第14話 結論(2)
「あんたはもう助かりそうに無い」
ここは先ほどの部屋より広い病室だ。周りは生存確率の低い終末期の患者が集められている。
彼女はもう長くない。アイクがそう判断しここに移動させたのだ。
「よかった、そのほうがいいわ」
声に精気が灯っていないが、安堵したような声だ。もう生きるよりも、死ぬことを望んでいるようだった。
それを止めるようなことはしない。
それを選ぶ権利は各人あるからだ。
そして彼女はアイクの人生に共感を感じたのかは分からないが、この部屋への入室を許可した。
だんだんと呼吸が弱くなっていくのがわかる。
目がうまく開かなくなり、体に力を入れるのが難しくなる。
そんな中でも彼女は最後、アイクに一言だけこぼしてから気持ちよさそうに眠った。
「カイトのこと、頼んだわ」
*
「さて、原因解明の時間だ。俺以外にカイトの存在の謎について解明した奴はいるか?」
三人の部下たちは黙っている。つまりアイクの独壇場だ。
「いないようなので先に進もう。この問題は奴が消え始めた時期がポイントだ」
「小学校入学ですね」
フランが合いの手を入れる。
確かな出生記録があり、保育園の頃も存在が認知されていることから、まずそこまでは本物のカイトが実在していたと考えていいだろう。
「つまり小学校からのカイトは別物として考えるべき。消えた後、母親と担任の記憶に齟齬がある、そして成績表、制服残る謎はこれぐらいだ。一つずつ糸を解いていくぞ。まずは記憶違いだが、これは母親の意見を信じすぎないことだ。奴が本当にイカれていた場合そこから総崩れすることになる」
アイクは続ける。
「そして成績表に関してだが、朱印を真似るのはそう難しいことじゃない。そして制服だが、カイトはおそらく小学校入学前まで存在していた。だから、政府による制服配布問題もクリアだ」
「ならカイトはどこへいったのか。この地域の過去の事件簿を洗ってみたがカイトという少年の行方不明、もしくは死亡事件は取り沙汰されていない」
「残された選択肢は二つだが、母親が死んだことによって絞ることができた」
「答えはすでに家にあった」
*
「本当にあるのか?」
「アイクがそう言ったんだ、あるはずさ」
ここはかつてカイトとその母親が住んでいた家だ。
フランたちの三人で彼女の忘れ物を取りに来ており、そしてそれは庭に埋められている可能性が高いらしい。
この事件の中心であり、彼女の形見であり片身だったもの。
「やけに信用しているのね」
フーベルトがフランの想像以上にアイクのことを信用しているようだったので、少し違和感を持った。
「俺への態度は気になるが、アイクが優秀なのは認めるところだ」
その発言を聞いたフランは以外そのものだった。
フーベルトは意地でも人を優秀だと判断することはないような人物だと思っていたからだ。
上からではあるが。
「先越されたくせに」
「俺も残る選択肢は二つだった」
「あったぞ」
フランとフーベルトの会話を遮ったマイクが庭の中にあるものを見ながら言う。
そこには小学生低学年の子供ぐらいなら軽々と入れることができる黒い棺が入っていた。
アイクが言った答えはこうだ。
母親は小学校入学直前に息子を失い、追い詰められた心から無意識化で魔法を使い、カイトを創造した。
だがそれも不完全でありこのカイトは矛盾が起きないように母親にしか認識されないそ都合のいい存在でしかなかった。
そして無理してその魔法を行使し続けた結果、己の魔力の許容量を超え、脳が溶けてしまった。
*
フランはそれを確認した後、護衛隊へ連絡をしようとしたら自分のネットワークにメッセージが来ていることが分かった。
それと同時にフーベルトが口を開く。
「さっきアイクに先を越されたと言ったが、そう何度も俺の前を歩かせやしない」
その言葉を無視し、嫌な予感がしながらもそのメッセージを確認する。
「アイクは優秀だが俺の上に立つには奴では役不足さ」
なぜフーベルトが知っているのだ、そんな疑問と私はやっていないという自己弁護が頭を支配する。
護衛隊からのメッセージ、それが意味したのはアイクの煙草に関連する情報の流出だった。