第41話 裏側(6)
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アイクは聖邦連合敷地内の人目につかない場所で一人煙草を吸っていた。
そこへ会議を終えた軍部のガーリングがやってくる。
「計画通りか?」
「大筋はな」
ガーリングの問いに表情を変えずにアイクが答える。
「お前の部下のエルフは優秀だな」
アイクは何も言わない。
ガーリングはアイクの顔を見る。
「うちの連中の話ではお前はこの会議には出れないって聞いていたが?」
ガーリングがなぜ出席できたのかと問う。
「その噂を利用しただけさ。確かに俺はこの会議が始まった時点ではまだ取り込み中だったし、どう考えてもそこから5時間の移動を見積もっても間に合うはずはなかった」
ガーリングが口を挟まずに耳を傾ける。
「たが、その状態が良かった。結果的に俺とフランの参戦を協会側以外は予期していなかった。結果的オールライトだ」
アイクは予期しない出来事には連合は弱いと言う。
まだ納得のいっていないガーリングは続けて尋ねる。
「どんな方法を使った?お前の今の魔法は自分自身を転移させるのは不可能と認識していたが?」
アイクの転移魔法は有機物無機物関係なくゲートへと通し、望む場所へとワープさせることが可能だが、アイク自身はそのゲートへと入ることはできない。
「もっと原始的な方法た。先人が言った通り、確かに獣人の乗り心地は最悪だ」
それだけで全てを理解したガーリング豪快に笑う。
「どうにかして介入してくるとは思ったがそういうことか。確か、マイクという部下は獣人だったな。気の毒だが、彼はこの先も苦労が続くだろうな」
ガーリングはもう用が済んだと言わんばかりにその婆から離れた。
「またな、アイク。一応クロックを引っ捕らえことには礼を言っておこう。次はまた会議室か、戦場かだ」
笑いながら去っていくガーリングにアイクは何も言わず、自分の口から出て来た煙を見つめていた。
*
「何が起こっていたんですか?」
そういったフランたちがいるのは移動式列車の中だ。
魔族の存亡をかけた会議が1日をかけて終了し、魔法協会のメンバーは帰路についている。
だが、そこにアイクの姿はなく、ワシントンにフラン、そしてボロボロの姿をしたマイクだった。
ワシントンが何も知らないフランを落ち着けながら言う。
「・・どれから説明してほしい?マイクの状態?アイクのこと?それともあの場で何が起こっていたか?」
「全部です、私って助っ人としてこの会議に行ったんですよね?なのに参戦してから最初は良かったものの、無口だった軍の人が急に喋り始めたと思ったら追い詰められて、それでもなんとかしようとしたのに来れるはずがなかったアイクが来て、全てをぶち壊して帰っていった。私、今日で得たものって恥以外何もないんですけど」
止まらない怒りを抑えることもなく吐き出すフラン。
計画全体を描いていたワシントンが一から説明をする。
「・・・ならまず最初から説明しよう。フラン、君は確かに俺たちの切り札だったんだ。でもそれは決定打という意味じゃない。君は議論が滞りそうになった時の潤滑油のような役割なんだ。それを分かっていたから、あの時自分の判断で入って来たんだろう?」
ワシントンはフランが勝手に会議室へと入って来た時の瞬間を思い出す。
あの時は焦ったものだった。
「あの時はまずいと思ったんです。聞いてた話と違う方に議論が進んでいくし、我慢できなかったんです」
少し反省の色が見えるフランがそう言う。
「いや、結果オーライだ。そもそも俺は君の手綱を握れると最初から思っていない。君の参入である程度と場は乱れた。君は役割を果たしたんだ」
ワシントンはよくやったとフランを褒める。
「でもアイクが来るなら私は要らなかったんじゃないですか?最初からアイクを投入していれば良かったんです」
自分じゃなくても良かったと功績を認めないフランにワシントンが説得する。
「あの時点ではまだアイクは移動中だった、多分な。その代償としてマイクはこうなってるわけだが。だがら、君がいなかったらアイクが状況をひっくり返す前に魔族への侵攻が決まっていただろう。もちろん、その場合は俺もできる限りのことはしただろうが」
不満げなフランの顔を見て、ワシントンは仕方ないと思いながら話す。
「フラン、君が今回の件で何も得られなかったと言うのは間違いだと言っておこう。君は聖邦連合という巨大な組織の、その中でも最も強い決定力を持つ委員会で発言し、自分の意見を認めさせる手前まで行った。これは誇れることだ」
フランの怒りはワシントンの言葉によってようやく収まりつつある。
「あそこであの軍人が入ってこなければ、アイクも必要なかったんですけどね」
ワシントンが少し苦い顔をしながら、フランへと伝える。
「怒らないで聞いて欲しいんだが・・あの軍人、ガーリングがフランの邪魔をするのは既定路線とも言えたんだ」
「既定路線?」
フランが純粋な疑問で問い返す。
「そう、つまり決まっていたこと。これを説明するには会議の内容を一から振り返る必要があるんだが・・・」
そこでワシントンの言葉が止まる。
「なんです?」
フランがすぐに尋ねる。
「これはアイクには黙っててくれよ、後でネチネチ言われるのは嫌なんだ」
フランは彼の言っていることを理解できなかったが、言葉の先が気になったので適当に返事をした。
「もちろんです、あなたの名前は出しません」
ワシントンはそのまま苦い顔を変えることはなく、イヤイヤという表情で会議の最初から何が起こっていたかを語り始めた。
*