第31話 戦場跡(5)
違和感しか感じない「それ」を通った瞬間、マイクの視界が切り代わった。
目に入ったものはどこにでもあるようだが、普通よりは少し田舎じみた村だった。
だが、マイクの肌はそれを実像ではないと告げていた。
獣人は生まれながらにして自然との親和性が高い種族だ。
人工の匂い、自然の気配。
それらの区別などは空気の流れ一つでわかる。
マイクはそんな獣人たちの中でも一際感覚が鋭かった。
今彼の肌が感じたのはこの空間に存在する歪みのようなモノだ。
それは空気中の魔素を乱し、光の屈折すらも歪ませる。
言うなれば結界の禿げとも言える現象だ。
マイクはフランから預かっていた魔道具を使い、壊れかけていた結界に入る。
そして同時に完全に破壊した。
結界が破られ、隔たりがなくなったことによって本物の景色が写し出される。
マイクの目の前には顔を知っている男と、知らないフードを被った見るからに怪しい奴が一人それぞれ横たわっていた。
まずは知り合いの方へと近づき、軽く頬を叩きながら声をかける。
だんだんと叩く力を強くしていくものの、フーベルトの頬が赤くなるだけで目を開けるようなことはない。
アイクへと報告をしようか迷うが、今はやめておくことにした。
彼はマイクを「ゲート」でここに送った後、クロックという友人へと会いに行った。
聞く限りアイクの中ではぼんやりと真犯人はわかっており、その手がかりを友人に聞きに行ったのだろう。
そしてアイクが正しければこのフード男が真犯人の共犯者、よしくは実行犯ということになる。
マイクはまずフード男の手足の自由を奪い、目と口を魔法で封じる。
そして魔族にしか効かない薬を投与してから、フーベルトの治療を開始する。
彼の体に目立った傷はないものの、マイクが驚いたのは彼の足だった。
彼の足は関節の向きが根本から歪み、常識的には歩行どころか、神経伝達すら危ぶまれるような状態だった。
もしここに来たのか一般の護衛隊ならフーベルトの足の治療を諦め、命だけを救うことにしただろう。
たが、ここにきたのはマイクだった。
マイクはここまで酷くはないものの、足をこの状態にまでになる例外を知っており、そもそも彼自身それを経験済みだったからだ。
なぜフーベルトが、という疑問は置いておく。
治療のためフーベルトの歪んだ足をさらに粉々にし、その上から無理やり正しい形へと固定する。
そこへだんだんと操作系の魔法をかけていく。
作業の合間に縛ったフード男の様子を見る。
この男を人類の罪で裁いたとしても民衆、そして上は納得しないだろう。
アイクはどうするつもりなのだろうか。
応急処置が終わったことを確認したマイクは行きと同じように、無料のタクシーであるアイクの魔法の「ゲート」が開くのを期待して待っていたが、再び現れることはなかったので二人を片腕で抱え、協会建物まで走ることにした。
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