03 物量的解決
女の子がゴブリンの標的にされた
その子は力負けしてゴブリンに引っ張られる
「…ー、〜!」
小さく、しかし必死な声でその子が呟いた
自分たちを踏み台にして助かった女性も恐ろしい形相で叫んでいる
その様子を見て、ゴブリン達は笑った
ジャラジャラジャラジャラ!!!
「うおぁぁああ!!」
昂る感情、白黒点滅する視界、沸騰するような頭の中
一瞬、金貨を拾ってゴブリン達に投げつけた
その時理解する、自分の今できる唯一の攻撃方法を
手のひらをゴブリン達に向けて、金貨を生み出した
残念ながら弾丸のように飛ぶことはなく、メダルゲームの払い出しのようにこぼれ落ちる
しかしその量が尋常ではなかった
全身上から下まで金貨が吹き出す自分はもはや人の形をしたジャックポット
一瞬で足元に金貨が積もりはじめる
そして檻の隙間から波のように溢れ出して行く
殺傷力はないが圧倒的物量
ゴブリン達を流し出すには余裕の量があった
◇
檻の前には金貨の山ができていた
ゴブリン達の姿は物理的に見えない
「はぁ…はぁ…」
肩で息をする
怠惰感はマラソンを走り終えた感覚の比ではない
吐き気は当然、頭痛は鳴り響いて胃の中は大合唱だ
それでもなお、金銀貨幣の払い戻しは止まらない
少し冷静になって周りを見れば女性が何か呟きながら、男女子供を一生懸命に引き上げていた
金貨の波に埋もれないようにしている
最初の金貨から積もり積もってすでに膝下ほどにはなっている
女性と目が合い、意思疎通できた気がした
このまま金貨を足場に、この檻山の上から脱出しようというのだ
その意を汲み取り、女性達から少し離れる
『…もっと、出ろ!』
意識が変わったからか、さらに小粒の銀の玉が先程よりも勢いよく溢れだし始めた
パチンコなら横に箱が積まれてしまうところだ
ジリジリと登る時に、パチンコ玉だと滑ると気づいた
その瞬間には角のない綺麗な石ころになっていた
価値が落ちたな、と思えるのは脱出の糸口が見つかって心に余裕が生まれたからだろうか
少しづつ上の出口は近づき、夜が明け始める
檻山から脱出できたのは完全に空が白んできた時だった
虚ろな目をしている男性に肩を貸して綺麗な石で埋もれた山を降りていく
ゴブリンの声は聞こえない
鳥の鳴き声と、木々のざわめきだけだ
「〜、〜〜」
「ー」
女性と女の子にお礼のような言葉を言われたが、残念ながら言葉は分からない
適当な相槌をうって、移動し始めた女性について行く
女性がボロボロの女性を引きずるように
自分は男性に肩を貸して動き出した
森は深く、月明かりも通さなかったのも頷ける程だった
女性は時折、腕時計?を見て道を変えている
腕時計と言うにはあまりにゴツイが
多分レーダーみたいなのもついているのだろう
気になるが聞いても言葉が分からない
いいさ、まずはこのまま街についてゆっくりしたいんだ
ズタタタタタン!
遠く…と言うほど遠くないところで銃声が聞こえた
驚いて飛び上がった鳥が頭上を過ぎていった
「…」
変な汗が背中を伝う、銅貨がまちまちに落ちた
女性と目が合う、意思疎通は出来なかったが、直ぐに太い木の幹に向かったことから、やり過ごそうとするようだ
女性達は右に、男性と自分は左にあった太い木の幹の裏に隠れた
しばらくすると、ぴっちりとしたスーツにフルフェイスのヘルメットを被った人物が現れた
その手、腰あたりにはガトリングを携えている
遠目でよく見えないが、まともでは無いだろう
言葉が分からない今交渉する選択肢は無い
このまま隠れてやり過ごしたいところだ
フルフェイスの動きに合わせて木の幹を回る
チャリチャリと小銭が落ちていて、音が鳴っているのだが、フルフェイスがこちらを疑う様子は無い
フルフェイスで音が拾いずらいのだろうか
そのままどっか行ってくれー!
木の幹に隠れて半周したところで
背後から肩を叩かれた
「うえ?」
振り返ると、もう1人のフルフェイスがそこにいた
◇
隠れてから木の幹を半周したってことは
後からきたフルフェイスには丸見えだったわけだ
自分は今連行されていた
後から来たフルフェイスに俵のように担がれ、解いて捨てたゴブリンのボロ縄で再び縛られていた
もがいてジャラジャラと銅貨が落ちる度にフルフェイスがガラガラと笑っていた
檻山の方へ戻り、フルフェイスは息のないゴブリンを踏んでいき、森と道路の境に停められていた大きな車へたどり着いた
キャンピングカー…?とにかくゴツイのだけはわかった
後ろから投げ入れられ、フルフェイスが乗り込むと車が発進した
ゴブリンに殴打されたボロボロの男性はいない
ゴブリンに酷い目に合わされた女性の姿もない
ゴブリンに捕まっていた女性と子供の姿もない
乗せられたのは自分だけだ
一緒に檻山から逃げ出した彼女たちが逃げれることを祈っておこう。
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