第33話 伏魔殿への出席者(5)
「誰にするんだ?」
椅子に座り直したワシントンが決定権を持つステイに聞いた。
だがステイは思考の海から帰ってこない。
「先生は無理ですね」
マイクが不安そうに呟く。
アイクは未だクロックの部屋から出ていない。
いつ戻るかも、そもそも生きて戻るかさへもわからない。
「この中から二人ね」
ステイがこの部屋にいる者の顔をゆっくりと見渡す。
彼女の顔は先ほどマイクとの会話の時よりも覇気がないように見えた。
それも仕方がなく彼女の生きる指針は自己保身であり、巻き込まれてしまったこの一件は彼女の人生の中では天災ものである。
聖邦連合評議会は世界におけるヒエラルキーの頂点に位置する。
ある程度の力関係はあるものの、明らかな敵対をすることはできない。
かと言って彼女自身、魔族を廃絶させる決定をするほどの肝を持ち合わせてはいない。
彼女の胃がキリキリと鳴り始める。
「私、行ってもいいですけど」
フランが目の前の資料から目を離さずに行ってのける。
ステイは一度フランを出席させた場合の会議をシミュレーションをしたがすぐに考えるのをやめた。
この調査委員会での会議は普通の話し合いではない。
会議の流れの大部分は聖邦連合によって決められており、結論もほとんど決まっている。
そして連合主催の会議に出席している者はそこでの結論から発生する多大なる利益を掠め取ろうと蠢く、政治的ハイエナの集まりだ。
純真無垢で、清廉潔白で、単純馬鹿のフランを放り込めば――ステイが首を括ることになりかねない。
消去法で一人は決めてある。
「・・・ワシントン、頼むわ」
「まあ、そうだろうな」
アイク程でないにしろ、ワシントンは聖邦連合が主催する調査委員会にはある程度顔を出している。
こういう時にアイクかクロックかどっちかでもいればと思ってしまうが、それはもう考えるだけ無駄だ。
あと一人。
聖邦連合の意向不明、そしてこの委員会に魔法協会が呼ばれたのは調査報告を聞きたいということ。
なら、その事件を担当していた彼ら、そしてその中でも二人からしか選択肢はない。
そして答えは限られていた。
「俺しかいないですね」
ステイが声をかける前にマイクが手を挙げ、立ち上がる。
ステイは申し訳なさと、自分が出なくて済むという一安心を持つ自分への嫌悪感に気づきながらも頷いた。
「いつ出発ですか?」
聖邦連合の本部があるサンクト・カテドラルに行くにはここからでは片道で5時間以上かかる。
こんな直前に言いに来るなと言いたいところだが生命線を握られている手前、強く言うことはできない。
一度危険因子として判断されたら、それを取り消すのにどれだけの労力を費やさないといけなくなるか。
「色々と準備もあるし、見積もって朝3時だな」
ワシントンが概算での時間を言う。
つまり残り時間は七時間。その間にアイクが戻ってくればよし、さもなければ自分でなんとかするしかない。
マイクは刻々と迫る制限時間の終わりに身を引き締めながら、頭を回し始める。
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