五章 出発
「んーで、我らが騎士様どれくらい歩けば帝国第一まで着くんだ??」城下町育ちのウィルからすればリシャーヴ王国の辺境など知る由も無い。
「そうねぇ・・・」私は地図を広げながら「ざっと37時間くらいかしら。」
「うへえ・・・5日掛かりかよ。到着した頃には犯人逃げてんじゃねえのか。」
「そうだとしたら追いかけるだけよ。必ず記録には残るわ。人の記憶にもね。」「ひっひっひ・・・ワシに任せなさい。記憶の読み取りならその道の達人じゃ。」ナッセルが自画自賛する。この聖職者の風上にも置けぬ爺さんは、下劣な精神性が持ち味だが今は頼りにするしかない。
「あっぅいっけねえ・・・爺さんが呪力切れなら煙草どーすんだよ!?火打石持ってきてねえぞ。」「安心しなさい、4時間後にはリョースコノーティアに着くわ。そこで購入するのね。」
「さっきの吸血鬼、本当に人畜無害なのか??」シンが突然話題を振って来た。「あら何よ犯罪を犯せば騎士団が追跡して抹消するだけよ。そんなに気になる?」
「8年前・・・王都で吸血鬼による連続殺人事件があった。奴は無関係だと言い切れるのか?」「8年前ってアンタが従者になる前でしょ、よく知っているわね。」「まぁな・・・お前さんはどうなんだ?」
「当時の私は従者になったばかりで・・・とにかく吸血鬼は捕まらず未解決事件になった事くらいしか記憶にないわ。足取りを追おうにも霧となって数千トーリアは移動できる連中だから現場を抑えるしかない・・・けど、4名の犠牲者を出した後は網を張っても空振りしちゃって・・・多分王都を去ったんでしょうね。」
「そんな大昔の話なんか今の俺らには関係ねーだろ・・・」ウィルが面倒くさそうに吐き捨てる。
「いや、当時の教訓を活かして今後の対応とすべきだろう。またやって来るかも知れない。」シンが反論した。「そうね、その時が来れば第12騎士団と協力して事に当たるわ。この人数で対処できる相手じゃないのは確かだから。」
「盗み聞きして何だけど・・・オイラが聞いた話だとガリアトスは30年以上、バン・ガリトゥーレに引き籠っててリシャーヴ支部に来たのは2年前らしいから無関係だよ。それにアイツは臆病でネズミ一匹殺せない小心者だから安心しておくれ。万が一何か間違いでも仕出かしたら冒険者ギルドの監査官が賞金首にするからオイラ達が競って退治しちゃうよ。」
「そうか・・・それなら良い。」ズクラッドの説明にシンが安堵の表情を見せる。
40分も歩くと城下町から外れてのどかな田園風景が広がっていた。
そのままリョース街道を道なりに進みトーリアストーンを目指す。1万トーリア毎に旅の目印となるトーリアストーンが設置されているのでリシャーヴ王国内ならば道に迷うことはまず無い。
「なあ、1カ月後には祭りだぜ?それまでには帰って来れるよな??」
ウィルが何気なしに聞いて来る。
「アンタって任務そっちのけで感謝祭の事で頭が一杯なのね。ま、ウィルらしいわ。」
「うるせえよおめえと違ってこっちは城下町育ちなんだ、祭りだけは譲れねえ。」
「去年の腕相撲大会で予選落ちしたお前が祭りに必死でさほど興味が無いエリューヴィンが決勝進出とはな。」シンが突っ込みを入れる。
「なんだよ、おめえだって16位止まりだったじゃねえか。そもそもリシャーヴョンの祭りにドワーフやドラコニアンが出張って来るのが可笑しいんだ。あんな連中に勝てるワケがねえ。」
「ほっほっほ・・祭りに血気盛んとは若いのう・・わしゃ静かに酒でも飲めてればそれで良いがの。」
それぞれが祭りについて語っていると「リシャーヴの感謝祭ってそんなに楽しいんだ??オイラも参加してみようかな。」ズクラッドが興味津々に聞いて来る。
「おうよ、普段の3倍の太さの感謝祭ウィンナーはパリッゥと噛んだら肉汁溢れててそらもう最高よ。たまんねえぜ??」よだれを垂らしながら「かぁぁーーーっぅ今すぐにでも喰いてえ・・」と説明にもならぬ独り言をウィルが言う。全く祭りと聞いてはしゃぐ子供みたいでみっともない。一体どんな脳味噌をしていたらこんな19歳になるのか覗いてみたいモノだ。
歩き出して約2時間、ようやく最初のトーリアストーンへ辿り着いた。街道は2つに分かれていて左手側にリョースコノーティア、右手側にミースリーの立て札が設置されてある。
「ここで15分小休止入るわよ。トイレするならそこの茂みの中で。」「おう。」「了解だ。」「やれやれじゃな。」各自水筒や保存食を取り出して水分摂取や軽食を始める。
「ウィル、シャベル借りるぞ。」「はいよ。」シンがトイレットペーパーとシャベルを片手に茂みの中へと入って行った。
「オイラも喉が渇いたなぁ・・・」ズクラッドが困った風にぼやくのを「大丈夫よ、私ので良ければどうぞ。」と水筒を手渡す。
「お姉さんありがとうっぅ!!!!」ゴクゴクと喉を鳴らしながら嬉しそうに飲む姿を眺めつつリョースコノーティアで一泊するか通り過ぎて野宿するか考えを寄せる。
「ウィル、ナッセル、足の方は??」
「問題ないぜ。俺は健脚だからよ。それにまだまだ旅は始まったばかりなんだろ??ここで悲鳴上げてちゃ話にもなんねえよ。」
「おぬし元気じゃのう・・・老体のワシは少し疲れたわい。まぁ鞭打って付いていくがの。」
「ウィル、健脚ってのは毎日8時間歩きっぱなしでも音を上げない奴が言うセリフだ。」茂みから出て来たシンが「ほらよシャベル」と返すと悠々と水筒を口に含み「俺は10代の頃から双極半島を旅してきた・・その経験から言わせて貰うと都市に定住している奴は6時間も歩くと足が悲鳴を上げる。10時間なんて無理だな。悪い事は言わん、次のリョースコノーティアで治癒術士に治してもらえ。」
「へえ、人生の先輩は言う事が違うねえ・・・有難く助言として受け取っておこう。で、旅してきた結果リシャーヴ王国に留まったのはよほど居心地でも良かったのか??」「俺にはこの地ですべき事がある。目的を果たしたらまた旅に出るさ。まぁ、この国は・・そうだな老後を過ごすには悪くないところだ。」
ウィルは少しの沈黙の後、「別に引き留めはしねえけどよ、おめえが居ないと我らが騎士様は寂しがると思うぜ。なぁ?」とこっちへ顔を向ける。
「・・・私にシンの意思を束縛する権利なんて無いわ。ただ・・残ったのがアンタとナッセルじゃ確かに困るわね。」「おい、なんだよそれ・・・」「心外じゃな。ウィルと一緒にせんで欲しいのう。」
「さあ、そろそろ15分経つわよ出発しましょう。」こうして我々は長い旅路を再開した。
リョース街道は南北に伸びていてリョースコノーティア、リョースロヴナなどの都市とつながり帝国第一国境への街道だ。往来者はまばらで旅人や商人がたまにすれ違う。比較的治安が良い主要道路で定期的に第12騎士団に属する者が警邏しているので盗賊に遭う心配も無い。もっとも盗賊如き私達の敵ではないが。
「お姉さん少し歩くの早いよ。」遅れがちなズクラッドが文句を言う。
「悪いわね、ちょっと頑張って付いて来ておチビちゃん。」本当はもう少し早歩きで行進したいのだが、いかんせんホビットの足並みに合わせなくてはならないので必然的に今のスピードが限界である。
まぁ、雨が降らないだけマシか・・・そう思いながら歩いていると「ピュゥゥーーイッゥ!!!」と鳴き声が聴こえて来た。見上げると遥か彼方上空をグリフィンが飛んでいる。
「あぁ、俺達もアレに乗れればなぁ・・・」ウィルが愚痴をこぼす。「きっと後悔すると思うぞ。」シンが答えた。
「何か緊急の連絡かのう・・・」ナッセルの疑問に「ハハッゥ、もしかして俺等が帝国に出国する通達だったりしてな。」ウィルが笑い飛ばす。
「案外そうかもね。さもなくばミャウゼン騎士団長の帰りの便かしら。あの爺さんせっかちだし。」「昨日の剣幕が凄かったあのミャウゼン騎士団長は我々の出国に文句を言わなかったのか?」シンが問うてきた。
「何も。ナターシャの鶴の一声で決まったから誰も文句言えないわよ。騎士団は王族への忠誠心を誓っている立場だから尚更ね。」「そうか・・ナターシャ副騎士団長は確か王族の血を引いていたな。」
「かぁぁーーっぅ、王侯貴族が騎士なんかやらなくても生活できるだろうに・・・何を好き好んで騎士団に在籍してるんだか。」ウィルが文句を言うが「彼等は私達の監督役なんだから仕方ないわよ。何処の馬の骨とも分からない者には務まらないわ。」と反論する。
「それに・・・まとめ役が居なかったら騎士団の派閥争いでとても協力なんて出来ないの。アンタがお給料を貰えているのも王族あってこそなんだけど??」
「まぁ、難しい話はウィルには分からんだろう。」「あぁっぅひでえなシン!!!ちょっと腕が立つからと言っておめえに俺を馬鹿にする権利があるのかよ!?」
憤慨するウィルを笑いながら手で制し、「お前はまだ若い、賢くなりたければ人生経験を積むことだな。」シンが年長者らしく振舞う。「ワシのようにのぉ・・」すかさずナッセルの爺さんが余計な一言を入れた。この似非神父がどの口で言うかと説教したくなるが実際のところナッセルが役に立つ場面もあるので事を荒立てるのはよしておこう。
しばらく歩いていると遠目に王国の紋章が入った皮鎧を着た集団が見えてきた。「第12騎士団の連中だわ。皆失礼が無いようにね。」「挨拶でもしておくか?」「尋問されなかったら素通りで構わない・・・けどそうはいかないでしょうね。」
大きな荷物を背負った5人組なんて職務質問されない方がどうかしている。思った通りに警邏兵が走ってこちらに駆け寄って来た。
「貴公ら、何者だ!何処へ行こうとしている?」私達を取り囲んで尋ねて来る。私を知らないとなると、どうやら騎士ではなく従者のようだ。
「私はユンフィニス・リア・エリューヴィン。第13騎士団の者よ。これ証明書。こちらは従者達。任務の為に帝国第一国境へ向かっているところと言えばよろしいかしら?」
「ほぉう、貴公があの・・・褐色の騎士か。任務ご苦労様です。」
「何だ、騎士か・・・」「任務の邪魔をして悪かった、どうぞお通り下さい。」口々にぼやきながら通り過ぎて行く。
そこへ遅れてズクラッドが「ようやく追い付いた・・・もうクタクタだよぉ。」と泣きそうになりながら到着するのを見て「ムッゥ、そこのホビットは!?関係者か??」突然詰問された。
「冒険者ギルドで任務に必要と判断して私が雇ったの。今は私達の仲間ね。怪しい者ではないわ。」「そうか・・良い旅を。」「ありがとう。貴方達こそ任務お疲れ様。では失礼するわ。」「じゃあな、元気でやっとくれよ。」ウィルが屈託のない挨拶を交わす。どうしてこうも誰にでもフレンドリーなのか。緊張感の欠片も無い。
「坊主、しんどそうだな・・・どうら、おぶってやる。」「えぇ!?良いの??」ズクラッドを背負って「これなら早く歩けるだろ?」ウィルがウィンクをした。
「おい、無理するなお前が先にへたばるぞ。」シンが注意をするが「なぁに、次のリョースコノーティアで足は回復させて貰えるんだ少々負担が増えてもどうってことねえだろ。」お気楽でどこ吹く風である。
「アンタが良いってんならそれで良いけど、一応途中でシンと私で交代するわ。ん・・じゃあペース上げて行くからね。」こうして私達は早歩きで次のトーリアストーンを目指した。
約2時間歩き通しで夕暮れが霞む中、リョースコノーティアの美しい街並みが見えて来た。王都から北へ2万トーリアに位置するこの人口5000人程度の都市は古代から交易や流通で栄えてきた歴史がありミースリーやミューンズドヴルメからの流入者も多い。王都の喧騒とした気風に馴染めずこの静かな都市へ移住してくる者も多いと聞く。トーリアストーンは広場にあるハズだ。
まずは宿を探すかとキョロキョロ見回していると「アンタら旅の途中かい??」とホームレス風の男性が声を掛けて来た。「えぇ、宿を探してるんだけど・・」「それなら20チャリンで案内しよう。」と提案してくる。なるほどこうやって生計を立てている者も居るものかと感心しつつ「はい20チャリンね、食堂を兼ねているところが良いわ。」と20チャリン手渡すと「へっへっへ・・上等な宿屋があるんだよ付いてきな。」とボロ布をまとった男が指でこっちこっち、と合図をしながら歩き出し彼を先頭に街中を進んで行く。
すぐに大きな宿屋の看板をかけた建物が見えて来た。「ほうら、ここだ。俺には縁がない場所だがディールがあるアンタらなら楽しめると思うぜ。」そう言うと男は去って行った。「泊まるのか?」シンが腕を組みながら聞いて来る。「どうしようか悩んでるトコロよ。可能ならあと3時間歩きたいんだけど、夜道で迷ったら逆に到着が遅れるし・・・。」
「俺は泊まる方に賛成だ。フカフカのベッドでぐっすり眠る、そんな幸せなディールの使い方を我らが騎士様は心得ているとばかり思ってたんだがなぁ。」そう言うウィルの願望に付き合ってやる必要性など微塵も無い。
「夜道が心配ならオイラに任せてくれよ、発声呪文が使えるから周囲をペケぺケに照らす明かりなら夕飯前だいっぅ!!」ズクラッドが両指をパチパチと弾かせながら嬉しい提案をしてくれた。「そう、なら決まりね・・」
「げげっぅ野宿かよ・・こらっぅお前余計な事言うな!」ウィルが軽くズクラッドの頭を叩く。「なんだいっぅ乱暴するとグッドファイフが黙っちゃいないぞっぅ」「今この場に居ない奴が何だって??」ズクラッドの頬をムニィーッゥと引っ張るウィルに「こらこら止めなさい、さあ入るわよ。」と仲裁しながら促した。
「いらっしゃい、お泊りかな?」カウンターで立っているオヤジさんが迎えてくれた。
「食事だけお願いしたいんだけど。あと治癒術士居るかしら?」「大丈夫ですよ、ウチは豪華スタッフ勢揃いで旅人の皆様に有意義なサービスを提供しております。」「へえ、評判通りの質の良い宿屋で助かったわ。さあ皆座りましょ。」部屋の奥にある長テーブルに着くとメニュー表を開いて「全員好きなの頼んで良いわよ。おかわりも自由。しっかりと栄養を摂っておきなさい。」気前よく言い放つ。
「えらく豪勢だな。ナターシャ副騎士団長に乾杯するか。」
静かにメニュー表を開くシンに「何だそりゃ?おっほぉう、ビーフシチューあるじゃねえか俺の大好物だ!!!」よく理解していないウィルが嬉しい悲鳴を上げる。
「肉が好物とは若いのう・・・わしゃ焼き魚定食かの。」ナッセルがしみじみと・・ため息を付きながらページを閉じた。
「おごりで悪いね、オイラの大好きなグラタン頼んじゃうよ。」ズクラッドが満足気な笑顔で「おじさんグラタン二つ!!!」と指を上げて弾く。「ビーフシチューとパンもだ!!!」続けてウィルが声を張り上げる。「俺は・・そうだな、ミネストローネとトルテリーニを。あとワインだ。」
「シン、お酒飲むの??」「悪いか?」「まぁ・・酔わなければ問題ないわ。私はモッツァレッラチーズとラザニアを!!!」「あとブリの照り焼き定食じゃな。」各々好きな料理を頼むと適当にくつろぎ始める。
「いい?1時間半、食事休憩するからね。トイレはここで済ましておくように!!オヤジさん、料理の後で良いんだけど全員分の水筒に水をよろしく頼むわ。」
「よろしゅうございます、料理が出来上がるまで治癒術士がお相手致しますので・・・ジーリ!!!出番だぞお客様の足を癒してあげてくれ。」そうオヤジさんが怒鳴ると紺色のローブを纏ったフェルマーがカウンターの奥から姿を現した。
「驚いた、フェルマーが雇われてるなんて変わった宿屋ね・・・」思わず声に出すと「ニハッゥ、よく言われますニ。癒し手としての腕の方ナバ一流なので安心して下さナマーオ。」とそそくさと「では御足の方を拝見ナマ。」生足をジロジロと見て「フーム・・・ハッゥ!!」発声呪文で代謝を加速させる。「うおぉぉ足の疲れがみるみる引いていく!!!くうぅぅーーーっぅ痺れるぜ!!!」ウィルが大袈裟にはしゃぐまるで馬鹿みたいだ。元からか。
私は同時に自分の足も回復している事に気が付くと驚きの声を上げた。「貴方、ダブル!?」「いやトリプルじゃなワシの足もやってくれおる。」ナッセルが予想を遥かに上回る一言を漏らす。「いや・・・俺の足もだ・・・クアッドか。」シンの指摘で私達は戦慄した。
「クアッドの術士なんて初めて見たわ・・王国騎士団にも存在しないと思う・・」「ダブルで逸材、トリプルで天才、クアッドは神に恵まれた選ばれし者・・・とは言うがこんなトコロで出会うとは人生何が有るか分からんモノだな・・・」シンが両手を組んで唸る。
「よく分かんねえけど発声呪文だったら声の届く範囲しか効果ないから結局こういう宿屋に雇われてるんだろ??」ウィルが呪文どころか巻物すら使えない癖に難癖を付けるのが実に滑稽で「アンタの常識は私達の非常識ね・・・」と呆れ顔で言い捨てる。
「ワシは接触呪文のダブルじゃが・・・発声呪文のクアッドは珍しいのう。おぬし竜眼は使えるのか??」ナッセルの問いに「ニャオ・・・とんでもないクアッドで竜眼が使えたニバ帝国で英雄になれるマオ。」とすまし顔で顔を左右に振る。
「あれ・・・君、何処かで見たことあるような・・・」ズクラッドがひょんと声を上げた。
「ニャムム・・そちらのホビットは!?」「冒険者ギルドで雇ったの。何か??」
するとフェルマーはフードを深く被り「・・・な、何でもないナマ。冒険者はチト苦手ニマ。」そう言うとズクラッドの足を癒し始めた。「お客様そいつはチト気難しいんだ、勘弁してやってくだせえ。」オヤジさんがフライパンを片手に頭を下げる。「謝らなくても良いわ。癒し手として仕事をしてくれたらそれで十分よ・・・ねえ??」「そりゃそーだ、別に身の上話をしに来たんじゃねえしな。」「あぁ、同感だ。下手な詮索はしない。」「ほっほっほ・・・冒険者でも十分通用するぞい、その能力ならば。」「ん~~・・・まぁいっか。」
それぞれ適当に話を合わせて用事が済んだフェルマーは「では失礼するマオ。」とカウンターの奥へと引っ込んで行った。少しして料理が大量にテーブルの上に置かれ始める。
「んほっぅこの香りたまんねえ・・・お先に頂くぜ!」ウィルがビーフシチューにがっつくのを見て「テーブルマナーは最悪だけど今日のところは仕方ないわね。」私も運ばれてきたラザニアの匂いを堪能しつつナイフとフォークに手を伸ばした。
ほどなくして全員が銘々食事を楽しみ始め空腹を満たすのに躍起となる。「おかわり自由だなんて最高だなぁ我らが騎士様はたまに太っ腹だよな。」「たまにって何よそれ。」「フフ・・ここまで大判振る舞いするってことはだな、ウィル。これから先はしばらくマトモな食事にありつけないって事だと理解した方が良いぞ。」
シンがミネストローネを口にしつつ嗜める。
「ならここでたらふく食べておかねえとな。爺さん焼き魚で足りるのかよ!?」「ワシはもう若くないからのう・・・胃が受け付けんわい。」「兄ちゃんオイラのグラタン一口あげるからそのトルテリーニ少し分けてよ。」「ああ・・・良いぞ、ほら。」自然と会話が弾む。
こうしてみんなで食事を楽しむのも悪くない・・そう思いながらヨハン殺害の容疑者とこれからミューンズドヴルメに出国した後の動向を案じて思いに耽る。果たしてランツィは私達を歓迎してくれるだろうか?過去がどうであれ今は敵対国同士。協力を拒まれたら捜査が難航するのは目に見えている。
容疑者がナルルカティア語を話せない事を祈るしかない。ならば一応はミューンズドヴルメに留まっている可能性が高いのだから・・第16騎士団に協力要請をするかどうかも視野に入れるべきか・・などと考えていると、ウィルがモッツァレッラチーズをヒョイパクと掻っ攫って行った。
「ちょっと、それ私のよ!」「硬い事言うなよおかわり自由だろ??ボーッとして食べないおめえが悪いんだよ・・・クッチャクッチャ。」私は黙ってウィルのパンを少し千切ると口に入れた。「あぁ!!!オレのパン食べやがったな!!!」
「おあいこでしょ。」「ハハッゥ、まるで最後の晩餐の争奪戦だな。」
シンがワインをクイッゥとやりながら笑いだす。
「グラタンもう一つ頼んでもいいかなぁ??」ズクラッドが上目遣いをして物欲しそうにねだるのを横目に「あらおチビちゃんよく食べるのね、いいわよいくらでも頼んで頂戴。」私も追加注文するかどうか思案する。
「おじさんグラタンおかわり!!!」「俺のビーフシチューも!!!」「ワインをもう一杯頼もうか。」銘々が好き放題に注文するのを眺めながら支度金とナターシャからの餞別にしみじみと有難みを感じてしまう。
「私は・・そうね、コノーティアピッツァを2枚よろしく出来るかしら?」「おいおい2枚も喰うのかよ!?」ウィルの突拍子も無い声に「ピッツァならシェアできるでしょ!それにどうせなら郷土料理を楽しまなくっちゃ。」盗られる前提の注文ということを強調する。
「あぁ、郷土料理は旅の楽しみの一つだ。お前さんとなら良い旅が出来そうだな。」シンの静かな共感に何処となく安心感を覚えた。この男と旅をする人生というのも悪くないかも知れない。時間を忘れて会話をしながら貪り食い1時間は経過しただろうか・・・たらふく食べた我々はそのまま休憩に入った。
「ふぅぅ~~久々に豪華な晩飯だったぜ。我らが騎士様に付いて来てこんな役得があるとは従者という仕事も捨てたもんじゃねえな。」「アンタさ、ビーフシチュー3杯にパン4つも食べて動けなくなっても知らないわよ。」
「俺の私見だが・・・リシャーヴョンは享楽に溺れる癖がある・・国民性とも言うべきか。」確かに普段からシンは節制を保っている。従者になって6年間、羽目を外す姿を一度も見た事が無い。「ズクラニアの出身者は落ち着きがあるって評判なのかしら??」
「いや・・俺は流浪の民リーヴェの末裔だ。ズクラニアが出生地ではあるが縁もゆかりも無い。ただ・・どういうワケか両親は双極半島が気に入ったみたいで幼い頃より貧困と犯罪に塗れながら各地を転々として過ごした。育つにつれてそのような生活に自然と嫌気が差したから、10代で親の元を離れたが・・・旅をする習性はしっかりと受け継いでしまったな。」
「ハハッゥ、生まれも育ちも悪いとこういうニヒルな皮肉屋の出来上がりって話かよ。」「ちょっと!!ウィル、全然笑えないんだけど??」
「悪い悪い、だけどよぉ・・他人の苦労話を聞いてりゃ、折角の食後のひとときが辛気臭くなるってモンだ。文句の一つも言いたくなるぜ??なあ坊主。」ウィルはそう言いながらズクラッドの頭をポンポン叩く。
「オイラもズクラニア出身だよ。だからズクラッド。ホビットはあそこでは珍しい存在だったから奇異の目で見られる事もあったけど幸せだったな。」「へえ、おチビちゃん帝国生まれじゃないのね。意外だわ。」「もちろん帝国の方がホビットにとっては生き易いのさ。同胞も多いし冒険者ギルドで職にもあり付ける。だから、大人になったら真っ先にナルルカティアに行って冒険者として登録して貰ったんだ。でも・・・」「でも??」
「帝国本国は競争が激しいから剣も弓も扱えず、土地勘も無くシングルの発声呪文しか能が無いオイラには同胞の支えがあっても生活に必要な十分な仕事が舞い込んで来なくて・・・だからミューンズドヴルメに転籍して地域に特化した活動で根を張る事にしたんだ。」「それって冒険者に拘らなければ呪術士なら引く手あまただろ・・・さっきのフェルマーみてえに。」ウィルがさも他人事といった様子で鼻をほじりながら適当に流す。
「まぁ、ナルルカティアは物価も高い。下働きでは苦労が絶えないだろう。都落ちとはいえ己の力量と相談の末ならば英断だったかも知れんな。」帝国事情に詳しいシンが察するように語る。
「ほっほっほ・・ワシは帝国でどの程度通用するかのう??」ナッセルが突然腕試しをするかのように問うた。「爺ちゃんはナルルカティア語が話せないから論外だね。」「・・手厳しいのう小僧。」
「で、上手くいったの?ミューンズドヴルメでは。」途端にズクラッドの顔が明るくなる。「もちろんさ。最初の2年は鳴かず飛ばずだったけど徹底的に観光名所と地理を勉強してたら紛争勃発で属州とはいえ帝国領になっちゃったんだから・・・世の中分からないモンだね。帝国からの旅行人や行商人がドッと押し寄せて来て、オイラへの依頼は途切れる事が無いくらいだったよ。」
「ほーん、やったじゃねえか・・で、何でそんな恵まれた環境を捨ててリシャーヴ王国へ来たんだ??何かドジって失敗でもしたのかよ。」ウィルのズケズケとした質問にいつもながら無礼な男だと思いながらもその辺は私も知りたかったので黙認する。すると意外な返答が帰って来た。
「そりゃあ決まってるさ。次はこのリシャーヴが帝国領になる順番だからね。先手を打って勉強しておくのが賢い選択だと・・モゴモゴ・・何すんだい!!!!」「黙れ坊主!!!よりにもよってリシャーヴが帝国領になるって例え冗談でも許さねえっぅ!!!!」ウィルがそう吐き捨てながらズクラッドの口を封じて首を締め上げる。
「ちょっとちょっと・・冷静になってウィル。冒険者ギルドの一員が何を考えてようと別に良いじゃない。おチビちゃんはそうなるって勝手に思い込んでるだけよ。」「そうならないように俺達が居るんだろ!?違うか?つまりコイツは俺達の存在を鼻糞未満としか思ってねえ!!!」
「一度火が付くと熱を帯びたように感情を爆発させるのもリシャーヴョンの特徴だな。」シンがもっともらしい事を言うがどうせならウィルを止めて欲しい。
「ごふぷっぅ・・兄ちゃんオイラが悪かったよだから勘弁して!!!!」私は重要な道先案内人の身を案じて慌ててウィルを引き剥がした。「アンタの愛国心は分かるけどやり過ぎだって・・ほら、ちゃんと謝ってるじゃない。」
「ケッゥ・・・分かりゃ良いんだよ・・良いか坊主、リシャーヴョンは決して帝国には屈さない。何があってもだ。」いつになく一丁前の口を利くウィルに
「その心意気を仕事の方に向けてくれると助かる。」シンが突っ込みを入れる。「何だよシン、風来坊のおめえには俺の気持ちは分からねえよ。いざ帝国と戦争になったら俺は死ぬ覚悟は出来ている。おめえはどうなんだ??」
「そう熱くなるな・・俺は与えられた任務を遂行するだけだ。その末にリシャーヴ王国がどうなろうと知った事ではない。」
「ハッゥ、お高くとまりやがって・・・爺さんは??もちろん俺の気持ち分かってくれるよな?」
「わしゃベッドの上で死にたいのう・・・だが帝国が侵攻して来たらウィルよ帝国兵の屍をベッドにして大往生と洒落込む気概はあるぞい。」「流石爺さん、それでこそ生粋のリシャーヴョンだぜ。」そう言いながらガッシリ握手を交わす。
「ゲホッゥ・・ゲホッゥ・・でもお姉さんは肌の色からしてリシャーヴョンじゃないよね??」ズクラッドの問いに「そう、でも私だってその時が来れば全力で王国を守るわ。戦禍の渦の中で死んだとしても後悔はしない・・・騎士に任命されたからにはそう誓いを立てるのが確約されているの。もちろん、勝利して生き残るのがベストだけど、ちょっと難しいかしらね。」
「オイラには分からないよ。負けるのが分かってるなら逃げるか降伏すれば良いのに。」
「冒険者風情には分かんねーよ、生まれ故郷を想う心ってのは。」ウィルが調子に乗ってきたところでチラリと時計を確認してみる・・そろそろ潮時か。
「オヤジさん、雑貨屋は何処にあるか分かる?」「へえ、通りの向かいの黄色い看板がそうでさあ。」
「ウィル、火打石が要るからこれで買っておいて。」3ディールを手渡して「釣りは好きにしてくれて構わないわ。」と暗にリシャーヴ王国の行く末を憂いるその姿勢に賛同の意として労いの手心を加えた。本音は私だって同じだ。誰が帝国の犬に成り下がるモノか。
「良い?皆20分後に出発するわよ。トイレは今のウチに済ませておきなさい。オヤジさん、勘定頼むわ。」「へい、7ディール54チャリンとなります。」「また別の機会にでもリョースコノーティアに寄ったら泊まらせて貰うかも知れないからその時はよろしく。」「へへっぅご贔屓にどうも。」
20分後、我々は外に出るとすっかり日が暮れて夕闇となっていた。街灯の明かりだけが微かに街中を照らしている。
「さあ今から3時間歩きましょう。次のトーリアストーンを目指すわよ。」
「腹ごなしには丁度良い距離だな。」シンの余裕感たっぷりの発言にウィルも腕を振り回して「おうよっぅ豪華な食事で精を付けたからにゃしっかりと動かないと!!!」元気はつらつに応じる。
「夜道を歩くならオイラの発声呪文に任せておくれよ。」
「頼りにしてるわよおチビちゃん。」
「ワシの呪力が回復したら交代で明かりを灯せるんじゃがのぉ・・」「爺さんは明日以降頼むわ。今日は本当につまらない事で呪力消耗したのよね・・」やれやれと手を振ってみせると「ホホッゥ、言ってくれるの・・第13騎士団唯一の呪術士は苦労が耐えんわい。特別手当が欲しいくらいじゃ。」ナッセルは何処吹く風である。つくづくこの似非神父は良い性格をしている。見習いたいぐらいだ。
街の広場に辿り着くとトーリアストーンを確認した。南南西への方角に矢印が、それとは別に北北東への方角に矢印が示されている。
「次のトーリアストーンはこちらの方角ね。」
「よっしゃ我らが騎士様の期待に応えてみせようぜ!!!坊主、今度は自力で歩けるか?」「兄ちゃん、あんまりオイラを舐めないでくれないかな。」「ハハハッゥそうブー垂れるなよ。ま、その返事なら心配の必要は無さそうだな。」
「騎士団としての夜間行軍はこれが初か??良い経験になる。」シンも前向きだ。正直今回の遠征は不安があったが従者達の結束は高まっている・・今のところ。。悪くない兆候だ。
「これウィル、こんなホビットの前にこの老体の身を心配せんか。一体誰の教育でこうなったのかのう・・・」とチラとこちらを見るが良い迷惑である。
「悪い悪い爺さん、だが俺等は騎士団のメンバー。言葉に出さなくとも互いに気は知れている・・でもコイツは部外者だろ?」とポンポンズクラッドの頭を叩く。「言葉で確認しなきゃどうだか分からねえからな。」
「ほほう、そうきたか。もちろんワシもおぬしの考えてる事は分かるぞ煙草を吸いたいんじゃろ??」
「爺さんも、だろ?食後の一服が至福のひとときだよな。帝国に行けば紙巻き煙草安く買えねえかな??」「ほらほら無駄口叩く前に歩く!!!さっさと行くわよ。」こうして私達はリョースコノーティアから次のトーリアストーンを目指して歩みを進めた。
郊外へ出るとズクラッドが「そろそろ良いかな??」と問うてくる。「えぇ、頼むわ。」「じゃあ遠慮なく・・・ドワーフの大工がトンテンカン、えっちらおっちらトンテンカン、木材担いでトンテンカン・・」後方上空に発光する球体が出現し、ズクラッドの声に合わせて明滅する。一気に辺りが明るくなった。
「額に汗流してトンテンカン、えっちらおっちらトンテンカン、犬が横目に通ってトンテンカン・・・」「うへえ、これ3時間も聴くのかよ・・・」げんなりとした顔のウィルに「分かってると思うけど、おチビちゃんが一番辛いんだからね。」と諭す。
「随分変わった呪文だな。冒険者は我流が多いからこうなるのか?」シンの自問自答を勝手に受けたナッセルが頷きながら「発声呪文は集団で運用する場合には教育を受けるのじゃがそれも連邦か帝国くらいじゃろうて。ワシ等リシャーヴ王国とて騎士団毎に違うからのぉ・・・統一はされておらんわ。」すかさず解説を入れて来る。流石は呪術士といったところか。
「そよ風が吹いたと思ったらトンテンカン、あっという間に突風でバラバラになっちゃったトンテンカン、それでもめげずにドワーフの大工はトンテンカン・・・」我々は奇妙なズクラッドの呪文を聴きながらひたすら歩いた。やはりこのホビットを雇ったのは正解だったようだ・・・存外に役に立つ。途中途中でコンパスに目を通し方角を確認しつつリョース街道を北上していく。「悪魔がやってきたトンテンカン、一日で建ててやろうとトンテンカン、ドワーフの大工は無視してトンテンカン・・・」
「こりゃ・・のど飴買ってやれば良かったかな・・・ちと可哀想じゃないか。」
1時間も歩くとウィルが心配そうな声を上げる。「あらウィル優しいじゃない・・大丈夫よ無理させるのも今夜だけだから。」「そうじゃそうじゃ明日からはワシの出番じゃからのう・・・」
「俺が独り旅をしていた時は松明を使っていたモノだが・・流石に松明では照明の度合いが違い過ぎて呪文の代わりにならんな。」まるでウィルの心配を他所に語る仲間に「んん・・分かってはいたがおまえら薄情だよな・・」と呟く。その心情は理解できるが任務の都合上捨て置けない。
「アンタが情に流されやすいだけでしょ。彼には5ラディールもの銀貨を支払うんだからこれくらい働いてもらうわ。」冷たく言い放った。「へいへい、我らが騎士様がそう仰るならもう何も言わねえよ。」ウィルはへそを曲げたかのように吐き捨てる。
ったく・・・青臭いんだから・・・そう思いながらも後2時間ズクラッドの声帯が持つのか私も心配になってきた。予定を早めて次のトーリアストーンで野宿をするべきか・・・ウィルの言う通り3時間歌い続けさせるのは酷だ。
「腹いせに悪魔が屋根を吹き飛ばしてトンテンカン、次は天使がやってきたトンテンカン、ラッパを吹いて直してあげようトンテンカン・・」そんな思いを知らずにズクラッドは能天気に歌い続ける。周囲50トーリアは照らすその呪力は見事なものでおかげで道に迷うことなく日中と同じ進捗で歩き続けられるのは幸いと言えよう。従者にスカウトしたいくらいだが残念なことにリシャーヴ王国は滞在歴4年以上の人間しか騎士団に加入出来ない決まりがある。中でも騎士になれるのは生粋のリシャーヴョンだけだ。私は例外中の例外でロンシャイアとランツィとナターシャの推薦と王の勅命により騎士に抜擢されたが何故私だけが特別なのかは未だによく分からない。呪術も使えない、多少リシャーヴョンより頑健なだけが取り柄の出生地不明な私の何処が評価に値するというのか。
おかげで苦労が絶えないがこれも運命か・・・
「ドワーフの大工は無視してトンテンカン、怒った天使がラッパを吹き鳴らしバラバラになったトンテンカン、ドワーフの大工は泣きながらトンテンカン・・・」
そして1時間後、ようやく次のトーリアストーンへ辿り着いた。
「予定変更、今日はここで野宿するわ。」「おぉ!?やったぜ煙草吸えるな。」「ほっほっほ・・ようやく休めるのう。」
「どうした?あと1時間歩くんじゃ無かったか??」シンの問いに「ん、無理せず休息を取るべきかなってね・・」曖昧に濁す。
「シン、ウィル、焚火するから焚き木を集めて来てくれる??」「おう。」「了解だ。」
「ドワーフの大工はあと少しでトンテンカン、家が完成したら報酬を貰えるトンテンカン・・もう少しで明かりを消すよお姉さん。」「頑張ったわね、おチビちゃん」
焚き木が集まると火打石を使って火を付けてその周りで我々は就寝前の団欒に入った。ズクラッドがハーモニカを取り出して美しい音色を響かせる。ウィルとナッセルは我慢していた煙草を吸って何やらボソボソと言い合っている。シンは黙って腕を組みハーモニカの音色に身を任せていた。私は時折焚き木を放り込みながら小説を取り出して読み始める。「シン、3時まで私起きてるから3時から見張り頼むわ。」「あぁ、任せてくれ。俺の方は問題ないがお前さんは支障が出ないか??」「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。」そう会話を打ち切ると私の心は小説に夢中となった。