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十三章 街道上のアクシデント

翌朝・・鳥のさえずる音色を聴いて私は目が覚めた。

「ふぅァア~~よく寝た・・って7時半じゃないっぅ!!!ちょっと何で起こしてくれなかった・・」客室はもぬけの殻で誰も居なかった。

「え!?皆何処行ったの!?」私は慌てて客室を飛び出すと客間へ向かったが誰も居ない。城門前まで向かうも衛兵も居ない。

・・と、その時、「9人抜きだぁああああーーーーっぅ!!!!」

「うぉおおお!!!!」兵舎の方から歓声が上がるのが聞こえた。

「次!!誰か挑む者は居るか!?」

ザワザワとどよめきの声が上がる中を私は人混みを掻き分けて駆け寄ると、

「騎士アレクセン、これは??」

「ん・・ちょっとした余興だよ。君の従者シンとか言ったな、相当な剣術の腕前だ。」

訓練場の円形の舞台の上で、シンが剣を片手に宙返りや高速ステップを踏みながら素振りをしている。

「ちょっと!シン、何やってんの!?」

こちらに気が付いたシンが手を振り「エリューヴィン、腕がなまって仕方ないから剣の腕比べをしたらご覧のザマだ、少し大事になってな・・」満更でも無い顔付きで言い訳をして来た。

「アンタの悪い癖が出たわね・・今すぐ止めて。そろそろ発つ時間よ。」

「さあ10人目は?誰も行かないか!?・・では私が行こう。」アレクセンが剣を抜き舞台へ上がると一際大きな歓声が上がり場は熱狂の渦に包まれた。私が止めろと言ったところで収まる気配が無いのは明らかだった。

見学しているウィルとナッセルとズクラッドを見つけると近寄り「アンタ達、コレいつからよ!?ずっと観てたの??」

「見ろよシンの野郎、大立ち振る舞いだぜっぅ!!!」

「ほっほっほ・・流石第13騎士団名うての実力者よのう・・」

「スゲエや、ここまでの剣客は冒険者ギルドでも滅多に居ないよ!」

誰も彼も質問に答えず興奮気味に語る。シンが剣技に長けているのは誰よりも私がよく知っている。だが今は任務が最優先・・・アレクセンとの勝敗がどうなろうと知った事では無い。

「良いわ、次は私が出るから。それでお仕舞よ。」愚痴るように吐き捨てた。

両者ともに中央で剣先をキンッゥキィッンゥと挨拶代わりに交わして勝負が始まった。ガキィィンッゥギュキャァアアッゥ途端に激しく互いの剣が激突し猛烈な攻防が展開される。

アレクセンの剣は騎士の名に恥じない重厚で鋭利に研ぎ澄まされていて・・恐らく呪符石が鍛造で組み込まれてあるのだろう。その反面、シンの剣は従者に支給される何の変哲もない代物だ。

端から勝負になるか疑問であったがここは高みの見物と決め込もうか。ガッゥ・・ガキャッゥ・・鍔迫り合いが刀身を震わせシンが両足に力を入れて踏ん張る。力はアレクセンの方が上のようだがシンは巧みな剣捌きで斬り返し撥ね付けた。

「やるなっぅ!!!」「そっちこそっぅ!!!」

実力を認め合うとじりじり舞台上で隙を窺うように円弧を描き・・再び激突した。

ギィィンッゥガキャンッゥ訓練とは思えぬそのあまりの気迫にウィルが「何処まで強いんだよあの野郎・・」息を呑む。

剣の腕は一見互角・・に見えたがシンが勝負を仕掛けた。姿勢を低く保ち前後左右に飛び跳ねながら剣を振るい繰り返し剣戟を重ね合間に蹴りで突き飛ばしあっという間に舞台の隅に追い詰める。

「ワァァアアーーーッゥ」一気に場内が沸き「隊長ぉぉおおーーーっぅ」「アレクセン!!!アレクセンっぅ!!!!」兵士達の合唱が白熱した闘いに熱を添える。

守勢に回ったアレクセンだが突如剣先が青白く発光したかと思うとバキャンッゥ!一振りの元にシンの剣が根本から真っ二つに砕けた。

「チィッゥ・・このなまくら刀がっぅ!!!!」シンは剣を叩きつけると

「参った、降参だ・・」両手を上げる。

「悪いが私が負けるワケにはいかないのでな、接触呪文で強化させて貰ったよ。」アレクセンが勝利の拍手喝采の中、安堵の声で応じた。彼にもロヴナを預かる騎士としての意地があるのだろう。

「エリューヴィン、すまん剣を失った・・ロヴナで調達してから出発したい。」

「そうね・・鍛冶屋は何処かしら??」

「それには及ばない、シンとやら餞別に武器庫から好きなのを一本持っていってくれ。余興を盛り上げてくれたお礼だ。」アレクセンが思わぬ申し出をする。

「有難い申し出だな・・エリューヴィン、良いか??」

「もちろんよ。騎士アレクセン、感謝するわ。」

数分後・・シンが武器庫に行って物を選んでいるのを城門前で待っているとぺリスがやって来た。

「やあ出発の準備は出来ているかな??」

「バッチリ・・と言いたいところだけど・・もう少し待ってくれる?」

「いくらでも待つとも。大事なお客さんの御意向だ。今の内にガルムを用意してくる。飯は食わせてくれたかい?」

「ええ、たっぷりとご馳走してくれたわ。第12騎士団が。」

馬屋へぺリスが向かったのと入れ替わりにシンが珍しく上機嫌で口笛を吹きながら到着した。

「あら良い物でもあったの??」

「エリューヴィン、掘り出し物だ・・これを見てくれ。」

細身の剣を鞘から抜くと横向けに差し出してくる。

「これが何か??」

「この刀紋に見覚えはないか?シェルスタニア鋼が織り交ぜられている。」

「へえ・・シェルスタニア鋼ってあの帝国原産の?」少し驚いて刀身を見入った。

「ああ・・軽く頑丈で折れにくい、そこらの下手な剣よりは遥かに使える。」満足気に頷くとシンは剣を鞘に戻した。

「ふむ、とんだ掘り出し物じゃな。早朝から訓練に参加した甲斐があったのぉ・・えぇ?」ナッセルが口先だけの褒め言葉を使う。この似非神父は剣になど興味無いハズだ。

「これで俺の剣を当てにしなくても大丈夫ってこった。大便用のシャベル振り回して活躍する俺の姿を見せれなくて残念だぜ。」チラッゥとこちらを見ながらウィルが皮肉を浴びせて来た。

「私の記憶違いだったら嬉しいんだけど・・その腰の飾りが役に立った試しが一度でもあったかしら。」

皮肉には皮肉で返すと「今後役に立つんだよっぅ!!!今に見てろ俺の太刀捌きが第13騎士団の危機を救う時が必ずや・・」

「やれやれね・・」

「兄ちゃん格好イイ!!!」何も知らないズクラッドが声援を送るがウィルの剣技は壊滅的なので幻滅する日もそう遠くないだろう。

「待たせたね、もう良いかい??」ぺリスがガルムを引き連れてやって来たので、荷物をガルムの腹の左右に括りつけると「さあ出発しましょう。ぺリスさん、先導よろしく頼むわ。」

「あいよ、任せておくんなせえ。」

アレクセンが城門の前で「良い旅を、任務の成功を祈る。」と見送ってくれ我々はシャリアンヒルデ城を後にした。


澄み上がる様な蒼天の中をカモメが鳴きながらが飛び交い眼下には美しい双極海を船がまばらに航行する・・このリョースロヴナともお別れだ。

石畳を北北西へ向けて歩きながら「なあ・・エリューヴィンそろそろ帝国第一国境を越えた後のプランを教えてくれないか??」シンが今後の展望を聞いて来た。

「そうね、ミャウゼン騎士団長は帝国が馬車を用意していると言ってたわ。恐らくランツィが手配したんだろうけど・・好都合よ。まずはランツィに会いに行く。」

「なるほど?お前さんのコネを使うんだな??」

「そ、各市町村の衛兵や自警団に欠片のコピーを配て貰って指名手配の張り紙も・・徹底的な捜査網を敷くわ。」

「なんでえ、それって俺等が行く意味あんのかよ?」横からウィルが口を尖らせて文句を言う。

「あるわ。最終的に逮捕してリシャーヴ王都まで連行するのは私達の役目よ。逆に言えばそこに辿り着くまではミューンズドヴルメの警察機構を存分に利用してやるの。」

「ほっほっほ・・賢い選択じゃなエリューヴィンよ。ぬしが最善の策を取るとは、この老骨の身としても嬉しいぞい。」

「爺さんは楽出来れば何でも良いんでしょ、分かってるんだから。」ったく・・・この調子の良い爺ガルムに蹴り殺されないかしら・・そう思ってると話を聞いていたズクラッドが口を開いた。

「お姉さん、ランツィ公はリシャーヴ王国を裏切って帝国へミューンズドヴルメを献上した人だよ??とても協力してくれるとは思えないけどなぁ・・・」

「あらおチビちゃんには言ってなかったわね・・私とランツィはね、切っても切れない縁のある関係性なの。腐れ縁って奴かしらね・・・仮に協力が得られなくても捜査は続行するわ。」

「ランツィ公と親しいだなんてお姉さん大物だね!」途端にシンがぶふぅっぅ・・と噴き出しウィルが「ハハッゥ、王都の雑用騎士団が大物だなんて我らが騎士様も出世したモンだぜっぅ!!!こりゃ果ては騎士団長か近衛騎士団か・・」これ見よがしにデタラメな大言壮語を吹かす。

「こらこら茶化さないの!何はともあれ頼るべきはランツィよ。彼の協力の有無で捜査が難航するかどうか決まる。事の次第によっては覚悟を決めておいてよね。」

「あー・・君たち・・」ぺリスが遠慮がちに語りかける。

「なあにぺリスさん?」

「ミューンズドヴルメでは今恐ろしい獣が出没するらしい・・よくよく気を付けておくんなせえ。」

「なんだそりゃ??」「ほほう獣じゃと??」

「ええ・・・巨大な獣が夜な夜な住民を襲うともっぱらの噂でさあ。既に十数人の犠牲者が出ていて軍が出動しているらしいが・・一夜にして30里を駆ける駿足に翻弄されて退治には程遠いとか。」

「ふぅん・・興味深い話だけど私達にはあまり関係無いわね。」

「ああ・・仮に遭遇したとして獣如きが俺達の脅威に成るとは考えられん。斬って捨てるまでだ。」シンの言う通りだ。剣術に長けたシンと私、呪術士のナッセルにズクラッド、おまけにウィルまで居るのだから、ドラゴンでも相手にしない限りは害獣に負ける気などしない。

「そうですかい・・退治したら報奨金が出ると聞いているので・・」

「それって何ディールかな??」ズクラッドが興味津々に尋ねる。

「いや具体的な金額は知りませんがね・・向こうの冒険者ギルド行けば分かりますよ。」

そうして我々はリョースロヴナの北口に出た。

「それじゃガルムに乗って行きやしょうか。」ぺリスの呼びかけに「ええ、みんな昨日と同じ配置で乗るわよ。」

「おう!坊主準備は良いか?後ろで振り飛ばされんなよ。」

「あ!!!ちょっと待って・・酔い止め渡すから今すぐ飲んでおくれよ!!!」

「おお、役に立つ坊主だぜ。」

「ああ・・全くだ。この遠征で一番の功労者だな。」

「あらシンが他人を褒めるなんてよっぽどね。」「えへへ・・」全員ズクラッドから酔い止め薬を貰って水筒で水を含むと「さ、出発しましょ!!!」ガルムに乗り駆けだした。

ドカカッゥドカカッゥ・・秋の木枯らしが吹き荒れ枯葉が舞う中を悠々とリョース街道沿いに北へ北へと突き進む。

私は待ち受けているであろうミャウゼン騎士団長の怒張して憤慨する姿を想像し「あーあ、憂鬱だわ・・」と声を漏らした。

「ん、何か??」前に乗るぺリスが返事をするが「いえ、散りゆく紅葉が綺麗だなって。」適当にはぐらかす。

ぺリスのガルムを御す腕前は見事であり、前方に旅人や行商人を確認すると左右に避けながらすれ違いぺリスが操るパックリーダーのガルムに従い他のガルムもその動きを追従させる。伊達にこの仕事で飯を喰ってるワケじゃない。

アレクセンから駿馬を借りたとしてもウィルやナッセルに乗りこなせるとはとても思えなかった。

「ぺリスさん、少し急いでくれるかしら??」「あいよっぅ飛ばしやすぜ!!!」

そう言いながら木の棒でガルムの横腹を2回叩くとガルムの駆け足が猛烈なまでの勢いとなる。

1時間半は走っただろうか、ピュルルルッゥ・・・頃合いを見てぺリスが笛を吹きガルムは停止した。

「息が上がった、20分程小休止だ。」


私達はガルムから降りると近場の木陰に寄り「ひとまず休憩ね。みんなトイレ水分補給は今の内にして・・」ガシャァアーンンッゥ「え!?」「ああ・・」「やっちまったな・・」振り返ると道路の中央で2台の馬車が衝突して止まっていた。

「てめえっぅ何処見てんだっぅ!?」

「そっちこそっぅ!!!目を閉じてたのかよ!?」

御者が怒鳴り合う声が辺りに響く。

「こんな時に交通事故・・仕方ない、行くわよ。」

「へいへい、ゆっくり休憩も出来ねえのか・・畜生」ウィルの意見ももっともだ。私だって望んで関わりたくはない。

「どんな小事でも仕事は仕事だ。」シンが従者の模範となるような事を言うがこういう割り切り方が出来るのも実に彼らしい。

見に行くとワインのケースが3つ転がっており砕けた瓶が路面を汚していた。

「騎士団の者よ。今からこの事故の検分を行うわ。」

「良い所に来てくれた、このロクデナシを逮捕してくれ。」

「馬鹿言うな、逮捕されるのはお前の方だろっぅ!!!!」

「あー・・悪いけど物損で逮捕は出来ないの。賠償命令は出せるけど・・」

「こっちが優先だったろ!!!」「いいやこっちだね!!!」罵り合う御者を無視して検分を開始した。

「この積み上がったワインのケース・・・明らかに過積載ね・・何よコレ。」私が呆れた様に指摘すると「こっちの家具の山も3トーリアはあるぞい過積載じゃな。こりゃイカン。」ナッセルももう片方の馬車を見上げて苦笑いをする。

「道のど真ん中で衝突か・・道路交通法無視だな。いやリョース条例違反もか?」シンが冷静かつ淡々と分析するのを「どうしようもないわね・・」と結論付ける。

「馬車サイズは両方とも中型だぜ。優先序列は同じだ。」ウィルがメジャーで測定した報告の声を上げるのを聞いて「決まりね、双方ともに過失は同等で50:50の事故よ。損害は各自で補填してくれるかしら??」私は自信満々で裁定を下した。

「何だって!?呆れたなっぅアンタ等の眼は節穴か!?」

「全くだ、50:50なんて馬鹿馬鹿しい・・カラスが笑っちまうよ。こっちの方が1フェムト左に寄っていたっぅ!!!!」

「いーや、こっちは1.5フェムト左だっぅ!!!」

「よく見るとこっちは2フェムトだったっぅ!!!!」

馬鹿らしい言い争いの応酬に「あのねえ・・・こっちも暇じゃないんだけど??」うんざりとして腰に手をやり物申すが聞こえているのやら・・・

「むんっぅ」ナッセルが道路に手を当て接触呪文で半径3トーリアに吸着の呪文を発動させる。砕けた瓶の欠片が吸い寄せられるように集まり・・それらをケースにまとめて放り込むと馬車へ突っ込んだ。

「これでゴミ掃除完了じゃ。」「ナイス爺さん。道路にガラスの破片は危険だからな。」指を鳴らして称賛するウィルに、「ワシの働きを評価してくれるのはおぬしくらいじゃ。」ナッセルがしみじみと語る。

そうこうしてる間にも醜い言い争いはエスカレートして行き、「この最高級ロヴナワインは帝国で高値で売れるんだっぅどう弁償してくれる!?」「ハッゥ、ロヴナの腐った排水溝の臭いがする泥水ワインが高級だって!?豚でも飲まねえよ。それより運搬中の貴重な家具に、汚ねえワインが掛かってるじゃねえか、弁償するのはそっちだろっぅ!!!!」

「あのー・・・過失割合は50:50よ。聞いてるかしら??」私は時計をチラチラ見ながら穏便に事が進むよう配慮しつつ語りかけた。

「うるせえっぅ!!!騎士団は黙ってろっぅ!!!」

「そうだ引っ込んでろ能無しっぅ!!!!」

「おいおい・・そりゃ無いだろう・・・」ウィルが取り成そうとするも「いいから黙ってろっぅ!!」にべもなく突っ撥ねられる。「やれやれだな・・」シンは腕を組んで様子を見守りナッセルは指から炎を出して煙草を吸い出した。

「この家具はな、リョースティアナ一番の金持ちピエティエ家のモンだ、この事故を知ったら14人のゴロツキくらいあっという間に集まって、貴様と貴様の関係者から身ぐるみ剝いじまうのは簡単だぜ。どうだブルッちまったか??」

「何の、俺の従兄はロヴナ酒造組合の組長だ。一声掛ければ組員が20人は集まって来てピエティエだかよく分からんティアナの田舎者から金を巻き上げる事くらい造作も無いわい。小便漏らしても知らんぞ!!!」

脅迫罪一歩手前の発言に私は眉間をピクピクさせつつ何でこんなチンピラの罵り合いに付き合わねばならぬのか・・時間も無いというに。静かな怒りを滾らせた。

「はぁ・・ちょっと貴方達・・こっちへ来なさい。」カムカムと人差し指で手招きをする。

「あんだよ!?役立たずの騎士団が・・」「王家の犬が何だってぇ・・」

巨大な岩の前まで着くと「もう一度聞くけど・・私の裁定に何か不満が?」

「当たり前だこの税金泥棒の糞野郎!!!」「そうだっぅマトモな判断も付かない脳味噌ラリったカスがっぅ!!!」

瞬時に私はカッゥとなり渾身の力を込めて一撃を叩き込む。ドガァァーンッゥ!!岩は粉々に飛び散り「いい加減にせんかいオラ、これ以上、一言でも文句を言ってみろ・・まとめて積み荷をスクラップにして公務執行妨害罪で牢屋に叩き込むぞ。分かったか、あん??」ドスの効いた声で凄んだ。

「じ・・実はな・・ピエティエ家はとても寛大で有名なんだ。家具に汚れが1つや2つあってもそんなの全然気にしない。」

「奇遇だな、ロヴナ酒造組合も1割までの損失なら責任追及はしない規則があってな・・ハハ・・誰も文句は言わない。」

2人は急いで馬に乗るとそそくさと逃げるように現場を後にした。

「相変わらずの馬鹿力だな、おめえは・・」ウィルが走り去る馬車を見送りながら呆れた顔で呟く。

「こうでもしなきゃ午前中に帝国第一まで到着しないわよ。」平然と言い放つ私に「こうしてまた一つ伝説の噂話が広まるな。岩を砕く人外の騎士に脅された、と・・ドラゴンの心臓を抉り出したのはいつの時の話だ??」シンが本気とも冗談とも受け取れる曖昧な皮肉を浴びせて来た。

「何よそれ嫌味??好き好んでやってるんじゃないんだから・・」

「ホッゥ・・あの2人を殴り倒すんじゃないかとわしゃヒヤヒヤしたぞい・・・」ナッセルまで疑いの目を向けて来る。

「まさか!騎士が守るべきリシャーヴの民に暴力を振るえるワケないでしょ。少し説得力に重みを持たせただけよ。」

木陰の元まで戻ると「お、お姉さん・・人間??」ズクラッドがガタガタ震えながら聞いて来た。

「あら怖がらせちゃったかしら・・・安心して、私は必要に迫られた時でしか力は使わないから。私からしたら呪術士の方がよっぽど怖いわ。」

「そ・・そう・・オイラにはよく分からない感性だけど・・お姉さんが騎士である理由が分かった気がするよ・・」尚も怯えた表情を見せるズクラッドに「そう怖がるなって、根は優しいただのゴリラとでも思っとけ。害は無いからよ。」ウィルが安堵させようとか知らないが無礼な物言いで諭す。

「誰がゴリラよ、失礼しちゃうわね・・」

「おーい、お客さん達そろそろ出発しよう!」ぺリスが声を掛けて来た。

結局休憩時間はパアだ。あんな事故・・第12騎士団が居たら丸投げしていたのに運が悪いなんてモンじゃない。

「何やら凄い音がしていたが大丈夫かい??」ガルムの世話をしていて何も知らぬぺリスが気にかけてくれるが「ちょっと召喚したゴリラが暴れちゃってね・・解決したから大丈夫よ。」と、とぼけてうそぶく。

「そうそう、この世の者とは思えないとんでもねえゴリラがよぉ~~」調子づいたウィルを睨むと「あー・・調教師がしっかりしてねえから・・」意味不明なぼやきに「誰に言ってんの??」

「誰ってそりゃシンしか居ねえだろ。」

「俺か!?・・心外だな。俺にはそんな権利も義務も能力も無い。買い被るな。」即座に否定する。

「・・とはいえ一番気心が知れている仲だろ・・??」

「まぁ・・アンタよりはね。」シンの返答を待たずに私は即答した。

シンがそれを否定するのは少し耐え難い。誰よりも私の心情を理解してくれている存在であって欲しい勝手な願望を抱いている自分に「馬鹿ね・・」と小声で呟く。シンからしたら私は特別な存在ではないのかも・・そう思うと心が痛かった。


「さあ行きましょ、帝国第一国境まであと少しよ。」雑念を振り払うと再度私達はガルムに乗って出発した。

リョース街道を北へ駆けながら途中東側に分岐して伸びている道路をチラと横目で見ながら通り過ぎる。

リョースロヴナから北東の方向にリョースティアナの町がある。中央山脈の麓にある人口2000人ほどの小さな都市だがキノコや干物、川魚、羊毛などが特産品で高地独特の花が咲き誇る情緒ある風景が有名だ。いつか訪れてみたいものだ。

ぺリスは私が急いでいるのを知ってかガルムを駆け足で走らせる。

時計に目をやると既に10時を回っていた。11時頃には着くだろう・・予定通りと言いたいがそれもこれもヨハン・ミシェル殺害の犯人がミューンズドヴルメに留まって居たらの話だ。帝国本土まで逃げられると追跡には時間が掛かる。事の次第によってはズクラッドの雇用延長か新たに他の冒険者を雇うのも考慮すべきか。

それからしばらくガルムで駆け続け・・遠目に国境沿いにある第11騎士団の詰所が見えてきた。いつ見ても大規模な砦だ。近くには旅行者の為の簡易宿泊所や土産屋や酒場が並んでいる。

「ぺリスさん、止めて下さるかしら??」

「なんだって?もうすぐ着くぞ。」

「終着点はここで良いわ。降ろしてくれない??」

ピュルルルルーーッゥ!!!ぺリスが笛を吹きガルムは止まった。

「みんな降りて、ここから歩いて行くわよ。」

「どうした??出国を急ぐんじゃないのか??」シンの真っ当な意見に「ちょっと所用があってね・・」

「ん?・・ああ、出国する前にやる事があるんだな??」「そう。」

「遅めの朝食でも喰うのかよ??」すぐ食事を連想するとは実にウィルらしい。

「アンタったら飯の話ばかりね・・保存食でも齧ってなさい。」

「ちぇっぅ、分かったよ・・まぁこんな寂れた場所じゃ美味しい料理も出ねえだろうし・・」

「兄ちゃん後でオイラにも保存食分けておくれよ。」

ズクラッドが物欲しげにねだる。

「あ?別にいいけどサラミと堅パンだぜ??」「空腹がまぎれるなら上等だよ。」

「ほっほっほ・・若いモンは食欲旺盛じゃのう・・・してエリューヴィンよ、何をするんじゃ??」

「すぐ分かるわ。」

私達はガルムの腹の左右に括りつけられたリュックを背負うと「ぺリスさん、短い間だったけどお世話になったわね・・これで契約完了よ。」

「商売柄色んなお客さんと接するが・・君たちとは面白い話が出来た。是非今後もご贔屓に。」

「帰りの餌代は、ロヴナで第13騎士団エリューヴィンの名前を騎士アレクセンに伝えてくれれば出してくれるわ。よろしく。」

「ああ、良い旅を。」

「またな、良い仕事っぷりだったぜ?」ウィルの軽い挨拶が飛び、こうしてぺリスと別れを告げ・・彼は元来た道をガルムで走り去っていった。

「さあ酒場へ行くわよ。」

「酒場ぁ??真昼間から飲むのかよ!?」突拍子も無い声を上げるウィルに「いいから、付いて来なさい。」と誘うように指を振って歩き出す。

「だってよ・・」ウィルは手の平を上に向け肩をすくめた。

「よく分からんが何かあるんだろう。行くぞ。」シンがポンと肩を叩き促して私達はその場を後にした。

「ほっほ・・待ち人でも居るのかのう・・」

「吟遊詩人の弾き語りでも観るんじゃねーの?」

「兄ちゃんこんな場末の酒場に吟遊詩人なんて居ないよ・・」好き勝手に語る従者達を引き連れ貧相で朽ちかけた酒場の前まで着くと私は口を開いた。

「実はね・・代々リシャーヴの騎士団はミューンズドヴルメに発つ時に任務の成功を祈って景気付けに一杯やる慣習があるのよ。」

「へえ、でも今は帝国領だろ??」ウィルの指摘に「まあね、でも古くからの慣習は大事だわ。」キッパリと断ずる。

「ゲン担ぎか。悪くない。」シンは納得の表情を見せて理解を示す。

両開きの扉を開いて中へ入ると「いらっしゃい・・お好きな席へどうぞ。」初老のくたびれた顔をしたマスターが出迎えてくれた。客はほとんど居ない。想像に軽く中身も貧相な酒場だ。カウンターに付いて荷物を降ろす。

「みんな、好きな飲み物頼んで。ただし一杯だけよ。」

次々にカウンターの椅子に座ると「よーし、俺はオレンジジュースで。」

「私は無糖のアイス珈琲を貰おうかしら。」

「水で薄めたワインを。」

「ワシはミルクが良いのう・・」

「オイラはウィスキーロックをワンショットで。」

「ハァ!?」一同ギョっとする。「おチビちゃん・・大丈夫??」

「オイラ達ホビットは酒に強いんだ、ワンショットくらいなら余裕だよ。」

「そう・・なら良いけど。」

「でも酒場って酔っ払いに絡まれるから好きじゃないんだよね・・」ズクラッドの思いがけない一言に「ハハッゥ、坊主はチビだからなぁ。舐められ易いんだろ。」ウィルが笑い飛ばす。

ズクラッドはハァ・・とため息を付くと「独りで帝国の酒場に行ってみなよ、人間でも舐められるよ・・」

「双極半島を旅して来た俺の経験上・・・剣を抜けば大概の奴はシラフに戻る。」シンの発言に私は興味深く訊いてみた。「戻らなかったら??」

「外へ出て決闘だ。」「あらやだ野蛮ね・・」

「そこは衛兵を呼ぶじゃねえのかよ・・」珍しくウィルが常識的な意見を述べる。彼と見解が一致するのは不本意だが。

「衛兵を呼ぶのは周囲の奴等だ。当事者が呼べばそれは負け犬を意味する。」

「負け犬・・ね、そのプライドの高さが剣術に磨きをかけたのかしら。」

他愛も無い会話をして待つこと数分後・・「じゃ全員グラスは持ったわね!?では任務の成功を祈願して・・乾杯!!!」「乾杯!!!」全員グビグビと一気に飲み干して次々に空のグラスをテーブルに叩き付けた。

「ふぅ・・ミディアムローストのブレンド豆ね、まずまず・・生き返るわ~・・」

「おめえいっつもコーヒー飲んでるよな。そんなに好きかよ??」ウィルの小馬鹿にしたような物言いに私は真顔で「ええ、珈琲が無い人生なんて考えられないわ。珈琲飲んでる瞬間が私にとって至福の一時よ。」と断言する。

「完全にカフェイン中毒じゃな。手の施しようが無いわい。」ナッセルまで呆れ果てたように放言するが気にしない。むしろこの珈琲の素晴らしさに気が付かないとは可哀想な連中だ・・としか思えない。

「さあ、じゃ出国手続きに行きましょう。」勘定を済ませて外へ出ると私達は国境へ向け歩き出した。

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面白いです。エリューヴィン応援したくなる。従者たちとこれからどうなるんだろう。殺人事件の謎も、ルアオッド一行の冒険の行方も気になる。続きが楽しみです。
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