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15話



ルーカスとは朝食時に顔を合わせたばかりだ。彼に今日の予定を聞かれた際いつも通り読書と答え、彼の方も予定があると言っていた。普段ルーカスは家庭教師に学園で学ぶ基本的な学問、将来公爵位を継ぐ為に必要な知識と教養、そして元騎士団員から剣術の手ほどきを受けていると聞いている。忘れかけていたが彼は公爵家の嫡男であり忙しい。それは夫人も同じで社交であったり邸の采配、ほぼ不在の公爵に代わり領地に関する書類の確認、事務処理等もこなしている。だからアリシアは2人に迷惑をかけないよう、という建前で書庫に篭っているところもあった。まあ好き好んで篭っているのだが。


そんなルーカスが何故か書庫の前にいた。


「ルーカス様、どうかされましたか」


「面倒なことになった」


僅かに眉間に皺を寄せてルーカスは言う。


「何の前触れもなく()()()()が来たんだが追い返すことは難しい。大体そいつは母上のところに入り浸っているんだが、タイミング悪く母上はさっき出かけてしまったから俺が相手をするしかない。が、そいつは色々と勘が鋭い。邸の雰囲気から他に客、つまりアリシアがいることがバレる危険が高い。その場合何で隠していたんだと絶対にギャーギャー騒ぐ。なら騒がれる前に紹介してしまった方が後が楽だ。悪いがちょっと付き合ってくれ。顔だけ見せたら戻って良いから」


「…はあ、分かりました」


ルーカスはその来客をそいつ、と言っているので年が近い、あるいは親しい間柄なのかもと推測した。友人がいないと夫人に嘆かれていたが、そんなことはないのかもしれない。微妙に心がささくれだった。しかし、前触れなく公爵邸に来ることが出来る(無理矢理押しかけた可能性もあるが)なんてその客も公爵に負けず劣らず身分が高い者なのか。それとも気軽に行き来出来るほど家族絡みで親しいのか。気になったので聞いてみることにした。


「そのお客様って、どんな方なのですか」


「父方の従妹、年は俺の1つ下」


「父方…公爵様の」


「父上の妹、叔母の子だ。叔母と母上の仲が良かったから昔から交流があった。当時は互いに1人っ子だったから、それこそ兄弟みたいに育った。だが、ここ数年はうちに来る頻度がより多くなっている」


その理由は従妹に年の離れた弟が生まれたからだと言う。両親も使用人も弟に付きっきりで居場所を無くしたと感じた従妹はルーカスと伯父、義伯母を頼り、ここに身を寄せることが増えたらしい。


「あいつ、他の家の令嬢と交流してるんだろうか…」


その顔は妹を心配している兄の顔に見えた。貴族の令息令嬢は15になると学園に入学するが、その前から親同士の繋がりや茶会などで知り合いや派閥を作ってることが多いと聞く。その繋がりがそのまま社交界で生きていくための地盤になったりする。当然アリシアはそういったことはしてない。恐らくアリシアも学園に通うことになるが、碌に交流していないまま入学したら周囲は皆知り合いでポツンと孤立…が容易に想像出来て身震いする。男性は1人でもどうにかなるが、女性はその辺りがシビアなのでルーカスはそれを理解した上で従妹の心配をしているのだ。


夫人はルーカスは他人に興味がないと心配していたが、少なくとも従妹のことは気にかけているようだ。微笑ましく感じた。


そんなことを考えていると従妹がいるという応接室に着いた。ルーカスが扉を開けて中に入り、アリシアはその後に続く。紅茶とお菓子の甘い香りが漂う応接室。中央のテーブルに1人の少女が腰掛けていた。少女が扉の開いた音に反応し、こちらを向く。


「兄様、やっと戻って来たわね。私を放って何処に行っていたのかしら…?」


呆れの混ざった声音に徐々に困惑が滲んでいく。亜麻色の艶やかな髪は背中に流し、サイドは編み込んでおりレースのついたリボンを結んでいる。パッチリとした大きな瞳は若草色で、その瞳には警戒の色が宿っていた。可愛らしい雰囲気だがツンとした印象も与える令嬢だな、とアリシアは思った。彼女はアリシアを訝しげに凝視するとキュッと引き結んだ唇を開く。


「…誰?その子?」


困惑から一転、敵意を前面に押し出した声音で尋ねて来てアリシアの体に緊張が走る。どう見ても友好的な態度ではない。交流のある従兄が突然見知らぬ女を連れて来たらそういう態度になるに決まっていた。安請け合いして顔を出すなんて言わなければ、と少し後悔した。目の前の少女にアリシアはどんな風に映っているのか。兄様と呼んでいたから相当ルーカスを慕っているのだ。そんな兄を誑かすアリシアはさしずめ泥棒猫だろうか。全くもって彼女が危惧してる事実はないのだが…。初対面のアリシアが必死に弁明したところで逆に嘘くさい。この状況を打破出来るのはルーカスだけだ。


アリシアは上手いことこのギスギスした空気をどうにかしてくれ、とルーカスに心の中で懇願した。


「コイツはアリシア、6日前俺が拾って来て今うちに滞在してる」


「「は?」」


彼女とアリシアの声が重なった。どうにかしてくれと願ったが、何故誤解を生みそうな言い回しをするのか。唖然とするアリシア達を放置してルーカスは続ける。


「で、コイツはラナ・エグバード。侯爵家の長女でアリシアと同い年。母上に刺繍や楽器を教わりにうちに入り浸ってるんだ。アリシアは訳あってうちで預かってる。後々バレたらお前騒ぎそうだから先に紹介しておいた…よし、アリシア書庫に戻って良いぞ」


用は済んだ、とばかりにルーカスはアリシアを扉まで連れて行く。そして扉を開けて困惑しているアリシアを送り出そうとするが。


「!ちょっと待ちなさいよ!」


当然ながらすんなりと帰らせてはくれないようだった。


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