雪の日の出会い
「こう連日寒いと買い物もつらいわねえ」
「ほんとに。うちの旦那ったら布団から出てこないのよ」
「うちの子どもみたいね」
ほほほ、と笑う声が聞こえる。
(サヤのお父さんも起きられないのか)
うちの子というのはつまりアイシャのことである。
「雪……この世界で初めて見たかも」
アイシャが布団にくるまって眺めていた窓の外には分厚い雲がかかっていて、白い雪がチラついている。
「あら? おでかけ?」
「うん。ちょっと外に出てみる」
「なんだか冷えるから風邪ひかないようにね」
「はぁーい」
アイシャは転生してからはじめての雪を見に外にでた。
街の南側にある山々はうっすらと白くなってきている。
街には積もるほどではないが、雪が舞い降りて人々の頭に薄く積もっていたりする。
街を散策するアイシャはいつもより人出が少ないのを見て、この街が雪に慣れていないのだなと思う。
(確かに冷えるけど、これでこそ冬って気がするよね)
転生前も雪の多い地方ではなかったが、毎年幾らかは降っていた。
もはやあまり覚えてもいない記憶だけど、アイシャは懐かしい想いを感じて足をすすめる。
「もうここで13年。忘れても仕方ないよね」
店を片付けていく果物屋。家の前をホウキではく金物屋。色んな人たちがいて、そんなところで育って来た。上書きされているものも沢山ある。
特にいく当てのないアイシャは自然と聖堂にたどり着いた。ずっとあのお昼寝館に通ってそこでお昼寝をしてきたのだ。
(それでも一生分寝たなんて事はないし、まだまだお昼寝するよ、私は)
つい聖堂裏手の聖堂教育施設に繋がる門へと向かっていき、門が開いているのを見て入っていく。
聖堂までくれば街のほぼ南端である。塀こそぐるりと回り込んであるが、共通教育棟の裏手はすぐ山である。
街中よりも雪は多い。
この調子ならお昼寝館の東屋辺りは少しなら積もっているかも知れない。
生垣の葉は枯れる事なくこの季節も青々としている。
通い慣れた階段を一歩ずつ登って着いた先。
遥か遠くに太陽が低く見えて、眼下に雲が広がっていた。
太陽の輝きをいっぱいに浴びた雲は、明るくどこまでも広がっていて、夢や希望を絵に描いたような景色だった。
思っていた景色とは違うが東屋は確かにそこにあって、ベンチに腰掛ける女の子がいる。
いつかの記憶にあるセーラー服を着て、肩までの黒髪は切り揃えられており前髪は眉に掛かるくらい。
大きな眼鏡は細いフレームでシンプルなデザイン。
綺麗な姿勢で座ってその子は本を読んでいる。
「あなたは──」
アイシャが声をかけ、女の子と目が合うと女の子は「なんで……」と呟き本で顔を隠したと思ったら風が吹いて光の粒になって消えてしまった。
『彼女』の登場ですね。意味ありげで何もないかもしれない。
『彼女』も活躍させて欲しいと思われたら感想で書いてください。どうにかやってみます。
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