三十八章 ア・ラ・トゥーバイラル
「・・で、何を喰いに行くってんだ??わざわざランツィ公の誘いを断るだなんて理由があんのかよ?」ウィルがつっけんどんに訊いて来る。
「実はね・・今無性に食べたくて仕方ないものがあるの。」
「ハァ?おめえの我が儘かよ・・」
「そ、おチビちゃん、上質な黒胡椒がたっぷり効いた高級牛ステーキ屋って知ってるかしら??ヒレ肉を扱ってる店が良いわね。」
「高級牛ステーキ!?マジか!?」「随分と豪勢に出たな。」
ウィルとシンは驚きの声を上げた。無理も無い、安くて硬いステーキならいざ知らず・・高級ヒレ肉ともなると貴族や金持ちの食べ物筆頭なのだから。
「それなら良い店知ってるよ!付いて来なよ!!」ズクラッドは奢りでステーキが食べれるとばかりにウキウキで足取りが軽い。
「王都で革靴の底みてえな筋張った硬えステーキなら食べた事あるが・・それでも8ディールしたぞ。」歩きながらウィルがぼやく。
「双極半島は牛が少ないから希少よね・・」
「豚のステーキは経験がある・・が、牛は無いな・・」シンも初めてのようだ。
しばらく繁華街を歩いて行き「ここだよ!ア・ラ・トゥーバイラル。略してアラ2。超高級ってワケでもないけど・・庶民が背伸びして何とか食べれる店かな。」
店の看板は牛の形を模してありその口にはめ込まれた呪符石からはモォォ~~っぅと鳴き声が定期的に発信されている。
「これぞザ・牛って感じだな。爺さんどう思うよ?」
「どうもこうもあるかい、ワシの年齢を考えろ。」
「店構えは世俗的に過ぎる・・帝国風と言えばそうかも知れん。」
銘々が感想を述べる中、私はすっかりその気分になっていた。食欲の秋である。
「へへ・・オイラがミューンズドヴルメで任務達成の報酬を貰った後に必ず寄っていた質の良いステーキ屋さ。でもヒレ肉なんて食べた事が無いや。」
「ワシャ胃もたれするからステーキなんぞ喰えんわ・・近場で焼き魚定食でも探すわい。」
「あら爺さん私の奢りなんだけど・・残念ね。」
「ディールなら害獣駆除の件で余っておるからの。ではワシは別行動するか・・」ナッセルはそう言うと通りを去って行った。
「さぁ、じゃ入店しましょ。」「おう!」「ああ・・」「へへっぅ頂きだい!」
「いらっしゃいませ~~~!!!」店内に入るとグレーの石畳に木製のテーブルと椅子が設置されてある。美しい木目模様だ。
「4名様ですね、あちらの席へどうぞ~!!」
手を向けられた方の席に着くとメニュー表を開いた。
「はえ~結構な値段だな・・こりゃ俺にはよほど縁のない場所だぜ・・」ウィルがメニュー表と睨めっこしながら呟く。
「俺は一番安いので良いが・・」
「あらシン、私だけ高いの食べたらバツが悪いわよ。」
「お決まりでしょうか??」店員が尋ねて来たので「リトヴュート産の高級ヒレ肉ステーキ4人前よろしく!」景気よく言い放った。
「げげっぅ32ディールだぞ・・予算大丈夫か??」
「任せて。支度金はたっぷり貰ってるから今だけの贅沢よ。」
「うへえ・・我らが騎士様が普段の節約上手から一転して散財上手になるとはまるで嘘のようだな・・」ウィルは信じられないという顔をする。
「・・リトビュートは帝国本土の南端に位置する・・酪農や畜産が盛んな地だな。牛肉を仕入れるのに丁度良い土地柄なんだろう。」
シンが澄まし顔でうんちくを垂れた。
「へえ、行った事があるのかよ!?」
「ああ・・腸詰めのソーセージが旨かった記憶が残ってる。肉の調理に長けているのかアレより美味しいソーセージはついぞ拝めなかったが。」
流石にシンは双極半島を旅して回っただけはあって経験豊富だ。
「王都の感謝祭でのウィンナーよりもか?」
「お前の感謝祭への熱意の為にもそれは言わないでおこう。」
「ふーん・・じゃあここのステーキで最高の肉料理の記憶を上書きする頃合いね。」彼の脳裏に新たな思い出を刻んでやるのも悪くない・・そう思いながら語り掛ける。
「お兄さん今からきっとぶったまげるよ!!!!ここのステーキは最高なんだ・・ヒレ肉ともなると絶品さ。」興奮しながらズクラッドがはしゃぐ。
「牛ステーキなんて俺等の身分でそうそう喰えるモンじゃねえよなぁ。従者冥利に尽きるぜ。」ウィルもまんざらではない様子だ。
数分後・・鉄板焼きにジュウジュウと音を立ててステーキが次々に運ばれてきた。
「うほっぅ・・来た来た、こりゃ美味そうだなオイ!!!」
「えぇ香りからして最高ね・・」
「ん・・見た目からして食欲を誘うな・・」
「へへ・・ヨダレが垂れて来るよ!!!」
「んーじゃ、お先に!!!・・うぉぉおおっぅウマッゥ・・旨すぎる!!!これがヒレ肉ステーキかよ!?この世の物とは思えねえぇぇーーーっぅ」
手放しで絶賛するウィルが至福の絶叫を上げる。
「モグモグ・・う~ん堪んないやっぅ!これぞ牛肉ファンタジーだよっぅ!!!」ズクラッドは意味不明な謳い文句で薬物中毒で脳味噌がラリってるのだろうか?
「・・控え目に言っても過去最高の味わいだな。」シンも満足そうに舌鼓を打つ。
「・・じゃ、私も遠慮なく、と。」ナイフで柔らかい肉を割くと溢れんばかりに肉汁が滴り・・思わずゴクッゥと喉が鳴った。そのままフォークで突き刺し口の中へ放り込むと・・柔らかくジュワッゥとした食感に塩胡椒で旨味を濃縮したかのような味わい・・感動のあまりに涙が出て来る。
「ジェシュリーがこよなく堪能した気持ちが分かるわ・・」
「んぐぐ・・誰だそりゃ??」
「北方戦争で活躍した悪名高い将軍よ。」素っ気なく言い放つ。
「北方戦争か・・ルの者の軍勢と同盟国が熾烈な争いをし・・最終的にスペリオルナイツの介入により終結した、遥か昔の戦争だな。」読んでいる小説の顛末を語るシンに「スペリオルナイツって??」私は初めて耳にする単語に反応した。
「人間賛歌を謳う、絶滅戦争で活躍した騎士団の末裔だ。オウガとの戦いで真紅の騎士団・・クリムゾンナイツと至高の騎士団スペリオルナイツは獅子奮迅の目覚ましい戦果を上げ人間とエルフとドワーフの連合軍を勝利へと導いた・・が、真紅の騎士団のあまりの圧倒的な強さと権勢に危機感を抱いた連合国は彼等に偽りの罪を着せて騙し討ちでスペリオルナイツに誅殺させた。その後現在に至るまで2500年余りスペリオルナイツは分裂と統合を繰り返し今でも大陸中に根を張っている。地域毎に組織としては独立しているが名称だけは共通して受け継いでな・・」
いつになくシンは饒舌だ。戦争や戦闘行為に対する彼の熱心な造詣の深さは見習うべき点がある。
「へえ、帝国の英雄とどっちが強いんだろうな??」
ウィルの質問に「さあな・・一概には決め付けられん。かつて大陸最強と呼ばれた英雄王ルアオッドが健在ならば真紅の騎士団やスペリオルナイツにも引けは取らないだろうし・・逆に、300年前のズクラニア戦争では連邦軍の攻勢の前に帝国の英雄は複数人戦死している。時代に寄るだろう。」そう答えるとシンはステーキの続きに夢中となる。
「ねえ、知ってる??昔は胡椒は同量の金とトレードされてたって・・」
私はさり気なく話題を切り出した。
「そりゃまたとんでもねえ話だな・・かつて金貨と同等の価値だったモノを俺達は今食べてるワケか。」ウィルが肉を口に頬張り味わいながら関心を寄せる。
「胡椒は南の方でしか栽培出来ないからな・・大陸北方の地や辺境の双極半島では効率的な交易ルートが確立されてなかったんだろう。」シンはもっともな私見を述べて「しかし旨いな・・」としきりに称賛しながら口を動かす。
「モグモグ・・ミトレニア経由のティファイン交易と海上経由のアンバタスア交易が盛んになったのはここ400年くらいだって聞いた事があるよ。それまでは珈琲も胡椒も高級品だよ。昔の交易は冒険者ギルドが一旦を担っていたともね。」
ズクラッドがここぞとばかりに豆知識を披露した。
「あらおチビちゃん博識ね~・・誰かさんとは大違い!」
案外と物知りなホビットだ。傍でウィルがムッゥとしている。
「ふぃ~~ごっそさん、最高に旨かったぜ!!!」
「ウィル、アンタいつもながら早食いに過ぎるわよ・・もっと味わって食べなさい。」横目でじとーっぅと見ながら注意すると「何だよおめえ等が遅いだけだろ。早飯はリシャーヴョンの美徳だって言うだろ?」何食わぬ顔だ。
「滅多に無い機会なのにどうしてこうなのかしら・・親の顔が見てみたいわ・・」
「おう、王都に帰ったらいくらでも見せてやらあ!!!親父もお袋も俺が騎士団に加入したって聞いて鼻高々だぜ。」
「・・ウィル、良い親を持ったな・・大切にしろよ。」
シンが言葉少な気にアドバイスをした。
「ま、おめえの親よりかは遥かにマシだろうな。」
「ちょっと!!それ言い過ぎよ!!!」私は激怒して叱責するも「いや・・事実だ、気にしないでくれエリューヴィン。」すぐにシンが宥める。
「だとしても、他人の親を貶すなんて礼儀作法が成って無いわ。親しき中にも礼儀あり、よ。常識を疑うったらありゃしない。」
「・・あー、スマン俺が悪かったからそう怒るなよ。折角の旨い食事の席なんだ、それにオウガみてえなツラしてると才色兼備な美女が台無しだぜ??」
「ブフッゥ・・」「あはは・・美女・・かなぁ??」
シンとズクラッドが堪らず噴き出す。
「・・分かった、もういいから。」ウィルのからかい上手な他人をあげつらう才能には負ける・・そう思いながら最後の一口を堪能して「ご馳走様!!もう舌と脳が幸福感で一杯だわ・・」
「スッキリしたか??」ウィルの問いに「もちろん!!!合法的な麻薬かと思ったわ。」私はジェシュリーの気持ちを理解出来たのもあり満足感を口にした。
「オイラもご馳走様!!!えへへ・・こんな豪華なステーキ奢って貰って、何だか悪いなぁ・・」ズクラッドが少し決まりが悪そうに手で後ろ髪を掻く。
「良いのよ、今は仲間でしょ・・これくらい面倒見るわよ。」
「・・相変わらず義理堅いな。」
シンがナイフとフォークを置き、ポツリと一言漏らす。彼に褒められるのは気分が良い・・互いに認め合う仲だからこそ噛み締める思いがある。
「さ・・じゃ退店しましょ。」
カウンターへ支払いに行くと「2ラディールと8ディールになります・・」
「良いお値段ね!でもそれだけの価値はあったわ・・ご馳走様でした。」
「ごっそさん!!」「美味しかった~またね~」「・・・・」
全員で店を出てすぐにウィルが「で、太守の館に戻るか??午後の予定は空白だもんな。」訊いて来た。
「そうねぇ・・ついでに適当に散策でもするか。ナッセルの爺さん何処行ったのかしら・・」
「喧嘩だ喧嘩だぁぁああーーっぅ!!!!」突然一際大きな声が路上に響き渡る。見ると30トーリア先に人だかりが出来ていた。
「喧嘩だってよ・・何処の国もやるこたぁ一緒だな。」
「ああ・・諍い事や揉め事は万国共通で日常茶飯事だ。」ウィルとシンは珍しくも無いといった風に無関心を装いあたかも我関せずだ。
「放っておきましょ・・厄介事に関わるのは御免だわ。」私も傍観の姿勢を示して同じ態度を取る。衛兵が適当に処理するだろう・・ここは王都では無い、今の私達に出来る事なんてあるものか。
そう考えてるとバリバリバリッゥズドンッゥ!!!!雷鳴が轟き悲鳴が上がる。
「おいっぅ呪術士だぞっぅ!!!」
「!!」途端に私達は顔を見合わせ・・嫌な予感がヒシヒシと伝わって来る・・
慌てて現場へ駆け寄ると数人の倒れた人間とクロスボウを構えた人間が1人、そしてその矢の先には・・ナッセルが立っていた。
既に厄介事に関わっている当事者という立場の事態に面食らった私は・・
「ナッセル!!!アンタ何やってんのよ!?」思わず叫び声を上げる。
「おぉエリューヴィン。ちと困った事になってのぉ・・」苦笑いをしながらも彼はいつも通りのノホホンとしたツラ構えだ。
ヒュンッゥ・・ドスッゥ!!!ナッセルの頭上後方の店の扉に矢が突き刺さる。「クソ爺・・有り金置いて去れ。さもなくば心臓を撃ち抜くぞ!!!」男の恫喝に「参った、降参じゃ・・」ナッセルは地面に両手を突いて「・・と見せかけてからのぉ~~・・ほうれどうじゃ!!!」
カチャンッゥ・・男の手に持つクロスボウが地面に落ちる。
「うぐぐ・・身体が・・動か・・」
「ワシの両手は地面と接触しておる・・そしてぬしの足も地面に接触しておる・・ワシの接触呪文は半径8トーリアは届く・・ぬしの身体は封じた。」
ピキィッゥ・・「うぎゃぁアっぅ・・痛いっぅ痛えよぉぉおおっぅ」
「ほっほ・・足の小指の骨を折った。次は何処の骨を折るかのう??」
楽しむかのように男を甚振るナッセルの様子に、私は顔面蒼白になって「こらっぅナッセルやめなさい!!!今すぐ!!!彼を解放するのよ!!!」怒鳴ったが・・
「ひっひっひっ・・不可避な事態じゃ。正当防衛とも言う。」ナッセルにその気は無さそうだ。ここぞという時に頑固一徹な爺め・・
「おいおいおい爺さん正気かよ!?」
ウィルがなじるがナッセルは飄々として何処吹く風だ。
「退け退け!!!」3名の衛兵が見物人を押し退けてやって来た。
「乱闘罪で逮捕する!!!両者そのまま!!!」
「あちゃ~・・」「完全に面倒事となったな。」
「頭痛の種がまた一つ。どうしてなのよ・・やりきれないわ・・」私達はウンザリとした口調でナッセルが腕を後ろに縄を掛けられるのをただ見つめながら呟く。
「わ、ワシは悪くない!」
この期に及んで諦めの悪いナッセルが喚いているが既に手遅れだ。
衛兵が倒れてる数人の安否を確認し・・「ようし、生きているようだ・・殺人ともなればブタ箱行きだったぞ。」脅し文句を吐いてナッセルと男を連行して行くのを遠目に「どうする??」
「距離を置いて付いて行きましょ・・流石に放ってはおけないわ。」
「仲間だもんね。」ズクラッドの合いの手に「そう、クソッタレな仲間よ。」私は嘆きの言葉を吐くと連行されて行くナッセルの後を追った。
すぐに衛兵の詰所へと辿り着くと彼等は追い立てられるかのように中へと押し込まれる。お尋ね者のポスターが貼られた掲示板に身を寄せて腕を組むと「少し様子見するわ。いきなり解放してくれるとは思えないし・・」
「しっかし・・焼き魚の味でも悪かったのか??一度火が付くと爺さんは止まんねえからなぁ・・」ウィルの心配とも冗談ともつかない話しぶりに「知らないわよ。全く・・後でお灸を据えてやらなきゃ。」私は怒り心頭で答えた。
「ナッセルは普段は温厚だが・・やけを起こすと衆目もはばからず暴走する時があるな。」シンの言う通りだ。そう、今回のような件は過去にもあった。しかも一度や二度ではない。
「はぁぁあ゛あ!?メザシ一匹で喧嘩ぁぁあ!?」詰所から大声が聞こえて来る。どうやら取り調べを受けているらしい。
「そうじゃ。だからワシは被害者なのじゃよ。」
「この爺が先に挑発したんだ!!!俺達こそが被害者だ!!!」
「アンタ等ねえ・・だからって街中で呪術やクロスボウをぶっ放して良いワケないでしょ・・」
衛兵の呆れたような声に私こそが呆れたいのだと肩を落として顔に手をやる。
「どうやらメザシ一匹を争ってああなったみてえだな・・」
「ハァ・・どうしようもないわね。騎士団の一員って自覚あるのかしら?いっつもショーも無い些細な小事で揉め事を起こすんだから・・」
「前回は線香花火が足に飛び散ったとかだったか・・」どうにもナッセルが王都の雑用騎士団に配属されたのには理由があるようだ。適当な厄介払いなのだろう。だが私の手にも余る・・普段はネズミのように臆病な癖に一旦謎のスイッチが入ると突然大爆発してしまう。そのレッドラインが何処にあるのかすらも私は知らない。
10分後・・「そろそろ良いでしょ、行くわよみんな。」
私を先頭にぞろぞろと詰所に入って行った。
ナッセルは私を一目見るなり「おぉエリューヴィンや、早く無実のワシを解放してくれ。冤罪を着せられるトコじゃわい。」どの口が言うのかと思うくらい白々しいセリフを吐く。
「誰だアンタ等は??」警戒する衛兵に「私は彼の身元引受人よ。これ身分証明ね。」腕の紋章を見せ付ける。「こっぅこれは将校様でしたか・・」
「彼の罪は私が罰するから速やかに身柄を引き渡しなさい。」
「ハッゥ!!ですが・・将校様の部下とはいえ街中で呪術だなんて勘弁して下さいよ・・喧嘩両成敗としたかったところですが、あまりにもやり過ぎだ。」
衛兵の真っ当な諫言に「そうね、二度とさせないわ。こっちが悪かったのは事実だし。」
「何を言うか、秋の麗らかな午後のメザシを盗まれた身にも・・フガガ」
すぐにウィルが手で口を塞いだ。
「反省は嫌が応でもさせるから処罰は任せて頂戴。さ、行くわよナッセル。」
「はぁ・・今回だけは厳重注意で済ませますから二度とやらないで下さいよ。」
「重々承知したわ。では・・」
「邪魔したな、じゃあな!」衛兵達に別れの挨拶をすると私達は詰所を出た。
「おチビちゃん、クリスヴァリアーズのレアウルス支店まで案内よろしく。明日の為に場所を確認しておかなきゃ・・」
「ほいほ~いコッチだよ、付いて来な!!」ズクラッドは成功報酬の4ラディールを得てからというもの妙に活力に満ち溢れている。彼の目的は果たされたのだから当然か。私の目的はまだこれからだ。
「エリューヴィン、ワシは信じとったぞ必ずやおぬしが助けに来て・・」
「ナッセル、来月の給料減給10%よ。」
「・・なんじゃと!?」みるみるとナッセルの血相が変わる。
「言わなかったっけ??ここは王都じゃないんだからくれぐれも問題は起こすなって。」私は冷たく突き放した。
「老体に何たる仕打ちじゃ・・世も末じゃのう・・」
「終わってるのはアンタの余生でしょ。」
「しょーがねえさ、爺さん小柄だから舐められるんだよ。呪術士だって知ってたら誰も手を出さないだろうによ。」ウィルが斜め上にズレた擁護をする。相変わらずいい加減な奴だ。
「そういう問題じゃないわよ。」
「・・・だな。」私とシンは見解の一致を得て頷き合う。
「まぁええわい。これもラ・メディス・アルティーナの与えたもう試練じゃ。現世からアンシャクリアへ召される為のな。」まるで反省の色が見えないこの爺さんは既に耄碌しているのだろうか・・
「アンシャクリアだなんて死後の世界を気にするより先に現世で気を付ける事があるでしょ!」
「おぬしはおおよそファルギルダイテじゃな。」似非神父の嫌味たらしい妄言に「はいはい、ファルギルダイテでも何でも良いから・・どうせ私には天使の加護なんて無いわよ。」キッパリと言い放つ。
それから15分ほど歩き続け・・
「ここだよ!州都レアウルスで一番大きな建物さ。」
壮大なスケールのオークションハウスが私達の面前に聳え立っていた。
「こりゃ豪華だな・・支店でコレって事は本店はどんだけだよ!?」
ウィルが驚嘆の声を上げる。
「本店はナルルカティアさ。ありとあらゆる全ての富が集まる地だね。」
ズクラッドが自慢気にえっへんと胸を張り答えた。
「帝国の巨大資本企業なだけはある・・百聞は一見に如かずと言うが・・経済力では連邦より抜きん出ている証明だな。」帝国の繁栄ぶりを知っているシンですら驚きを禁じ得ない模様だ。
「そうねえ・・比べて私達リシャーヴ王国のなんてチッポケな事か・・」
私が素直な感想を述べると「我らが騎士様よぉ・・・そんなに卑下すんなよ。誰が何と言おうと俺には城下町が一番だ。帝国が豊かさだって百も承知だがそこだけは譲れねえ。」
熱い想いでそう語るウィルからはリシャーヴョン気質が十二分に伝わって来る。
「そう・・そうね、私も気持ちは同じよ。」
その時、数名の衛兵が駆け寄って来た。
「コラ、そこで何をしている!?中は明日のオークションの貴重品で一杯なんだ、貧乏人は去れ!!!」
「たはは・・貧乏人だってよ、バレてるぜ?」
「ああ、この身なりではな・・当然だろう。」
ウィルが笑い飛ばしシンも自嘲気味に語る。
「行きましょ・・窃盗団と間違われたら面倒だわ。」
「でも窃盗するんだろ??」
「・・アハリルがね。」私達は踵を返し太守の館へと引き返した。
館へ戻ると午後3時を過ぎていた。メイドに夕食の準備は必要無いと申し出ると「みんな、就寝まで適当に自由時間よ。ただ明日は大一番だから早く寝る事。特にウィル、アンタはね。新聞にオークションは10時開始とあるわ。朝7時には起床して準備を整えて9時までには出発するからそのつもりで。」
「おうよ!」「了解だ。」「うむ・・」「はいは~い!」
全員と示し合わせると私は自室へと向かった。ベッドに寝転がり小説を手にする。
「ジェシュリー・・ルの者よりよほど悪魔らしいと謳われた貴方がどんな悪逆非道を行ったのか教えて頂戴。」




