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第57話 母親の過去(8)



「脳検査はシロ。脳に異常は見られない」


マイクが魔法によって複写させた紙を配りながら言う。

そこには正常な形をしたレイの脳の輪郭がくっきりと写っている。


「となると、最後に残る選択肢は付加系」


「・・誰?」


他人に影響を与える付加系。

誰かがシンデレラを隠し続けている。


「まずは両親だろ」


「でも彼らは被害者でもあるし、それに動揺もしている」


「だからといっても可能性はある。表面上で判断するのは危険だ」


フーベルトが少し低い声で言う。

親が子を必ず愛しているとは限らない。そういう例を複数知っているからだ。

そして愛情は人を最も欺きやすい魔法でもある。


「両親から始めよう。そこから近所、学校と広げていく」


マイクの言葉に二人が頷き、部屋を出る。

主人のいない部屋は寂しさを残すばかりだ。





マイクは正面の椅子に座る二人の男女に声をかけた。


「あなた方が娘さんへ魔法を使っているかどうかを検査します」


レイの母親は一瞬、訳が分からないという顔をする。

そして次にマイクへ疑いの目を向ける。


「私たち?」


「疑問に思うのは無理もない。ですが無意識の内にということもあるんです」 


母親は驚きから抜けられていないようだったが、それをみた父親が彼女の方に手を優しく置く。

そして目を合わせた母親は父親と一緒に小さくだが、頷いた。


「・・ではまずあなたから」   


レイの母親を別室へと移動させる。

そして専用の椅子へと座らせ、検査前の審問を開始する。


「あなたは娘さんに夜、大人しくしてほしいと願ったことはありますか?」


母親は少し笑いながら言う。


「数えきれないぐらいあるわ、あなたも子を持てばわかる。レイが小さい頃はいつも戦場だったわ」


その言葉にマイクは少し笑う。

改めて見た彼女は少し寝不足なようだった。

娘には日中は会えるとはいえ、夜になると顔を見ることができなくなる。

不安に苛まれていることだろう。


「父親の方は?」


「・・多分あるわ。あの人にとって夜寝られないことが最もストレスを感じるから」


短い沈黙の後に返された答えに、マイクは頷き、次の問いを投げた。


「あなたは夜に関して何か・・心的外傷、つまりトラウマを持っていたりしますか?」


母親の体が僅かに強張る。


「・・・関係ある?」


「断定はできませんが、無関係ではない可能性は高い」」


マイクが静かに続ける。


「恐怖や願いのような感情は時として多大な影響をもたらす。それが本人の無意識化であっても」


母親は視線を落とし、やがて息を吐くように言った。


「夫には言わないでね」


マイクは黙って頷く。


「はっきり言うわ。私は夜が怖いの」


その告白は震える声だった。

 

「夜になると嫌でも昔を思い出してしまう。克服しようとしたこともあったけど無理だったわ」


彼女の手は小刻みに震えている。


「夜になってベッドに入ると、どこからともなく足音が聞こえるの」


「それが落ち着いたと思ったら母親の悲鳴に、怒号、家具の倒れる音。最後には私の部屋のドアが開く音がする」

 

「全く眠れないわ。あれからぐっすり眠れたことがない」


自傷気味に彼女は笑う。


「もし娘を隠しているのが私自身だったのならなんて弱い女なの。自分勝手な恐怖心から守るべき子供を蔑ろにするなんて」


言葉が途切れる。

マイクは母親へ声をかけるかどうか迷った。

自分自身そんな経験をしたことはないし、何を言っても正解だと思わなかったからだ。

だがマイクの何かが彼の口を動かした。


「いや、あなたは強い人だ。恐怖心と共に生き、子供だけでも守ろうとする。それは母親のあるべき姿なのだと、私は思う」


心配そうなレイの母親を安心させるように答える。


「心の中の影が形になるのが魔法です。そしてそれから被害を食い止めるのが私たちの役目」


奥の部屋へと案内し、そこで別れる。

後のことは検査係に任せた。

なんとも言えない感情がマイクの心に充満していた。




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