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六章 英雄王ルアオッド

「そろそろ見えて来たわ・・アレね。」ギルヴェリアが髪をかき上げながら古い山城跡を指さした。

「吸血鬼の巣窟か・・ワシらも双極半島にあと一歩のところで厄介な仕事を頼まれたもんじゃな。」ヴァルザックがイマイチ乗り気ではなさそうな声を出す。

「困っている民を助けるのが冒険者としての務めでもある・・そしてそれを糧として生きる俺達の為でもある。違うか??」

「ルアオッドよおぬしが受けた仕事じゃ、文句などないわ。ただ吸血鬼なんぞにワシの戦斧を振るうのは・・」

「歯応えが無くてつまらない、かしら?何なら私独りでも良いけど?」

数々の悪魔や天使そしてドラゴンを打ち倒してきた実力がその自信を裏打ちしていた。

「ギルヴェリア、俺達はチームだ。だからこそ今まで生き残って来れた・・これからもそうだ。」

「分かってるわルアオッド、貴方がそう言うなら。」

双極半島へ向けて最後の障壁となるガリクダリア山脈を越えようとした我々はタンザキニアという町に立ち寄って山越えの準備をしているところにそこの町長が助けて欲しいと依頼をしてきた。

曰く、山脈の中腹にある古い山城に吸血鬼が集団で居処を構えて夜な夜な度重なる襲撃を仕掛けて来ると。

抗戦するも多数の吸血鬼相手に死傷者が増すばかりで途方に暮れていたが、神具を身に着けた我々が到着したのは神の導きに違いないとして町の全財産を投げ打って退治を頼んできたので引き受けたが・・・ダステリア金貨が3枚もあれば必要にして十分。帰途での報酬はそう断っておこうか。

「どうやら見張りは居なそうね。不用心にも程があるわ。」「フン、まさか吸血鬼の巣に飛び込んでくる輩が居るとは夢にも思ってないんじゃろう。」

「奴等には捕食者として人類の上に君臨してきた驕りがある。付け入る隙は十二分だな。」

「ルアオッド、彼等に天敵が存在しないのは昨日までの話よ。今日私達が来たからには捕食者としての立場を存分に改めてもらおうかしら・・あの世でね。」

山城跡に到着すると巨大な朽ちかけた城門が閉まっていた。

「一応戸締りはしているのね。流石にそこまで気が緩んだ愚か者どもじゃないか。ノックでもしてみる??」

「ああ、飛びっきり盛大なドアノッカーをサービスしてやろう・・ヴァルザック、出番だ。」

「ワシの腕の見せ所か。ムゥゥウウ・・・」呪力を戦斧に込めると半透明になった戦斧のシルエットが一気に巨大化する。

「オルゥウァァアアッゥ!!!!!!」そのまま巨大な戦斧が実体化し城門へ振り下ろされ激突した。

ドッゥゴォォォオオーーン!!!!裏のかんぬきごと城門は大きく二つに割れたかと思うと吹き飛び地に落ちた。

ドゥゥゥウウンン地響きが大きな音を立てて鳴り、中庭らしき方向から鳥がバサバサと飛び立つ。

「宣戦布告ね。」「流石に気が付いたろうて・・・連中に逃げられる前に中へ入ろうぞ。」

「ああ・・だがまだ話し合いの余地はある。俺が合図をするまで攻撃は待ってくれ。」「ちょっと、本気!?」

「ギルヴェリア、俺が冗談を言う男に見えるか??」「いいえ・・まぁ好きにしたら。」

「フフン、博愛主義もここまで来たらお手上げじゃ。だがそんなトコロに惚れ込んだワシ等の期待を決して裏切らぬおぬしだからこそ今共にしておる・・・その圧倒的な力で弱者を悪戯に殺し見せびらかす輩なら誰が好き好んで付いていく??ともすればワシは離れるぞ。」

「ヴァルザックに同感。私達のリーダーに相応しい強者であり人格者でもある貴方には惹き付けられるものがあるわ。10数年間も一緒に行動して飽きるどころかますます興味深く惹かれる・・そんな人間に出会ったのは初めてだし今後二度と無いと断言できる・・・なればこそ生きる喜びも、惨めな死を迎える時も共にすると誓った・・その覚悟は出来ているわ。」

「2人とも理解してくれて助かる。連中は別に望んで吸血鬼になったワケではない。生きるために人間を襲う悲しき宿命・・・彼等にも生きる権利はあるのかも知れない。」

我々は竜眼で照らした城の通路を真っ直ぐ歩き奥へと進んだ。

「気配がある・・7人、いや8人か。」「何人居ようが私達の敵じゃないわ。」「さて、おぬしの話に耳を傾けるかのう・・・」

大広間に出ると我々を包囲する形で吸血鬼達が待ち受けていた。それぞれ瞳は異形に赤く光っており人外である事を物語っている。その全員が微かに飢えた吐息を発していた。

「ハァァ・・これはこれは・・子羊がようこそ狩人の住処へ・・・ここまでの大胆な訪問者は初めてだ。おかげで全員目が覚めたよ。」リーダー格らしき銀髪の男が両手を広げて語りかけて来た。古参の吸血鬼は髪が銀色に染まるというのは本当らしい。

「子羊とはワシ等の事かの??」「らしいわね、フフフ・・笑っちゃうところかしら?」

「随分と腕に自信があるようだな・・・フゥゥ・・だが我が眷属の恐ろしさを知らぬと見える・・・悲鳴を上げて後悔する瞬間が楽しみだ。」

「最初に言っておく。大人しくこの地から去れば殺しはしない。何処かの地で犯罪者を生贄に捧げるよう人間と契約すればお前達も生きられるだろう。」

途端に嘲笑の声が湧き立った。我々3人を取り囲む嘲笑をしばらく黙って聞き流す。

「クックック・・・その無謀とも言える勇気は褒めてやろうじゃないか。生き血を啜る前に聞いておこう、誰に頼まれた??」

「我々の要求は二度とタンザキニアに近づくな、だ。それを守れるなら無益な殺生を我々は望まない。」

「なるほどあの町の差し金か。フゥゥーーハァァアーー・・・喜べ!!!貴様等を飲み干した後はあの町の住人どもも後を追わせてやろうじゃないか。」

「そうか・・ならば狩人が追い立てられ狩られる身に転ずる運命というモノを教えてやる。ヴァルザック、ギルヴェリア、交渉決裂だ、やるぞ。」「おうっぅ」

「茶番は終わりね・・」

「ハァァ・・・言うじゃないか・・・やってみせろよぉぉおおおおおーーーーっぅ出来るものならなぁぁあああっぅ!!!!!!」

吸血鬼どもが群れを成して一斉に襲い掛かって来たその刹那、「ヤァアアアーーッゥ・・ハッゥハッゥハッゥ!!!!」

ドスドスドスドスッゥ・・・百里眼を発動させたギルヴェリアが百発百中の弓を次々に心臓に撃ち込んで行く。「がぁぁっぅ」「うっぐぉぉおっぅ」聖呪文で輝く矢じりに貫かれた身体が脆くも崩れ去り蒸発していった。

「ハッゥ、吸血鬼風情がっぅ!!!!!」歯牙にもかけぬ圧倒的な力を見せつけるギルヴェリアはそう歯をむき出しにして叫ぶ。

「なぁっぅ!?きっぅ・・・貴様等!!!!」リーダー格の吸血鬼が叫び残りの吸血鬼が怯んだ瞬間、光輪の絶牙に呪力を注ぎ込むとギルヴェリアとヴァルザックに当たらないよう注意を払い数振りほど宙を薙いだ。「ギッゥ!!」「あっががぁぁああー」「ひっぅぎゃえ!!」一寸の間の後に光輪に身体を真っ二つにされた複数の骸が崩れ落ちる。「これなら・・再生出来まい!!!」

「チィッ!」リーダー格の男が即座にザァッゥと霧にその姿を変え逃走を試みるも「誰が逃がすものかっぅ!!!!天よ闇を身に繕う悪鬼にその光りで裁きの鉄槌を与えたもう!!!!」

ブゥゥゥウウン・・ギルヴェリアの詠唱と共に灼熱の超太陽が出現し広間に熱線を余すことなく浴びせた。「ぎゃぁぁああああーーー!!!!」容赦の無い熱線に霧が断末魔を上げて灰となって散って行く。「なんじゃ、ワシの出番は無しか・・」「言ったでしょ、私独りでも良いって。」「終わったな・・町へ戻ろう。」

我々はタンザキニアへ戻り丁重なもてなしとダステリア金貨3枚で良いと断った謝礼を受け取り・・出発するとガリクダリア山脈を越えて双極半島へ足を進めた。

半島の一方の極には民族主義の連邦諸国が、もう一方の極には自由主義を標榜するナルルカティア帝国が存在し覇を争っているらしいが20余年の冒険で初めて訪れる地に微かながら希望を見出す事が出来るのか胸が高まる。

「ここは気候が良い・・山脈で他の地域と隔絶している割りに繁栄しているのはこの気候のおかげだろう。」

「そうね・・樹木も生い茂ってるし私の同胞達も帝国には多いと聞くわ。なんだか故郷を彷彿とさせる気分・・・ねえ知ってる?エルフが集まると弓の腕自慢で射的をして競争するのが常だって。」

「なんじゃ、エルフどもはそんなくだらん付き合いしか出来んのか。」「あらヴァルザック、ドワーフは集まるとエール酒をどれだけ飲めるか一気飲みなんてしてると聞くけど??」「当たり前じゃ酒を空けるのがドワーフの人生で挨拶なんじゃ。その点おぬしとは良い酒が飲めそうにないな。」

「私は下戸だから飲みたければルアオッドと一緒に飲めば?ねえ?」

「そうだな・・・たまには酒で気を紛らわすのも悪くはない。冒険者は地酒で迎え入れられる事も多い。だが人生の伴侶をアルコールにするのは退屈に過ぎる・・・お前達が居てくれればそれで良い。」

「それは褒め言葉か?まぁせいぜい神の申し子とやらに惑わされぬ事じゃな。」「会うんでしょ?皇帝に・・・」

「ああ。あらゆる人種が差別なく平等に扱われる国は見た事が無い。実際にはどうなのかこの眼で確かめたい。その上で皇帝を自称する者が我々にとって協力者となるに値する人物かどうか謁見して見極める。」

「フン・・ことによってはワシ等の旅の終着点がナルルカティアか。ワシはもう長くない、腰を下ろすのもやぶさかではないわ。」「・・・このまま死ぬまで旅を続けるものかと思っていたけどルアオッド、貴方がその理想に適う君主に仕えるなら止めはしない・・喜んで貴方の人生を分かち合うわ。」


私はそこでしおりを挟んでページを閉じると周囲を見渡した。皆グーグー寝ていて疲れた身体を癒している。ウィルのいびきが目立つがロンシャイアのそれに比べると可愛いものだ。時計を見ると1時半・・・まだ時間はある。私は焚き木を集めに林の中へと向かった。

「!」人の気配がする・・・「誰!?出て来なさい!!!」闇の中からうっすらと人影が幻影のように揺らめきながら現れた。呪術士か。「完璧に擬態していたハズだが・・・なるほど勘の鋭い小娘だ。」

顔がよく見えないが見知った者ではないのは確実。「何者かしら?我々が第13騎士団と知っての無礼なら相応の対処をさせて貰うけど?」

「これは失礼、私は第16騎士団のアハリル。普段はミューンズドヴルメで活動している・・ヴァロアス騎士団長より貴君へ力添えをするようにと頼まれたのでな。」

「そう、騎士団のお仲間だったのね・・悪いけど騎士団会議で今回の事案について第16騎士団の出番は無いと決まったの。助力の必要はないわ。」

「そうか・・もしミューンズドヴルメで困った事があったらラミューダという都市のカフェ・ルーチェリアの店主に20番対応をよろしくと伝えてくれ。陰ながらお役に立とう。」

「覚えておくわ。でも今日のところはお引き取り願おうかしら・・・私達の休息の邪魔をしないでくれる??」

「承知した。また会う事を所望しておこう、では・・・」そう言うと人影は闇の中へと消えて行った。

「ったく、ヴァロアス騎士団長も余計な真似をしてくれるわね・・」独り事を言いながら焚き木を集めて回る。30本は集まっただろうか・・これだけあれば事足りるだろう。再び焚火の元へと戻ると小説に没頭し始めた。


「これが・・ナルルカティアか。」帝国の首都に辿り着いた我々はその活気に満ちた都市模様に圧倒された。5階建て以上の高層建築が立ち並び、広い通りは様々な人種でごった返している。

「噂通りの多人種っぷりね・・ここでは私もヴァルザックも目立たないわ。」

「こんな高い建物を建てるなんてどうかしておるぞ。地下を掘り進めた方が楽じゃろうに・・・」

「ドワーフの地下王国ラヴァニラロクと比べてもこれほどの人口は考えれない。かつて見て来た全ての都市の中でも際立っている・・・」

「ルアオッドよ、おぬしと出会ったのがラヴァニラロクであったな・・遠い過去だが昨日のように覚えておるわい。門番でもある鋼のゴーレム、ディアスディアレを打ち破り我が王国に人間が侵入してきたと聞いたワシは勇んで戦斧を手におぬしと対決した・・・ワシよりも強い人間がワシよりも度量があると分かった後は意気投合して酒を酌み交わしたものじゃ。」

「その数年後にエルフの聖地ヴィヴェ・ル・ゼヴィナニアで私と出会ったのよね。ルアオッド、貴方に魅了された私は長老会の制止を振り切って行動を共にする道を選んだ。今でも後悔してないわ。」

一瞬考えるかのように間を置いて「過去と現在の狭間で色々とあったが人種を問わない価値観による協調を俺は重視してきた・・・ここナルルカティアでは、それが上手く調和されていると思う。」

この帝都における人種の坩堝を見聞した結果、帝国発祥時に宣言されたユクニール法典により全ての人種は平等に扱われ能力によってのみ英雄かさもなくば奴隷かという競争社会を熾烈な争いで以て栄華を極めたという。

「奴隷という身分を憚らずに公に明文化しているのは気に喰わない・・・が、特定の人種を奴隷として扱わない点と奴隷も法典により権利が守られているというのは評価に値する。」

「まあ、自由な冒険者の身である私達には奴隷制度の良し悪しは判断つかないわ。多人種国家を運営するのに最適なシステムなのかも知れない。」

「フン・・ところでどうやって皇帝に会うつもりじゃルアオッド??」

「そうだな・・神具を身にまとったオクタの竜眼使いが謁見を申し出たら・・流石に放ってはおかないだろう。」

肩で人込みの中をかき分けながらどうって事は無いように語って見せる。途中甲冑を着たリザーディアンの警邏兵に「シューッゥ、そこの人間とドワーフ!!!ススス・・その武具は何だ??見た事が無いな、ちゃんと登録してあるのか!?」

呼び止められたが好都合だ。

「我々は冒険者だ・・皇帝陛下に謁見したいのだが何処にいらっしゃるか教えてくれるか??」

「何だ、新参者か。ススス・・皇帝陛下は忙しい。冒険者などに構ってられんナルルカティアに居住したいのなら市民登録申請を役所で済ませておけ、不法滞在は取り締まるぞシューーッゥ!!!」「・・・」俺は黙って目と目を合わせ竜眼を発動させた。「改めて聞く。皇帝の所在は何処だ??」

「ススス・・サン・アレクサンドラ・ローです。」「サン・アレクサンドラ・ローとは??」

「皇帝陛下の宮殿です。」「それは何処にある??」「シューーッゥこの大通りを真っ直ぐ抜けて右手側に回ると門がありそこが入口です。」

「我々が入れるか??」「ススス・・許可証が無ければ衛兵に呼び止められます。」

「許可証を得るには?」「私の上司の上司の上司の上司の上司の・・・上司が発行可能です。」

「そうか・・・ありがとう。数分後に催眠状態が解ける。それまで適当に歩いておいてくれ。」「ススス・・分かりました。」

「さあ行こうか。」大通りをヴァルザックとギルヴェリアと共に歩を進める。

「どうやら一筋縄では行きそうにも無いわね・・・」「許可証が要る。だがそれを待つ時間など無い。」

「強行突破を図っておるのじゃな??」

「催眠術である程度までは行けると思うが・・・皇帝の心証を害する可能性はある。どうしたものか・・・」「宮殿に着いてから考えるのも悪く無かろうて。」「ヴァルザック、貴方っていつもそうよね・・・行き当たりばったり。ドワーフって深謀遠慮が足りないわ。」

「じゃあ良い策はあるのか??エルフの知恵でも発揮してみせたらどうじゃ。」「それは・・・難しいけど・・」ギルヴェリアが返答に窮していると遠くから歓声の声が聴こえて来た。

「何だ??」「英雄セス卿のお通り!!!道を空けい!!!」人込みが海を割ったかのように別れ動き、通りの中央ががら空きとなる。「英雄セス万歳!!!」「我等の英雄!!!」「帝国の誇り高き勇者!!!」「セス卿万歳!!!」道を空けた群衆が各々声高に歓声を上げている中、通りの中央を白馬に乗り白銀の甲冑を身に着けた騎士風の人物が進んで来るのが見えた。

「英雄だって・・ルアオッド、チャンスよ。」「ああ、好機到来とはこの事だな。」「アイツをブチのめすのか。」

「そこの3人、道を空けいっぅ!!!!」白馬を先導する兵士が注意してくるのを無視して白馬の騎士に歩み出る。「帝国の英雄とお見受けする。俺はヴィ・デジェスディア・ルアオッド。しがない冒険者・・・皇帝陛下への謁見を求めてナルルカティアに参上した。協力を願えないだろうか??」

「無礼者!!!打ち首になりたいか!!!!」怒鳴り付けるような兵を騎士はその手で制し、「待て・・貴公等、なかなかの装備を身に着けているな。陛下へ謁見して何とする。」

「俺はオクタの竜眼使いだ。この帝国の理念に賛同する者として皇帝陛下の意思と力量を見極めたい。」

途端に群衆からざわめきの声が上がる。「オクタの竜眼だと・・」「本当か??」「初めて聞いたぞ・・」「ただの人間にしか見えん・・」

しばらく騎士は沈黙していたが突如馬から降りると「なるほどな。貴公陛下へ仕えるかどうか迷っているのだな。いいだろう、力になってやる。」

「話が早くて助かる。」

「ただし・・・」白銀の騎士はそう言いながら腰にぶら下げた鞘から剣を抜刀した。バリバリバリバリッゥ・・剣が雷電を帯び猛り狂う雷鳴が周囲に響く。「この私、セス・ランスロットと勝負して貰おうか。」

「それが条件なら・・・」俺は光輪の絶牙を抜いて「喜んでお相手しよう。ヴァルザック、ギルヴェリア、手を出すな。」白銀の騎士と相対した。

「あやつも神具を使いこなしておるの・・・ルアオッドめ案外と苦戦するやも知れぬ。」「どうかしら・・・彼に失望した事はただの一度も無いわ。お手並み拝見と行こうじゃない。」

周囲の観衆は固唾を呑むように無言で互いに剣を構えた2人を見守っている。

「ご紹介が遅れた。このライトニングブレードが我が愛剣、そして呪文を通さぬこの白銀の鎧が貴公の竜眼を封じる・・・更に我もトリプルの竜眼使いだ。」

「礼儀正しいな、ますます皇帝に会ってみたくなった・・・帝国の英雄とは如何ほどの者か存分に奮って教えてくれ。」「我を試すか・・・面白いっぅ!!!!」

どちらともなく駆けると剣と剣が交差した次の瞬間、ズヴァッゥ・・ッゥヴヴヴッゥドゴォォオオーーン!!!!!激しい雷鳴と共に奔流のように電撃がほとばしりルアオッドを直撃した。ヴヴッゥヴヴヴヴ・・・「何と!!!貴公接触呪文も使えるか・・・障壁を張ったな。」地面に焦げ跡が付き真っ黒になった中心部において尚無傷の姿にセスが驚きの声を上げる。

「伊達に英雄じゃないわね・・」並みの障壁なら打ち砕かれていただろうその電撃の威力にギルヴェリアは舌を巻いた。「これで条件は互角じゃな・・・後は剣の腕比べか。」

ガキィィンッゥバリバリバリッゥガキャ・・ッゥズドンッゥ電撃を交えながら剣技を繰り広げる2人は拮抗しているかのように見えたが徐々にルアオッドが優勢となって行く。

「ルアオッドの奴、身体強化呪文を4段階は重ね掛けしておるわ。セスとかいう奴も使っておるようじゃが相手が悪かったな。」

「ねえ、何で光輪の絶牙を使わないか分かる??周囲の群衆に被害が出ないよう気を使ってるのよ。」

「あやつらしいのう・・」

ギッゥ・・キィィイン!!何とか振り切って距離を置いたセスは想像を絶するこの冒険者の底力の前に最終奥義を使わざるを得なかった。

「確かに・・貴公は強いな・・・しかしこれはどうかな??」キラリと目を光らせて写し身の呪文を竜眼で発動させると、ルアオッドを取り囲むかのように3方向にセスが出現した。

オリジナルを含めて4人のセスが同時に動き出す。「イカン、これは反則じゃっぅ!!!加勢せねばならんっぅ」「ヴァルザック、待って!!!ルアオッドはまだ諦めてないっぅ!!!」

「写し身か・・国によっては禁呪となっているが流石は自由主義を標榜する帝国、英雄もさもありなん。ならばっぅ!!!!」ルアオッドは空間呪文を発動させると空間転移のヘキサグラムが宙に浮かぶや否や剣を差し込んだ。

ズドッゥ!!!写し身の真後ろに浮かぶヘキサグラムからその身体を貫き、すぐさま光輪の絶牙に呪力を込めて続けざまにヘキサグラムへ叩き込んだ。ザンッゥ!ザシュッゥ!!上空から転移した光輪が真下へ輝き道路ごとセスの写し身を真っ二つに切断した。シュゥゥウウ・・・全ての写し身が消滅し独り残されたセスは唖然とする。

「貴公・・・手を抜いていたな・・」「だとしたら??」

「参った、約束通り皇帝陛下に謁見させよう。陛下も喜ぶに違いない。」ワァァアアアーー!!!大歓声が沸き上がる。高レベルな果し合いに観衆は手を叩いて称賛した。まるで新たな英雄の誕生を祝っているかのようだった。

「流石じゃのう、20余年の冒険で負け知らずなだけはあるぞい・・」「言ったでしょ、彼に失望した事なんて一度も無いって。」

我々はセスの導きでサン・アレクサンドラ・ローへと悠々と出向いた。途中衛兵が「セス卿、ご苦労様です。こちらの者たちは??」と問うてくる。

「我の目に適った者だ、今から皇帝陛下へ謁見する。」「ハッゥ!!」宮殿は外観も内部も壮麗で美しく煌びやかに彩られていた。

「綺麗ね・・まるでこの国の繁栄を現しているかのよう・・」ギルヴェリアがキョロキョロしながら上擦った声を上げる。「ハッゥ、エルフは宝飾品に事欠く建築しから出来んから困る。黄金のラヴァニラロクも壮麗さなら負けておらんわ。」ヴァルザックの文句を聞き流し中庭を通ると謁見の間へと通じる門の前でセスが改めて「くれぐれも失礼が無いようにな。貴公等は英雄になれる素質がある。だが間違っても陛下には歯向かうな。陛下は神の申し子で誰にもその領域を犯すことなど出来ぬ。」と警告をしてから我々は中へと入って行った。

衛兵がズラリと左右に並び立ち、建物の中央奥の玉座に皇帝らしき人物が座っている。赤い兜に青い仮面を付けておりその表情を窺う事は出来ない。金色のローブが微かに輝いていた。

我々は片足を地に突き平伏するように畏まると、「セス卿、突如の面会とは何事か!?」皇帝の斜め後方に位置する老人が叱責をするかのように問うてきた。

「宰相、失礼ながら・・見込みがある者どもを連れて来ました。一名は我を超える力を有しております。是非とも我が名に賭けて英雄として推薦致したい次第にて、参上しました。」

「ほう??貴公が一騎打ちで敗北したか・・・珍しい事があるものだ。」まるで観て来たように語る皇帝のその声は呪力で変声されており男とも女とも区別が付かぬ魅惑的な音色をしていた。

「発言しても良いか??」俺は臆することなく立ち上がると言い放つ。

「これっぅ痴れ者が!!出しゃばるでないっぅ!!!!」宰相が叫ぶも「良い・・申してみよ。」皇帝の一言で沈黙した。

「では遠慮なく・・我々は大陸中を旅してきた冒険者だ。呪術や神具を使いこなしあらゆる遺跡や迷宮を踏破し数え切れぬ天使や悪魔を打ち倒してきた。控えめに言っても我々に武力で勝てる者は存在しないだろう。だが歳を重ねるにつれこの力をもっと世界の為に役立てる必要があると思うようになった。俺の夢はあらゆる人種が平等に扱われ差別や偏見の無い社会に尽力する事・・・そしてここナルルカティアの噂を聞き実際に目にしてみてその理想にある程度近しいと確信した。で、この帝国の皇帝である貴君が我々の力を貢献するに値する人物か見定めに来たのだが・・・正直少しガッカリした。素顔を晒さず声すらも露わにしない、そのような者とどうして信頼関係を構築できようか・・・」

場が凍り付いたのが手に取るように分かる。「ファッハッハッハ・・・」突如皇帝の笑い声が響いた。

「余を見定めようとは殊勝な奴よ。ならば問おうか??信頼関係も無い汝に、どうして素顔と声をさらけ出せるというのだ??これはある意味で神の申し子としてのパフォーマンスだ。悪く思うな・・・汝と信頼関係が成り立ったならば顔も声もさらけ出そう。」

「そうか、共に歩んでみなければ分からないというのだな・・・ともすると要求はただ一つ。我等と理想を共有する仲間となって欲しい。」

ピクリと仮面の動きが止まりセスが慌てて「無礼であるぞっぅ!!!」と叫ぶが時既に遅く負のオーラが増幅していくのがピリピリと肌で感じられる。

「・・・皆の者、退席せよ。」皇帝の一言で宰相から衛兵まで慌てて扉を開けて出ていく。

「陛下!!この者たちは扱う価値があります何卒ご容赦を!!!」セスが弁明するも「ならん、退席するのだセスよ。」と重ねて強調する。

「なにかしら?」「さあの、贈り物でもくれるのか。」「・・・・・」

俺は黙って皇帝を見据えてその一挙一動に注目した。

「余に仲間に成れとは身の程知らずの田舎者かよほどの愚か者か・・・まぁ良い、ならば力を示してみせよ・・・」ユラユラと空間が煌めきボウッゥボウボウボウッゥと真紅の甲冑に身を包んだ騎士が次々に姿を現した。

ギルヴェリアの表情が一変する。「ま、まさか・・真紅の騎士団・・クリムゾン・ナイツっぅ!!!!!」「召喚呪文か?ワシには良く分からんがの。」

「ヴァルザック、こいつ等は900年前の英雄だ。オウガと激戦を繰り広げ連合軍を勝利に導き裏切りによる非業の死を遂げてアンデッドと化して尚戦場を求めて召喚に応じる・・・かつての英雄達の末路だ。」

12体の真紅の騎士が勢揃いし、我々を品定めするかのように甲冑の奥で不気味に光る目で見つめている。

「ヴァルザック、ギルヴェリア・・・全力で行くぞ・・・サブウェポンは考えるな。でなければ死ぬのは我々の方だ。」「おうともさっぅ覚悟は出来とるわい。」「えぇ、私の全身全霊をこの戦いに捧げるわ・・・エルフの神々に誓う我々の栄光と衰亡を照らすその道の行きつく先に何が有ろうとも・・・」両手を天に突き詠唱を開始したギルヴェリアの頭上に真っ黒な球体が無数に回転を始める。発声呪文のダブルだ。

無言で真紅の騎士団が駆け出したその瞬間にドゴドゴドゴドゴォォオッゥ!!!!真っ黒な球体が先頭を走る真紅の騎士を次々に直撃してコンクリートの床ごと抉る。ガァゥウンッゥ・・・ガウガウゥゥウウンンッゥ直撃した球体が空間を消し飛ばしながら消滅していく。後には炸裂痕と鎧の断片しか残っていない。

「ほぉ・・・」皇帝が感嘆の声を上げる。重力呪文と空間呪文を組み合わせたギルヴェリアの秘奥義だ。

「・・・故に我々は加護を求めずただ運命を受け入れ生ける時も滅びの時も甘んじて・・・」ギャリギャリギャルッゥ残りの黒い球体が次のターゲットを求めて床を削りながら軌道修正し、2番手に躍り出た真紅の騎士を横殴りにドゴドゴドゴドゴォッゥ!!!!!と壁へめり込ませガァゥウンッゥガウゥゥウウンンッゥと消滅させた。

「コォォオオオオーーーーッゥ」10体の真紅の騎士が突撃してくるのを「う゛るぁ゛ぁ゛あああああああーーーーーっぅ!!!!!」ヴァルザックの巨大化した戦斧が一斉に薙ぎ払った。吹き飛ばされ甲冑が割れて中身の骸骨が見え隠れする。

「呪力が尽きたわっぅ!!!」「ルアオッド!!時間は稼いだぞいっぅ!!!」

「あぁ充填完了だっぅ!!!!」星屑の剣に呪力を込めて謁見の間の中央部に突き刺して一気に発動させた。途端に重力が失われフワッゥと我々は浮き上がった。皇帝以外の全員が。「勝った!!!」ギルヴェリアが歓喜の声を上げる。竜眼で全ての標的を補足すると対象を限定とし1200倍の重力を叩き込んだ。

ガガッゥグッゥゴキメキャメメメブシュゥゥーーッゥ・・全ての真紅の騎士は自らの重力に圧縮されてビー玉のようになりコンコンコン・・・と床に落下して行く。それを確認すると星屑の剣を抜き我々は正常な重力へと戻った。

「見事っぅ見事だっぅ!!!ここまでの強者は数百年ぶりに見たぞっぅ!!!!」皇帝が興奮したように玉座から立ち上がり叫ぶ。

「これで満足か?もう一度聞く、我々の仲間になって欲しい。」「・・・良いだろう、形式上汝らを英雄としてこの帝国に迎え入れようではないか。その働き如何によってはプライベートでの対等な立場も考えよう。」そう宣言すると手を一振りした。すると謁見の間の破壊の痕跡が瞬時に消え失せ何事も無かったかのように全て元通りとなる。

「・・・嘘!!」ギルヴェリアが青ざめた表情で叫んだ。「驚いた・・神の申し子とは本当かの。」ヴァルザックも驚嘆の声を上げる。

「この世界を旅してきて初めての俺より上の呪術士か・・。」こうして我々の旅は終わり帝国の英雄としての人生が始まった。



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