第4話 議論2(1)
ここは建物の最上階。ここへ好き好んでくるような人はいない。
その理由は単にここに来るとしたら説教か、解雇通知のみだからだ。
アイクはそこへと呼ばれ、あえて1時間遅刻してから部屋へと入った。
「要件はなんだ」
「山程あるけどいくつまでなら大人しく聞ける?」
そこにいたのは一人の老婆とは行かないまでも、若いとはお世辞にも言えない女が座っていた。
「一つだ、同時に物事は考えられん」
「なら一言で言うわ、その有毒草を吸うのを止めろとは言わないから、量を減らしなさい」
彼女が指していたのは、アイクの口元にある、様々な草を束にして火をつけ、その煙を吸うという煙草とも言える物だった。
「そんなことを言うためにわざわざ仕事中の俺を呼び出したのか?何回目だ?それを言っても意味のないということはもう学習したと思ったが?」
「あなたが観念するまでよ。もちろん、それのおかげで頭の痛みが和らいでいるのは知っているわ。でも、時代は進んだの。いつまで旧時代の応急処置に頼っていてはだめよ。セミナーへの招待状なら書いてあげるわ」
この女、ステイは会う度に煙草を辞めると言ってくる。
アイクが今吸っているもの、これは市販されているようなものではなく、アイク自作の特別性だ。
だから効き目は段違いだし、リスクも段違い。
彼女がいっている頭痛というのは未だアイクに残り続ける障害とも言える。
彼の頭には慢性的な偏頭痛し、その痛みで眠れないこともあるほどだ。
それを煙草で和らげている。
アイクはその痛みを解決するために特殊だが、安全な治癒法があるのも知っている。
だが、それを知ってもなお、その煙草から手を離すことはできない。
彼はもうその薬無しでは生きていくことはできない体へとなっているのだ。
「余計なお世話だ。しっかりバレないようにやるから」
ステイが心配しているのはアイクの身もあるが何より、それが世間にバレることだった。
それが彼女の監督責任の問題になるのを恐れている。
彼女は自己の保身のみでこの地位まで上がってきた。
アイクという存在でそれを無為にしたくないのだ。
そして要件がそれだけならとアイクが帰るそぶりを見せると、引き止める、新しい資料を手に渡す。
「二組目、三組目が発見された。昨日に1組、今日に1組、被害は最小限で頼むわよ」
*
「被害が拡大した」
ステイからの情報を部下たちへと伝える。
「全部で3組、しかも出た地域はバラバラですか」
フランが地図に赤み丸をつけている。
「住んでいる場所だけじゃない、性別、年齢、種族もだ」
アイクの言葉からフランがその赤く囲まれた場所へと被害者の情報を書き込んでいく。
「分身じゃなかったら、操作系とか?」
フランが自分の意見を言う。
「あの年齢でしかも比較的高度な操作系魔法を扱えるとは思えない。あの子ではなく、俺たちの方かもしれない、精神魔法だ」
フーベルトがフランに反論すると同時に意見を出す。
「彼らの実際の細胞で検査をしたのを忘れたのか?俺たちが全員干渉を受けているのなら、カールは魔力切れどころかもう死んでいるはずです」
だが、仲の悪いマイクが待ってましたと言わんばかりに反証する。
彼らの意見を何も言わずに聞いていたアイクは情報を整理し、口を開く。
「二組目と三組目の被害者の共通点を徹底的に洗い出せ。なんでもいい、近所に森があるとか、ペットを飼っているとか女の趣味嗜好でもいい、何でもだ」
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