第21話 結論(3)
「魔族・・でしょうか」
現場付近から検出された魔殻を採取しながら、フランが考えられる可能性について口にした。
「それが事実なら、今度こそ魔族は俺たちの手によって絶滅させられるだろうな」
以前の戦争で絶滅寸前まで追い詰められた魔族。
彼らの血が絶やされなかったのは、単にエルフによる口添えが大きい。
「・・・報告しますか?」
だがフランも馬鹿ではない。
魔族を身内判定しているとしても、彼女がなによりも一番に思っているものを見失ったりはしない。
そしてこのエルフの言葉からもわかる通り、今回口火を切ったのが魔族側からならば、彼らがどうなるかは火を見るよりは明らかだ。
「まだだ、魔族の過激な奴でもここまでの馬鹿なことはしない。そんな馬鹿がいたことも否めないが、確定させるにはまだ早い」
アイクは苦い表情でフランに返事をする。
「何が考えられる?」
いつものオフィスで聞くようにアイクが続ける。
「人の可能性というのは?」
フランがそうあって欲しいと言う願望も含めて述べる。
「魔殻を偽装したとしても、探知魔法を併用しながら警備を強化してる護衛隊の目を潜り抜けるのは簡単じゃない。
「・・・・んー、その探知を妨害する魔法を使われた可能性?」
フランが少し時間を空けてから、思い出したように意見を述べる。
「ありえないな、ジャミングされていたのなら術者本人が気づかないはずがない」
すかさずアイクが否定する。
「・・・・時間差の魔法とか?」
フランが頭から絞り出す。
「高度だができなくもないな。だが、それも護衛隊が気づく。奴らはそこまで優秀じゃないって意見も認めるが、探知魔法が優秀なのは間違いない」
これもコンマの差ですぐに反論。
「・・・・」
もう声は上がらない。
「もう終わりか?」
「私だけですから」
フランのその言葉にアイクは少しため息をつくだけだった。
*
「魔族、だな」
「・・確かなのか」
フーベルトがついに結論付ける。
だがマイクは納得いっていないようだ。
「最近、魔族間で反人類運動が活発化しているという情報をもらった。こんなことをしでかしても不思議じゃない」
「その情報は確かか?」
「お前は黙っていろと言ったぞ」
フーベルトがマイクを鬱陶しそうに見る。
だが、その目線に怯むようではアイクの部下はやっていけない。
「・・・いや、魔族と一概に判断していいところじゃない。罰するなら実行犯だけでいい」
「それを判断するのは俺じゃない、お前でも、アイクでも。あとは上に任せよう」
フーベルトが魔力を込め、魔法によって政府へと報告しようとする。
マイクはこのまま魔族を見殺しにしていいのかと考える。
だが、魔族が滅べば次の戦争までの期間は確実に長くなることは明らかだ。
しかもこのフーベルトと一緒に調査していたことにより、出世の目も早くなる可能性もある。
そもそも今回は魔族がこちらに手を出してきたのだ。
領土は奪われ、戦争で約半分以上が戦死し、残った魔族は迫害の危機に晒されている。
返し切るのが不可能なほどの賠償金を背負わされた上、それを子供を飢えさせながら返している金を次は魔族を殺すのに使うのだろう。
マイクは結論を出す。
「・・だろうな」
フーベルトはマイクの方を向いて、呆れたように言う。
「俺にはライバルが多い、特に足を引っ張るな」
マイクはフーベルトの報告を妨害した。
無意識にとは言わず、確固たる意志を持って。
マイクはただ今結論づけるのは早いと言いたかった。だがフーベルトとはそう思ってはいない。
凄まじい速さで、彼らの周囲に結界が完成する。
それが意味するのは、
「ッ、待て・・」
フーベルトが世界に干渉する。
*