第20話 魔法(3)
「魔法以外に考えられない」
識別検査の結果を見てフーベルトがそう判断する。
マイクもフーベルトが見ていた調査結果を見て、同じように結論づけた。
さらに、
「・・魔族の魔法の使い方だ」
人の魔法ならこんな風に「魔殻」が散らばっていることはない。
魔族の魔法と人が扱う魔法は根本から異なる。
魔族は世界を通じて魔法を顕現するのに対し、人は自分の体を通して魔法を実現させる。
この世界の精霊が放出する、魔法の素である魔素。
その魔素と呼ばれるものの形を無意識に掴み、意思を込め、願いを実現する。
それが彼ら魔族の魔法だ。
だが、人は魔力という概念なしでは魔法を発動することはできない。
それは魔法というものを扱うように元々の体が設計されていないことが原因とされている。
強力な魔族に対抗するためには魔法を使うことは必須とされる。
壮絶な生存競争に勝つため、人族によって生み出されたのが魔力という力だった。
魔力は今の時代、生まれた時からデフォルトで備わっている機能とされている。
だがそれは何年もの時を重ね、魔族に打ち勝つために人類が苦しみながら進化した証だ。
魔力がないと人は魔素に干渉することすらできない。
両者の違いは、魔法を行使した後、魔殻が残るか残らないかである。
魔殻とは魔法を行使するために使用した魔素の殻のようなもので、魔族の場合必ず魔法行使後にその場には魔殻が発見される。
そしてそれは長い時間をかけて精霊が分解し、また新たな魔素となる。
しかし人間は魔力、いわば身体機能を用いているためその魔殻は体に蓄積してしまう。
それが原因で体調不良、身体障害、発作、強烈な痛みを引き起こしたりする場合がある。
つまり魔殻が現場に残っているということは魔族が魔法を行使したという証拠とも言える。
「・・テロか、恨みを持った魔族の反抗か」
フーベルトが最悪の可能性について考える。
現在も魔族に恨みを持っている者はたくさんいる。それも殺したいほどに。
もしフーベルトが今の判断を確定し、人類に正式に認められてしまえば今以上に魔族の迫害は深刻化する。
「わかっている、まだ決定するつもりはない。魔殻は別の要因で発生する可能性もあるからな」
マイクからの視線に気づいたフーベルトはまだ検証不足だと言う。
マイクはこのまま進めてもいいのかと疑い始める。
もしこれで違ったら一つの種族を彼らが耐えさせたことになるからだ。
マイクの不安が尽きない顔とは裏腹にフーベルトは変わらず、何を考えているかわからない。
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