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二十七章 ギルヴェリア

2週間かけて帰途に付くも・・懸念と憂心は収まらず、寝る場所は別々とし毒矢で武装した弓兵を配備させ発狂したら即座に撃つように命じた。毎晩、寝る前に俺はギルヴェリアとヴァルザックの身を案じ・・人生で初めて神に祈るという行為さえもした。俺が死ぬのは一向に構わない・・が、苦楽を共にし心を分かち合ったギルヴェリアとヴァルザックを失う事だけは耐え難く改めて何が最も大切な存在なのかを思い知らされ・・もはや帝国の運営について皇帝と語り合う事なぞどうでも良かった。昼間は互いに平穏を装い普段通りに適当な会話に花を咲かせるも次の瞬間に悪夢が現実となるかも知れないと気が気でならない状態が続いた。


そして・・長い憂慮の時を経て無事にナルルカティアに凱旋帰国を果たすと、俺は肩の荷が下りたのを実感出来た。既にスズリアサザード平定は大々的に報じられているようで大通りを進む我々を、群集が熱狂的に喝采・称賛で迎え道沿いの高層階からは花びらが撒かれ色とりどりのフラワーシャワーが我々を包み込む。

「英雄ルアオッド万歳!!!」「ルアオッド万歳!!!」

「史上最強の英雄万歳!!!」そう口々に叫ぶ人々を眺めながら

「ねえ・・聴こえるでしょ??ルアオッド貴方の声望は既に皇帝を超えているわ。皆が貴方を称賛している・・実に心地良いわ。」ギルヴェリアが嬉しそうに満足気な表情で話しかけて来る。

「俺はお前達が無事ならそれで良いさ。これは俺達全員の名誉であり栄光だ・・俺個人を讃えるのは面白くないな・・」その返事に

「おぬしらしいの。素直に喜ばんかい、帝国が版図を広げたのはおぬしあってこそじゃ。皇帝なんぞクソの役にも立つモノか。」昼間から酔ってるのかヴァルザックが本音をブチ撒けた。

「皇帝とは役割分担をしているだけだ、彼女には・・彼女ならではの役割と苦悩がある。」

「彼女??皇帝は女だったの??」ギルヴェリアが一瞬驚いた風で・・直後何かを案じるかのように聞いて来る。

「ああ・・少なくとも俺の前ではそうだ。性別は超越しているらしいが・・」俺はギルヴェリアの表情が一変した事に気が付かぬフリをしつつ答えた。

「ほほう・・さては惚れたな??ぬしも人間じゃったか。」ヴァルザックが余計な勘繰りを入れて来る。

「俺と皇帝の間に恋愛感情が介在する余地など、微塵も無い・・が、そうだな・・彼女は魅力的だ。顔や身体の造形の美醜だけでなく精神性も・・」

「・・・・」ギルヴェリアが押し黙ってそっぽを向いた。何か言いたい事があるのだろう・・が、俺と彼女は強く固い絆で結ばれている。これ以上何を望むというのか。

「・・少しだけ言わせて貰うと一時皇帝に心を惹かれていたのは事実だ。だが今回の件で俺にとって何よりも重要なのはヴァルザック、ギルヴェリア、お前達を置いて他にないと痛切した。あと僅かながら俺と人生を共にして欲しい。」

「馬鹿言わないで!!!あと僅かだなんて・・私が憧れたただ独りの人間がそんなセリフを吐かないで。私は貴方の為なら命も惜しまないわ・・皇帝にそんな真似が出来る!?」様々な感情が入り混じったギルヴェリアの怒声に少しためらい、逡巡しつつも「俺は・・・俺に出来る事をするまでだ。ギルヴェリア、エルフの人生は長い・・自分の命を大切にしてくれ。気持ちは有難いが、俺にそこまでの価値など無い。」諭すように言い聞かせる。

「嘘よ!!!貴方が誰よりも強く知的で卓越した存在だって皆が知ってる!!!!ほらこの大歓声を聴いてごらんなさいよ・・例え貴方が否定しようとも貴方以上の人間なんてこの世に存在しないって誰よりも私が一番知ってるわっぅ!!!!」

俺は返す言葉も無く絶句した。彼女をここまで狂信的にさせてしまった己の過ちと不甲斐なさに心が痛む。何処で道を間違えたのだろうか??

「おぉエルフの癇癪か怖いのう・・まぁワシはワシの命が一番大事じゃがな。次におぬしかどうかは・・そもそもおぬしが殺されるとは思えんが。」ヴァルザックが他人事のように取り留めも無く語る。何事にも無頓着な彼らしい物言いだ。

そうこうしている間にサン・アレクサンドラ・ローへ到着した。

「ギルヴェリア、そろそろ皇帝との謁見だ・・冷静になってくれ。」

「冷静!!!そうよね・・貴方はいつでも冷静だった・・私の気持ちも知らないで!!!」

「どうした?貴公等が口喧嘩とは珍しい・・」門の前で待機していたセス卿がさも稀有な事もあるものだと言いたげに訊いて来る。

「ただのエルフの癇癪じゃ。気にするな。」ヴァルザックの一言に「ふむ・・何にせよ陛下の面前で粗相のないように頼むぞ。」大して気にも留めず、開いた門から中へと入って行った。

「陛下の面前で・・か、奴は皇帝の事しか頭に無いのう。まるで召使いのゴーレムじゃな。」後ろ姿を見やってヴァルザックはそう皮肉ると後に続く。

「ギルヴェリア、聞いての通りだ・・話は後にしよう。」

俺は強制的に会話を打ち切った。


謁見の間に進むと・・貴族達が左右に並んでペチャクチャとお喋りをしている最中で玉座に座っていた皇帝が微かに金色に輝くローブを揺らして立ち上がると宰相がトントンと杖を打ち鳴らし場が静まり返る。

「これよりスズリアサザード外征報告の儀を執り行う。総司令官ルアオッドよ報告せよ。」宰相の言葉に俺達は平伏して顔だけを上げると

「報告を申し上げる。本外征はスズリアサザード国王ラファレックス7世が降伏の調印をして終結した。彼の地を帝国の領土として認める趣旨の内容だ。だが王室と政治に携わる側近はルの者の支配下にありこれを討ち取るも国王と王妃は死亡・・唯一生き残った後継者である王女が彼女となる。」後ろに居る若い女性を指し示す。

皇帝へ敬語を使わない俺の態度に初期こそは宰相も強く戒めたが、皇帝自身が特別待遇を宣言し今に至る。

宰相から降伏調印の署名を受け取ると皇帝はそれを眺めながら

「実に良く余の期待に応えてくれたな、御苦労であった。このケロケロケロッピーというのは何だ??」

「国王ラファレックス7世の死を賭した芸だ。俺はそう認識している。」正直彼が死んでしまったので真相は闇の中だ。

「フフフ・・笑わせてくれるではないか。王女よ、名は何と言う?」皇帝に問われた彼女はビクッゥと震え上がり「わ・・わたしは・・マリーナ・・です。じっ慈悲深い皇帝陛下、ど・・どうかお許し下さい・・」完全に怯えきっておりドラゴンに睨まれた子羊も同然だった。

「マリーナか・・何か望みはあるか?余が願いを何でも聞いてやろう。」優しそうにそう語る皇帝からは底知れぬ恐ろしさが感じられる。これは罠だ・・彼女が正解を選べるか・・俺は心配しながらも様子を見守った。

「ねっ願いは・・スズリアサザードの民の幸せとっぅ・・と・・私の命だけで・・ございます。」皇帝は黙って玉座に座ると「・・2つも願いがあるとは贅沢というモノだな・・片方だけ選ぶが良い。」と無情な宣告をする。

彼女は絶望心に駆られてガクガク膝から震えながら「すっぅ・・スズリアサザードの民の幸せだけです!!!!」振り絞るかのような大きな声で明言した。

「フッフ・・見事だ。良い教育を受けている・・よかろう、貴族としてここナルルカティアで余生を過ごすが良い。宰相、後で相応の身分と邸宅を用意しろ。」

「ハハッゥ!!!」

「・・・・」彼女は放心状態で床に崩れ落ちた。そう、試されていたのだ。自我を押し通すならば殺されていただろう。皇帝の悪い癖だ・・

「ところで新たに英雄となった者の姿が見えぬが・・・汝は知っているだろう。」皇帝の何が起きたのか見透かしたような問いかけに「彼は戦死した。彼の残した、漆黒の刃だけがここにある。」と黒い神器を差し出すと床に置いた。

「戦死??英雄ともあろうにルの者に殺されたか・・それとも、理由あって汝等が殺めたか??」流石の鋭い指摘に俺は舌を巻きつつも「・・彼は何者かに憑依され・・狂ってしまった。止む無く戦い、そして・・追い詰められた彼は自死した。理解を超えた現象であって俺達にもそうなる可能性が少なからず」

ズドドドッゥ!!!突如として皇帝の頭部へ矢が複数本刺さり・・仮面が真っ二つに割れてカランカランと落ちた。誰もが目を疑う光景に場が一気にどよめく。

「ギルヴェリア!?」

「・・つけた・・皇帝・・見つけた・・・」彼女は完全に正気を失っていた。俺はまさかの事態に絶望と恐怖を覚えた。

「ぬう!!!よくも陛下をっぅ!!!」言うや否やセス卿がライトニングブレードをバリバルルヴァリュッゥと抜刀し猛然と襲い掛かる。

ガキュィィンッゥ・・ヴァリュヴリュッゥ!!!!咄嗟に光輪の絶牙を抜いて太刀打ちした。

「貴公!!!」彼が憎しみのある発音でその言葉を口にするのは初めてだ。

「彼女は操られているだけだっぅ!!!!」

「だとしても!!!陛下に弓を引いた者を許すワケにはいかんのだ!!!!」

俺とセス卿は鍔迫り合いをしながら応酬する。

「セス、君にとっての皇帝陛下が俺にとってのギルヴェリアだっぅ!!!!」

「ならば貴公・・分かっておろうな!?もはやこれまでだぞっぅ!!!!」

背後でギルヴェリアが暗黒呪文を詠唱するのが聴こえて来る・・どうにかしなければ。

「ワシに手を汚させる気か?ルアオッドよ・・」ヴァルザックが途方も無く悲しい声で呟いたが本気で彼女を殺す気なら既にやっているだろう。出来ないから聞いているのだと俺には分かっていた。

ガァンッゥ!!!ギャキキッゥ・・互いに剣技の腕前は知っている、実力伯仲・・後は呪術を発動させて本気で殺し合うか否か・・・

「退けいっぅあの時に誓ったハズではないか!!!殺してやるのがせめてもの情けっぅ!!!!」

「駄目だっぅ!!!ギルヴェリアを殺すなら俺を殺してからにしろっぅ!!!!」

「ならばそうさせて貰おうっぅ!!!!」とうとうセス卿のフルフェイスから竜眼の煌めきが迸り・・朧気ながら白濁の中から幻影の写し身が3体出現する。

「チィッゥ・・本気かっぅ!!!」俺も即座に光輪の絶牙に呪力を込めて転移呪術を竜眼で発動させ展開した。

「愚か者がっぅ我に同じ手は二度と通じぬっぅ!!!!」

ザンッゥズヴァンッゥ・・天井に出現した空間転移のヘキサグラムから叩き込まれた光の軌跡は疾走の呪術で強化された写し身を追えずただシュゥーーッと床を切断して・・3体のセス卿が俺と対峙し残りの1体がギルヴェリアへと襲撃する瞬間に俺は詠唱した。

「死を呼ぶ天使ラ・マグナワム・フェリキレイアスよっぅ!!!我は望むあらゆる敵を滅し約束された勝利の日が来たり!!!!」

「待ていっぅ!!!!」

顔を片手で隠した皇帝が鶴の一声を発して俺とセス卿は固まった。

「衆目を欺けれど余の目は誤魔化せぬぞ・・」もう片方の手で下から何かを掴み上げるかのように宙を握る。ドサッゥ・・ギルヴェリアがその場に倒れ込み・・燦然と白金色に輝く人型の何かがその頭上に姿を現した。

「・・見つけた・・皇帝見つけた・・偽神討つべし・・」それはラの者に似ていたが何かが違う。

「ほぉう??気が触れた神か・・よくも生き残っていたものだな・・」皇帝の言葉に周囲の貴族達がザワザワと騒ぎ立てる。

キキュインッゥ・・神と呼ばれた存在から黄金色の呪力のレーザーが複数本放たれ皇帝の呪術障壁と干渉しジジジジッゥ・・と余波が周囲に光熱を浴びせた。

「余と力比べをするか・・面白いっぅ!!!」皇帝が片手を広げて天を突く。

「・・見つけた・・皇帝見つけた・・偽神討つべべべぇぇ・・」瞬時に空間が微睡んだかと思うと神々しく輝く黒いメビウスの輪が宙に出現し・・グググ・・グニャニィィイイッゥと白金色の人型が円状に吸い込まれるように折り畳まれて行く・・

「ヴぉぉお・・ヴぁぁあぁああーーーーっぅ」この世の物とは思えない悲鳴と共に身体が崩壊しつつ成す術も無く圧縮されて行く様は圧巻であった。

「どうした・・神の力とはその程度かっぅ」塵一つ残さず完全に分解され亜空間へと吸い込まれたのを確認すると皇帝は手をグッゥと握り・・メビウスの輪はズゥゥゥンッゥ・・重力の波を放ちながら爆縮して消滅した。

その圧倒的な強さに「見たか、これが陛下のお力だ。」セス卿が一言で言い表す。

「これが・・噂に聞いた、終末戦争でのみ使われるというアンシャクリアのリングか。神さえも滅ぼす黄泉の世界の究極奥義・・まさか現世界で目にするとは。」

想像以上の皇帝の力に俺は驚きを禁じ得なかった。

「陛下、英雄ランス・ギルヴェリア・ナタティアスは意図せずとはいえ陛下に危害を加えました。処分は如何ほどに。」セス卿の注進に間髪入れず「処分するなら俺を処分してくれ。全ては総司令官たる俺の落ち度であり責任だ。」そう主張した。

何があってもギルヴェリアを守る姿勢を貫く俺の意向に「むぅ・・」皇帝は考え込んだ。そうとも、罰せなければ示しは付かないだろう。だが俺を罰するのは皇帝も望むところではないはずだ。

「事情があった故に余に攻撃を加えた事に関しては不問と処す・・大義であった。解散して良し。」その言葉に俺はホッと胸を撫でおろして緊張感を解く。

目の前で起きた突発的な事件に貴族達が興奮気味に語り出して賑やかな風景の中、「貴公の粘り勝ちだったか。今回は譲ったが陛下に仇成す者は我が許さぬ・・ゆめゆめ忘れるな。」そう言い残してセス卿は去って行った。

彼の忠義心には脱帽する。

「やれやれ・・・肝を冷やしたぞい。もしもの時はワシも死を覚悟して戦うつもりじゃったが。」ヴァルザックが苦悶の表情で話しかけて来た。

「ああ・・3人揃って討ち死にするのもそれが運命であるならば受け入れるさ・・選択肢など無い。」

「結局・・ワシ等にギルヴェリアは殺せんかったのう。」

「無論だ。人生を共にしてきた伴侶だ、殺せるものか。」俺はギルヴェリアを両手で抱えると「屋敷まで連れて行く・・ヴァルザック、今夜7時にダヴァデ・アル・ハッサンの酒場で集合だ。」

「おうともさ、浴びるほど酒を飲もう同士よ。」互いに拳を突き合わせ約束の挨拶を交わすと俺達は謁見の前を出てサン・アレクサンドラ・ローを去った。

道を歩むと熱狂冷めやらぬ群集の歓声が飛んでくる。「我々の英雄万歳!!!」「帝国最高の英雄!!!」「皇帝陛下並びにルアオッド様万歳!!」俺はうんざりして口を開いた。

「我々の英雄・・か。英雄崇拝の果てに辿り着いたのは一番大事な仲間すら守れない間抜けな独りの男の姿だ。傑作だな・・」

「ねえ・・ルアオッド。」目を瞑ったままギルヴェリアが口を開いた。

「何だ、目覚めていたのか。」

「私・・憑依されている間・・微かながら意識があったわ。」

「そうか、それは・・」

「一瞬でも貴方を疑った私が馬鹿だった・・」

「歩けるか??」

「もう少しだけ・・このままで居させて。」そう語るギルヴェリアの顔は穏やかで安堵の表情を浮かべて・・非常に満足気であった。

「貴方の本心が聞けてとても嬉しかった・・この30年、貴方と連れ添って・・・間違いなんかじゃなかった、幸せだったんだって・・」

「・・俺もだ、ギルヴェリア。」そのままギュッとギルヴェリアを抱きしめて互いに求めるように接吻をした。初めての行為だったがこうなる運命だったかのように感じられる・・掛け替えの無い親愛の証を言葉ではなく身体で我々は表現していつまでも試し合った。


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