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12話



「アリシアさん、取り敢えず侯爵と今後のあなたの待遇や虐待した者達への処罰に関しての話が纏まるまではうちに滞在して欲しい。部屋は今使っている客間をそのまま使ってもらう。何かあればランや、ルーカスに言ってくれれば良い」


「…何から何までありがとうございます」


ランがこのまま付いてくれるというのはとても安心出来る。少し話しただけだがアリシアを馬鹿にしたような態度を取らなかったので、好印象を抱いている。そしてメイドであるランとルーカスを同列に扱っていることに関してこの場にいる誰もが指摘しない。ルーカスも公爵の言葉を黙って聞いている。本人が気にしないのなら良いか、とアリシアはスルーした。


「基本的に他家の問題に口は挟まないのだけど、こう見えて僕は親バカでね。普段何も求めないルーカスがどうしても言うから。礼ならルーカスに言ってくれ」


ニッコリと微笑んでいるのに底知れぬ圧を感じる。優しそうな方だと勝手に思っていたが、やはり見た目通りの人ではなかった。公爵夫人も言ってたがルーカスがアリシアを拾ったから助けてくれているだけで、ルーカスが関わらなかったらアリシアは捨て置かれていたのだ。それを酷いだとか薄情だとは思わない。赤の他人、何の利益も齎さないアリシアを助けてくれること自体あり得ないことだ。アリシアはただ運が良かった、それだけ。それを改めて肝に銘じる。


「それで、アリシアさんは侯爵家に何を求めているのか詳しく聞きたいんだ。もうあの家にいるのは耐えられないと言うのなら、時間はかかるが侯爵家から出られるよう手を回すけれど?」


「そこまでは…今までの待遇が改善されればそれ以上は求めません」


家を出るというのは他の家の養子になるとか、そういった手段だろう。夫人と話したが、命の危機に晒されるほど暴力を受けている、食事を与えず餓死する寸前といった事情がない限り訴えて、生家から引き離す命令を出すことは難しいらしい。アリシアは肉体的な暴力を受けていたわけではない。そして態々引き取った娘をまた外に出すなんて噂好きの貴族達の格好の餌食だ。父がその選択を取るとは思えない。アリシアは成人するまで衣食住が保証されれば良い。栄養失調にならない食事、嫌がらせをしない使用人、もしアリシアに付きたい使用人がいないのなら掃除くらいなら自分でやる、出来るだけ夫人とも父とも顔を合わせたくない…とアリシアは希望を公爵に伝えていった。普段人と話さないのにたくさん話したため、少し疲れてしまったのでオレンジジュースを飲む。グラスからオレンジジュースが半分以上減ると控えていたメイドがすかさず注いでくれる。公爵はアリシアから一通り話を聞き終えると椅子から立ち上がった。


「アリシアさんの希望は確かに聞いたよ、侯爵に包み隠さず伝え出来るだけあなたの希望に添えるようにする。僕は部屋に下がるけど、シャルロットとルーカスと話すなり好きに過ごしてくれ」


そう言い残すと公爵は食堂から出て行った。ドアが閉まると成り行きを見守っていた夫人が話しかけてくる。


「アリシアさん大丈夫?ルイって物腰は柔らかいけど無自覚に圧を出すから、緊張してしまう人が多いのよ。でもアリシアさん堂々と話していたわね」


「いえ…確かに緊張はしましたけど雰囲気が柔らかい方だったので。何なら実の父より話しやすいし安心出来ます」


ハッキリ言うアリシアに隣のルーカスはまた吹き出した。


「相当父親のことが気に入らないんだな」


「気に入らないわけでは。碌に交流してないから信用出来ていないだけで」


「より酷いこと言ってる自覚ないのか?初対面の父上より信用出来ないって」


「まあ、引き取ったのに顔も合わせない、夫人や使用人が何をしているか把握してない時点で信用も何もないわね」


アリシアの言い分に夫人はうんうん頷き同意してくれる。公爵は圧を感じるものの萎縮するほどではなく、またやはりルーカスに似ていることもあって緊張しなかったのだが恥ずかしいので口にはしない。


「ルイが上手いこと話を纏めてくれるはずだから、アリシアさんはゆっくり過ごしてね。暇ならルーカスを呼べばすぐに駆けつけるから」


「は?俺そんなに暇じゃ」


「大丈夫です、ルーカス様を煩わせるような真似はしません」


「え」


夫人の言葉に不服そうな反応をしたルーカスを安心させるように返答すると、何故かルーカスが固まった。


「…変な意地は張るなと言ったのに…アリシアさん気にしないで。ルーカスのことは放っておいてお話ししましょう。アリシアさんこっちに来る前、お友達は居たのかしら?急に引っ越すことになって、お別れするのは悲しかったのではなくて?」


「友達…一応いましたけど母が亡くなって父が顔を出し始めてからは距離を取られました」


「まあ…」


子供は時に残酷な行いを平然とする。夫人は痛ましそうな顔をした。


「友達といっても親に言われて母のことを探りに来た子ばかりだったと、今なら思います。花屋に勤めてるのに大きな家に住んでる母は少し浮いてましたから」


表面上は母やアリシアに良くしてくれた人はいたけれど、如何にも貴族然とした父が訪ねてきて来るので噂の的になっていた。アリシアに声をかけてくれた子は皆何処か余所余所しかった気がする。母が亡くなった直後は皆顔を出して励ましの言葉をかけてくれたけど、アリシアが貴族の隠し子だということが確定的になったら誰も来なくなった。面倒ごとに巻き込まれては敵わないと思ったのだろう。周りが悪い訳ではない。ちゃんとした友情を築けなかったアリシアが悪かった。恐らく引っ越すことになるアリシアに手紙を書くと言ってくれた子とは当然それっきりだ。悲しいと思わないアリシアは薄情なのだ。


だがルーカスはふん、と鼻で笑った。


「そんくらいで付き合い止めるとか薄情な連中ばっかだな…じゃあお前友達居ないんだな」


「ルーカス!」


グサ、とルーカスの言葉が心に突き刺さった。平然としていたルーカスはしゅん、と落ち込んでいるアリシアを見て少し焦っている。夫人はそんなルーカスを叱責した。


「あなたも友達居ないでしょ。とやかく言える立場じゃないわよ」


「俺は居ないんじゃなくていらないだけで」


「言い訳は結構…アリシアさんごめんなさい。本当この子は余計なことしか言わないから」


「大丈夫です…」


声色が沈んでいるアリシアに夫人の顔に焦りが見えてきた。余計なことを言ったと自責の念に駆られているルーカスも同様。微妙な空気が食堂に流れる中、空気を変えようと夫人が声を上げた。


「そうよ、さっきも言ったけど友達が居ないのなら2人が友達になれば良いわ。アリシアさんルーカスはこの通り口は悪いし好き勝手に振る舞うことばかりだけど、悪い子ではないのよ?親の贔屓目もあるけど本当だから!アリシアさんにまで見捨てられたらこの子一生1人よ?」


そんな大袈裟な、とアリシアは夫人の必死さに笑いそうになる。いくら何でも一生1人は…いやルーカスは1人でも普通に生きていけそうだ。人に興味がないという話だから、必要に駆られない限り独り身を貫きそうな感じが確かにあった。大袈裟だと笑い飛ばせなくなってきた。


「私は、その良いんですけどルーカス様が嫌がるのでは」


「俺は嫌じゃない。どうしてもって言うのならなってやっても良い」


「なんでそんな偉そうな態度を取れるの?」


ルーカスは尊大な態度でアリシアに向かって言い放ち、夫人の困惑に満ちた呟きが響く。アリシアは半日足らずでルーカスに慣れてきたようで腹を立てるということはなかった。寧ろ彼の正直で飾らない物言いは言葉の裏を探る必要がなくて楽だ。彼はアリシアのことが気に入らなければハッキリと告げているだろう。


「ではルーカス様、宜しくお願いします」


「ああ」


素っ気ないやり取りを経てアリシアとルーカスは友達?になった。それから他愛もない話をしているとアリシアの顔色が徐々に悪くなっていき、いち早く変化に気づいたのはルーカスだった。

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