三十九章 殺戮と虐殺の宴
「報告!!領内に侵入したアナンケシュタイン帝国軍は平野部のタタールニア方面から迫りつつあり!!!数は1万を優に超えております!!!」
「他の斥候は??」馬上のジェシュリーの返事に「全滅です!!!!敵軍は騎兵が多く徒歩の我々は補足されると逃げる間も無く討ち取られます。」
「そうか・・よくやった、後方で休んでおけ。」7000の貧相な兵を率いて進軍中の彼女はペロリと舌で唇を舐めて「ふふ・・どう料理してやろうか・・」美しく可愛らしい顔を邪悪な笑みへと変貌させる。
「姫君、コッチには騎兵なんて上等な代物ありやせんぜ・・勝算はあるので??」隣のラクワイアが不安気に訊いて来た。
「無論だ・・平野で騎兵という王道スタイルが私に通用するなどと思ってる奴等の慢心を徹底的に挫いてやる。タタールニア平原の手前で待ち構えるぞ。お前は私の護衛に徹してればそれで良い。」
「シィィーーハァァーーッゥ!!ジェシュリーは必ずや勝利するのだっぅ!!!」
ラクワイアはヒューッゥ♪と口笛を吹いて「分かりやした、万が一にも負け戦になったら姫君抱えて逃げ出しますよ。敵にも呪術士は居るって事をお忘れなく・・」無責任にも軽い言葉を言い放つ。
「フン・・そこらの凡百の呪術士が私に敵うとでも思うか??一兵足りとて逃がさん、皆殺しにしてやる。」彼女はその美貌からは窺い知れない残虐な物言いをして再度唇を舐めた。
2時間30分後・・タタールニア平原で布陣したジェシュリー軍は臨戦態勢でアナンケシュタイン軍を待ち構えていた。とは言え形ばかりの野戦方陣を組ませただけであり実際に敵の騎兵を防げるような代物ではないのは明らかであった。脱走兵も相次いだがそれに構っている暇など無い。
ジェシュリーは天空を睨み続け、美しいエメラルドグリーンの眼を竜眼でキラッゥキラッゥと時折輝かせている。
「何してんですかい??姫君・・」
「話しかけるな、気が散る!!!この呪術は一歩間違えれば我々が死ぬ・・・調整が難しいのだ。」彼女は神経質そうに眉間に皺を寄せて瞬きをしながら竜眼を繰り返す。
「アナンケシュタイン軍が接近!!!距離4000トーリア!!!」兵士の報告にキッゥと地平線に目をやると本軍とも呼ぶべき軍勢が押し寄せて来ていた。
「チィッゥ・・間に合わん・・他の呪術を使うか・・」そう残念そうに吐き捨てる彼女に「兵士を盾にして時間稼ぎでもしますかい??」ラクワイアが妙案を提言するも「馬鹿を言うな、真正面から激突したら30分も持たん。私を敗軍の将にするつもりか!?」彼女は苛ついたように返事をすると馬上に飛び乗る。
「敵部隊そのまま進軍して来ます!!兵の数1万4千程度と・・大軍です!!!」
「ん・・大軍なのは結構だが逃げられると厄介だな・・追撃が出来ん。」
ジェシュリーは少し困った顔をしながらも呪術印字を紡ぎ始めた。
その時、「ん・・!?3騎だけで・・」
「白旗を確認!!使者が来ます!!!」
白旗を掲げた使者が馬を駆けてやって来るのを見て「姫君どうやら相手は話が通じる連中らしい・・チャンスですぜ。」ラクワイアは悠長に構えて呟く。
「交渉事か、くだらん・・」彼女は片手で長い黒髪を跳ね上げると「まぁ話くらいは聞いてやろう。」冷徹な視線を向ける。使者が唯一馬上のジェシュリーを指揮官と判断して目の前まで駆けて来た。
「我々はアナンケシュタイン帝国軍だ、貴軍に勝ち目は無い・・降伏勧告をする。」途端にジェシュリーは目を爛々と輝かせて言った。「そうか・・そうだな、1時間待ってくれ。降伏を受け入れるか協議する。」
「我々も無用な犠牲者は出したくない・・良い返事を期待する。では!!!」
そう応えると使者は去って行った。
「ラクワイア、我々の勝ちだ・・とびっきりのショーを見せてやろう。」そう言うと彼女は再び天空を睨み続け始め・・竜眼を煌めかせながらニヤッゥと不敵な笑みを浮かべる。
「そりゃようござんす・・」ラクワイアには分かっていた。彼女がこの表情を見せるのは勝利を確信した時の癖だ。しかも残酷で惨たらしい虐殺が約束された時の。
しばらくして・・敵の大軍と対峙する兵士達に動揺が広がっていくのが微かな囁き声で伝わって来た。
「姫君、マズイ・・兵が動揺している。陣形が乱れたら・・」
「放っておけ。1時間律儀に待つつもりか・・クククッゥ、馬鹿が視る豚のケツを拝ませてやろう、あの世でな。」
ゴゴゴゴ・・遠雷のような音が鳴り響き異変に気が付いた敵味方の兵士が騒めいて混乱に陥る最中にジェシュリーは興奮気味に語り出した。
「くっくっく・・来たぞ来たぞっぅ・・大いなるエパティマよ、その力を我が面前に現わすが良いっぅ!!!!」
キュヴァッゥ・・キィィイイーーーンッゥ・・耳をつんざく高音と共にビリビリと大地が鳴動し、辺り一面が太陽光よりも明るくなり、上空から強い閃光に包まれた真っ赤な流星が煙の尾を曳きながら流れたかと思ったその瞬間、ドッグォゥォォオオーーーンッゥ!!!!地面が揺れ跳ねて目も眩む閃光と共に灼熱の巨大な火球が加速度的に膨張して行き・・物凄い衝撃波にジェシュリー軍の兵士達が一斉に薙ぎ倒される。爆心地から凄まじく熱い爆風が駆け抜けて行く。巻き上がった土砂が、視界を遮った。
「くっぅ・・鼓膜が破れるかと思いましたぜ・・やり過ぎだ、姫君・・」
ラクワイアの悲鳴に似た声に「連中は鼓膜どころでは無いだろう・・くっくっ・・アァァーーハッハッハ!!!ザマア見ろっぅ!!!」物理障壁を張って禁呪の絶大な効果にジェシュリーは狂喜乱舞して高笑いをする。
「どうだ思い知ったか!!これが私の力だっぅ!!!何が降伏勧告か・・笑わせてくれる!!!」
「シィィーーハァァーーッゥ!!!ジェシュリーの呪術は完璧なのだっぅ!!!」
濛々と土砂が立ち込めて薄暗い中、アナンケシュタイン軍は完全に消滅していた。少なくとも立っている人間は存在しない。
「全軍、進め!!!生き残りが居たらトドメを刺すのを忘れるな!!!」
シュウシュウと煙が立ち上る爆心地には大地を抉った大きなクレーターが出現しており黒焦げになった人馬の死体が数百トーリアに渡って幾重にも折り重なり散乱している。それは正しく地獄のような風景だった。
絶大なエパティニアム・スターダストだったが、それでもまだ・・かろうじて息がある者は存在していた。それらを兵士達が首元を槍や剣で刺し殺して行く・・・
「うへ・・世が世なら250年前のファルギルダイテの決戦で名を残してたな姫君は・・・まるで象に踏まれた蟻も同然だ。」ラクワイアは半ば呆れたように感心の言葉を口にしつつ背筋を震わせる。そう、彼女が弱冠19歳で魔将軍に抜擢された理由がまざまざと証明されていた。
こうして凄惨な殺戮劇の後、彼女の軍はアナンケシュタイン帝国に逆侵攻を開始した。
「10代から40代の男女は連行しろっぅ奴隷として我が領内へ送れ!!!」
国境に近い集落で数時間前まで平和な生活を送っていた人々は恐怖の底に叩き落されていた。手を後ろに縄を結ばれた数十名の民間人が列をなして俯いており泣いている者も居る。突如のジェシュリー軍の襲撃に、成す術も無く蹂躙され集落は壊滅状態に陥った。
「食料を全て収奪しろ、病人と老人は殺せっぅ子供もだ!!!!金品は各自好きに奪え!!!!」ジェシュリーが非情な指示を矢継ぎ早に飛ばす。辺りには守備兵や抵抗した者の死体が疎らに転がっていた。
「すげえ、ベーコンだっぅ!!!」「チーズにキノコに豆もあるっぅ!!!」
兵士達は目の色を変えて我先に食料へと群がる。まるで餓鬼さながらの様子だ。
穀物庫からライ麦の袋詰めが次々に運ばれてきて手押し車に積み込まれて行く。
ワインの樽も続いて運ばれ・・飢餓に苦しむ兵士達の士気は大いに高まった。
10歳未満の少年少女達が兵士達に先導されてぞろぞろ行進をしているのを見て「何をしている!?」
「ハッゥ、家屋に詰め込んで火を付けようかと・・」
ジェシュリーはフンと鼻を鳴らすと「勿体ない、弓兵の訓練に充てろ。50トーリアの距離から頭に当てた者には食事を増やしてやる。」
「シィィーーハァァーーッゥ!!!ジェシュリーは無駄は嫌いなのだっぅ!!!」
「姫君、もう我慢できねえ・・子供1人貰っても良いですかい?」隣のラクワイアがヨダレを垂らしながら血走った目で訊いて来る。
「好きにしろ・・近場の雑木林で済ませておけ。」
すぐにラクワイアは少女の腕を掴んで無理矢理連れて行った。
「フン、卑しい奴め・・」
「ジェシュリー様!!守備隊長を拷問にかけているのですが口を割りません!!」兵士が報告してくる。
「何!?・・そうか、私がやる。子供を3人、いや4人連れて来い。」
兵士と子供達を率いて教会へと向かう。・・教会内部には柱に守備隊長らしき人物が縛り付けられて呻いていた。腕や足には数本の釘が刺さっている。
「ご機嫌よう・・気分は如何かな??これは酷い、癒してやろう。」ジュッゥ・・ザシュッゥ・・彼女は無造作に釘を抜いて行く。
「ぐっぅ・・がっぅ・・」彼は痛みに悶えるもシュウシュウシュウ・・ジェシュリーの接触呪文で代謝機能が促進され皮膚は正常に戻った。
「これまでの兵の無礼は詫びよう・・私には情報が必要だ・・アナンケシュタイン軍の配置をどうにか思い出してくれないか??」
守備隊長はペッゥと唾を吐くと「くたばれ・・死んでも言うものか。」侮蔑の表情で応える。
ジェシュリーは頬に付いた唾液をゆっくり擦り取りながら「・・・何が欲しい??金貨か?地位か?自由か?何でも好きなだけ私が用意してやろう。」優しく問いかけた。
「欲しいのは・・貴様の死だ。」彼女は溜息を付くと「そうか、ならば否が応でも思い出させてやるしかないな・・子供達を横一列に並ばせろ。」
子供の頭をポンポン叩き「さあて・・今から何が起きるか、よぉく脳裏に刻んでから記憶を取り戻して欲しい・・」
途端にジャガイモを切るかのように剣でザクザクと子供の首を斬り裂いて行き・・ブシュッゥ・・ゴロン・・頭が床に転がる。残りの子供達が一斉に泣き始めた。
「やめろっぅやめてくれっぅ・・」
「アハハッゥほうら、どうした??これでもまだ思い出せぬか!?」2人目の首も無造作にザクザク斬り落とした瞬間、「言う!!言うからやめてくれっぅ!!!」ピタッゥと3人目の首筋に合わせた彼女の手が止まる。
「ここから2万トーリア西の都市ラミリダに9000の軍が到着している・・出陣しているかどうかは知らん。俺が知っているのはそれだけだ。」
「そうか、よく思い出してくれた・・礼を言う。」言うや否や、ズゥバァッゥ・・残りの2人の子供の首を横一線に同時に刎ねた。ドサッゥ・・ゴロン。
「畜生っぅ!!!この悪魔めっぅ!!!!」ズドッゥ!!!叫ぶ守備隊長の心臓を真っ直ぐ貫くと「それは・・私にとって褒め言葉だ。」そう言いペロッゥと返り血を舐める彼女は満悦な笑みを浮かべていた。
「シィィーーハァァーーッゥ!!!ジェシュリーは立派な悪魔なのだっぅ!!!」
外へ出るとラクワイアが上機嫌で近寄って来て「美味しく頂きましたぜ。」
血が付いた歯でニカッゥと笑う。
「ラクワイア、風呂を用意しろ・・汚い血が付いた。」
「ほいさっさ、少々お待ちを姫君!」
彼女は如何なる時においても専用のバスタブを運ばせて風呂に入るのが日課だ。極めて綺麗好きな習性がある。もちろん専用のコックを連れて美味も楽しむが生憎と大好きなステーキは日持ちしないのでお預けだ。
ジェシュリーは薪で温まったバスタブの中にドボンと浸かると石鹸を泡立てた。
「フン♪フン♪あぁ・・良い気持ち・・」彼女はエメラルドグリーンの瞳を輝かせ可愛らしい顔で恍惚な表情をしながら・・「か弱い人間どもを嬲り殺しにした後の風呂は格別だな・・心も身体も洗われるようだ。」射的にされる子供達をじっくり眺めて満足気に足をバタつかせる。
しばらく至福の一時を楽しんだ後「さて・・次の集落を襲うか。」意を決したようにザバッゥと立ち上がると「ラクワイア、発つぞ準備をしろ。安穏としたここいらの連中に恐怖を植え付ける。奴隷と食料の確保が最優先だ。」
彼女の残虐な侵略は始まったばかりであった。




