第3話 賭け(1)
「結果は陽性、反応がありました」
つまりこの現象は魔法であることが判明した。
マイクはオフィスへと戻り、フーベルトがトイレへといっている間にそのことをチームに伝えた。
以前の件のささやかなやり返しだ。
「さて、そこから考えられる可能性は?」
アイクが検査結果を見ながら言う。
「分身魔法、遊び相手が欲しかったとかでどうでしょう?」
マイクがすぐに答えた。自分自身が増える魔法と言えば可能性が高いのは魔力をあらゆるものへと具現化して放出する放出系の魔法だ。
だが、アイクがそれに反論する。
「その程度の魔法であそこまでのクオリティを出せるとは考えにくい。しかもカールには歳の近い兄弟がいたはずだ。相手には困らない」
被害者はまだ6歳で、魔法を完璧に行使できると言える年齢ではなかった。
「カール?」
マイクが知らない名前に疑問が浮かぶ。
「被害者の男の子供の名前、覚えとくべきだと思うが」
それに返答したのは金髪の美少年のフーベルトだった。
トイレから帰って来たようだった。
「覚えてたさ、人族特有のアクセントが気になっただけだ」
そう今思いついた言い訳を取り繕いながら言う。
フーベルトは興味なさげに自分の席へと座り、アイクから検査結果の書いた資料を奪い目を通し始めた。
「兄弟が仲良いとは限りません」
気分を切り替えたマイクが、自分の意見を諦めない。
「会って確かめよう。両方に身体的負荷をかけてどっちか一方が消えるようならマイクの勝ち、そのままなら・・・今日の事務作業担当はお前に決まりだ。」
*
「ねぇ、何をするの?」
黒髪の少年のカールが素朴な表情でこちらを見る。
これから彼に必要なこととはいえ傷つけないといけないとは純真無垢なアイクの心が痛む。
とはいえ痛むのは表面上だけで、2回目と言うこともありほとんど作業のようなものだった。
アイクは彼らが驚くほど似ていることに興味を持った。
一卵性の双子は見たことがあったが、ここまで似ていることはなかったからだ。
今、目の前の少年と全く同じ見た目をしている少年には、もう検査をした。だが、負荷をかけたとしても消えることはなかったので、マイクの説が正しければこっちが偽物ということになる。
「君が本物かどうか調べるんだ。今のうちに家族に挨拶をしていた方がいいかもね」
「?」
「まあ、俺は問題ない方であった方が助かるんだが」
アイクが言っていることがあまり理解できていないようだった。
だがアイクは一から百をすべて説明するつもりはない。親にはもう説明済みなので検査を実行することにした。
「いたッ」
少しの悲鳴、それと同時に刺した傷口から見ただけで危険信号だとわかる色をした液体が少年の体の中から出てくる。アイクはそれを見て少し驚いた。
血を見て驚いたわけではなく、少年の反応が1度目では見られなかった反応をしたからだ。
「泣かないのか?」
「もう6歳だし、泣かないし」
アイクが独自に名付けた少年B泣かなかった。
先ほどの少年Aは刺した後すぐに泣いてなかなか落ち着かなかった。だが、彼は目から一粒さえ涙を出していない。
「ヒントが増えたな」
事件の手がかりが増え、アイクは事務作業から解放されることになったので笑みが止まらなかった。
*