栄光の道は現れた(ハリス視点)
私の名はハリス・テュール。テュール男爵の三男だ。三男ゆえに家督を継げず騎士に入団させられ今はアルコーン地方で小隊長という閑職に追いやられた可哀想な男だ。
「ハリス・テュールだな?」
「あ?なんだ?あんたは?」
巡回が終わり酒場でまずい酒を呑んでいた私のところに1人の男が現れた。その男はローブで顔を隠していた。
「私はこういう者だ」
私にしかみえないようにエンブレムを見せてきた。
「ん?・・・!これはっ」
このエンブレムはドラゴンを倒せる猛者ばかりが集まる王国の精鋭部隊『ドラゴンスレイヤー』のエンブレムではないか。
「騒ぐな」
「うぐっ」
大声を上げようとした私の口は手でふさがれた。
「大事な話がある。君の部屋に案内してもらっても?」
口をふさがれている私は頷いた。
「よろしい」
小隊長である私には事務処理をするために個室が与えられている。広さはあっても3流の家具しかない部屋で嫌っていた。その部屋にエリート達を招くのは不思議と高揚していた。
「この部屋に椅子は1つしかないんですが・・・」
「長居するつもりはないので気にするな。君に極秘任務を受けてもらいたくて来た」
「極秘任務ですか?」
「これを」
私は紙を受け取った。その紙には魔族の女性が描かれていた。
「この絵は?」
「魔王の娘だ」
「魔王の娘⁉」
現在、人間と魔族の間には不可侵条約が結ばれている。だからこの絵を入手できたのか?
「魔王の娘の絵を見せて私に何をさせようとしているんですか?」
「誘拐だ」
「なんですと⁉」
魔王の娘を誘拐⁉とてもじゃないができない。噂では世界を滅ぼす力を持っていると言われる女だ。目が合っただけで人間は蒸発するという話もある。
「私が魔王の娘を暗殺できる力があるとでも?それに魔都ゼルフェンにどうやって行けと?」
私は激しく詰め寄った。
「落ち着け。ほら、酒だ。最高級のワインだぞ」
ラベルをみると『コロモール』と書いてあった。コロモールと言えばコロモール村でとれるブドウで作られたのみで作られたワインのみが許されたものだ。だか偽物も多いと聞く。
「これは本物だぞ」
偽物と疑っていることを察してか、男が言った。
「飲んでみろ」
私は棚にあったグラスを取りワインを注ぎ飲んだ。
(雑味のない味、それにこののどごし・・・こんなワイン実家でも飲んだことない)
「どうだ上手いだろう」
「ええ・・・」
これは本物に違いない。
「では話の続きをしよう」
「計画はこちらが考えてある」
「計画?」
「ああ。ここアルコーンに魔王の娘を転移させる」
「転移魔法は国際条約で禁止されているのでは?」
私は貴族学校が出ている。だからそのくらいのことは知っている。
「それに転移魔法は射程範囲はせいぜい数十メートルのはずです」
「ほぉ、よく知っているな」
「!まさか内通者がいるんですか」
魔族の国バクレクスの王宮にはエルフや獣人はいても人間はいないはず、一体誰が???
「お前ほどの叡智に溢れた者がこんな辺鄙なところで小隊長なぞやっているとは嘆かわしいな」
そうだ。私は優秀なのだ。
「そんな君だからこと頼んでいるのだ」
「私だから?」
頷いていた。うれしい。親兄弟も私にそんなことを言ってくれたことはなかった。
「わかりました」
「どうだやってくれるか?」
「成功したあかつきには?」
見返りはそれ相応ものでないとな。
「好きな場所に転属できる。いや爵位と領地を与えられるな」
爵位だと。それは楽しみだ。
「わかりました。やります」
「おお」
「やってくれるか」
「君ならそう言ってくれると思ったぞ」
私は彼と握手をした。