は果たしたと言う様に部屋から出て行く。

だがアイクが振り返るとその背後には彼の部下が張り付いている。


「ついてくるのか」


「そう言われたので」


「安心しろ。今日は敵対するつもりはない」


アイクは目を合わせることもなく、低く言う。


「・・私は役割を果たすだけです」


アイクのそんな言葉に部下は安心できずに、複雑な表情だ。


「あ!そうだ。忘れ物だ」


アイクがそう言って彼の後ろを追うヴィアラの部下と先ほどの部屋へと戻る。


「パンフレットをもらっていくぞ」


そして聖方連合の視線が集中する中で、一番手前の机にあった紙の束を軽く取って行った。

その後ろに直前までいたヴィアラの部下の姿はなく、彼が見つかったのはその20分後で警備員が建物の天井に乗っているところを発見した。




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