第22話 魔法VS魔法(3)
「私たちの中で1番優秀なのって誰だと思いますか?」
「・・・・お前ではないことは確かだ」
急にフランがそんなことを言い出したことにアイクが少し驚く。
フランはそういうことに1番興味がなさそうだったからだ。
「私はこれでもエルフの中では優秀な方なんですけどね」
拗ねたようにフランが言う。
「道徳の代名詞のエルフの国ではそうだったろうな」
「・・・」
フランが黙り込む。
アイクはチームから二人目の裏切り者を出すことを恐れ、続ける。
「・・優秀って言ってもそれぞれベクトルがある、仕事に集中しろ」
「ベクトル?この森が関係あるとは思えませんが」
フランが首を傾けながらアイクに聞く。
「ここは西側最大規模の精霊が祀られている森だ。環境的要因ならここが怪しい。ベクトルで言えば、・・・そうだな、お前は教科書通りのところだ」
アイクの言葉にフランの顔は疑問形だ。
アイクは真面目くんだと言っただけで褒めていないのでそれは正しかったが。
「・・ならフーベルトは?」
「ダントツでポテンシャルだろ」
*
そういいながら目の前の神童が膨大な魔素を魔力器官へと流していくのを感じる。
教科書通りの組み方のはずが、彼がするとまた違ったものに見えるのだから不思議だ。
構築された魔法の術式に従い、どんどんと結界内の気温が下がる。
それに連れてマイクの体温も低下していく。
フーベルトは本気だ。話を聞くような雰囲気ではなかった。
「一度考え直せ」
一縷の望みをかけたが、一すらも感じさせない。
フーベルトはマイクがアイクのスパイだと疑っている。
マイクはそのまちがいを先に解こうかと迷う。
だが、それはもうこの時点で意味ないと判断した。
マイクは下がった自分の体温を引き上げるために自分の体へ魔力を浸透させていく。
複数のことを同時にするのが苦手だと自覚しているマイクはすべきことを一つに絞る。
魔力を働かせ魔素を認識する。
魔法が発動し体温が戻り、体は軽く、思考はクリアになる。
マイクご得意とするのは身体操作系の魔法だ。
身体能力は勿論、五感に加えて、知能すらも底上げする。
獣人による身体能力強化。
フーベルトは素直に厄介だと思った。
彼自身、喧嘩では大人相手でも負けた事はない。
だが、獣人との対戦経験はなかったからだ。
足りないものは知識で補う。
それが年齢という経験不足を補完するための彼が出した結論だ。
マイクはフーベルトの魔法の正体を明らかにすることから始める。
対魔法の戦闘はどれだけ早く相手の札を読み、適応できるかで勝負が決まる。
マイクの過敏になっている神経が反応する。
彼の足へと氷結が侵食してきたのだ。
凍傷による細胞破壊に至る前に凍った靴を力で無理やり脱ぎ捨て、足の裏の皮膚を千切りながら氷から逃れる。
足に激痛が走るがその痛みも時間と共に消えていった。
マイクは身体操作で痛みの信号を送る脳機能を停止させたからだ。
もちろん、その足はすでに治療している。
これ以上の凍傷を防ぐため、中和術式へと魔力を流す。
中和術式。
魔力さえ流すと半自動的にその魔法を中和する。
人類が自然法則を操る魔法を得意とする魔族に打ち勝つために開発された術だ。
それの発動を、感じ取りながらマイクはフーベルトの方を見る。
フーベルトは自然操作の魔法を発動しながら空気中の水分で作り上げた氷の矢を放つ。
マイクはフーベルトのその器用さに舌を巻く。
魔法の同時発動は誰にでもできることでなく、マイクの半自動的な中和術式を並立使用するのでさえも細心の注意を払いながらなのだ。
だがその矢の攻撃力は申し分ないが、速度は目で追えないほどではない。
五感を強化した獣人なら余裕を持って躱せる。
マイクが気になったのは当たらなかった矢の最後だ。
その矢はマイクの後ろにあった文字の書かれたホワイトボードへと刺さっておりそこからは長い氷柱が延びている。
それが示すのは、矢に当たればそこから凍結していく。
そしてそれを防ぐ術はないと言うことだった。
マイクは触れることによる凍結の可能性も考えて、砕くと言う選択肢は無くなり、躱すしかなくなる。
そうしている内に、天井からまた違う魔法によって不可視化された槍が浴びるように降ってくる。
それに強化された触覚と嗅覚で気づいたマイクは、矢と槍の間を凡人では見つけられないような隙間を縫っていくように避ける。
だが逃れたところに、致命的な罠があると周到な用意をしているのにもマイクは気づいていた。
だがこのままでは近づくことができないと判断した彼はあえてその罠にハマる。
遠距離を得意とする相手に自分から近づくように仕向けたが、それすらも神童にはお見通しのようだった。
フーベルトはマイクがわざと罠に嵌ったことを見抜き、罠自体を解除した。
痛みという信号をオフにしているマイクは肉体の危機的なシグナルを受信することができない。
つまり致命的な肉体の欠陥に気づくことができないということだ。
だがそれは脳の感覚操作の延長で補っている。
不可視の槍と氷の矢が迫る中、マイクは見えている逃げ道の第二、第三の危険筋の道をあえて選ぶ。
先ほどのような罠を警戒してのことだったが、フーベルトへと近づくためでもある。
魔法は一見遠距離の方が有利と思われがちだが、極限まで高められた神経系、そしてしれが獣人のものなら近距離で放たれた弾丸ですら指先で掴むことができる。
フーベルトはさらに作った氷の柱で妨害をしているがマイクには当たらない。
マイクとフーベルトの距離がだんだんと縮まっていく。
攻撃が当たるまでにあと二歩というところでマイクの脳が体の違和感を検出。
足が損傷した認識する。
だか彼はそれに構わず、一歩を踏み出す。
特殊な技法によって残りの一歩を圧縮し、その体重移動の流れで蹴りを出す。
マイクの足はフーベルトの鳩尾を的確に捉え、意識を揺さぶる。
ふらついているフーベルトへさらに追撃を加えようとするがこれ以上は限界だとマイクの足が止まり、その場へと倒れてしまった。
*