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1話 転生ストーリーは突然に

『この世に未練の無い方大募集!!』


そんなふざけた広告を見つけたのは大都会の外れ、薄汚れた街並みの電柱に貼ってあった。

三十年に足りない俺の人生において、幸福と言えたのは食べ物に困らなくなったここ数年だけだっただろう。

それも今日で終わってしまった。今の俺には何も無い。

この世に未練がない。そう言われればそうなのかもしれない。

唯一の未練と言って良い会社にも見放された。

それでこんな広告見せられたら…、まあ自暴自棄になって応募しちゃうよね。

まあそれが全ての終わりで始まりだったわけだけど。




目が醒めるとそこは見た事も行った事もない場所だった。

言うなれば洞窟のような…岩に囲まれた、湿り気を帯びた空気の澱んだ場所だった。


(何が起こったんだ…)


咄嗟に口に出そうとした言葉は出てこず、口から出た言葉は考えもしないものだった。


「ぴー!ぴーーっ!!」


ん?んんん???


俺は思わず辺りを見回す。

右に雛。左にも雛。下が藁で前と上は岩。


「ぴー!!ぴーーーーっ!!!」


ちなみに今は『なんじゃこりゃーー!!』と言いたかったのだが、結局口をついて出たのはこれだ。どうやらこの「ぴー」は俺の声。

色々考えたかったのにお腹が空いて考えられない。

その事が俺の声をいっそう大きくする。


「ぴーーーー!!!」


トスン。


急に目の前の岩が白いもふもふに変わった。俺よりも少しデカい鳥だ。

口には赤いウネウネ虫を咥えている。

俺はビックリして口を大きく開けたまま固まってしまった瞬間、


ズボっ!!


問答無用で口に突っ込まれてしまった。


(まじか!!)


俺は半泣きになりかけたが、昔虫を食った事があった事を思い出した。

コオロギ、蜂の子、セミにカミキリムシ。カブトムシは不味かったなー。

もちろん自分で働けるようになってからはそんな事はしていない。

本当に、ほんとーーーに、昔の話だって。

だから虫を見て少しだけ反応してしまったが、すぐに今の出来事も赤いウネウネ虫と一緒に飲み込んだ。

その姿を見て母鳥は少し嬉しそうな安心したような顔になり、すぐに隣の雛にも餌をあげ始める。


とりあえずお腹に物が入った事で、落ち着いて自分の身に何が起こったのかを考える事にした。たしか俺はあの広告に書いてあった事務所の一室を訪れたのだ。

古びたビルの一室。普通の状態ならば警戒するような口説き文句と怪しい場所。

だけど俺の状況はすでに冷静な判断を下せる状況ではなかった。


親に捨てられ親戚には冷たくあしらわれ、高校だけはバイトをしながら卒業したものの、折角就職した職場はブラックな肉体労働だった。

それでもちゃんとした家があり、食うものに困らない生活は自分の人生史上一番幸せな時だった。


それなのに何の前触れもなく会社が潰れた。

いつものように深夜まで働いた後、短い睡眠を終えて再び事務所へ行くと、扉の前には一枚の張り紙が貼ってあった。どうやら社長一家は夜逃げをしたらしい。それが給料日の前の日だった。


何が悲しいって、いつも給料日までに銀行の残高が0になる俺は、その日食べるものさえなかったのだ。


(お腹すいたなぁ…家賃どうしよう…)


人の良いボロアパートの大家さんの顔を思い出す。

年老いたばあちゃんは自分の利益よりも店子の事情を優先してしまう。

それで何回も家賃を踏み倒されて、逃げられながら『あの子は元気にやっとるかねぇ』なんていいながら心配までしてしまう。

一度支払いが遅れてばあちゃんに謝りに行った時なんか、お金がない事を心配されて煮っ転がしを恵んでくれたほどだ。

その時は給料の支払いが遅れただけだったから良かったが今回は違う。

待ってもらっても支払える目処などないのだ。


(ばあちゃに申し訳ないなぁ…)


そんな事を考えていたらいつの間にか怪しい事務所に突入してしまっていたのだ。


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