第2話 議論(1)
「では、みなの話を聞こう」
アイクは試すような口ぶりで三人の新人たちに問いかける。彼は部下たちが資料の全てに目を通すことを待つことはない。
「そっくりな外見にその上、全く同じ記憶を持っている人間、ですか」
フランが資料を読み上げる。
フランは頭を少し傾け考え事をしているようだった。
アイクも資料へと目線を移すが相変わらず字が汚すぎて何を書いているかわからないかったので、部下たちが訳した情報だけで考えることにした。
今回のことが発覚したのは昨日のこと。
両親が朝起きたらベッドに瓜二つの息子が並んで寝ていたらしい。
アイクは何かの物語の書き出しのようなだと思う。
「これが物語なら偽物を口問答で炙り出せるがそれも通じないときてる」
アイクの発言に、反応するものは出ずに、時間だけが過ぎていく。
事件のあらかたの調査はアイクの部署、対魔特捜部に来る前に護衛隊という警備隊のような組織が済ませている。
たが、彼らの組織は人数だけが膨れ上がり、命令系統は崩壊しかけ、その中でも互いに足の引っ張り合いをしている状態なのであまり参考にはならない。
「本人の魔法かも?」
この空気の中で声を出す勇気を持ったのは獣人のマイクという男だった。
履歴書によれば、彼は独学で知識を身につけ、この職業に就けるまでの資格を勝ち取ったらしい。
尋常な努力をしてもそれは不可能なことだった。
「当人は否定してる」
その獣人とは正反対にあまりやる気のなさそうな金髪で肌の白い少年のフーベルトが答える。
フーベルトはマイクとは反対に高校と大学を飛び級で卒業してきた神童だ。
彼の成長と将来を全世界が期待の眼差しで待っている。
「嘘をついてるのかも」
「子供だぞ、信じる方がどうかしてる」
自分もそのカテゴリーに所属していると意識していないのかフーベルトの意見にアイクは笑い出しそうになる。
それをきつい目で見られながらフーベルトに問われる。
「どうする?」
「俺はもちろん小さな子供の味方だ」
フーベルトは興味を失ったように、目をアイクから資料へと移す。
「だが検査しろ、精霊の声を聞け」
その声を聞いてから三人が部屋を出て行った。
そうしてやっと目の前の三人は仕事を始めたのだった。
*
「どう思う?」
フランが話しかけたことにマイクは少し驚いたようだ。
だが、フランはエルフという種族上そういう反応には慣れているので何も言わない。
「何が?」
「先生のことよ」
マイクは、一瞬何のことかと疑問に思ったが先生という単語から、あの痩せた男のアイクを思い出した。
「別になんとも」
マイクはフランが何を考えて、自分に話しかけに来たのだろうかと考える。
真っ先に思い浮かんだ可能性としては、もしかして俺に気があるのかという馬鹿げた考えだった。
「あんな天邪鬼の顔をした人が他人を信じると思う?」
「・・人は見た目に寄らないんじゃないのか?」
だが、そんな男とする会話ではないと思いながらも可能性は捨てきれずに、頭に残しておき答えた。
「まだ会って間もないからそう思うだけだろう?」
「そいつに惚れたのか?」
会話に入り込んできたのは先程からずっと何かの専門書を読んでいるフーベルトだった。
声には笑みが混じっている。
「・・・?いいえ、そんなわけないわ」
「だとさ」
フーベルトが笑いながら続けて言う。
マイクはこれからうまくやっていけるだろうかという不安の中、一人真面目に与えられた検査をして心を慰めたのだった。