第12話 母親(2)
「まだ見つかってないってどういうことですか⁈」
アイクたちが病室に入った時、小柄な女性が大きな声で看護師に詰め寄っていた。
アイクは面倒くさくなることを見越し、それを外から眺めていたがチームの狂犬フランが許さなかったので結局すぐに入ることになった。
「言葉は理解できるか?まだ見つかっていないとそう言っているんだ」
彼女に近づき過ぎないような距離から声をかける。
「あなたは?」
彼女が看護師からアイクの方へと目線を向ける。
「あなたの息子さんを探す手伝いをしている者だ」
アイクは身分を明かし、落ち着きを取り戻してもらおうとしたが彼女はまだ混乱状態だ。
「ただの散歩だったのよ、そんな遠くに行っているはずないわ」
彼女の様子は今にも、頭から血が噴き出しそうな勢いだった。
「・・・落ち着け、今あんたがしないといけないことは病院の中でわめき散らかすことじゃないはずだ」
とにかく興奮状態から抜け出させないと話にならない。
一言ずつゆっくりと伝える。
「簡単なことだ、すぐに答えれるし、悩むことでもない。しっかり聞け、お前の息子は実在しているのか?」
アイクの質問に意表を突かれたのか、先ほどよりは落ち着いたが黙ったままだった。
「・・・何を言っているのから理解できないわ」
彼女が考えていたことを口にする。
アイクはそうすることによって彼女自身に自分の状況を自覚させる。
「もう一度言おう、あんたの子供はお前の中だけのものではなく、俺たちにも視認することはできるかと聞いたんだ。正直に言うと、俺はあんたがイカれていると思っている」
「先生!」
フランが言いすぎだという表情で静止する。
だが制止するだけではアイクを止めることはできない。
だが、アイクの言葉が続くことはなかった。
なぜなら混乱状態から戻った彼女が初めて自分から口を開いたからだ。
「これだけ聞かせて。カイトの捜索は今もまだしているの?」
一縷の希望に縋るような声を顔でアイクに尋ねる。
「・・すでに終了した」
だがアイクは気をまわすことはなくその希望を打ち砕く。
彼女はそれを聞いた途端、彼女の中におある狭く小さな心の扉を静かに閉ざした。
「一人にさせて」
そう言われたアイクたちは何も言えずにその場を後にした。
※
そしてそのままアイクは右足を軸にして一回転し、来た道を引き返した。
そしてベッドの上に横たわって泣いている彼女の閉ざされた心の扉にペンチをかけ、無理やりこじ開ける選択をした。
「すまんが俺は天邪鬼なんだ。まだ情報が足りない、もう少し付き合ってもらうぞ」
「出ていってよ!・・・あ、い」
アイクが病室に戻った瞬間、母親はそういって頭を抱え始めた。
再び痛みが来たのだろう。
彼女が気絶する前に事件のことを話させる必要がある。
「おい、気を失う前に教えろ、カイトはすぐに消えたのか?それともゆっくりか?カイトが行っていた小学校は?友人はいたのか?なんでもいいから話せ!」
母親が何とか声を出そうとするも、擦れた空気だけが聞こえて音を紡がない。
そしてそのまま言葉を発することなく目を閉じてしまった。
そして何もできなかったアイクは、諦めたようにゆっくりとナースコールのボタンを押した。
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