二十九章 サンスフィアでの尋ね人
1時間30分後・・
「そろそろ着く頃ね。みんな準備は良い??気分悪い人は??」
確認の合図を取ると「ドラゴンだっぅ!!!」
小窓にへばり付いたウィルが叫んだ。
「えぇ!?何処何処??」
私はウィルを押し退けて小窓を覗き込むが青空を雲が流れる風景しか見えない。
「あっという間に見えなくなったが・・間違いなくドラゴンだっぅ!!!!」
「嘘だい、帝国にドラゴンなんて居ないよ!」すぐにズクラッドが否定する。
「だったら何だよ!?坊主俺の目を疑うのか!?」
「痛い!痛いって兄ちゃん!!」ウィルにグリグリとこめかみを圧迫されて悲鳴を上げるズクラッドの声を聴きながら「・・・何も見えないわ。悪酔いして幻覚でも見たんじゃない??」
「いいや確かに見た!!!」譲らないウィルに「外に出た方が早い・・」とシンが出口へと歩き出す。
「それもそうね・・ウィル、ドラゴンが居るかどうか賭けてみる??」
出口へ向かいながら賭博遊戯を持ちかけた。
「おうよぉぉ!!居る方に1ディールだ。」
「じゃ私は居ない方に1ディール。」
「わしゃ居る方に1ディールじゃ。」
「じゃあオイラは居ない方に1ディール!!!」
銘々が好き勝手に賭けると一斉に外へ出る。
ビュウビュウと風が吹き荒む甲板上からは斜め頭上に大きな翼のワイバーンが飛空艇に合わせて大空を並走している姿が見えた。鱗が太陽光を反射して銀色に煌めいている。
「ほらドラゴンだろ!?俺の勝ちだ。」
「兄ちゃんこれワイバーンだよ!」
「似たようなモンだろっぅ!!!」
「まぁ竜の眷属ではあるが・・本質的には違う。ワイバーンは竜眼が使えないからな。」シンが冷静に突っ込む。
「じゃ、賭けはおじゃんね・・ドラゴンかどうかはイマイチ不明瞭だから。」
こちらに気が付いたのだろうか??ワイバーンは高度を下げ背中に乗った人が片手を上げて合図をしてくる。
「お~い!!!」「うっひょひょ~~い!!!」
ウィルとズクラッドが両手を振って飛び跳ねる。
私も黙って片手を振るとワイバーンの背中の人物は私達の反応にサムズアップして応えた。
「つかの間の空の邂逅にしては・・ややロマンチックね。」
「ああ、良い思い出になるかもな。」興奮して舞い上がってるウィルとズクラッドを横目に私とシンは静かに晴れがましさを感じて感慨に耽る。
「なかなかの操縦の腕前じゃ。この距離間で大胆な・・」ナッセルが称賛するのも無理はない。下手したら激突して大事故だ。
ワイバーンはそのまま数分間ほど並走を続けていたかと思うと一気に速度を上げて去って行った。
客室へ戻りながら「で、ありゃ何だったんだ??」ウィルが尋ねる。
「ワイバーンダイビングさ。帝国では富裕層の娯楽だよ。20ファディールくらいポンと出せる貴族の趣味だね。もちろんオイラも乗った事なんてない。」
ズクラッドはそう説明しながら手の平を上に向けて首を振った。
「良い身分ねぇ・・レジャー感覚でワイバーンを乗りこなすなんて。」私の屈託も無い感想に「俺等には一生縁が無いだろうなぁ・・まったく憧れるぜ。」ウィルが羨ましそうに声を上げるのを聞いて「心配無用だウィル、乗りたければエリューヴィンに付いて行ってグリフィンツアーを楽しめるぞ。王都へ戻ってからな。」
シンがニヤリと笑みを浮かべてポンと背中を叩く。
「おめーが勧めるって事は・・想像が付くぜ。よっぽど乗り心地が悪かったんだろうな、最悪なんだろ??」
「あぁ・・最悪なんてモンじゃない、ファルギルダイテに真っ逆さまに落ちるかと思ったぞ。」
「こらこらシン脅かさないの。私の従者である限りは必要とあらばグリフィンくらい乗って貰わないと・・」
キュゥゥーーン・・ガクン・・
飛空艇が巡航から降下に移行するのが客室にも伝わって来る・・
「いよいよ到着か。快適な空の旅も仕舞だな。」小窓から外を窺いながらウィルが呟いた。
「どうせ帰り道でも楽しめるから・・貴重で滅多に無い体験だけど浮かれて無いで任務に集中するわよ。」
「ああ、たかが殺人犯をこんな地の果てまで追いかける破目になるとは・・王家のメンツとやらは山よりも高そうだ・・」冗談めかしてあっけらかんと語るウィルに「そうだな・・今回の任務は何か違和感を感じるが・・仕事は仕事だ。俺達が考える事ではない。」シンが理解を示しつつも立場を弁えるべきだと言い聞かせる。
「そうよ、私達はあくまでも王家の意思や理念を具現化する為の実働部隊・・多少の不条理は付き物だわ。」
「は~お姉さん達も大変なんだね、オイラみたいな根無し草には分かんないや。」ズクラッドはさも不憫だねぇ・・と言いたげに口を挟んで来た。
そうだろう、彼には騎士としての責任の重圧なんて微塵も知る由も無い。冒険者は契約不履行でも成功報酬を貰えないだけで厳しい罰則など無いのだから。命も安けりゃ責任も安いものだ。
ドゥゥウウンッゥ・・大きな振動と共に飛空艇が着陸をした。
ガラガラガラッゥ・・すぐに搬入口が開く音が聴こえ「さあ行きましょ・・忘れ物は無いわよね??」
「あるとすれば煙草の吸殻だけだぜ。あと子供心の好奇心もな・・」
「忘れて正解ね。」颯爽と私達は搬入口へと出向いた。
ゼアトルべ・ザックスが待ち構えており「何時間で戻るか??」尋ねて来た。
「さあ・・場合によっては2日、ないしは3日・・」私は当てずっぽうに生返事をすると「待てても2日だ、それまでに戻れ。飛空艇は緊急案件にも即応しなければならんのだ・・貴様等に時間を取られるワケにはいかん。」あからさまに不機嫌な顔でそう断ずる。
「分かったわ、2日ね・・寛大な配慮に感謝するわ。」
心にもない口先だけの謝辞を述べると地上へ降り立った。
「ここがサンスフィアか・・想像以上な繁栄っぷりだな。」
ウィルの言う通り州都レアウルスよりもよほど都会らしい街並みだ。
「帝国本土への玄関口だからね。他に先駆けて都市の再開発・莫大な投資が行われサンスフィアはその恩恵を受けたんだ。オイラも何回か足を運んだけど昔とは見違えるほどに栄えてるよ。」ズクラッドの解説に「なるほどな・・確かに10年以上前に俺が立ち寄った時とは事情が異なるようだ・・記憶違いかと思ったぞ。」
シンが納得の様子で語る。
「して・・どうする??聞き込み調査でもするかのう。わしゃあ歳で耳が遠いから役に立たんかもじゃが・・」
ナッセルが及び腰で今後に付いての方針を確認して来た。
「いいえ、まずは軍の警備責任者に会うわ。詳しく事態を把握するのが先決ね。」私は率直に答えて「もちろんその後で聞き込み調査もするわ。爺さんの耳がどうであれ。」と釘を刺しておく。
「ほほう情報収集に余念が無いの・・老人を虐げる騎士が2段階変速機能付きとは世も末じゃ。」
「はいはい、文句なら任務が終わってからいくらでも聞いてあげるから・・おチビちゃん案内よろしく。」
「任せておくれよ!」ズクラッドの案内で私達は郊外から中心街へと向かって歩き出した。レストランや衣料品店、武具屋、呪術専門店などが立ち並び人々で盛況に賑わっている。
「アイスクリームだってよ・・何だか美味そうな響きだな・・」
ウィルが看板を眺めながら呟く。
「兄ちゃん、アイスクリーム知らないの??人生損してるね・・帝国では有名な乳菓子さ。多分一度食べたら忘れられないと思うよ。」ズクラッドの魅惑的な言葉にウィルは我慢出来ない様子で「なあ、我らが騎士様よぉ買ってかないか??アイスクリーム・・」物欲しげにせがむ。
「駄目よ、任務が最優先だわ。お気の毒様。」にべもなく突っ撥ねると
「やめておけ。確かに美味だが・・馬鹿みたいに値段が高いぞ。」
シンも同調した。彼は食べた事があるらしい。
「だってよぉ・・」未練がましく食い下がるウィルに「我慢しなさい、任務が成功したら後で奢って上げるから・・」そう言うと渋々納得したかのような顔をして「こりゃ意地でも任務達成に鋭意努力するっきゃねえなぁ・・」と訳の分からない意欲を見せる。
本当に子供みたいなんだから・・そう思いながらも先を急いだ。
「ここだよ!!!サンスフィアの警備を担ってる本所・・」4階建ての大きな建物の門には衛兵が2名両脇に立ってこちらをジロジロ眺めておりとても訪問者を歓迎しているようには見えない。
進もうとするとすぐに槍が左右から交差して阻まれた。
「待て、何者だ??ここはサンスフィア警邏本部だ。一般市民は立ち去れ。」
そりゃそうよね・・彼等からすればただの不審者だもの・・
「ランツィ公の命を受けてレアウルスから任務の為に派遣されて来た者よ。」
ここぞとばかりに伝家の宝刀の腕の紋章をグイと面前に差し出す。
「こ・・これは失礼、将校様でしたかお通り下さい。恐れ入りますがお付きの者はご遠慮下さい。」
「分かったわ。全員ここで待機しといて・・」指示を出すと
「へいへい、手短にな。」「了解だ。」「えー残念だなぁ・・」「ニヒヒ・・煙草の時間じゃな。」従者どもは口々に好き勝手に言い放つ。
「・・それでここの責任者に会いたいのだけど案内してくれるかしら??」
「ハッゥ、どうぞこちらへ・・」建物の中へ通されると4階建ての上層へと案内された。忙しそうに書類を片手に論議をしながらメモを取る職員の姿が見える。誰も私を見向きもしない・・本当に忙しいのだろう。
その奥でデスクに座って山のような書類にひたすら捺印をしている年老いたエルフの男性の元へと通された。
「ヘイムスティル上級部長、州都から派遣されて来た将校様です。」
ヘイムスティルと呼ばれた彼は長い耳をピクピクさせて「うん?聞いて無いぞ・・待て、妙に若いな。」指でカムカムとこちらへ来るよう指図されたので傍に近寄ると接触呪文で紋章に触れられ・・すると青色のシルエットが浮き上がった。
「本物か・・良いだろう、何の用件でここサンスフィアへ??」ドサッゥと椅子に腰掛けて面倒臭げに訊いて来る。
「この地でエルフの責任者だなんて珍しいわ・・」
私は開口一番不躾な感想を口にした。
「ああ、いやなに・・ついな、言ってしまったんだ。お前等人間は良い、40年働けば年金が貰える・・こっちは180年だぞと本音を口走った結果、4年前に本土から左遷させられてこのド田舎に飛ばされたって話だ・・おかげ様で今はまぁ・・適当によろしくやってるよ。」
「ここは良い都市じゃない。悪く無いわ。」当たらず障らずに慰めてみると「ハッゥ、ルの者すら腹を抱えて笑いかねない冗談だな・・豪華絢爛のナルルカティアや壮麗なティストレテに比べたら何の慈しみも無い吹けば飛ぶチッポケな街だ。で、用件は??」再度訊いて来た。
「2日前から大々的に指名手配された人物を追っているわ。そう、こいつ。」机の上に山積みにされたポスターを1枚手に取り突き出す。
「ふむぅ、この件か・・ポスターを貼るのに兵を総動員したが・・現在まで5件の通報があった。内容は・・少し待ってくれ。」
彼は机の引き出しをガタンと開けて報告書を手に取ると「飲食店で2件、街道上で3件だな・・目撃時刻は3日前と2日前の昼間で夜間は目撃情報が無い。そして、ポスターが貼りだされた昨日からは一切目撃されていない。これらの情報だけでは断定は出来んが・・考えられる事は主に3つ。1つは協力者が居て何処かに匿われている可能性がある。2つ、何らかの組織に属しておりそのアジトに潜んでいる可能性がある。3つ、既にサンスフィアを離れていて存在しない。以上だ。」
簡潔にそう述べると「・・他に何か知りたいことは?」まるで忙しい身だから早く切り上げたい気持ちが伝わって来る。
「いいえ、それで十分・・協力感謝するわ。」そう言いながら立ち去ろうとすると「一つ教えてくれるかね??」後ろから声が掛かった。
「何かしら?」付かぬ事かと振り返り訊き返す。
「この者の罪状は??」
「殺人と窃盗よ。」
「何人殺したんだ??」
「一人だけ。」
「たったそれだけで??・・それでミューンズドヴルメ全域に指名手配するとは・・控え目に言っても正気の沙汰とは思えんな・・何か特別な事情なり理由なりがあるんだろう??」
彼は耳をピクピクさせながら疑惑の目を向けて問いただすが、
「鋭いわね、ただ貴方にそれを知る権利は無いとだけ・・ポスター何枚か貰って行っても良いかしら??」私は彼に事情を説明する事もなく軽く受け流すとポスターを数枚手に取って承諾を求めた。
「あぁ・・好きなだけ持ってってくれ。どうせ数日後にはゴミになる・・デスクの負担を軽くしてくれてありがとう。」
一風変わったこのヘイムスティルというエルフとはまた会う機会があるかも知れない・・そう思いながら建物を降りると皆が待つ門へと急いだ。
「で、どーだったよ??」鼻をほじりながらウィルが問い掛ける。
「ポスターが貼り出されてからヨハン殺害の容疑者は何処かに隠れたみたい。誰かが匿っている可能性が濃厚ね。あるいは何らかの組織のアジトに潜んでいるのか・・ってところ。」
「なんだよ殆ど何も判ってねえも同然じゃねえか・・」
ウィルの鼻糞を飛ばしながらのツッコミに「まぁ・・そうね、何処に居るのか見当も付かない・・それが判っただけって話よ。」
正直私もガッカリだが、だからと言ってグズグズしてられない。
「再開発されたなら下水道が怪しいかも知れん。隠れるには絶好の場所だ。」
シンが妥当な提言をした。相変わらず嗅覚が鋭い男だ。
「下水道は・・色んな意味で苦手だけど・・捜査の為なら致し方ないわね・・」私は少し難色を示す。臭いも酷ければ水路に落ちた日には感染症も覚悟しなければ。
「言い出しっぺだ、下水道の調査は俺が行こう。暗いので明かり役が必要だな・・爺さん付いて来てくれるか??」
「なんじゃと!?聖職者崩れのワシには糞尿塗れがお似合いだってか!?」
激昂するナッセルに「・・・ならそこのホビット、お前でも良い。」すぐにシンは切り替えて誘うが
「駄目よ、おチビちゃんは地上での案内役に必要なの。それに爺さん耳が遠いんでしょ??聞き込み調査は当てに出来ないわ。」
私の痛恨のしっぺ返しにナッセルは顔を真っ赤にして「えぇい、こんの褐色の肌をした鬼子がファルギルダイテへ落ちてしまえっぅ!!!!ぬしの騎士道精神なんぞクソ喰らえじゃっぅ!!!!」
散々に喚き散らすものの「さ、じゃあみんなにポスター渡しておくわね・・ウィルとおチビちゃん行きましょ!!!」私は涼しい顔をしてその場を去った。汚れ仕事を従者に押し付けるのは気分が良いなんてモノじゃない・・最高だ。
「で、俺達はどーすんだ??聞き込み調査って当てはあるのかよ?」
「おチビちゃん、占い師って居るかしら??」
「ハァァア!?占い師ぃぃいい!?!?」ウィルの面食らった大声に「そ、困った時の運頼みよ。幸運を呼び寄せるならその道のエキスパートじゃないと。」
「ええと・・確かアッチの通りだったと思うけど・・」少し困惑気味にズクラッドは先導して行く。
私だって馬鹿馬鹿しいとは思うが何も手掛かりが無い状態でこの規模の都市を調べるのは1週間あっても足りない。溺れる者は藁をもつかむとは良く言ったモノだ。
雑踏の中をしばらく突き進むと「あ、お姉さんラッキーだね、まだやってるよ・・あのババア。」ズクラッドが道の角で椅子に座ってる老婦人を指差した。
私は早歩きで近づくと「一つ占いお願い出来るかしら??」と老婦人とテーブルを挟んで向かい合いながら座った。
「アンタ見ない顔だね・・それにその肌・・異国人かえ??まぁともかく、初見料1ディールだよ。フェッヘッヘ・・」彼女は笑いながら催促して来る。
「ハイ、1ディールね。」
手渡すとすぐに「この人物が何処に居るか占ってくれるかしら・・大体の位置でも方角でも何でも良いから。」とポスターを見せ付けた。
「はぁうっぅ!!!これは・・分かる・・分かるぞ・・」
「え!?本当に!?」思わず歓喜の声を上げて「何処!?何処に居るの!?」
必死に老婦人の肩を揺らして問い詰める。
「慌てなさんしゃい。じゃが・・思い出すのに20ディールの献金が必要だと守護精霊が仰っておる。」
「・・・払うわ。20ディールね!」
「おいおい・・本気かよ?」ウィルが止めに入るが「黙ってて!今良いトコなんだからっぅ」彼を押し退けて「さあ払ったわ、教えて頂戴!!!」私は熱意を込めて迫った。
「感じる・・とてつもない邪悪な力を感じるぞえ・・まだここサンスフィアの地に留まっておる・・そうルの者に縛られし愚かなる魂の末路がの・・じゃがその者は明日ないしは明後日にはここを発つ。」老婦人は怪しい顔付きで力説する。
「えぇ!?そんな・・で、何処に居るの!?」
「残念じゃが・・ここから先は30ディールの献金が無ければ守護精霊が思い出せぬと・・」
「30ディールね!すぐに払うわ!!!」
すぐさま財布から30ディールぶち撒けると
「我らが騎士様はカモにされてやがんぜ・・こりゃダメだ。」
「駄目っぽいね・・」ウィルとズクラッドは顔を見合わせて肩を落とした。
「ふひっひひ・・良いじゃろう・・目的の人物はこの方角におる!!!!間違いない!!!」ビシィッゥと南西の方角を指差してそう豪語した老婦人に向かって
「婆さんありがと!!!恩に着るわ!!!さあ行くわよ!!!」
私は彼女の両肩をガクガク振りウィルとズクラッドに付いて来いと指をクイクイさせながら小走りでその場を駆け去るとその後・・「ぶふっぅ・・ぐぎゃっぅ」老婆はそのままブルブル震えながら白目を剥いて失神してしまった。
「良い??この道沿いにある酒場、レストラン、宿屋、喫茶店・・何でも良いからとにかく人が集まりそうな場所で聞き込みするのよ。手分けして調査しましょ。」
「なあ・・おめえの脳味噌ブロッコリーで出来てんじゃねえか?たまに考えがよく分からねえ時があるんだよな。」ウィルが批判的に私の判断へ疑問を投げかける。
「従者は文句を言わない!!ブロッコリーでも何でも運気を呼び寄せるのも騎士の務め・・信じる者は救われるわ。」そう、私は都合の良い占いは信じる性質だ。
「へいへい・・じゃ俺は目の前のアンダルフィアとかいう酒場から行くぜ。そっから南側方向へ抜ける。」
「オイラは斜め反対側のカフェ裸足の天使を攻めるよ。同じく南側方向で。」
「OK,じゃあ私は・・6ブロック先から両向かいを調べるわ。調査が終わったらこの街路の突き当たりで合流よ。さあ始め!」それぞれ別れて調査を開始した。
私は6ブロック先まで駆けると「う~んまずは・・宿屋プルスゴファーか・・一風変わった店名ね。悪魔の名前でもモジったのかしら??」適当に勘繰りながら早速中へ入って行く。
「やあいらっしゃい!1名様かな??」身なりがパリッゥとした感じの良い店主に「悪いけど客じゃないわ。ちょっと訊きたいんだけど・・この顔に見覚えは??」ポスターをかざして尋ねると「ああ・・うーん・・知らないねえ。」歯切れの悪い口調で答えてくれた。
「あらそれは残念・・じゃあね!」急いで外へ出ようとすると「嬢ちゃん悪い事は言わない、その件については諦めな。」後ろから声が飛んで来た。
「何故!?」振り返りつつ訊いてみる。
「余計な詮索は身を滅ぼすとも言うだろう・・痛い目に遭っても誰も助けちゃくれないよ。」
「・・何か知ってるのね・・??」
「だから知らないんだ。出て行ってくれ。」
私は気に留めつつもプルスゴファーを後にした。何か臭う・・特別な事情でもあるのだろうか??事の次第によっては再び訪問すべきだろう。
「お次はカフェ・ラッグ&ラック・・ね。豪華な敷物でも置いてあるのか・・よく分かんないけど異国情緒を感じるわ~。」看板を一瞥すると両開きの扉を開いた。
「らっしぇえー空いてる席へどうぞ。」
「悪いけど客じゃないの・・訊きたいんだけど、この顔に見覚えは??」
そうポスターをかざすと「お客さん冷やかしなら帰ってくんな。」
「そう、じゃアイス珈琲一つ。」
「20チャリンだよ。席に座って待ってくれ。」
「席は不要だわ。」
2分後、アイスコーヒーを片手で受け取ると一気にグビグビ飲み干してダンッゥとカウンターに叩き付けてから「で、この顔に見覚えは??」再度問いかける。
「悪いが知らないね・・」
「じゃ、ナタノア産の珈琲美味しかったわ・・さよなら。」
すぐに私は隣のアパレル屋に移った。
「ハイ!こんにちわ、少し訊きたいんだけど・・」
「なんだいアンタ・・汚れた肌に壊滅的なファッションセンス、何処の田舎者だい??」お洒落に着飾ったオバさんがずり下がった眼鏡で品定めするようにじろじろと頭の天辺から爪先まで見やりながら「冒険者か異国人か知らないけどアタシの店の顧客には向いてないねえ・・」ブツブツと不満そうにぼやく。
「あら気を悪くしたら御免なさい、一つ訊いて良いかしら?こちらの顔に見覚えは??」ポスターを見せると「おやまぁ時の有名人だねぇ・・でもこんなイモっぽいのがアタシの店に来るとでも??冗談じゃない。そんな安く見積もられるなんて心外だよ。それよりアンタを美しく彩るのは不可能じゃないさ・・どうだい??」
「えぇ・・そのぅ・・私、女の魅力って奴が全く無いみたいだから遠慮しとくわ。ありがとう。」捨て台詞を残して飛び出すとすぐ向かいのマッサージ店に突入して行った。
ボディ丸ごと揉みほぐし店と銘打ってるが、ヨハンの紛い者がこのサービスを希望するとは思えない・・だが可能性はゼロじゃないハズ。
「らっしゃいコースはどれをお選びで??」
坊主頭の大入道のような男が手をコキコキ鳴らしながら出迎えた。
「コースは不要よ、この顔に見覚えは??」
ポスターを突き付けると「あぁ、よぉっく知ってるぜ・・」
「え!?本当に!?」私は目を輝かせながら待望の時が来たとばかりに聞き入る。
「もちろんだ、街中がそいつの顔で溢れてる・・何処へ行ってもそのクソッタレが付いて回るようで胸糞悪い、俺はとても優しいからポスターに落書きして男前にしてやったよ。あぁ、ラリってダンスってるミトレニアン風味と酔っぱらったゲイのドワーフヅラまで仕上げてやったさ。それで3人目を腐ったゴブリンみてえな色に塗り始めたら衛兵のクソ野郎に止められた。それで言ってやったんだ。あんな顔を俺の店の前でベタベタ貼って景観を損なうのは、ファルギルダイテへ落ちるよりも苦痛で耐え難いってな。挙句の果てには夢の中にまで出て来た、昨日の夢だ!!!ふざけんなっぅてめえがあのクソッタレの知り合いなら少しだけ小言を言わせてもらおうか?誰の許可を得てあんな真似を・・」
「・・さよなら。」私は即座にダッシュしてその場を離れた。
キチガイの相手なんかしてられない。時間は限られている・・とにかく次の店だ。
それから10数件回ってみるも何ら手掛かりは得られなかった。
私は途方に暮れて街路の突き当たりにある小さな公園のベンチに座り込み「今日の射手座の運勢は最悪だったかしら・・」自嘲気味にポツリと口にする。もしかしたらウィルの言う通り脳味噌がブロッコリーなのかも知れない。いや色合いで言うとカリフラワーか。軽く自分の頭を小突くと迷いを吹っ切り「いいえ、諦めたらそこで終わりよ・・エリューヴィン。」己に言い聞かせた。




