再会のギルド
「何か凄い音がしたが──どうしたんだ、その若者は」
国家治安維持局局長のバラダーはギルドの運営実態を把握するべき立場にもある。
何か異常事態でもあったのかと顔を出したバラダーの前には壁に1人パイルドライバーを決めたような青年が目を回していて、職員たちもざわざわしており事態が飲み込めない。
「野生のロリコンが現れたので」
「なんだそれは。ショブージとは違うのか?」
「あれは飼い慣らされたロリコンなので」
「余計にわからん」
アイシャの説明では埒が開かないと判断したバラダーはベイルに確認してやっとその意味を知る。
「くっく。確かにそうかもな。こんなちんちくりんに結婚を申し込むか? 普通」
「人面けーーーんっ!」
「やめろっ、ばかっ。こんなところに間違ってでも来たらどうする」
「フガフガ……」
アイシャの口を抑えて羽交締めにするバラダー。
「アイシャ、その男の人はだれだ?」
そんな聞き分けのない子どもを躾けるような大人の行動は、ちょうど目を覚ましたクレールにはとても仲睦まじい関係に見えたようだ。
「ん? んー? (ヒゲの)素敵なひと」
「今顎ひげしか見てなかっただろ、おい」
バラダーの“変なこと言うなよ”という圧を敏感に感じとったアイシャの出来る限りいい風に言った言葉でクレールはショックを受けたと同時に対抗心を燃やした。
「そこの男! 俺と勝負だ!」
唐突なクレールの挑戦状にバラダーは冷ややかな視線を投げるが、たまにはいいかと応じることにした。
結果はバラダーの準備運動にさえならなかった。
今は局長などやってはいるが、長年にわたって実戦に身を置いていたバラダーのその戦闘力は凄まじく、頭の沸騰したクレールを苦もなく制してみせた。
まともにやればこの事務所は無茶苦茶になっていたことだろう。しかしそれはごく静かに行われて今の段階でアイシャの投げ以外の被害はない。
「若いな。健康的で無鉄砲でいいことだが、愚かさはいただけんな」
「すみませんでしたっ!」
相手の正体を知らされて、アイシャのこと以外に関しては常識人なクレールは腰を90度に曲げて謝る。
「まったく、本当に。自分とこのトップにケンカ売るなんて愚かと言われても仕方ないね」
「いや、アイシャ。俺が言ったのはこんな子どもに求婚することの方だ」
「なんだと無精顎ひげ」
「ぐぅっ⁉︎ これはおしゃれだ」
「私もおしゃれだ!」
「おしゃれで成長しないとかそんな事があるか、ばか」
「なにをぉっ⁉︎ これでもそろそろBには近づいているんだぞ」
「ふん、そんなもの無いに等しいわ」
「ああっ! 全世界のひんぬーにケンカ売ったな! 私が代表して買ってやる」
「やれるもんならやってみろ」
「代打、人面犬」
「すまん、謝る」
冒険者たちはもとより、そのトップも非を認めきちんと謝れる常識人らしい。
「まあ、あれだ。知り合いなのは分かっていたが、クレール。お前はこの3人を引率できるか?」
「問題ありません」
「ロリコンが問題なんだけどね」
「俺より強ければ歳など関係ない。それに3つしか変わらん。同年代ではないか」
言われてみればそうであるがアイシャとしては自分がまだ幼いという自覚があり、基準はそこにある。
「クレール先輩って本当に?」
「そうみたいだね、サヤは知っていたのか?」
「アイシャちゃんは否定していたけど」
「なあ、それなんだが、オールEのアイシャがなんでクレールを投げ飛ばせるんだ?」
ベイルの口にしたそれはみんなが思う疑問。何故クレールはアイシャを自分より強いと思うのか。
「アイシャは強い。それはステータスなどでは測れんのでしょう」
クレールはしみじみと言うがアイシャは違う。
「ロリコンはその時点ですでに負けてるのよ」
「何だそりゃ」
アイシャの迫真の表情で出された答えにベイルは呆れるしかできなかった。