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二十章 火消屋&揉め事

カランカラン・・・入口の鐘が鳴り響き「ここですか、救いを求める迷える子羊の住処とは・・」声に振り向くとそこには長身で黒髪のオカッパ頭の男性が白と黒を基調としたローブを身に纏っていた。

後ろに茶髪の三つ編みをしたナックルガードとレガースを装着している身軽な恰好の女性も立っており、その横には矢筒を背負った燃えるような赤い眼をしたエルフの男性が皮鎧を着て仁王立ちをしている。

「来てくれたか!待ってたぞ!」マニファンが歓迎の声を上げるが彼等は友好的とは思えない憮然とした面持ちをしていた。

「やれやれ・・今時の冒険者たるや魔獣退治もロクに出来ないとは情けない・・ん・・??」私と眼が合ったオカッパ頭の男性が硬直した次の瞬間、「おぉ!!!これはお美しい!!!!貴方のような淑女がこんな薄汚れて寂れた田舎街に居るなんて!!!!」

唐突にオカッパ頭の男性は詰め寄り、私の両手を掴んだ。「ハァ??」唖然とする私に彼は続ける。「腐敗臭がするゴミ溜めのような地に天真爛漫で美しい一本の花とは正に貴方の事!」

「ちょっと、何よアンタ・・」手を振りほどくと「よく分からないけどナンパなら他でしてくれる??」と軽くあしらうも「これは失礼・・・申し遅れました、私はヴェルドラ。冒険者ギルド本部バン・ガリトゥーレで観光本部長を務めています。以後お見知りおきを!麗しき貴方のお名前は??」一向に意に介す事もなく笑顔で擦り寄り語って来る。

「おい・・いい加減にしろ、舐めてんのかてめえ・・」ウィルが喧嘩腰に彼の肩に手を付き引き剥がす。

「何ですか貴方は!暴力反対です。」

「ウィル、止めなさい。私はエリューヴィン。ユンフィニス・リア・エリューヴィンよ。これで良いかしら??」

「おぉ、お名前まで美しい!!是非本部へご一緒しませんか??貴方ほどの女性が辺境の地に留まっているのはあまりにも不憫です。本部勤務で共に輝かしい人生を分かち合える事間違いありません!」あまりの図々しさに私は辟易としつつ「私、冒険者じゃないんだけど・・・ミューンズドヴルメの人間でも無いわ。」お断りの言葉を贈った。

「何と!ではどちらにお住まいに?」尚も食い下がる彼に「リシャーヴ王国の騎士よ。そろそろ仕事の話をしたいんだけど。」素っ気ない態度で応じたところで「ム!アナタ今リシャーヴって言ったね!?」三つ編みの女性が反応した。

「神殺しの籠手を返してクレよ。アレはウチ等のモノだ。」

いきなりの要求に「えぇ!?あの籠手は・・代々リシャーヴの騎士に受け継がれる神具よ。勘違いじゃないかしら??」困惑気味に言い返すと「イイや!500年前に盗まれたウチ等の門外不出の神具でアルよ。サッサと返す!」

「500年前??意味不明ね・・」

「こらこら青龍牙、今は私が話しているのです・・後にしなさい。」ヴェルドラが窘めると彼女は引っ込んだ。

「親愛なる貴方へお近づきの印にこちらのバン・ガリトゥーレへの招待状をお受け取り下さい。貴方にこそ相応しい。今すぐとは言いません、いずれ来たるべき時には熱烈に歓迎致しますとも!」そう言うと彼は私の片手を手に取りキッスをした。

「ちょっと・・」

「何者か知らんがエリューヴィンは貴様が思ってるような人ではないぞ。」シンが冷静に釘を刺す。

「おやおや・・貴方が彼女の何を知っているというのです??」

「少なくとも貴様よりは知っている。」

「ほほう?盲人がドラゴンを語るとは・・まぁ良いでしょう今はただ私のささやかな気持ちを伝えるだけでも十分です。」

私は招待状を仕方なしに手に取るとリュックへ放り込んだ。冒険者ギルドの火消屋とやらは変人ばかりなのか。

「あくまで神殺しの籠手返さないなら・・、近い内に実力で取り返すヨ。それでもイイか??」三つ編みの女性が猛り声で主張するがロンシャイアに勝てるとは到底思えないので放っておこう。

「好きにすれば?」

「マッタク・・帝国の鳳凰具足とイイこの半島は盗人だらけネ。全部取り返すまでウチ諦めないから。これでは師匠に会わす顔ナイよ。」ぶつくさ言う彼女は帝国にも因縁があるようだ。

エルフの男性は黙って立ち尽くしている。無愛想にも程があるが・・手練れの雰囲気を醸し出していた。

「わざわざ本部から薄汚れて寂れたゴミ溜めの田舎街へようこそ!!!全くもって苛つくが歓迎するよ。」マニファンがミューンズドヴルメを貶められた不満を口にしつつも歓迎の意を表する。

「貴方がギルドマスター??」ヴェルドラは私に見せた好意から一転、退屈そうな顔をしていた。

「そうだが。マニファンと呼んでくれ。」

「なるほどこれは駄目そうですね・・こんな人材しか居ないとは支部丸ごと壊滅的でしょう。応援を頼むのも頷ける。」悪意が有ってか無くてか知らないが、無礼な発言に「あー・・我々の力不足は承知している。作戦会議をしよう。」マニファンは大人の対応をして事も無げに続けた。

「良いか?この卓上の地図に刺さったピンを見てくれ。」テーブルの上には沢山の赤いピンが付箋付きで広げられた地図に刺さっている。

「これらは襲撃された時間、場所、人数を示している。」

「ほう??調査能力だけは期待出来そうですね・・で??」結論を急ぐヴェルドラの横で私達も卓上の地図を眺めて説明を聞く。

「出没する時間帯はおよそ16時~23時の間、そしてダダールブルクの森の周辺平野部で頻度が高い。そして・・・パターンが判明した。16時~18時頃までに森の南側で出没した場合において19時~22時頃に森の北側で再度出没する傾向がある。」

「・・つまり、囮を使って南側であえて襲撃されて・・本命の北側で待ち受け討伐する、と。」

「理解が早くて助かる。その通りだ。」

飲み込みが早いヴェルドラの推察にマニファンは大きく頷いて「そこで、君達には囮をやって貰いたいのだが・・」私達に向かって提案して来た。

「ディールを貰えるならそれで結構よ。」すぐに代表して同意の返答をする・・が、「いけません!論外です!」急にヴェルドラが異を唱えた。

「このような気品がある美しき女性を囮にでもして仮に命を落としたら誰が責任を取ると言うのです!?」

「ぶふっぅ・・気品がある美しき女性だってよ・・」私は噴き出したウィルの胸を肘でドンと突くと「別に構わないわ・・特別扱いされるつもりは無いから。そうでしょ、マニファンさん。」責任者に確認を取る。

「ああ・・だが・・」マニファンはヴェルドラに配慮するように言葉を濁した。

「駄目です!!そのような作戦を実行するなら我々は手を貸しません。」頑として認めようとしない彼に私は辟易して「あのね・・」と言いかけると「ヴェルドラ!アンタ公私混同だ!!ウチは勝手にこの女が死んでも知らないヨ。」青龍牙・・と呼ばれていた茶髪の三つ編み女が批判をした。

「俺には関係ない・・火消屋の本分を全うするまでだ。」燃えるような瞳のエルフも言葉少な気に同意する。

「駄目と言ったら駄目です!!青龍牙、勝手に行動するなら帝国への推薦状は却下しますからね。」

「何だよ!アンタ横暴ね!」

ヴェルドラの意思が固いのを見て取ったマニファンが「仕方ない、では囮は木のゴーレムと羊にやって貰おう。誰もやりたがらないのでね・・」と代替案を出した。

「なるほど、だから余所者の俺達に・・」小声でウィルが呟くのを「黙ってて。」ピシャッと窘める。

「おぉ!それなら大丈夫です、安心しました。話が分かるギルドマスターで助かります。」ヴェルドラは途端に笑顔になり「これで後顧の憂いなく全力を尽くせるというモノです。魔獣など敵ではありません。」陽気に語り出す。

「で、参加人数は??」

「そうだな・・君達火消屋と飛び入り参加の5人を含めて・・23人。」

「少ないですね、27人・・いや30人は欲しい。」

「主要戦力は揃っている・・何が不満だ?」分からないといった風にマニファンは手を振るも「酒場でゴロツキでも集めなさい。人数は多ければ多いほど良いですから。」ヴェルドラは有無を言わさず意向を伝える。

「よぉーし、ここからダダールブルクの森北側へは17000トーリアだ。2時間後に出発する。それまで全員準備を整えておいてくれ。俺は酒場へ行き日雇い労働者を募集して来る。以上だ。」マニファンが指示を出して我々は一旦解散した。

「さて・・青龍牙、アステラ、我々はこのミューンズドヴルメという地域の龍脈を探りましょう。何か新しい発見があるやも知れませんからね・・・」そう言うと、ヴェルドラ達火消屋も去って行った。


私達はその場に荷物を置いて隅のテーブルで適当にくつろぎ始める。

「・・でよぉ、あの妙なオカッパ頭野郎に好かれた我らが騎士様の今現在の気分はどーよ??」「ん、正直言って不愉快ね・・何様のつもりかしら。」ウィルの質問にハッキリと明言する。

「あの態度・・気に入らんな・・嫌悪感がする。」シンが腕を組みながら不機嫌を露わに言い放った。

「あら、もしかして妬いてるの??」

「ばっぅ・・馬鹿言うな・・俺はただ度を越した馴れ合いが気に喰わないだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。」

「ふーん・・アンタらしいわね。」確かに・・この男に恋愛感情はよほど似つかわしくない。分かってはいたが。

「ま、どうせあのオカッパ頭野郎もおめえの正体を見たらビビり散らかして退散するだろ。」「何よウィル、人をバケモノみたいに言って・・」ムッゥとする私に「みたいって・・本当の事じゃねえか。」悪びれもなく言いのける。

「・・ところであのヴェルドラとやら呪術士風を装っていたが・・不思議と呪力は感じられなかったのう・・」ナッセルの爺さんが呪術士ならではの見解を述べた。

「へ?あの風体で呪力が無い??でも剣も弓も持ってなかったわよ。」

「うむ、不思議なもんじゃ・・能ある鷹は爪を隠すと言うがの・・何か隠しとるんじゃろうか。」爺さんに分からないのなら当然私が知る由も無い。

「ただの管理職で実働部隊は配下の2人なのかも知れんな。」シンが私見を言葉に表す。「観光本部長とか言ってたしねぇ・・権限だけはあるのかしら。」


「おいズクラッド、ディバインサンド持ってるだろ??寄越せよ!」赤毛の男・・レイファンスが乱暴にズクラッドの肩を揺さぶった。

「景気付けに一息吸いたいんだ、出せよ。」

「も・・持ってないよ・・」ズクラッドはしどろもどろに答える。

「嘘付くんじゃねえ、ヤク中のてめえが持ってないハズが無いだろぉっぅ!!!」ズクラッドの頭をこねくり回すレイファンスを・・私は片手で襟首ごとグイッゥと持ち上げ突き飛ばした。

「な・・なにしやがるっぅ!!!」場がざわめく。

「この子に手を出したら私が許さないわよ。クスリなら全て捨てたわ。ヤリたいのなら今すぐ街角へ行って売人から買いなさい。」

「なんだと・・・ぶっ殺されたいのか!!!!」カッとなったレイファンスが剣を抜き・・すぐに数人が合わせて席を立って武器を手に持ち加勢する。

「へへっぅ・・泣いて謝るなら今の内だぞ?そそらない肌の女・・」

私は売り言葉に買い言葉で、「へえ?それ私に言ってんの??面白いわね・・・」どう手加減して場を収めるか考えていると「んだよ・・喧嘩なら買うぜ?」「冒険者風情が・・」ウィルとシンが揃って席を立ち剣を抜いて私の横に並んだ。

「あわわっぅ・・」ズクラッドが慌てて玄関へ走り出し、カランカラン・・鐘の音が鳴り彼は外へと駆け抜けて行った。

鐘の音が鳴り止み静寂が訪れた中で・・武器を構えた冒険者5人と私達は睨み合いを続けていた。ジリジリと緊迫した張り詰めた空気感が伝わって来る。剣を収めるなら良し、襲い掛かって来るなら正当防衛も止む負えまい・・

「ちょっとレイファンスやめなよ・・」ドワーフの女が諫めようと声を掛けた。

「シューーッゥ!そうだ、ディールにならねえ諍い事は止せ。ススス・・」帽子を被ったリザーディアンも賛同する。

「うるせぇっぅ・・・端から気に入らなかったんだ、ズクラッドの野郎がご丁寧に糞を塗り付けて帰って来やがって・・リシャーヴの騎士団とやらの糞をな!!!」どうやら激昂するのにも理由があるようだ。歓迎されていないのは明白だった。

「コイツ等は俺達の取り分を横取りする気だ・・ハイエナは殺っちまうに限る。」隣の人間の男もモーニングスターを小刻みに揺らしながら殺意を明確に表す。

「さてさて・・」背後でナッセルが煙草に火を付けて一服を始めた。そうだろう、爺さんが出るまでもない。私は煙草の匂いを一息吸うと「私達が糞ならアンタ達は糞に集るハエかしら??冒険者ってクスリでラリってるパアの集まりなのかしらね。獣一匹すら倒せない癖にディールを横取りされる??ハッゥ、とんだお笑い草だわ・・」威勢よく啖呵を切った。

「・・言うじゃねえか、この糞アマ・・やっちまえっぅ!!」一斉に躍りかかって斬り込んで来る。瞬時に左右のラグナブレードを抜くと降り掛かるレイファンスの剣を挟み、バキャッゥ・・!そのまま砕いて驚きの表情をした彼のボディに蹴りを見舞った。

バリバリンッゥ勢いよく受付カウンターの木板を貫通しドォォンッゥ石の壁に叩きつけられ無力化したレイファンスに構う暇も無く左右両方向からモーニングスターと戦斧が振り下ろされるのをラグナブレードでギィンッゥ受け止め力に任せて一気に押し返す。

よろめいた彼等に回転しながら足払いをしてドスンッゥと転ばすとウィルとシンの安否を確認した。シンは1名制圧済み、ウィルは鍔迫り合いをしている・・即座にウィルと剣を交えているノームの男性を蹴飛ばしてガッシャァァーーン窓ガラスが割れ呻いて彼は倒れた。

「私達になら勝てると踏んだなら・・騎士団の名誉に誓って、それが間違いだといつでも実力で示すわ。これ以上やるつもりなら命の保証は無いわよ。」無論ただの脅しだ・・が、暴力には暴力で対する姿勢を示すのが効果的だと私は知っている。

カランカラン・・「待ったぁぁあーーっぅやめろっぅ!!!何やってんだ!!!」マニファンが大声を上げて飛び込んで来る。その後ろから、ズクラッドも恐る恐る入って来た。

どうやらズクラッドは逃げ出したのではなくマニファンを呼びに行ったようで

「おチビちゃん、ナイス!」親指を立ててその行為を称賛した。

「一体コレはどういう事だ!?大事な作戦の前に揉め事なんて冗談じゃあないっぅ何が原因だ!?」

事情の説明を求めるマニファンに「そこの彼がおチビちゃんからクスリを強請ったから強く注意したら逆ギレされちゃってね・・安心して、命に別状は無いわ。この場に居る全員が証人よ。」簡潔に言い放つと席へ戻り「マニファンさん、損害賠償なら報酬から天引きしてくれる??」同意を求めた。

「いや・・ギルドの経費で賄おう。ギルドメンバーの非礼は詫びるが、暴力沙汰は慎んで貰いたい。お互いにな。」

「そう、慎むよう努力するわ。お互いにね・・」


私達は部屋の隅のテーブル席で何事も無かったかのように雑談を再開した。

「爺さん煙草頂戴。」

「なんじゃ!?おぬしが吸うのか??珍しいのう・・」

「ただの気分転換よ。」接触呪文で火を付けて貰い煙を吐くと「何だよ我らが騎士様もニコチン中毒か??」ウィルが茶化す。

「アンタと違って自制してるから中毒じゃないわよ。失礼ね。」

「しかし、相変わらずお前さんは強いな。吸血鬼の頭蓋を粉砕したのはいつの時の話だ?」シンが冗談とも本気ともつかない内容を真顔で口に出したので「アンタが吸血鬼になったら体感できるかもね・・」と、こちらも冗談とも本気ともつかない返答をしてみる。

「ぐ・・はっぅ・・バケモンか・・」レイファンスが治癒術士から治療を受けながら執念深くこちらを睨んでいるが・・もう何も出来ないだろう。獣とやり合う時には背中に注意すべきかも知れないが。

「オイラちょっと肩身が狭くなっちゃったから・・もうミューンズドヴルメ支部に出戻り出来ないよ・・」ズクラッドが困惑した表情で語る。

「ちょっと??おチビちゃん、独りでここに戻ったらきっと虐められるわよ。精々リシャーヴ支部で頑張る事ね・・あとクスリは卒業しなさい。」何らアドバイスにもならない示唆に「あは・・あははは・・」ズクラッドは乾いた笑い声で明らかに動揺していた。

彼の人生なんて知った事では無いが雇用契約している間だけは雇用主の責任として庇護者のつもりで監督してやるのが筋というモノか。


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