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二十一章 監督官ヴェルドラ

それから1時間後・・「ようし、皆揃ったな・・準備は良いか??ギルドメンバー15人、火消屋3人、リシャーヴ関係者5人、日雇い人夫5人、ここにパーティーを結成する。仕事は魔獣の討伐。目的地はダダールブルクの森北側。早歩きで4時間半かけて強行軍をする・・では出発しよう。」マニファンの号令で我々は冒険者ギルドを発ち足早に歩き始めた。

「んでよぉ~~空振りに終わったら往復9時間無駄足って事か?冒険者たあ地道な努力をするモンだな・・」ウィルが保存食の野ネズミジャーキーを齧りながら適当にぼやく。

「ディールの為なら徒労でも・・とにかく動くしかないのが冒険者よ。さもなくばチャンスの機会は得られないから。彼等だって必死よ。」少なくともウィルよりは冒険者に詳しい私の解説に「そういうもんか・・苦労してんだなぁ・・」いつにも増して呑気な返事だ。

「騎士団は任務の成否に関わらず給料が支払われる・・ウィル、お前は恵まれてる方だ。」シンが横から口を出した。

「へいへい、剣術の達人様は言う事が違うねえ・・給料分の働きをしていないんだって俺への当てつけか??」ウィルは些か不服な顔をしてブー垂れる。

「誰もそんな事は言ってないわよ・・ねえ?」間を取り成してみるも

「お前はまだ若い、エリューヴィンは将来性を見越しているんだ。人として従者として成長しろ。」シンの年長者としての熱意ある忠告が飛んだ。

「分かってるよ、んなこたぁ・・俺にはシンおめえのような腕っぷしもナッセルの爺さんのような呪術もねえ・・一応それなりに努力はしているがよ、才能が違う。まぁ・・俺なりに成長してみせるさ。」

「ああ・・それで良い。」シンとウィルは真逆の性質をしているが私にしてみればどちらも必要不可欠な存在だ。

「その昔に誰かが言ってたわ・・・ナンバーワンに成れないのならオンリーワンに成れってね・・」

「お姉さん良い事言うね!冒険者はオンリーワンの集団さ。どれだけ独自色を出せるかが大切なんだ。」ズクラッドが賛して意見を述べる。

「へえ、確かに坊主は個性が光ってるもんな。」

「兄ちゃんジャーキーおくれよ。オイラお腹空いてきちゃった・・」

ねだるズクラッドに「ネズミので良ければくれてやるよ。ビーフジャーキーは高いからな。そうら・・」ウィルは袋から一切れ取り出すと手渡した。

「ありがと!!えへへ・・知ってるかな?契約が取れない冒険者はネズミ喰いって言うんだよ。」

「なんだそりゃ??」

「ディールの無い底辺冒険者がネズミを捕らえて食べて飢えを凌ぐのが元になった諺さ。」

「差し詰め、私達はリシャーヴ騎士団のネズミ喰いかしらねぇ・・」貧困な第13騎士団を嘆く私に「ほっほっほ・・・そりゃ大した仕事しとらんからのう・・さもありなん。」ナッセルが仕方ないとばかりに語る。

「俺も喰ってけりゃそれで良い。」ウィルも同意した。騎士団で軽んじられている現状に不満を持つのは私だけだろうか??


「ほほう、うら若き貴方の所属は第13騎士団ですか・・・騎士団での待遇に満足していますか??不満は??転職を考えた事は??」ヴェルドラがにこやかに話しかけて来る。

「何よ・・それって冒険者ギルドに勧誘でもしてるつもりかしら??」憮然とした態度で突き放すと「これは失礼・・ですが貴方ほどの女性ならば・・この私の責任においてそれなりの待遇・役職をお約束致しますよ。リシャーヴという辺境の地に甘んじて封じられているのはあまりに不憫ですから。貴方にはもっと相応しい人生の舞台が約束されているハズ・・そうでしょう??」

私の生い立ちやしがらみや都合も、全くお構いなしに慈善活動でもしている気だろうか・・彼は流れる様に捲し立てた。

「おいそんなの相手にするなって・・」ウィルが苛立ったように横やりを入れる。

「ん、そうねぇ・・あと少しだけ話がしたいわ。」

「おぉ!!!麗しき貴方、喜んでお相手しますとも・・・今ひととき会話を楽しみ貴方の声で私の心を満たして下されば身にあるまじき光栄です。」鼻に付く物言いに嫌気が差しつつも私は疑問を口にした。

「一つ聞きたいわ。私の肌色・・双極半島出身の人間じゃないのは明確よね。だから私に興味を持った・・違うかしら??」

ヴェルドラはフフッゥと微笑し、「半分は・・その通りです。ですがそれだけでは足りない・・」

「残りの半分は??」

「魂の煌めきですよ。貴方の汚れ無き魂はとても美しい色をしている・・・そう、ここまで強く魅了される抗い難い魅惑的な魂の煌めきは初めてですとも。」

予想外の返答に私は言葉を失った。魂??美しい色??何を言っているのか。

「さっきからベラベラと口から出まかせを吐く奴だ・・我らが騎士様よぉ騙されるなコイツは詐欺師だ。」「・・大方幻覚剤でもやってるんだろう。」ウィルとシンが否定的な意見を述べ「ふむ・・魂が視えるじゃと・・聞いたことも無いわい。」ナッセルも呆れた息を漏らす。

「待って・・・私の出自を知っているの!?」私は話の核心を突いた。どうしても知りたい私の生まれや過去を彼は分かっているような、そんな淡い期待を・・藁をも掴む気持ちで抱いている自分にも驚いたが思わず問うた。

「分かりますとも・・・貴方が何処から生まれ何処へ辿り着く運命にあるのか・・私の目にはハッキリと。ただ・・今は言えません。」思わせぶりなセリフに

「今は!?アンタと一緒に居るのは今だけでしょ!!勿体ぶらないで教えなさい、どうしても知りたいの。」一心不乱に問い詰める。

「駄目です。先ほど招待状をお渡ししました、機会があればいずれまた会えます。もっとも貴方にその気があれば・・の話ですが。」ヴェルドラの何処か匂わせたような誘惑な口調ぶりに私は溜息を付いた。

「・・・そう、だったら構わないわ。招待状は・・気に留めておくから。」

「おいおい、まさか本気かよ!?バン・ガリトゥーレってそんな処に行く暇なんて無いだろ。王都での仕事はどうすんだよ?」ウィルのもっともらしい指摘に・・「アンタは黙ってて。これは私の問題よ。」関係ないとばかりに口走った。自分でも彼を信じて良いのか懐疑的だが手掛かりは失いたくない。

「エリューヴィン、真に受けすぎだ・・少し冷静になった方が良い。」シンが忠告めいた助言をするが彼の知っている私と私が知りたい本当の私は違う。

「そうね・・そうかも。」生返事を返しつつも心は揺れ動いたままだ。

「親愛なる私の貴方、人生は長い・・・真実は然るべきタイミングで知るべき時に知るのが一番です。今はその時ではありません・・運命の巡り合わせに身を委ねるのです。今日私と貴方が出会ったのも・・」

「やめて。私は運命は己の力で切り開くわ。ただ、アンタが私の何かを知っている風な語りをするから少し興味を持っただけ、それだけの話よ。」

「これは失礼・・貴方がそう仰るなら私からは何も。」

しばし沈黙の後に「で、アンタは何者なの?武器を持ってないようだけど・・呪術でも使えるのかしら??」訊いてみた。

ヴェルドラは両手を広げて「私は監督官ですよ。観光本部長も兼ねて本来はバン・ガリトゥーレへ招かれた主賓への観光案内が仕事です・・が、人手不足でしてね。煩わしい火消屋の統率を任される時も多々あります。だが不本意じゃない。貴方と出会えた。」

そう笑顔で応じる彼を一瞥すると「もういいわ。話は終わり。悪いけど・・アッチ行ってくれる??」邪険そうに言い放つ。

「もちろんですとも、お望みのままに・・忘れないで下さい、王家や聖職者の言葉に耳を傾けてはなりません。貴方が今まで以上に、より貴方らしく輝けるのは・・意志の力次第です。権威やディールに流されるだけの世の愚か者どもは本質を理解していません。ではまた・・・」そう言うとヴェルドラは火消屋の仲間の元へと、去って行った。

「随分ときな臭い奴だな。」シンが怪しむようにその後ろ姿を睨みながら言い放ち「ああ、胡散臭い野郎だ。俺達を小馬鹿にしてやがる。」ウィルも腹立たしく吐き捨てる。珍しくシンとウィルの見解が一致してまるで私に悪い虫が付くのを嫌っている風にも感じられた。

「あやつ・・リシャーヴ王家や聖職者を蔑ろにする発言は・・極めて危険じゃな。エリューヴィンよ、決して惑わされるでないぞ・・言葉巧みに人を意のままに扱う怪物やも知れぬ。」ナッセルが強く警告を発する。

「えぇ、王家への侮辱は騎士たる私への侮辱も同然だわ。彼は信用出来ないかも。でも・・」私は底知れぬ悪意と深淵の闇に触れたのかも知れない・・だが好奇心を捨てきれずにいた。

「なあ・・・そんなに過去が重要かよ?大切なのは今だろ。おめえが騎士の立場をかなぐり捨てて出奔したら俺達はどうなるって・・我らが騎士様にはしっかりして貰わないと困るぜ。」仲間だろ??と言いたげなウィルの心配したセリフに・・

「・・ちょっとした気の迷いよ。本気になんかしてない。大体私が居なくなったらアンタの面倒を誰が見るのよ。」冗談めいた風に場を和やかすも「俺はお前さんがリシャーヴの騎士を辞めてまで何かを求めるならそれを止めはしない・・だが奴に付いて行くのはよく熟慮を重ねてからにしろ。誤った道の可能性が高い。」流石に気心の知れるシンは私の本心を見抜いていた。

「お姉さん、冒険者ギルドの本部勤めなら高級取りだよ。悪い条件じゃないと思うけどなぁ・・・」

何のしがらみも無いズクラッドが第三者視点で無責任発言を飛ばして来る。

「で、坊主・・ヤク中のおめえから見てアイツはどうなんだ??」

「うーん・・大分やっちゃってるね・・末期症状かも。」


しばらく私達は語り合いつつ4時間近く歩き・・ダダールブルクの森の近傍にある小さな町に到着した。ぞろぞろと町中を歩く我々を、人々が不安気な表情で見守るように眺めている。

どうやら我々が何の為に来たのか察しているようだ。

「ここが前線拠点ってトコかしら??」町のどんよりとした風景を眺めながら私は口を開いた。

「恐らくそうだろう・・今夜魔獣が現れなかったらここで一泊か。」シンが何処となく今後の道筋を推測する。

「こりゃまた随分と寂れた町だなぁ・・活気もクソもねえぞ。見ろよ、笑顔の欠片もねえ。」ウィルが嫌だねえ・・とばかりに語るがいつにも増してこの男は頓珍漢である。

「近場で害獣事件が多発してる真っ最中に笑顔だったら逆に怖いわよ。何言ってんのよ、もう。」

「そりゃそうか。」

「ここはバーシリーという町さ。手織りの織物が盛んでシイタケやキクラゲの栽培でも有名だね。後は家具などの木工品も作ってるよ。ただダダールブルクの森の木は上質じゃない。」ズクラッドの説明に「あらおチビちゃん流石に詳しいわねぇ。キノコの御馳走でも食べれるのかしら??」何気なく反応すると「シイタケなんか喰っても腹は膨れないし有難みなんかねえだろ・・・」ウィルが冷ややかな口調を浴びせて来る。

「あらキノコは身体に良いって言うわよ。アンタ肉ばっかり食べてて痛風になっても知らないんだから。」

「ほっほ・・・ウィルよ、キノコは神からの贈り物としばし言われる食物じゃぞ。喰わねば罰が当たるぞい。」ナッセルの脅し文句は実に良く効く。

「分かったよ、出された時はきちんと喰うから・・キノコ。」イチコロだ。

そのまま教会の近くまで来ると裏手に回り・・開けた土地に墓石が並んでいた。「墓ね・・」「墓だな・・」

我々を引率して来たマニファンが振り返り、全員に大声で伝えた。「今回の仕事は死者が出る可能性がある!!・・ので、町の住人の協力で穴を掘って貰った。この墓場に犠牲者の死体を葬る。」見ると無数の穴が掘ってある。10は下らない。

「ここの町の人間はどんだけ俺達を殺す気なんだ??」ウィルが髪を搔きむしりながら呆れ顔で疑問を投げかけた。

「さあね・・私達じゃ餌にしかならないって思ってるのかも。丁度良いからあらかじめ言っておくけど、私達仲間の命が最優先よ。余裕があったら冒険者も助ける、そのつもりで。」

「オ、オイラも仲間だよね?ね??」

ズクラッドがまるで哀願するかのように聞いて来る。

「もちろん当然よ。おチビちゃんが居なければ今後の任務に支障をきたすから。」ホッゥと胸を撫でおろすズクラッドに「安心しろ坊主、我らが騎士様はこう見えても義理堅いからな。」ウィルの信用しろとのお墨付きが飛ぶ。

「エリューヴィン、お前さんの強さは承知だが決して先走るな。ガレアスの魔獣は凶悪無比の強敵だ。万が一の事があれば・・俺は責任を取れん。」シンが私の身を案じてくれているのは嬉しいが・・本音を言えば心配性に過ぎる。

「シン・・有難いけど私だって一応は騎士の端くれよ。いざとなれば先頭に立って戦うのは義務だわ。まぁお互いに気を抜かずしっかり仕事をこなしましょ。」

「ん、俺も従者としての責務は果たすつもりだ。」彼との心地よい緊張感はいつも私の心を満たしてくれる。

「よぉ、先ほどは礼になったな・・」

赤毛のレイファンスが近寄ってきて挨拶して来た。

「こちらこそ。非礼も無礼も一応は礼かしらね・・で?」皮肉交じりに応えながら何用か問いただす。

「へへ・・もう墓に入る準備は出来たか?まだなら言ってくれ、いつでも後ろから突き飛ばして魔獣に喰われる様を見物してやるよぉ・・」悪意の籠った文句に気を害す事もなく「墓に入るのはどちらか獣相手にチキンレースでもしてみる?そんな度胸も無い癖に。」私は平然と言ってのけた。

「お前が死ぬのが楽しみだ。俺は安全な後方から、お前の断末魔と肉と骨が砕ける音色をじっくりと堪能してからディールだけ貰う。精々頑張りな、リシャーヴの屑が。」そう吐き捨ててレイファンスは去って行った。

「あのクソ野郎を今から墓に突っ込んでも良いか?」ウィルが腹立たしく激昂するも「よしなさい、好きに言わせておけば良いわ・・あんなチンピラに構ってる余裕なんて無いの。」私は制止して相手にする価値すらないと心の中で己にも言い聞かせる。

職務上様々な人間を見てきた経験から、他者へ悪意を向ける者は常にその捌け口のターゲットを探し求め一度ロックオンすると相手が消えるまでは嫌がらせを続ける傾向にある。この仕事が終わり私達が冒険者ギルドから消えればそれで済む話だ。いちいち馬鹿正直に付き合うのは時間と心の無駄でしかない。


我々一向はバーシリーの町を発ち再び歩き始めた。いきなり墓地を見せ付けられた冒険者達は少し気落ちしているようだった・・・会話も少なく皆表情も暗い。ただヴェルドラだけがニコニコと笑顔で何やら語っている。

自分だけは死なないとでも思っているのだろうか??死は誰にでも平等だ。無論、私とて例外ではない。

「さてと・・最後の一服をしておくかの・・」ナッセルが落ち着いた表情で紙巻き煙草を取り出す。

「爺さん、俺も吸うぜ。火をくれよ。」ウィルも乗じる。煙草は精神を安定させる作用がある・・彼等なりの戦いの準備と言ったところか。

「お姉さん・・クスリ、全部捨てたって言ってたけど・・一つくらい残って無いかな??ちょっと緊張しちゃって・・」ズクラッドがモジモジしながら聞いて来るが「本当に全部捨てたわ。自分を信じなさい。私はアンタを信じてるから。」任務中は決してヤク中に戻さない決意と励ましの言葉を送った。

それにこんな任務のついでの資金集め程度で死なれては困る。時計を見ると18時過ぎで夕暮れに差し掛かっていた。

「よぉーし、そろそろ日が暮れる・・事前の打ち合わせ通りにグループへ分かれてくれ。リシャーヴョンはそのままで良い。ズクラッドもだ。」マニファンが指示を飛ばす。

彼はリーダーシップを見事に発揮しているかのようだ・・ギルドマスターとしての才能は申し分ない。ヴェルドラはこんな人材と蔑んでいたが、計画・作戦・指揮、用意周到・・いずれにおいてもその能力を否定する事なんて有り得ない。疑いようも無く私よりはリーダーとしての素質はある。

その場の全員が7つのグループに分かれると、「良いか!?森の南側で標的が囮に喰らい付いたという情報が届いた。よってそれぞれ700トーリア程度離れて散開してダダールブルクの森北側周縁部を行軍する。魔獣を発見したら会敵信号を打ち上げてくれ。閃光弾を確認したら全員即座にその場へ向かう事。だが無理はするな・・ケリは火消屋が付ける。可能な限り時間稼ぎをするんだ。では作戦開始だ、行こう。」マニファンの合図の元我々は行動に移った。

徐々に散開しつつ森の方へと歩き出す。他のメンバーと距離が離れて行き・・私はすぐにスイッチを切り替えた。

「良い?臨戦態勢に入るわよ・・・魔獣と接触したら私とシンが直接対峙するわ。ウィルはサポート、ナッセルは戦況に合わせて臨機応変に呪文の詠唱をお願い・・おチビちゃん、ちょっと早いけど照明の呪文をよろしく。」

マニファンの作戦が功を成すか裏目に出るかは分からない・・が、出来る事をするまでだ。

「おう、任せとけって!」「了解じゃ。」「オイラも本気を出すよ、見てな・・」ズクラッドがハーモニカを取り出すとたちまち美しい音色を辺りに響かせだす・・と、同時に頭上に発光する球体が出現し周囲一面を照らした。声で歌う時よりも、広範囲かつ明滅も少なく安定した明りを灯している。

「上出来ね・・さ、他のグループともっと距離を取って前進しましょう。」刻一刻と夜の闇が忍び寄る中、私達は注意深く森の周縁部へと歩を進める。

「エリューヴィン、巻物は??」途中シンが尋ねて来た。

「私は要らないわ。自分の為に使って頂戴。」

「そうか・・我は望む肉体を超越させ更なる高みへと導きたもう!!!!」シンは身体強化の巻物を発動させ万全の態勢を整える・・巻物の使い手である彼は貴重な戦力だ。最悪の場合でも、放っておいて死にはしないだろう。私の背中を預けるに彼をおいて他ならない。

「そんじゃあーボチボチ張り切って行くか。」ウィルが両手でパシッゥと拳を叩きやる気を見せるが正直あまり期待はしていない。それどころか守り切れるか不安ですらある。私達はズクラッドのハーモニカを聴きながら行軍を続け・・森の周縁部に達した。

「で、どーすんだ??こっからの指示は聞いて無えぞ・・森の中に入るべきか判断頼むぜ。」ウィルの質問に「そうね・・森の中では会敵信号の閃光弾を正確に把握するのは困難だわ。逆に私達が最初にかち合った場合でもそれは同じ。それに森は魔獣にとって地の利を活かせる絶好の狩場・・わざわざ相手の土俵に立つ必要性は皆無でむしろ危険だわ。」私見を述べる。

「同感だな・・夜の森は方向感覚を失い易い上に、身動きが取れずに不利な戦場となる。平野で戦うべきだろう。」シンも同意した。彼の感は常にオリハルコンの剣のような鋭さとフェルマーの嗅覚さを併せ持つ。

「ワシの接触呪文は森の中では正確な距離が測れん。ホビットの小僧の発声呪文も乱反射する・・そして竜眼使いはおらぬ・・賢明な判断じゃ。」ナッセルが呪術士としての見解として賛同する。

「んじゃちょっと南に下ってみるか?200トーリアくらい移動したって別に差し障りないだろ。」そう提案したウィルの場当たり的な行動力はいかにも彼らしい。

「まぁ・・作戦の趣旨には反していないわ。ここで待ち惚けしているよりは幾らかマシかしらね・・」

「だろ?歩いてる方が気が楽だ。」

「・・そこは自由裁量だな、好きにしてくれ。」

私達は森の周縁部を南側へと向かって歩き出して・・間も無く、「おい、アッチに別のグループが居るぞ・・迷ってんのか。」そんなウィルの声に見渡すと、松明を持った10人程の人影が近づいて来る。

「冒険者ギルドの者じゃないみたい・・何者かしら??」すぐにズクラッドの明りに照らされて軽装の武具に身を包んだ兵士達の姿が露わとなった。

「ミューンズドヴルメ兵だ・・」

「おい、あんた等この辺は危険な獣が出没するぞ!!襲ってくれと言わんばかりに照明呪文を唱えてないでさっさと立ち去れ。ん・・??見慣れない武装をしているな、何処の者だ??」若干訝し気に尋ねる彼等に本来の身分を明かすのは余計ややこしくなる。

「・・私達は冒険者ギルドの雇われ傭員で・・その獣の討伐に来てるの。」適当に身分を偽るがまるっきりの嘘でも無い妥当な返事をしておいた。

「なんだ、冒険者か・・軍でも手を焼いてるんだ、悪い事は言わん止めておけ。」

「気に掛けてくれて感謝するわ、でもこれは私達にとってやるべき仕事なので・・放っておいてくれるかしら?」本音では邪魔をするなと言いたいところだが丁寧にお断りの意思を伝える。

「そんなに死にたいなら勝手にしろ。行くぞ、ここから先の巡回は不要だ。」

そう言うと彼等は元来た道を引き返して行った。

「どうやら南側には魔獣の気配無しのようね・・」

「だな。北側へ行こうぜ。」

「帝国の準州となったとはいえ、ミューンズドヴルメ兵は装備も変わって無い・・税率が低いなら扱いもそれなりか。」彼等の武装を見てのシンの推測に「ランツィは帝国の後ろ盾を得れたから軍備には金を掛けないつもりなのかも・・分からなくもないわ。リシャーヴの繁栄の陰で搾取されるだけの貧しい地域だったのだから。私の立場からは何とも言えないけど。」言葉を濁しつつランツィの政策への一定の理解を示す。そう・・少なくともリシャーヴの属国であった時代より繁栄させなければ太守としての立場が無いだろう。

私達は道なりに北へ向けて歩きだした。「私がこんな小遣い稼ぎに精を出してるなんて知ったら・・副王陛下はもちろんの事、ナターシャも大目玉でしょうね。」

「ハハッゥ・・しょうがねえだろ、貧乏暇なしって奴だ。」ウィルが冗談めかして笑い飛ばす。

「そうじゃとも!!!たまには、高級煙草を吸う権利くらいあってもよかろう。」ナッセルは筋金入りの煙草マニアらしい主張をして来る。この恐らく肺まで真っ黒の爺さんは老い先短そうだ。

「まぁ・・懐具合からすると副業も止む負えないな。」規律を重んじるシンさえ、巻物を買い過ぎて常に金欠なので納得の模様だ。私だってラヴァ地方リトベスタ産の高級豆を一度買ってみたい欲求はある。

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