A is too small
「なんで君がここにいるのさ」
女の子のいたところを呆然と見ていたアイシャに上から声がかかる。
「なんであんたはこんな景色の中でも真っ黒なのさ」
「よっと」
影はまるで生きているかのように屋根から降りてアイシャのそばに降り立った。
「あれだよ、ここの光がこの影を生み出しているのさ」
「全然わっかんない」
影は東屋のベンチに座り、アイシャに対面に座るように促す。
「エルフの件、ご苦労様。あれはまたどうしてそうなったのかと思わざるを得ないね」
「それは私もだよ。面倒でしかなかったのに」
アイシャはぬいぐるみを抱えている。
「君のぬいぐるみも大した性能だよ。そうそう、今言っておくけど君の持つ能力にこちらは干渉していない。あくまでも君の特性であり努力の結果だ。アミュレットはこの世界にないものだけどね」
「なんでそんなことを?」
「別に。便利なチカラの謎を超常のナニカのせいにしたくなる頃かもと思ってね。」
「まあ、確かに便利すぎると思わなくもないけど」
「まだまだ理想には遠い?」
「うん。私のお昼寝ライフは平穏とはほど遠いよ」
くっくと笑う影。
「それならまだまだお昼寝士は成長するね」
「んん? どういうこと?」
「欲する心なくして進歩はないのさ。『彼女』は欲している。でも恥ずかしがり屋の『彼女』は消えて隠れてしまったけどね」
「じゃあやっぱりさっきの子が」
「そう。でも会おうと思って会えるものじゃないんだよ。だいたい君はどうやってここに来たんだい?」
「それこそ会おうと思って来たわけじゃないよ。お昼寝館に向かってたらいつの間にか……雲の上だよ」
「あはー。なるほど。それは『彼女』が無意識に呼んだんだね」
影は何か思うところがあるのか、真っ黒なそいつの言葉は明るさを含んでいる。
「呼ばれたの?私」
「そうそう。不満だったみたいだよ。君が男の子とあんな事やこんな事をしているのが」
「なにそれ? 心当たりないし」
「まあ、いいさ。女の子たちとも上手くやってるみたいだし概ね『彼女』は喜んでいるわけだしね」
「その『彼女』もいないけど、私はどうしたらいいのよ」
「帰るのはそこからいつでも帰れるよ」
影はアイシャの登ってきた階段を指差して言う。
「こっちも忙しいからもういくよ」
「今回はなんか助言みたいなのはないの?」
この影が現れる時は何かしらの用事があったりするものだとアイシャは認識している。ただの雑談で終わるには、それほど個人的に仲がいいわけでもないはずだと。
「じゃあ、君はこのままオールEのままだよ。」
「おい」
「あー、それは辛いからひとつだけAでいようか」
「えっ、マジで」
「マジで。その胸のサイズだけは維持しようか」
「っざっけんなっ!」
アイシャの素足の蹴りは影には通用せず空振りした。
「まあ、冗談だよ。こちらは干渉していない。アミュレットだけだと言っただろ? 育たなかったらそれは遺伝かもね」
「じゃあ大丈夫! お母さんはおっきいから!」
アイシャの言葉に影は一拍おいて告げる。
「あれ、パッドだよ」
「マジでか」
思えばいつから母親の裸を見ていないか。いつからそんなサイズになっていたかアイシャは思い出せない。影はその言葉を最後に消えていった。




