3話 母の愛は偉大なり
「ぴーーっ!!」
そんなわけで今、俺は口に赤いウネウネ虫を突っ込まれている。
これは俺が鳥に転生したって事だろうか。
ならば何か特殊能力を持っていないとおかしい。
例えば、全属性の魔力を持っていて最強だったりとか。
試しに俺は炎系定番魔法『ファイヤーボール!!』を唱えてみることにした。
「ぴーぴーぴーーーー!!」
ズボッ!!!
また口に虫を突っ込まれる。
モグモグ、ゴックン。
とりあえず魔法は使えなさそうだ。
ならば、魔力がなくても体力が振り切れている系とかだろうか。
俺は藁で作られた巣からウニウニと這い出そうとしてみる。
すると親鳥が嘴を使って俺の腹をぐいっと押し、元の位置に戻されてしまった。
どうやら体力も力も無いようだ。
だからと言って、俺に今世で使える専門知識もなければ、鳥がそれを生かせるとも思えない。
だが俺は諦めない。
だって俺は知っているのだ。
最弱ぷるぷるモンスターから一国の王になるシンデレラストーリーを。
きっと俺が旅立てるようになった後、最強の友達を作ることになるのだ。
きっとそうに違いない。
俺は巣立ちの日がとても楽しみになってきた。
しばらく経つと俺の羽は立派に生え替わり、親鳥が見守る中初めての飛翔をした。それはとても短い飛行だった。距離で言うと、1m有るか無いかの距離。
それでも親鳥の顔を見るととても嬉しそうな顔をしていた。
鳥に表情があるのかと言われれば、それは子供達にしか分からないくらいの微妙な変化だ。
それでも母さんが俺の独り立ちをとても喜んでくれている事がわかった。
今まで俺を懸命に育ててくれた母さん。ありがとう。
俺…俺……
(立派な王様になるからね!!!)
そう心の中で呟きながら生まれ育った洞窟を抜け、大空に旅立って行った。
しばらく飛んでいると草原と、豊富な果実の成った果樹園を見つけた。
一本の木に止まり周りを眺めてみると、近くに小さな集落があるのを見つけた。早朝の為か村の中には人気がない。
俺は果樹の木を這っている小さな虫を見つけて啄む。別に美味しくはないけど慣れたものだ。
モグモグと口を動かしながら隣でたわわに実った果実に目を向ける。
ゴクリ…
ついつい食べ慣れた虫を啄んでしまったが、鳥なのだから果実もきっと美味いはずだ。
綺麗に整列して植えられた果樹園。これは人が育てたものだと分かる。
これが人間ならば窃盗である。しかし、今の俺は鳥だ!!
前世では金は無いが、お天道様に背を向ける事が無かった俺の初めてのワルイ事。
口を大きく開けて…それでは…
(いただきまーーーす!!)
『おい!』
ビクッ!!
「ピーピーピー!!(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい)」
『ピーピーうるさい。少しは黙るのだ。心の中で喋れば俺には聞こえている』
(この声は!美少年!!)
心の中でそう言いながら好きだった日本酒の銘柄を思い出す。
確か九州で作っていた酒で、これを飲めば俺も美少年になれるかな?なんて考えていた。
とても懐かしい記憶だ。給料日のささやかな楽しみだった。
だけど辺りを見渡しても誰も居ない。
『美少年にしてやれず悪かったな』
(そこまで心読まんでいい!!)
と、一応ツッコミを入れてみる。
『俺は今、直接お前の脳に話しかけている。お前の希望は叶っただろう?』
(叶った?俺の願い何か叶えてくれたか??)
『親の愛情が欲しかったのだろう?』
(!!!)
『優しくしてくれて、ご飯をくれて、お前の成長を喜んでくれる親だったはずだ』
そう言われて気がついてしまった。
母さんは俺に沢山の愛情を注いでくれていた。鳥だけど。
ご飯もくれた。虫だけど。
そして、俺が飛た時誰よりも喜んでくれたはずだ。
そう考えた時少し胸がチクリと痛んで、その後少し温かくなった。
『まあ、お前の本当の親じゃ無いけどな』
「ぴー!!?(はぁ!!?)」