4話 美少年は自分勝手
(俺の親じゃ無い??)
ここまで俺を立派に育ててくれた親が違うって…?
混乱している事を察した美少年は『落ち着け』と溜息を吐く。
『お前の希望は多過ぎて、一回の短い人生で叶えられるとは思えん』
(え?でも人生より鳥生の方が短そうだけど…)
『だから、人生でもなければ鳥生でもない』
(まさか8本足のむ…)
『でもない』
すっかり全てを否定されて、俺つえー系で無かった事に少しがっかりする。
(それじゃあ俺は一体…)
『ふっふっふ、聞いて驚け。お前は「アメーバ」だ!!』
(へ……)
『アメーバだ!!』
「ぴーーーーー!!!(えーーー???)」
『「でも俺、鳥の姿だけど?」だろ?何しろ普通のアメーバでは無いからな。お前が触れたモノ全てコピー出来るのだ!どうだ?素晴らしいだろう??』
美少年の声はとても満足そうだ。
人をアメーバーに変えておいて、こいつは何を満足しているんだ。
俺の不満をよそに、美少年は続ける。
『最初はちょっと驚かされたがなぁ。何しろアメーバ変えた後、俺の声が届かなくなったのだ。はははっ!!』
当然だ。アメーバには脳がない。話しかけたとしても考える器官がないのだ。
下手をすれば一生アメーバとして過ごしていたかもしれない。
そんな事も知らずに俺をアメーバに変えるなんて、こいつはアホなのか。
あっけに取られて口をポカンと開けてしまう。
色々罵ってやりたいのに美少年の美しい顔を思い出すと罵る言葉も出てきやしない。
仕方なくギリギリと歯を…食い縛れないので嘴を食い縛る。
『運良く水と一緒に洞窟の天井から落ちてきた時に、下に居たのが「洞窟燕」の雛だった。まあ、お前が雛の形に変態したせいで、お前にコピーされた雛は押し出されて巣の外に落ちてしまったがな』
美少年は何ともないと言わんばかりだが、俺にはショッキングな事実だった。
俺は母さんの本当の子では無いどころか、母さんの子供を殺してしまっていた。
何が「運良く」だ。俺は母さんに、恩を仇で返してしまっていたのだ。
『そう落ち込まんでもいい。俺の作ったお前は寸分違わずコピーになれるのだ。お前は間違いなくあの母鳥の子供だった』
そう言われて理解は出来ても納得は出来ない。
それでも今更俺にどうにか出来るわけでもない。
それに…
(俺にとって母さんは、もう本当の母さんだ。でも、もっと早く教えて欲しかったな)
『鳥が親の愛情を得る時間は短いのだ。邪魔などない方がよかろう?』
一応気を使ってくれたって事なのか。
消化不良ではあるが俺はこの美少年に色々聞かなくてはいけない。
(なんでアメーバなんかにしたんだ?他の選択肢は無かったのか?)
ちなみに俺はもう敬語など使う気はない。人に何も断りなくアメーバに変える奴などに敬語は必要ないのだ。
『アメーバは形を変える事が出来るからな。お前にちょうど良いと思ったのだ』
(ちょうどいい?)
『お前は色々と欲しい物を言っていたような気がするけど…覚えてない』
(なんと!?あれほど俺が情熱的に語ったのに!!)
『最初と最後しか覚えておらん』
(なん…だとぉー!?)
『最初と最後だけは俺が叶えてやる。後はお前が自分自身でなんとでも出来るように、変態出来るアメーバにしてやった』
(上から目線…だと??人を脳のないアメーバにしておいて…)
ここでイライラしても仕方がない。反省などするような美少年では無いのだ。きっと人生は手のひらの上で転がすよりも簡単だと思っているのだろう。
(姿を見せてくれる気はないのか?)
『却下だな。美女なら良いが鳥に見つめられても困る』
見つめられる前提美女ならいいんかいな。そうかいな。
俺なんか美女と目が合っただけで顔まで茹で上がってしまうというのに。
美少年は俺なんかが経験出来ない人生を送っていたのだろう。
ん?人生?
普通に考えて、人を別世界に転生させられる人物が人な訳がない。
(おい美少年…お前は一体なにも…)
『一言忠告しておいてやる』
俺の言葉を遮るように美少年は話出す。
『お前がその姿をとっている時、時間はその姿をとっているものと同じ時間が流れる』
(へ?)
『小鳥の命は短いぞ。のんびりしてると、鳥のまま一生を終えることになる』
(は??)
『急いで他のコピーを探す事だな。それから、お前の後悔に関しては俺がばあちゃんとやらに金を渡しておいた。お前の名前でな。感謝するとよい。もうお前はあの世界の全ての未練を断ち切った』
その言葉を最後に美少年の声は聞こえなくなった。自分が何者か、話す気は無いのだろう。
ばあちゃんが俺の事など心配せず、平和な日常を送ってくれる事を祈るのみだ。
そう思っていると一人の少女が俺を見つめている事に気がついた。
…やはり俺の運では最強の友達を得る事も難しそうだ。残念無念。