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第43話 件の終結(6)



部屋へと入ったアイクがまず目にしたのはとてつもないほどの資料を一人で整理していたザンブルクだった。


「後にしてくれ」


ザンブルクは慌ただしく手を動かし、目を合わせずにそう言う。


「コモンズの爺さんをよく調教したもんだな」


それを無視してアイクは続ける。


その言葉を聞き、一瞬だけ手が止まるが、それに気づいたように再び動き始めた。


「所詮はただの老木、特別な苦労はなかった」


「いくつになった?」


アイクは興味深そうに上を向かないザンブルクの顔を見つめる。


「まだ20代だと言っておく、何しに来た?」


鬱陶しさを隠さずにザンブルクがついに手を止め、アイクと視線を合わせて言う。


「手を止めたな」


ニヤけ顔のアイクにザンブルクが呆れる。

時間の無駄だと判断して、再び資料に向き合うことにした。


「まあ待て、今回の件の真相を教えにきたんだ」


「・・・本気か?」


ザンブルクが初めてアイクの言葉に興味を持ち始める。


「大マジだ。お前が自分で気づく前に俺が教えたほうが得だろう」

 

アイクがおちょくるようにザンブルクの周りをぐるぐると歩く。


「何を企んでる?」


ザンブルクがアイクの思惑を測る。


「何も、これからも仲良くしたんいんだ」



その答えにため息をつき、ザンブルクはお手上げだという風に手を挙げる。


「はっきり言ってくれ、お前と押し問答をしている時間が惜しい」


アイクはそうなることをわかっていたのか、用意していた物を口に出して要求する。


「コモンズへの脅迫材料、委員会の選任権、協会の予算増加に聖邦連合に一つポストを用意してもらいたい」


「遠慮を知らんな」


「気遣いが必要か?」


「いや、それでいい。無償ほど怖いものはない」


ザンブルクは数秒だけアイクの要求内容について考える。


「弱みを広めるとそれは弱みではなくなる。選任権は協会へ何人かの推薦枠をやろう、予算については1.3までなら考慮してやれる、ポストは俺がどうこうできる問題ではないのは理解してくれ」


アイクの要求にそれぞれの回答をする。


「なら話はここまでだな」


返答に満足できなかったアイクが部屋から去っていく。

それを止めることなくザンブルクが見る。


どんどんとドアへと近づき、ドアノブへと手をかけた瞬間に立ち止まり、アイクが言う。




「今のは止めるとこだろう?」


再びザンブルクの方へと向かってくる。


「・・何がしたいんだ」


ザンブルクは呆れきっている。


「ならコモンズはいい、席だけくれ。お前の関係ないところでいい」


そんなアイクの言葉にもザンブルクは反応しない。


「・・おい、できるだけお前の望みに沿ったはずだろ」


「なんの話だ」


「とぼけるには無理がある、嫌がらせには多いと思ったんだ」


アイクはコモンズのヴィアラへの態度とフランの土壇場での参加を認めたことに違和感を感じていた。 


嫌がらせなら一人で事足りるが、二人となると下手を打てば会議の流れで連合自体が決めた結論が変わりかねない。

だがら、アイクがザンブルクがこの会議でヴィアラへの梯子外しを実行するつもりだと考えるのは自然だ。


だからこそザンブルクの思い描いた通りに道を作り上げ、そこへと追い詰め、選択肢を削った。


過程はまだしも結果はザンブルクの思い通りになり、アイクは恩を売ることに成功した。


「・・・善処はしよう」


最小限の犠牲で目的を果たしたザンブルクはその功労者であるアイクにそう言う。


「・・・また会おう」


満足した顔のアイクは手に持っていたこの件の調査結果報告書の紙を大量の資料の中へと無造作に入れ、部屋から出て行く。


「待て」


ザンブルクが声をかけるとは予想していなかったアイクが立ち止まる。


「お前の入室を許可した警備兵は家族ごと東へと飛ばした。次はない」


アイクはそれだけ聞いてからザンブルクの部屋を出たのだった。




アイクはいつものように協会の建物へと来ている。


なんの変哲もなく周りを見渡すと、慌ただしく休むことなく足を動かしている事務員の姿を見る。

だが、別に何を言うこともせずに素通りし、自分のオフィスへと向かう。


あれから1週間の休養を経て、また普段通りの仕事へと戻る。


世論は未だ反魔族の火は消えないものの、大部分は不祥事を起こした軍部、新たな立場の代弁者として台頭し始めた魔人共栄連盟、そして真実を明らかにし真犯人を捕らえた獣人のマイクへの尊敬と誇りに変わった。


アイクの連合への要求は大部分が認められ、その責任を取らされたヴィアラは出世街道の道を外され、地方の中堅組織役員として今も元気に働いているらしい。


軍部の方ではルミナス将軍が退役という事実上の追放、その後釜争いが激化している。



アイクの目にオフィスがだんだんと見えてくる。


その中に半魔族と脚が完治した獣人が座っているが、神童は部屋へと入らずに外よの廊下で仕事をこなしている。

道ゆく人の好奇の目に晒されているが本人は全く気にしていない。


それを見てアイクは笑いながら近づいていく。


フーベルトに何を言うこともなく、オフィスへと入り言う。


「では、三人の意見を聞こう」


普段通りの風景の中で、ただ唯一変わったのは自分の部署に入ることを禁じられた神童が議論をするために普段よりも大きな声を響かせていたことだった。




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