第17話 火事(3)
「さて、今日の仕事だ」
全員に資料を渡す。だがアイクは彼らがそれを読み切るのを待つことはない。
「俺が部下と遊んでいる間に巷では小火騒ぎが起きていたらしい」
「・・火事ですか」
資料を読み上げる担当のマイクが仕事を果たす。
「場所は主に西側各国、東は不思議と無傷か」
すっかり気分を切り替えたフーベルトが続けた。
「魔族かもな」
この世界の西側は人類生存圏とも言われている。
それは人類の80%が生息しているからだ。
逆に東側は魔族と変わり者が住んでおり、東側が無傷ともなれば魔族が疑われるのも当然だろう。
そしてそんなことを言うと黙ってない女がいる。
「言いがかりですね」
全員が思った通りの動きをフランがする。
このチームとフランは会って一か月すら立たないぐらいの関係性だが、その程度の行動を予想できるぐらいに強烈なキャラをしていることを再確認するのだった。
*
「さて、意見を聞こう」
アイクは部下に目を向ける。
「魔族説の可能性はあるだろ」
検討に値する意見だとフーベルトが言う。
「俺だけじゃなくフランにも喧嘩を売るつもりなのか?歴史の勉強をしていれば今の魔族にそんな体力はないことは明らかなはずだ」
アイクが彼への嫌がらせかそれとも本心か、フーベルトに反論する。
「個人的にやった無差別テロの可能性は?」
マイクはフーベルトに味方する。
アイクは真剣に考え始めた。
この火事が初めに発生したのは二週間前だ。
そこから一見して法則性がないような場所を転々と放火されている。
そんな思案中のアイクへとフーベルトが声をかけた。
「俺と勝負しよう」
そう言ったフーベルトの表情は無表情ではなく少し笑みを含んでいた。
*
「勝負?」
アイクがフーベルトへと尋ねる。
「俺とお前、どっちが先に問題を解決できるかでだ」
自信満々な神童は答える。
「なにを・・」
「いいだろう」
フランが意味を理解し、怒り出す前にアイクが了承する。
フーベルトと同じようにアイクの顔は笑っていた。
「だが、・・やるには何か賭けないと面白くない」
「同感だ」
二人が考えていることは同じようだった。
「もし俺が勝ったらこのチームを解散して、軍への紹介状を書いてもらおう」
「軍?」
アイクはチームの解散などよりもフーベルトが軍を志望していることの方が引っかかった。
だがどうせ叶わない彼の願いに興味を失い自分のことを考える。
「じゃあお前は・・・そうだな、俺の部下である限り許可なく魔法を使うのを禁止しよう」
アイクがフーベルトに提案したのは魔法の無断行使禁止。
フーベルトがアイクの目的を推し量るが途中でそれを止め、了承する。
「・・・いいだろう、成立だ」
「誓いを立てますか?」
今まで巻き込まれないように黙って聞いていたマイクが口をはさむ。
「必要ない、そんな恥知らずでもないだろう。だが逃げる羊を追うような真似はしない」
ルールを強制する誓約を結ぶ手もあるが、これは自分の意思でイヤイヤに従うから面白いのだとアイクは思う。
そうやって笑い合っている二人をフランは全てを諦めがけに見るだけだった。
*