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二十六章 呪われた地

1時間後・・・スズリアサザード南部の荒れ地を斥候部隊の足跡を辿りながら馬で駆け抜け先を急ぐ我々の目前には延々と荒涼とした風景が広がっていた。

人の姿は無くキツネや小動物だけが時折見える・・こんな土地を帝国に編入しても到底価値があるとは思えない・そう思ってると「ねえ!アレを見て!!!」視力が良いギルヴェリアが真っ先に気が付いた。

遠目に何か建物のような代物が見える。

「蜃気楼じゃないのか??」ヴァルザックの疑念に「いいえ、エルフ長老会の免許皆伝者たる私の鷹の目は誤魔化せないわ。間違いなく・・・」彼女は確信に満ちた言葉を口に出した。

「よし、様子を窺ってみよう・・誰か事情を知る者が居るかも知れない。」

「無暗に近づくと危険だ、拙者が偵察に行こうか。」シャドルテルスが提案するも「いや・・危険は承知だ。それに俺達を圧倒する存在がこの地域に居るとは思えない。」即座にその計略を取り下げる。

「貴公の実力に裏打ちされた自負心は頼もしい限りだが・・いつか命取りになるかと不安でもある。」セス卿が何処となく心配する素振りを見せた。彼は俺の理解者でもあるが同時に人の子としての限界を案じているのが伝わって来る。

「俺は長年に渡り、ヴァルザックやギルヴェリアと共に大陸中を旅して来たが・・倒せぬ相手は未だ知らない。驚いたのは伝説のダイアモンドの騎士くらいだ。まぁ後は・・そうだな、可能性があるとすれば我らが皇帝のみか。」

セス卿は咳払いをすると「口を慎んでくれ・・・皇帝陛下、だ。最も陛下が貴公に万全の信頼と信用を置いているのは我も存じている。」その立場上最大限の忠告をした。

「セス、君の忠誠心は疑いようもなく潔白で強固だ。きっと陛下も満足している事だろう。」彼は俺が皇帝とプレイベートで語り合っているのを知ったらどう思うだろうか??


我々は構築物らしき廃墟へ近づくと、そこには朽ち果てた煉瓦状の遺跡が広がっていた。そして無数の死体が散乱している。荒涼とした地で50名の斥候部隊が折り重なるように倒れていた。お互いに剣で刺し合い弓で射られ呪術で黒焦げになった死体が転がっている異様な光景だ。

古代の住居跡だろうか・・廃墟の煉瓦に、「神はただ一人」と血で塗りたくられた文字が書かれてあるのを見て「何だと思う??」俺はこの状況の謎を問いかけた。

「ナルルカティア語だわ・・何かが彼らを発狂させたみたいね・・」ギルヴェリアが血濡れの文字と死体を眺めながら感想を述べる。

「むぅ、高度な精神支配の呪術やも・・妖しげな感がする・・」シャドルテルスは神妙に手を組み警戒感を露わにする。

「どうじゃろう・・ワシ等が目の当たりにしている現状は理解を超えておるわ。」そう言うヴァルザックには金剛の戦斧の加護がある・・発狂や混沌をもたらす何かが居るのであれば彼が頼りになるのは明白だ。

「この遺跡そのものが幻覚かも知れぬ。ルの者は人を巧みに欺くのが常套手段だ。各々油断召されるな・・既に術中の可能性すらある。」セス卿の一言に我々は押し黙って周囲を見渡した。


照り付ける太陽がジリジリと場を蝕み時の流れが緩慢に感じられ・・ただ風だけが音を切って我々の沈黙をより確かなものにしている状況で・・俺は思案した。

ルの者は死者の魂を貪欲に喰らい力の増幅の糧とする。その為に人がより大勢死ぬのを喜び望む。斥候部隊の死者数を考えれば数段階は強化されているだろう・・・早期に滅ぼさなければ厄介な事になる。

「ひとまず手分けして手掛かりを探そう。セスとシャドルテルスは死体を調べてくれ。俺とヴァルザックは建物の中を調べる。ギルヴェリアはこの場に接近する者が居ないか見張りを頼む。」

「了解じゃ。」「任せて。」「うむ・・」「了承した。」

指示を出して全員が行動に移った。

「ヴァルザック、俺は北側から行くから南側から頼む。」

「おうともさ。何が潜んでいるか分からんからの・・不意打ちを喰らっておっ死ぬんじゃないぞ。」ヴァルザックの危惧の念に「心配無用だ・・ルの者如きに遅れは取らない。」片手で応じると俺は北側の建物を目指した。

遺跡の規模はそこまで広くない・・短時間で探索は終わる。

「さて鬼が出るか蛇が出るか・・ん?」ふと擦り付けたような血痕が建物の中へと続いている事に気が付く。誰かが這いずった後だろうか?生存者が居るのであればこの謎のアクシデント解決の糸口となる。急いで竜眼で照らしながら中へ入った。

血痕は地下へと続いている・・恐らく、狂乱の殺し合いから逃げ延びようとしたのだろう。地下の階段を降りていくとそこには壁に身を寄せ横たわった帝国兵の姿があった。

「おい!!大丈夫か!?」肩を揺らすもゴトッゥと上半身が床に崩れ落ち・・既に事切れているのが分かる。無惨にも腹部にある深い切り傷が致命傷のようだ。

「さぞや無念だったろう・・仇は必ず討つ。安らかに眠ってくれ。」俺は名も知らぬ兵士の魂が救済された事を祈りつつ探索を続けた。


人が生活していた気配はまるで無い・・相当昔に放棄され街ごと廃墟となったこの場所に何故斥候部隊は留まったのか??誰かに誘き寄せられたのか・・上層階には古い人骨が散らばまっていた。風化しており踏むと粉屑のように塵となる。

「遥か古代に虐殺でもあったか・・埋葬する余裕も無かったようだな。」

本棚に革のカバーだけがいくつか残されており手に取ると大陸の文字が微かに確認出来る。「グワバ・・とファリエッツラの卵焼き・・」どのような内容だったのか今となっては知る由もない。だが、まだ双極半島独自の文化が芽生える前の時代の名残りなのは確かなようだ。

次の建物に行くとやはり上層階に古い人骨が散乱しており・・壁一面に石で削ったと見られる文字を見て俺はハッとなった。「神はただ一人・・か。」どうやら古代にここで起きた虐殺と今俺達が探っている謎は同一の代物のようだ。

やはりこの事象の元となるのは人間では有り得ない・・

「だが・・何故、神なんだ??」俺は推古した。

天使や悪魔を奉り・・あるいは忌み嫌い・・壁画や文章に残した事例は数多くあれど神の文字を残すパターンはそう多くは無い。

何故なら天使や悪魔は現世に実在するが神という存在は現在において実在しない。皇帝の話が本当ならば。神は滅んだのだ。仮に・・神の生き残りが居たとして人の子がそれを打ち破る事は可能なのだろうか。

俺は首を振ると気の迷いを捨て「馬鹿馬鹿しい・・」吐き捨てた。

入口付近からドカドカと馴染み深い足音が聴こえてくる。

「ヴァルザックか?」

「おう!!調べるのがえらく遅いな・・ワシはもう5カ所巡ったぞ。」文句を言いつつヴァルザックが駆け上って来た。

「むぅ、やはり人骨があるのう・・」

「やはり・・か。何処も同じのようだな。何があったのか大体分かった、引き揚げよう。」


30分ほど経過して我々は調査を終えると集合した。

「まず俺から言わせて貰おう。建物の中は遥か昔に争いで死んだと思われる人骨だらけだ。そしてあの血で塗られた文字と同一のモノが建物の内部に刻まれていた。今回と同様の現象が過去にも起きていたようだ。他に何か分かった事は??」

シャドルテルスが一歩踏み出ると「拙者とセス殿が調べた限り死者の傷は全て同士討ちの結果によるもので、ラの者やルの者の痕跡は見当たらず・・48名の遺体を確認し・・1名分足りない。」と報告をする。

「それに関しては1名の遺体を建物内部で発見した。数は合う。」

「なるほど・・承知。」

「私からは何も無いわ。退屈な身繕いをするサソリと、トカゲが走り回ってるのを眺めていただけ。」続けてギルヴェリアがつまらなさそうに報告をした。彼女にとって不相応な任務だったかも知れないが何事も無かったのは結果的に幸いだった。調査中に強襲を受ける事態だけは避けられたのだから。

「して・・どうする??もう少し広範囲に探ってみるか??」

ヴァルザックがそれとなしに聞いて来る。

「いや・・この場に留まる。この遺跡には間違いなく何かが居る。」

「英雄として恥ずべきか・・拙者にはどうも気味が悪い・・嫌な予感がする。」

シャドルテルスが整えた死体を眺めながら正直な心境を表す。

「何かが居る・・それはルアオッド、歴戦の勇者たる貴方の感かしら??」

ギルヴェリアの問いに「ああ、そうだ。俺達がここに来てから絶えず何者かに監視されているような気がする。様子を窺ってるような・・」俺は自らの信じる直感を口にした。

「我には何とも言えん・・が、貴公がそう言うなら待とう。ただ夕方までには城に戻るべきかとも思うが・・」セス卿が時限的な注文を付ける。兵士を放っておくと指揮に関わる可能性を配慮しての事だろう。

「もちろんだ。2時間ここで待機する。何も起きなかったら・・」

「誰か来るわ・・」ギルヴェリアの声に全員が振り向いた。

地平線の彼方にラクダを引き連れた人の姿がこちらへ歩いて来るのが見える。「皆、警戒してくれ。何者か分からん。」

すぐに竜眼で宙に拡大の呪文を唱え映す。

そこには黒いガウンを身に着けた、端麗で髭面の容姿をした青年が無表情で歩いている外観が映し出された。「独りだな・・行商人には見えない。こっちへ真っ直ぐ向かって来る・・旅人にしては何か不自然だ。」俺の見解に「怪しい動きをしたら即座に百里眼で狙撃するわ。頭を撃ち抜いてやる!!」ギルヴェリアが弓を構えて意気込む。

「待て、人間の可能性もある・・油断せず、しかし敵意は示すな。」制止すると我々は謎の来訪者を待ち構えた。青年は我々に気が付いた気配も見せず・・だが淡々と歩みを止めずに接近してくる。

まるで最初から対面するのが分かっている風に・・

息を飲んで彼が到着するのをただひたすら緊張感を保ちながら望むのは、精神的な圧迫感を感じられずには居られなかった。

とうとう青年は目の前にまで辿り着くと・・ピタリと立ち止まり、

「やあこんにちわ・・人に会うのは久しぶりです。」挨拶をして来た。無数の死体を前にして平然としている異常性に俺はすぐに竜眼で見通すがルの者でもラの者でもない。

「・・君はこの惨状を何とも思わないのか??」呪術士かも知れないと考えつつ、疑問を投げかけてみる。

「戦争でしょう。人が死ぬのは当然の話です。それとも私を殺してみますか??」我々の真意を推し量るかのような意外な返答に少し戸惑いながらも「いや・・そのつもりは無い。君が危害を加えないのであるならば。」と断りの文句を宣言しつつ「君は何者だ??商人や旅人には見えないが。」問うてみた。

「私は巡礼者です。この地は・・聖域として私の故郷では知られています。貴方達のような異邦人には分からないでしょうが。」青年は臆する事も無く静かに、だが強い言葉で応じる。

「・・ルの者の信奉者か。この遺跡に巣食う悪魔について、何か知っているのなら教えて欲しい。」

「それを知ってどうしようと言うのですか??」

「討伐する。ルの者は人に災厄をもたらす・・ナルルカティア帝国にラの者やルの者は不要だからな。」

我々の意思を伝えると青年はフフッゥと微笑して「貴方達は勘違いをしている・・ルの者は私の崇めるところではありません。」と断じた。

「ルアオッドよ、こやつはどうも怪しい・・拷問にかけてみるべきじゃないか。」ヴァルザックの不穏な発言に「いや・・この者はただの人間だ。拷問は俺の道義に反する。」即座に反論する。

「貴方らしいわね・・・で、どのような理由でこの遺跡が聖域なのか教えてくれるかしら??」改めてギルヴェリアの質問が飛ぶ。

「この地に足を踏み入れた存在は何者も等しく、精神を蝕まれ気が触れてしまうと言われています・・が、人知を超越した万物の長が悠久の時を経て再誕する場所でもあり、それを信じる選ばれし民だけが正気を保てるのです・・私のように。」

「なるほど?では、我々は発狂して死んでしまうという事か??」セス卿が我々に来たるべき命運について尋ねた。

「はい、残念ながら・・時に貴方達は神を信じるか??」

「いきなり何だ?・・俺は無神論者だ。」

「私はエルフの神々を信奉しているわ。」

「ドワーフに神なんぞ必要あるモノか。」

「無礼な、皇帝陛下こそが唯一の神だ。」

「拙者には神を論じる程の知見など無い。」

銘々が語る中、青年は微笑して「神はそこに居る・・」

彼はシャドルテルスを指差した。

「!」

全員の視線が集まり「拙者はただの人間だが・・」シャドルテルスがそう言いかけた途端に・・「!?」言葉に詰まった彼は続けて言った。

「消えた・・」

振り返ると、忽然とラクダも青年もまるで最初から存在しなかったかのように消滅していた。

「何じゃと!?」「まさか!」「何奴!?」「これは・・マズイな・・」

我々は言葉を失って呆然と立ち尽くす。

不気味な得体の知れぬ何かが起きているのは間違いない・・・背筋に冷や汗が流れ落ち理解を超えた現状について答えが出せないまま時が刻一刻と過ぎ去って行く。風だけが唸り声を上げて沈黙する我々を包み込んでいた。


「ねえ、ルアオッド・・」ガシャンッゥ!!!何かが割れる音が響いた。

「!!」

「ひ!ひぃぃ~~悪魔じゃっぅ悪魔の仕業じゃっぅ!!!」突如瘦せこけた老人が建物の中から這い出て来た。ボロボロの衣服で明らかに狼狽しており、取り乱して叫んでいる。

「たっぅ助けてくれっぅ・・あっぅ悪魔がぁぁ~っぅ!!!」

「生存者が居たのか!?」セス卿が近づこうとした瞬間「待て!!」俺は怒鳴って止めると「ヴァルザック・・さっきは居なかったな??」

「ああ・・おらんかったわい。」

俺は無言で光輪の絶牙を抜くと、一閃させた。老人の顔面擦れ擦れに空間が後ろの建物ごと切断され衝撃波で老体が髪を靡かせながらよろめく。

「お・・お助けをぉぉ~~わしゃただの・・」腰砕けにガクガク震えながらへたり込む老人に「勘違いではないか??」シャドルテルスが疑義を呈するのを無視して「下手な芝居は止めろ・・俺の竜眼を欺けるとでも思ったか?貴様が人間でない事は分かっている・・正体を現わせっぅ!!!!」

「ひぃぃ~~ひょぉぅぁあああーーーーハッハッハァァアア!!!!!」みるみる老人の身体が巨躯で凶悪な悪魔の身体に変貌して行った。

「!!!」

その場に居た全員が飛び退いて散開する。

「ゴヴァァアァァアッゥ」悪魔の目から真っ赤な光線が怒涛のように溢れ迸り・・ドグォオオッゥバゴンバゴッォオオオーーーッゥ大地が割れ次々に爆発し砂の爆煙が濛々と立ち込める。悪魔の右手に持つ巨大な三叉槍が宙を薙ぎ途端に灼熱の熱風がブワァァーッゥゴウンッゥと瞬く間に後方へ駆け抜けて行き、地獄の業火が燃え広がった。

「アチャチャッゥ・・!!!」ヴァルザックの悲鳴が聴こえる。

「むぅぅううんっぅ!!!」セス卿が呪術障壁を張りながらライトニングブレードを手に突撃していくのが爆煙の最中に垣間見えるも次の瞬間、三叉槍がその身体をズンッゥ・・・鎧ごと串刺しにすると空高く高々と掲げられた。ブラブラと力無く揺れるセス卿が人の無力さを物語っているかのようであった。

悪魔の左手が急激に伸びドコォォオンンッゥ・・ヴァルザックを灼熱の大地に埋め込んだ。

「人間風情が我らが王国を滅ぼせると思ったかっぅ皆殺しだっぅガハァァアアアーーーッゥ!!!!!」

猛々しく咆哮を上げる悪魔は人々の上に君臨するのが当然だとでも言わんばかりに・・いや、今までも人々をゴミのように扱って来たのであろう。真っ赤な光跡が流れ続け周囲を爆破し視界を遮る。竜眼を防ぐ方法を知っている手練れのルの者は久方ぶりだ。

シュッゥシュンッゥ・・・炎と爆煙の中、影が飛び走り呪符石で作られたクナイが目にも留まらぬ速さで矢継ぎ早に放たれる。「影縫いの術であるっぅ!!!!」

「ガハッゥ!?」

シャドルテルスの奥義が炸裂し悪魔の動きを封じた直後に間髪入れず漆黒の球体がギャルギャルギャルゥゥウーーーッゥ猛スピードで迫りガゥゥンンッゥその横腹を空間ごと消滅させた。

「ウルァァア゛アーーーッゥ!!!!」巨大化した金剛の戦斧が悪魔の左腕と右肩を同時に切断したかと思えば2体のセス卿が「我セスが写し身を知らぬか下郎っぅ」2本のライトニングブレードで悪魔の足と下腹部を滅多刺しにして崩れ落ちる巨躯の上半身目掛けて俺は光輪の絶牙を高速乱舞した。

「ヴぁっぅ馬・鹿・・なァァアア・・」幾重もの光の軌跡が空を駆け巡り・・悪魔の上半身が6分割されバラバラと不浄の肉体が地に墜ちた。


「片付いたな。セス、一瞬ドキリとしたよ。」

「我とて英雄の端くれ・・心配無用。」そうとも、彼の強さは剣を交えた仲であるからこそ知っている。

「ワシは火傷をしたぞ。ギルヴェリアおぬし頼む・・」障壁を張れなかったヴァルザックは苦い顔をしていた。

「ドワーフの身体は頑丈ねぇ・・任せて頂戴。」ギルヴェリアがすぐに接触呪文で彼の身体を癒し始める。

「シャドルテルス、貴公の腕前も中々のモノだ。」セス卿が右手を振って賞賛したが反応は無い。

「・・けた・・」「ん?どうした傷でも負った・・」

バキッゥバキャッゥセス卿の鎧が部分的に砕け・・クナイが2本刺さっていた。

「っぅ何!?」

俊足で漆黒の刃が抜刀され斬り掛かる彼を「ぐぅ!!何だ、どうした!?」反射的にライトニングブレードで受けたセス卿は心底驚いていた。

「シャドルテルス!?」俺も光輪の絶牙を構えて何が起きてるのか理解が追い付かぬまま警戒する。

「英雄・・見つけた・・見つけた・・逃がさない・・」

「!!!」一斉に散開し距離を取った。

「そのまま!!!止まりなさい!!!」ギルヴェリアが弓に矢をつがえ叫ぶや否やクナイが放たれ彼女の影を縫った。「うっぅ動けな・・」

電光石火の疾駆で漆黒の刃がギルヴェリアを貫く寸前にッキィィンッゥ光輪の絶牙で横から受け止め流れるように逸らすとドンッゥ・・ギルヴェリアを突き飛ばして影縫いの呪縛を解いた。

「助かったわ!!!」

ガキィィンッゥガキャッゥ・・俺とシャドルテルスは真正面から斬り合い出し・・「くぅ・・速い!!!」身体強化呪文を4段階重ね掛けして互角である。

ガギギギ・・・鍔迫り合いの最中にも「英雄・・見つけた・・見つけた・・」彼は完全に正気を失っていた。仮にも英雄だ・・手加減して勝てる相手ではない。

セス卿もヴァルザックも攻撃を躊躇していた。彼を殺すのか??その後は??

「ヤァアアーーハッハッハッゥ!!!」ドスドスドスッゥ・・ギルヴェリアの放った矢がシャドルテルスの背中に刺さる。ガキュゥァアアンッゥ互いの剣が交差した直後にシャドルテルスは飛び退き反転してギルヴェリアに突進した。

「エルフの神々よっぅ今一度力無き者に力を与えたもうっぅ!!!!」

詠唱で呪力が輝くその両手から無数の氷結の刃がかまいたちのように至近距離からシャドルテルスの身体を切り裂いて行く。

ズバズバズバッゥ・・バシュゥッゥ・・

とうとう体中から血を噴いて彼は膝を突いた。

「ルアオッド、甘いわよ・・」

「ギルヴェリア・・俺は他の方法が無いか・・いや、これで良かったのかも知れん。」

俺達は動けなくなった彼を遠巻きに囲んだ。

「ふむ・・正気に戻すには??」セス卿が誰にともなく問いかける。

「何らかの呪術ならば解呪が有効かも・・ねえルアオッド??」

「ああ・・既にやっている。」俺は目を黄金色にキラッゥキラリッ・・燐光を発し煌めきと共に竜眼を発動させていた。

「・・ない・・」

ブルブルと身体を震わせシャドルテルスが何か呟く。

「・・・」俺達は固唾を呑み見守りつつ次の言葉を待つ。

「もう・・要らない・・英雄見つけた・・もう要らなヴぉっあばばぎゃゃげっぅ」・・ブシューーッゥドシャァッゥ・・全身から血が噴き出たかと思うと、内側から破裂し内臓をブチ撒けて息絶えた。

「!!!」「これは・・」「マズイのう・・」俺達は動揺しつつ顔を見合わせる。

「なあ、セス・・俺達が出会った時のことを覚えているか??」

「うむ。我がサン・アレクサンドラ・ローに向かう道中で貴公が陛下に謁見したいと申し出て一騎打ちをして・・貴公が勝利したのだ。忘れようモノか。」

「ヴァルザック、俺達が最初に会ったのは??」

「ドワーフ黄金の地下王国ラヴァニラロクで力比べをした時じゃ。もちろんおぬしの勝ちであったな・・その晩に盃を交わし飲み比べではワシが勝った。」

「じゃあルアオッド、私と初めて出会った時の事は覚えてるわよね??」

「ああ・・聖地ヴィヴェ・ル・ゼヴィナニアでオクタの竜眼を披露した時に熱烈に羨望と興奮の眼差しを向けて同行を求めたのが君だったな・・」

「ええ・・安心した、少なくとも今は全員正常ね・・」

こんな言葉遊びに何の意味もないとは分かっているが少しでも不安を払拭しておきたかった。

「この現象は呪術でも刻印でも無い・・我々では解決不能だ。」全員沈黙して複雑怪奇な状況に打開策を見い出せず空気が重苦しくなる。

「いや・・皇帝陛下ならば或いは・・危険だが・・即刻帰国すべきか。」セス卿の提案に「ああ、そうだな・・任務は成功した。陛下に報告をしよう。もし俺が錯乱したらその時は介錯を頼む。」

「私も何かあったら殺して・・覚悟は出来てるわ。」

「ワシもじゃ。遠慮は要らん斬り捨てろ。」

ギルヴェリアもヴァルザックも以心伝心で心構えは同じだ。

「我セスも同意する。心失くして生きるは英雄に非ず。名誉の死こそが相応しい。」そうして全員が誓いを立て我々はナルルカティアへ戻る決意を固めた。


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