5話 少女A
少女は小柄で、茶色い髪のお下げに頭巾を被りエプロンをしている。
手にはカゴを持っていて、朝一番に果物を取りに来たようだ。
いつの間にか薄暗かった空は明るくなっており、村人たちは活動を始めていた。
「#%$!@*&%$*+#」
少女は何か話しかけているようだが全然言葉が分からない。
ニコリと微笑みかけてくれる。
13、4歳くらいだろうか。美形というような顔じゃないし、鼻っ柱から目の下にかけてのそばかすが印象的な女の子だ。
しかしその笑った顔には屈託がなく愛嬌があってとても愛らしい。
少女は俺に向かって手を伸ばして来たので、何も考えずに乗ろうとしてしまった。
(いかんいかん…)
触れたらコピーしてしまうかもしれないし、変態する条件も分からない。
安易に触れてしまうことは危険だろうと思い直し少女の手を避ける。
少女は焦ったように手を引っ込めるとキョロキョロと周りを見て熟れた果実を一つもぎ取り
俺に向かって差し出した。
(おおーー!)
「ピッ!!ピッ!!ピッ!!」
俺は喜びの奇声をあげながら果実を啄む。
少女は嬉しそうに微笑みながら俺の食事を見ている。
(こんな子が前世で嫁さんだったらなぁ…)
まあ給料少なすぎて結婚なんて出来なかったけど。それでもニコニコと微笑んでくれるだけでとても幸せな気分になれる。
ロリコンだからではない。断じてロリコンじゃない。大事なことなので二回言いました。
気がつくと少女の周りには他にも動物が集まって来ている。
ヤギ、犬、大きな鳥や小動物もだ。
餌付けでもしているのだろうかと思ったが、そういうわけでもなさそうだ。
そう言えば俺も何も考えずに手の上に乗ろうとしてしまったっけ。
どうやら彼女は動物達に好かれる体質らしい。
彼女は動物達の相手をしながら手際良く果実を摘んでいき、動物達に別れをつげて村の方へと歩いて行った。
俺は彼女の事が気になったのと、こちらに来て始めて出会う人間達に興味が湧いて後をついて行く事にした。もう一度言うけどロリコンだからじゃないからね!
村は思ったほど広くは無かった。冷んやりとした空気の中、村人たちは朝の仕事を始めていた。
小さめのレンガ作りの家がで数十軒程、狭い範囲に密集していた。
畑はあるものの、あれほど外にいた動物達はここにはおらず、お世辞にも豊かな生活をしているようには見えなかった。
俺がパタパタと飛んでいると村人は不思議そうな顔をして俺を指さしてくる。
(なんだ?洞窟燕が珍しいのか?)
少女は俺に気づかず朝採ったばかりの果物を村人に配り歩いている。その代わりにパンを貰ったり、野菜を貰ったりしているようだ。この村はお金でのやりとりではなく物々交換をするらしい。
その後彼女は一軒の家の中に入って行ったので、俺はそのあとを追って窓から入っていった。
家の中は前世で言う所のワンルームだった。
キッチンもベットもすべて一部屋にまとまっている。
「#&@&*!@&&*!!」
俺に気がついて少女が声をあげた。何を言っているか分からないけどとても驚いているようだ。
慌てて俺の所に駆けつけようとして椅子に足を引っ掛けーー
おもクソ転んだ。
俺は鳥である事を忘れて慌てて彼女を支えようとして彼女の下敷きになる。
(あ…)
その瞬間、俺の体がグングンと成長して行くのが分かった。
(やば…)
冷たい床の感覚に少女の服が素肌に触れる触感。手足は自由に動かせるものの、視界は少し狭まったような気がする。
俺の腹の辺りに顔を埋めていた少女がゆっくりと顔をあげる。
(やばいやばいやばいやばいやばい!!!)
俺を見た瞬間、小さな目を大きく開けて口がポカンと開く。
「あ、あ、あ…」
(今叫ばれるとまずい!)
俺は彼女の口を片手で塞ぎもう片方の手を口の前に持って行く。
「シー!!大声を出さないで!俺は、あの鳥だよ!!」
彼女は驚きながらもコクコクと頷いてくれた。
ホッと肩を撫で下ろし彼女の口を塞いでいた手を降ろした。
鏡なんてなくても分かる。小柄な体型に三つ編みのお下げ。
そう、俺は彼女をコピーしてしまったのだ。
「あなたは…何者なの??」
彼女をコピーしたら言語も理解できるようになったようだ。
「話せば長くなるんだけど…」
俺は下を見る事が出来ない。心はちゃんと男の子なのだ。
このまま下を見てしまえばロリコン決定である。
「…服を貸してください」
俺のコピー能力は服を作ってはくれなかった。