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十章 リョースロヴナ

小規模で内装も貧相なシャリアンヒルデ城だが作りは堅固だ。もし帝国と戦争になればここが本陣になるだろう。

私たちは客間へと通された。

「ようこそリョースロヴナへ、私はロヴナ警備統括責任者の騎士アレクセンだ。かの有名な褐色の騎士とは君の事か。」長身で痩せ身のいかにもなリシャーヴョンの出で立ちをした騎士が我々を待っていた。

「よろしくアレクセン。私は第13騎士団のユンフィニス・リア・エリューヴィン。こちらは従者達よ。あと冒険者ギルドで雇用したメンバーも。」

握手を交わすと「で・・・早速で悪いんだけど私達に何の用かしら??てっきり、アルキュレイア騎士団長が駐在しているものとばかり・・・」

「残念ながらアルキュレイア騎士団長は不在だ。彼女は事件が起きると現場に急行する癖があってな・・・何事も自分が指揮を執らねば気が済まん性質なんだ。で、用件とは本日午後2時過ぎに帝国第一国境のミャウゼン騎士団長から伝書鳩で一報が入った。到着するであろう第13騎士団に必ず見せろとコレを預かっている。」

・・と、記憶の欠片を取り出すと渡してきた。「ミャウゼン騎士団長から!?嫌な予感しかしないわね。」アレクセンは苦笑しつつ「我が第12騎士団もあの御老体には振り回されっぱなしだ。早速解放してみてくれ。私も見届ける義務がある。」と促してくる。

「ナッセル、頼むわ。」

私はナッセルに欠片を放ると両腕を組んでしかめっ面をした。

「よし来た、ワシに任せなさい。」

ナッセルが呪力を込めて記憶の欠片を解放するや否や、「くぉおんの褐色の小娘がっぅ一体いつになったら来るんじゃ!?帝国兵が馬車を用意して今か今かと待っておるぞっぅ!!!!帝国から到着時刻についての問い合わせが2度も来たわい・・これ以上ワシの胃を痛ませるでなぁぁいっぅ!!!!!」

青筋を立てたミャウゼン騎士団長の怒鳴り声が客間に響く。

「おぬしは帝国との緊張状態にある帝国第一国境の警備責任者たるワシの顔に泥を塗りつけるつもりか!?馬鹿にするのもいい加減にせんかいっぅ!!!!!良いか?つべこべ言わずさっさと来るんじゃ!!!!今すぐっぅ!!!!」物凄い剣幕のミャウゼンのドアップはそこでプツンと途切れた。

「・・・予想どおりね。あのせっかち爺さん、コレだから・・」私は肩をすくめてため息を付く。

「何やらすげえ怒ってるな。」ウィルも呆れた声を上げる。

「どうするエリューヴィン、今からガルムで走れば今夜には着くぞ。」

シンの提案に「冗談!!!夜間にガルムで走るなんて自殺行為だわ。途中岩か木にでもぶつかって怪我するのがオチよ。川に落ちたらアンタ拾ってくれるの??」と吐き捨てた。

アレクセンが困った顔をして「何なら駿馬を貸せるが・・この人数分は厳しいな。」と悩み込む。

「騎士アレクセン、すぐに帝国第一へ伝書鳩を飛ばして頂戴!!メッセージは紙で良いから。内容は明日の午前中には到着する、でよろしく。」

「あぁ・・それは大丈夫だが・・ミャウゼン騎士団長の意向を無視して問題なければ良いが・・・」

ますます難色を示すアレクセンに対し「あの爺さんにはどう対応しても問題しかないわよ・・どうせケチ付けられるんだから。真面目に受け取って馬鹿見るのはもうウンザリ。今回の件については特にね。」

私の意思が揺るがない事を強調しておく。

「あと、叱責されるのは慣れてるからご心配なく。」

「私も連帯責任を問われなければ良いが・・・分かった、では今から伝書鳩の用意をさせよう。」

「悪いわね、アレクセン。貴方が駿馬を推奨した事を伝えておくわ・・それを私が無視した事も。」

「フフ・・騎士エリューヴィンよろしく頼む。私は怒られ慣れていないからな。」

どうやらアルキュレイアの元で働くのは悪くなさそうだ。

ふと思い出したように「あぁ、ところで今夜は城に泊まりたいんだけど、ベッドの空きあるかしら??」と何気なしに聞いてみる。

「客室が空いているから好きに使ってくれ。」予想通りの返事に私はほくそ笑む。計画通り。節約は美徳だ。

「あと備蓄食料でよければ提供できるが・・・」

アレクセンの余計な心配りに反応したウィルが手で必死に合図をするのを見てニヤリとしつつ「そこは失礼ながらお断りしておくわ。従者達にロヴナ名物のイワシの蒲焼をご馳走する約束しちゃったモンだから。」体裁良く断っておく。

「そうか、食事処は山側の街路に多い。屋台なら海岸線沿いに並んでる・・一時の間だろうがロヴナを楽しんでくれたまえ。」

こうして私達はアレクセンに挨拶をして荷物を置いてから城を発つと夕飯を求めてレストラン探しへと街路に向かった。

「・・・で、ウィル・・アンタが死ぬほど感動したイワシの蒲焼を出す店は何処なのよ。」

「流石に死ぬほどは感動しねえけどよ・・確かに旨かったんだ、ここら辺だったと思うが・・」辺りを見渡すもケーキ屋とパン屋、喫茶店しかない。

「なぁに、期待してたのに肝心の店が無いってどういう事??」

「子供の頃の記憶が頼りではな・・・店名は覚えてるか??」シンの問いに

「・・パリパリサァディーナ丸ごとランチ・・だったと思う。」

「何じゃそりゃ・・ベタなネーミングセンスでとても高級店とは思えんのう。」

小馬鹿にしたようにナッセルが鼻で笑う。

「そもそもランチだとしたらだな、午後4時の今開いてる保証なんて無い。それか潰れたか。まぁ聞くだけ聞いてみよう。」シンがパン屋のオバさんに歩み寄ると「すまん旅行者なんだがロヴナはイワシの蒲焼が名物と聞いた・・・パリパリサァディーナ丸ごとランチという店を探してるんだが・・・」旅行者風を装って尋ねるのは彼の得意とするところか。

すると見る間に不審げな顔をして「なんだいアンタ等・・??あんなボッタクリ店に興味があるのかい??そんなモノよりもウチのパンを買った方がお得だよ!!!ロヴナで一番の焼きたての美味しいパンだからね!!!」

取り付く島もなく突っぱねられる。

ロヴナの民は商売上手と噂には聞いていたが想像以上だ。

「何だこのババア・・」思い出の料理を貶められたウィルが小声で悪態を付くのが聴こえた。

「ちょっとウィル!」「・・どうやら商売敵のようじゃの。」なるほど、ナッセルの言う通りかも知れない。

「あぁ・・丁度小腹が空いてたんだ、お勧めのはあるかい??」意外なシンの一言に一同ギョッゥとした。

「え・・??ちょ・・シン予定は・・・」

「予定変更だ、ここのパンはえらく美味そうじゃないか。そうだろおかみさん。」

途端にオバさんの顔が明るくなり「あら嬉しいわねぇ・・特別に安くしておくからね、人数多いようだし団体様用のスペシャルセットは如何かしら??」

「そいつぁ良いな、で・・いくらだい??」

「2ディールと55チャリンだよ。」

「はっは、今日はツイてるな・・3ディール払おう釣りは要らない。みんな、俺の奢りだ。」

「太っ腹だねえ・・気に入ったよ、オマケ追加してあげるよ。」

「ついでにボッタクリ店でカモられてる観光客をあざ笑いに行きたいんだが何処へ行けばその間抜けな姿が見れるかな??」

「あぁ、今は海沿いで屋台なんかやってるよ!一番隅っこでね。精々笑ってやんなハハハハッゥ」

「アァーーハッハッハ、そいつぁ傑作だっぅさあみんな美味しいパンを食べながら観に行こうっぅ」

スペシャルセットを受け取り、パン屋から角を曲がって海沿いへ歩き始めた私達は腑に落ちない顔をしていた。

「シン、支払いなら私がするから・・とりあえず私はパンでも良かったけど・・・笑いに行くって冗談でしょ?」

「俺はイワシの蒲焼が喰いたかったのに・・・」

「オイラは別に何でも良いよ。どうせタダ飯だし贅沢言える立場じゃないから。」

「まぁ高い情報料じゃったな・・」「ん?爺さん何よそれ今更知ったところで・・」

「さてイワシの蒲焼を食べに行くか。」「え?スペシャルセットは・・・」

「そうだな・・・」シンはおもむろにスペシャルセットを取り出すと、散り散りに割き始め「丁度カモメに餌やりをしたかったんだ。」歩きながら無造作にポイポイ投げ捨てる。

ほどなくしてカモメが飛んできて・・くちばしで突き始めるの眺めながら、「良い風景じゃないか、観光地ならではだな。エリューヴィン・・ディールは要らない、俺の勝手だからな。」

「呆れた、アンタって最初からそのつもりだったのね。」

青天の中次々に白いカモメが舞い降りて来る風景は確かに心地よく・・決して悪くない。彼のこのようなディールの使い方は彼なりの正解なんだろう・・だが私には理解不能に思えた。

「わあっぅカモメさんが一杯だよ!」「ひっひっひ・・良い眺めじゃのう・・」

「おいシン、ついでだから一口喰わせろよ。カモメが旨そうに喰うって事は、毒は入ってねえ。」ウィルが横から手を伸ばして欠片を口に放り投げる。

「・・・ウマい。」

「オイラにも一つおくれよ。カモメの気分になりたいんだ。」

「私も貰おうかしら。」シンは無言でパン屑の入った箱を寄越してきた。

「ん・・珈琲に合いそうなパンね、さてお味の方は・・・」レモン風味の甘い食感が口の中に広がる。

「あら美味しい。城下町のシ・グレネピアの菓子パンと甲乙つけ難いわ・・・」

「なんだあ?あんな高級店に通える御身分なのかよ!?クゥ-ッゥ我らが騎士様は稼いでらっしゃるねえ・・」ウィルの嫌味全開な物言いに「何よ、給料日に少しの贅沢くらい良いじゃない。月に一度の楽しみよ。あと一寸あそこの珈琲が好きなだけで別に大食いはしないわ、どこぞの誰かじゃあるまいし。」

ムキになって反論した。給与は公平に4等分しているのだから癪に障る。

「たっぷり砂糖を使ってるね、80点かな・・」どうやらズクラッドの舌には合わなかったらしい。

「へえ、帝国本土のパンはそんなにウマいのか坊主??」

「まぁ帝国は広いからね、千差万別だよ。甘いのから塩気が強いのから酸っぱいのまで色々・・・ミューンズドヴルメでオイラがお勧めのパン屋を紹介するからさ、行ってみなよ。ぶっ飛ぶよ。」

「あらおチビちゃんグルメなのね・・・でも私達は観光の為に彼の地を訪れるワケじゃないって事を忘れないで頂戴。」

「もちろんさ、任務を終えた後にでも考えておくれよ。」

シンが残ったパン屑を路上にまとめてぶちまけると「さっさと行こう、日が暮れる。」と促した。

こうしてスペシャルセットは失われた。パン屋のオバさんが知ったらどう思うのか知る由も無いが全てはカモメの腹の中だ。

海岸線沿いの屋台街に辿り着くと、客でごった返いしていて活況に満ちているのが窺えた。

「なぁに、大盛況じゃない・・」ジロジロと順に屋台を見物しながら歩いていく。

「手軽に腹を満たせるからな。丁度仕事終わりの時間帯だ、観光客のみならず一杯引っかける地元民も多いんだろう。」確かにシンの言う通りで、連邦諸国の会話に混じってロブナ訛りの喋り声があちこちから聴こえてくる。

酒をあおってツマミを喰らうのは一日の〆として至福の一時かも知れない。

「良い匂いね・・少し強烈だけど。」

「この小汚い風景にこの匂いはたまらんのう・・」

「うへえ・・カモメの丸焼きだってさ。旨いのかねえ・・・喰ってる奴の気が知れねえな。」

「ちょっとウィル!聞こえるわよ!!!」

「聞こえてるよっぅどうせなら喰ってけよ旨いぞうっぅ」元はカモメだったらしき肉塊にしゃぶりついてるオッサンが振り向いて声を掛けて来る。

「アンタ等ロヴナは初めてか?見たところ騎士団のお仲間かい??」

「えぇ・・そう。ちょっと任務の都合でロヴナに立ち寄ったの。私の従者が何か言ったけど気を悪くしないでくれる??」見たところ酒を飲んでいる・・・揉め事は御免だ。

「はっはっは、なぁに気になんかするもんか・・で、どうだ?カモメの味は知っておいて損はないぞ。土産話にもなる。」言わんこっちゃない、ホラ絡まれた・・・とばかりにウィルを睨みつけた。

「悪いなおっちゃん、俺達今日はイワシの蒲焼を喰いに来たんだ・・カモメはまた次の機会にでもしとくよ。良い酒飲んでるねえ!!」悪びれも無くウィルが飄々と受け応える。

相変わらずのお調子者っぷりに呆れつつもひとまず話を合わせるとしよう。

「そう、夕食に丁度イワシの蒲焼が美味しい店があるって話でね・・・今は屋台でやってるって聞いて・・」

「あぁ、それなら一番向こうだぞ。ここの屋台街の初心者なら悪くない選択だな。入門編にぴったりの味だよ。」何が入門編なのかプロでも気取ってるつもりなのか知らないがとりあえず逃げる口実は出来た。

「それはどうも、では失礼するわ。良い一日を。」

「またな、おっちゃん元気でなっぅ!!!」またもクソもない、もう会う事なんて無いだろうに・・・そう思いながら早歩きで夕食の地へと向かう。

やはり・・この男の性格は私には馴染まない・・・短絡的で陽気で直情的、誰にもフレンドリーかと思えば雑で適当。おまけに馬鹿だし・・

「おい通り過ぎてるぞエリューヴィン。」「え??」

シンの一言で私はハッゥと立ち止まった。いつの間にか全員数トーリア後ろで店の前に並んでる。

「何だよ海水浴でもしてえのか??」「ハハッ、流石に季節外れだよ兄ちゃん。」

「それは無いな、エリューヴィンはカナヅチだからな。」

「ちょっぅ・・シン、余計な事言わないで。」

「ぶはははっぅマジか!?おめえ泳げねえの??」・・・馬鹿に馬鹿にされる気分は最悪だ。

「何よ、アンタは文字も書けないでしょ!!!!」「それはそれ、これはこれだ。ぶぷっぅ我らが騎士様にも弱点があったか。アヒャヒャァ」皆の前で笑われて私はムキになった。

「べっぅ・・・別に泳ぐ必要性なんて無いからっぅ海へ出るんなら船に乗れば良いじゃない。」

「船が沈んだらどーすんだよ。」

「救命ボートがあるから・・・」

「小型船だと積んでねえってば。」

「じゃあ乗らないわよアンタ私に死んでほしいの??」

「悪い悪い、冗談だって・・でも任務でいつか乗る時が来るかも知れねえだろ??今からでも俺が手取り足取り教えてやろうか??」

「誰がよ!?そもそもアンタ・・・」顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げようとした矢先に「お客さん冷やかしなら帰ってくれないか。」「え!?」

屋台の主らしき人物が腕を組んで我々を睨みつけていた。

「店の真ん前で商売の邪魔されちゃ困るんだよ、アンタ等・・・」ポンポンと服をはたきながらウンザリした顔をしている。

「あっぅ・・これはその違うの、いや、最高に美味しいイワシの蒲焼はここロヴナのバリバリサァデンナ丸ごとランチかティストレテのパパラスードか言い合いになっちゃって・・・」咄嗟に小説で覚えた帝国の軽食喫茶店を引き合いに出す。

「そうなんだよ、大将、一丁帝国被れのコイツに本物の味って奴を教えてくんな。まるで分かっちゃねえ。」上手い事ウィルもフォローしてくれた。

店主は頷いたと思うと顔を振り「そうか・・だがバリバリだかパルパルだか看板も読めねえ奴にワシの丼は出せねえな。」

「あぁっぅ、コイツ文盲でねぇ・・・こらパリパリサァディーナ丸ごとランチって言ったろ!!!」

「ぶふっぅ」シンが堪らず噴き出す。

「あぁ、そうそうパリパリ・・サァディーナ丸ごとランチ。私ったら馬鹿で物覚えも悪いから・・御免なさい。」たかがイワシの蒲焼を食べるのにこんな屈辱を耐え忍ばなければならないとは・・・ウィルだけ身銭を切らせてやろうか。

「良いだろ、5人か。座りな。」全員カウンターに着くと店主が焼きに入りながら「で、注文は??」

「大5つ!!!」ウィルが元気よく声を上げる。

「ねえちょっと、おチビちゃん食べきれるの??」

「大丈夫、オイラはこう見えてもよく食べる方だからね。食い意地は張ってるよ。特にこんな名産品なら是が非でも食いつくよ。」

「そう、なら良いわ。爺さんは?」

「ワシャ魚は大好物じゃからの、後はウィルの舌を信じるぞい。」ウィルがナッセルの肩に手を置き「爺さん任せときなって。俺は味覚だけは自信あるからな。伊達に給料の9割を食費に使い込んでねえからよ。」得意気に語る。

「じゃあ誰か残したらウィルよろしく。」「おう、任せとけ。」

「ほっほ・・・若い間によく食っとくのは良い事じゃ。ワシみたいな老体になると胃が受け付けん。」

流石に大5人前ともなると焼くのに時間がかかるのかすぐに出て来る様子が無い。

「そこの兄ちゃんは以前来たらしいがワシの記憶にねえな・・・」焼きながら独り言みたいに言って来た。

「そりゃ、前回は俺がガキの頃の話だからな。今でもあの味は忘れられねえ・・・ところで大将、何で屋台に移ったんだい??」

「場所代だよ。後は嫌がらせもあってな・・・」ぶっきらぼうに語る店主にウィルは思案を巡らせて「ひょっとして、あのパン屋のババアと何か因縁が・・・??」ピタリと店主の手が止まる。

「よく知ってんじゃねえか・・匂いが移るとか難癖付けられて顔を合わせたら喧嘩ばかり。それで嫌になったんだよ。」

「へえ、この染み付いたタレの匂いは食欲をそそるけどなぁ・・」

「ふむ、あの話しぶりからして納得じゃな。」

「確かにここの屋台街の匂いは強烈ね・・・」

「ところで主、あそこのパンを先ほど購入したんだが・・・」シンが神妙な顔付きで話し出す。無駄話が嫌いな彼にしては珍しく今日はよく喋る。

「ふん・・あんなパンは金魚の餌にでもしてしまうのがお似合いだ。」プイと顔をそむけながら悪態を付く店主にシンが続けた。

「生憎と金魚は持ち合わせが無かったので・・・、全部カモメの餌にしてやった。スペシャルセットという奴をな。」

店主はニヤリと笑みを浮かべると「はっはっは、お前とは良い酒が飲めそうだな・・・そうか、カモメの餌にか・・うわっはっはっぅ」

「アァァーーッハッハッハ!!!」突然のシンの笑い声に私は目を白黒させた。

「・・・シン?」「おめえ大丈夫か??」

「約束通り・・あざ笑ってやっただけだ。3ディールを払ったんだ、楽しまないと損だろう??」皮肉のつもりなのか・・いまいちこの男の笑いの焦点が私には分からない。

「ハァ・・時々アンタの複雑な言動には理解不能な部分が垣間見えるのよね。」

「我らが騎士様よ、コイツは根っから捻くれモンだから仕方ねえよ。俺達とは違うんだよ。」ウィルがここぞとばかりにシンを扱き下ろす。全ての面においてシンに勝てないので罵倒できるチャンスはこういった機会に限られる。

よくもまあどの口が・・・と思ったら「そうじゃの・・ワシ等リシャーヴョンとは生まれも育ちも異なるからのう・・文化の違いって奴かも知れんな。」ナッセルもウィルに同調する。

この爺さんはシンとウィルだとウィルを支持するに決まってる。。誰にも靡かないシンと比べて後輩として可愛気があるのはウィルの方なのだから。

「まぁ根っから単純なウィルは分かり易いけど・・」

「そうそう、根っから単純な・・・って馬鹿にしてんのかよ!?」

「はいよ大5つお待ちっぅ!!!」ドンドンドンっぅと大きな丼がテーブルの上に叩きこまれた。

ホカホカの白米の上に焦げが付いたイワシの蒲焼が大量に盛ってあり香ばしい湯気が漂っている。

「じゅるっぅ・・我慢できねえ先に頂くぜ。」

「どうぞご勝手に。私も食べるわよ。」

ドンドンッゥ追加で丼が置かれる。「一丁上がりだ。」

「ほっほう、コレが噂のロヴナ名物じゃな・・・量が多いがさてワシに喰いきれるか・・」

「そうだな・・誰かさんの押した太鼓判を吟味しなければ。」私達は我先にと丼を片手に食べ始めた。

「ハフッゥハフッゥ」ふっくらとしたイワシの身に極上のタレがたっぷり染み付いていてかつてない芳醇な味わいに白米を口の中に放り込むと・・感激モノの旨味のハーモニーが広がる。

「おぉ、コレコレこの味よっぅくぅぅ~~~旨い!!!」

「あら本当!!!とても美味しいわ。」

店主が咳払いをしつつ「そこの姉ちゃん帝国産のとどっちが旨いかこれで分かったかい??」自信あり気に聞いて来る。

「そりゃもちろん!!!パリパリサァディーナ・・丸ごとランチの圧勝ね!」

帝国の味なんて知った事ではないがこれ以上美味しいイワシ料理なんて考えらえない。それくらい美味であった。

「オイラ、こんなに旨い魚料理喰った事がないよっぅ」ズクラッドが白米を飛ばしながら夢中にガッツいて貪り食う。

「へへっぅそうだろ坊主、ロヴナで一番旨い飯だからな・・・なぁ大将??」

店主は満足げに頷くと「ああ、ロヴナ産のイワシは程よく身が付いてて食べ応えがあるんだ、そこにワシの秘伝のタレをじっくり染み込ませて焼けば絶品さ。満足出来ねえワケがない。」夢中でガツガツ食べながらうんちくを聞き流しつつ「これはロヴナに立ち寄った甲斐があったわねモグモグ・・」「だろ??」

「ムシャムシャ・・こりゃワシの舌に適うぞ。ウィルよなかなかの食通じゃな。」

「へっへっ・・爺さん後で煙草3本な。」このヘビースモーカーどもは貸し借りがあると煙草を奢って帳尻を合わせる癖がある。帝国産の紙巻き煙草は高値なので、それだけの価値があるのだろう。

シンの方を横目で見ると黙って食べ続けている。彼が沈黙しているのは機嫌が良い証拠だ。どうやら口に適ったらしい。

「ごっそさんっぅ最高の夕飯だったぜ!」ウィルがいち早く食べ終えた。

「ちょっとアンタよく味わって食べなさいよ。言っとくけどおかわりは無いからね。」

「そうカリカリすんなって、早食いはリシャーヴョンの美徳だってばよ。」

「良い喰いっぷりだ、兄ちゃん気に入ったよ。またいつでも来てくれ。」すっかり主に気に入られた様子で何処へ行っても天性の人付き合いの良さがこの男の最大の長所であり持ち味なんだと実感させられる。

正直羨ましくもある・・が、騎士という立場上私は彼のようには成れない。

「主、秘伝のタレとやらは単品で売ってないのか??」唐突にシンが口を開いた。

「馬鹿言っちゃいけねえ、このタレは門外不出なんだ。分析して真似でもされたら商売上がったりでい。」

「そうか・・」どうやらタレを保存食にかけて食べることでも思い付いたらしい。

15分後・・・食の細いナッセルが苦戦しつつも食べ終わった。

「ふーい、もう満腹じゃわい。」

「あぁ、喰った喰ったさあ帰ろうぜ。」

「オイラも大満足だよ」

「じゃあ支払いはおいくらかしら??」財布を取り出して尋ねると「あんたが勘定すんのか??計算は出来るんだな・・」と驚かれた。勝手に文盲扱いされて癪だが話の流れの都合致し方ない。

「4ディール10チャリンだ。」「あら良いお値段ね、確かにそれだけのサービスだったけど・・・」

支払いを済ませて私達は城へと帰途に付いた。

歩きながらウィルが「我らが騎士様は昨日や今日とやけに気前が良いじゃねえか。よっぽど支度金とやらは潤沢だったのかあ??」上機嫌で聞いて来る。

「そ、よっぽどよ。何かの間違いかと思ったくらい支給されたの。でなければこんな無駄使いしないわよ。」

「ハハッゥ、貧困騎士団が金持ちになるとはヨハン様様だなぁ~こりゃ足を向けて寝れねえや・・」能天気に笑いながら心にもない事を言う。

「・・アンタ殺人事件を追ってる自覚あんの??」思わず口に出た。

「なんでえ、ただの殺人事件だろ??そうカッカしなさんなって。」そう、たかが殺人事件されど殺人事件なのだ。

「詳しく言えば強盗殺人事件じゃな・・」ナッセルの爺さんが蛇足を入れて来た。そんなの言われずとも分かってる!!!

「良い?繰り返すけどこの事件は王家のメンツが掛かってるの。ヴェイルド教授は副王陛下の依頼でヨハンと共に遺跡の発掘へ出向いた・・そして遺跡で王家の財宝を持ちだしヴェイルド教授は失踪、ヨハンは殺された。その犯人を逮捕するのは、王家の沽券に関わるのよ。重要な任務だわ。」

一瞬場が静まり沈黙の後、「分かったよ、気を引き締めて任務に邁進します!・・これで良いんだろ??」ウィルの物分かりの良さは時として愚直なまでに馬鹿正直である。

「ん、素直でよろしい。あくまで私達騎士団は王家の手足たる存在だって事を忘れないでよね。」

「なあエリューヴィン、確認したいんだが・・」シンが唐突に聞いて来た。

「あら何?気になる事でも??」

「ああ。俺達の任務の最優先事項はヨハン殺害犯人の身柄確保か??それとも王家の財宝の確保か??」

想像していなかった質問に私は考えを巡らせる。

「そうね・・基本的には犯人を逮捕したら財宝も取り戻せるハズだけど・・そうでなかったとしたら・・」

「その可能性も十分あり得る、だろう?」確かに・・・仮に組織的な犯行であればヨハン殺害の犯人はただの使い捨てでトカゲの尻尾切りかも知れない。

「その問題は難しいわね。ただ犯人の身柄を確保出来れば嫌でも記憶を引き出して財宝の痕跡に辿り着けるわ。まずは犯人の追跡と逮捕に全力を注ぎましょ。そして両方とも確保出来たら任務は達成。晴れて帰国出来るって事で良いかしら。」

「了解だ。」シンが納得したように頷く。必要最低限ながらも核心を突くこの男はやはり切れ者だ。

「そんな面倒臭い話になったとしたら坊主の成功報酬はどうなんだよ??」

「お、兄ちゃん流石だよ!さっきからオイラが言いたくて堪らない内容を代弁してくれるなんて!」会話を不安気に聞いていたズクラッドが本音を吐き出した。

「そうね・・契約通り2週間までは付き合って貰うとして犯人を逮捕出来た時点で成功報酬は支払うわ。」

途端にズクラッドの顔が明るくなり、「本当ぉお!?やったぁぁああっぅ」ピョンピョン小躍りする。

「3ラディールの為にも頑張ってねおチビちゃん。期待してるわ。」

「うん!任せておくれよ!」

すっかり日が暮れて松明の灯火が輝くシャリアンヒルデ城へ戻ると、馬屋へ様子を見に行った。ブルルッゥガフッゥガフッゥ・・・ガルムが大量の雑穀を貪り食っている。

「あらやだ残飯で良かったのに山盛りの御馳走じゃない・・アルキュレイア騎士団長の名を出したら効果てき面ね・・」

「かぁーっぅ都合が良ければ平然と嘘を付く我らが騎士様は倫理観抜群だぜ・・」

「あらウィル、彼女なら気にしないわよ・・事後報告でも快諾してくれるわ。そういう人よ。」

そう、アルキュレイア騎士団長は人間が出来ており若干22歳とは思えぬほどの胆力、度量、誠実さ、正義感、協調性・・誰もが一目置く逸材だ。

「ヒッヒッヒ・・・騎士団の互助努力義務じゃな。」流石に従者として長年勤めてきたナッセルは分かっている。

「そういうこと。」「誰かさんも見習うべきだな。」

「シン、一言多いわよ。」

城の中へ入り客前へ行くがアレクセンの姿は何処にもない。彼も暇ではないのだろう。

手近の従者を捉まえて「ねえ、ちょっと騎士アレクセンは??」

「個室に居ますが呼びましょうか??」

「いや、結構よ・・騎士アレクセンから客室のベッドの使用許可を得てるわ。案内してくれない??」

「ああ、ではこちらに・・」

城の2階へ上がりながら「あー、風呂に入りたい気分だなぁ・・」ウィルが何気なしに呟く。

「贅沢言わないの、まだ2日目でしょ。ミューンズドヴルメに着いたら銭湯連れて行くから我慢しなさい。」

城下町には風呂屋が数軒あり恐らくここロヴナにもあるのだろうがリシャーヴには「毎日湯船に浸かる軟弱者」という言葉がある。大多数の者は週に2回しか風呂に入らない。水資源は貴重であり風呂付きの家を備えてるのは一部の金持ちだけだ。

「こちらです、どうぞごゆっくり。」

幅が8トーリア、奥行きが4トーリア程の広い客室には豪華にもシルクの掛け布団が重ねられたベッドが並んでいた。

「あらベッドは4つしか無いわね・・私は兵舎のベッドへ行くから朝7時半にここで落ち合いましょ。」

「いや、俺は雑魚寝で良いからよ・・同じ部屋で寝ようぜ。」

ウィルの提案に「あら良いの??疲れが取れなくても知らないわよ。」少し心配しつつも言い放つと「こちとら床で寝るのは詰所の夜番で慣れてるからな。今更どうって事ねえよ。」ぶっきらぼうに答える。

細かい事は気にしない彼らしさに「ふぅん・・アンタがそれで良いってんなら別に良いけど。」一応は納得の態度を示した。

「兄ちゃんオイラと一緒に寝るかい??」すぐにズクラッドが良かれと思って助け船を出す・・が、「よしてくれ、男と同じベッドで寝る趣味なんてねえ。」素っ気なく突っぱねられる。

「じゃあ私とだったら??」

ウィルは数秒間考えて「・・ハッゥ、冗談じゃあない・・寝相が悪いおめえの傍で寝てたら命がいくらあっても足りないって・・お断りだね。」

「あっそう。」

蝋燭の明かりが照らす中、私達は就寝前のくつろぎの時間を共有していた。

ウィルとナッセルとズクラッドは・・トランプで賭け事に興じている。3チャリンを取った、取り返したとワイワイ微笑ましく楽しんでいて実に結構なことだ。

シンはベッドで背を向けて横になっているが寝ている気配は無い。彼はいつもこうだ・・人の輪に入って親交を深めるなどといった事に興味など無い。かと言って、独りの趣味を嗜むワケでも無し・・強いて言えば剣術の腕を磨くのに精を出すくらいか。

私は小説を取り出すとページを捲った。英雄王ヴィ・デジェスディア・ルアオッドの冒険譚もいよいよ中盤だ。聞いた話によると、今でも彼の神具が冒険者ギルドのシンボルとしてバン・ガリトゥーレに安置されてあるという。没後1500年もの間に皇帝がその神具を悪用しなかったのは英雄王に敬意を表しての事らしいが真相は不明だ。

帝国の英雄として誰よりも皇帝の寵愛を受け、君と呼び合う仲にまでなりその素顔を見た唯一の人物の活躍に私は心を躍らせて見入った。

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