確執
この男によれば彼女はマ族のトップの娘らしい。そしてここに来た目的はこの子を誘拐か。身代金目的か、それとも外交カードに使おうとしているのか。今は考えても仕方がない。
「殺したんですか」
俺をジッと見ながら聞いた。
「いや、昏睡状態になっているだけですよ。数時間もすれば目を覚まします」
「そうですか・・・」
ホッとしたように息を吐いていた。自分を縄で縛り誘拐しようとした連中の心配をするとは変わった子だ。とりあえず縄を切って解放した。
「お怪我はありませんか?」
俺は医師免許を持っているし、このデバイスから医療器具も出せるはずだから余程のモノでないかぎり治せる。
「は、はい・・・」
彼女は覆われた布を取った。金色の髪に緑色の瞳そしてなにより目立つのが角が生えていることだった。
(なんで角なんか生えているんだ?それに絵画で見た中世ヨーロッパで庶民が着ていたような服・・・これはまさかコスプレってやつか?何がどうなっているんだ?)
(さっきの男たちといいこのお嬢さんといいこの地域は中世ヨーロッパのよな恰好ばかりだな)
俺は今の状況がまったく飲み込めなかった。
「あの・・・」
「何か?」
「助けていただきありがとうございました」
ドレスの裾を掴み感謝する姿は美しく思えた。見た感じ縄の跡があるがそれ以外には怪我はないようだ。
「どういたしまして。ところでここがどこかわかりますか?」
「・・・あなたはわたくしを見て何も言わなんですか?」
「私は差別主義者じゃないので」
彼女は目を見開いたあと微笑み
「あなたは変わった方ですね」
「よく言われます」
普通とは言えない人生を歩んできたからな。
「では、わたくしはこれで」
彼女は去ろうとしたが
「あなた一人で大丈夫なんですか?」
ここで彼女が死ねば厄介なことになりそうだしな。
「お気遣いなく」
勢いよく首を振られた。どうやら疑われているみたいだ。角がある者とない者の確執は強いみたいだな。
「!」
彼女を説得しようと口を開こうとしたが何かの気配を感じ、俺は戦闘態勢に入った。