悪ガキのたくらみ
アイシャのお昼寝館の木々もすっかりと葉を落とした頃には聖堂教育も休みに入る準備が始まりそれぞれに過ごした建物、訓練所、工房などの掃除をすることになる。
アイシャはもちろん、このお昼寝館の掃除であるのだが。
「大掃除なんてのは毎日ちゃんと綺麗にしてたらする必要なんてないんだよ」
イレギュラーでもなければアイシャはきちんとお片付けの出来るいい子なのだ。東屋は快適なお昼寝のためにいつも綺麗だし、落ち葉などは秋の焼き芋で大体処理されていた。
「だからお手伝いとかは要らないんだよ?」
そんなアイシャのお昼寝館を掃除名目でやってきたのは、アルスを含めた悪ガキ4人組だ。
「べ、別にいいじゃねえか。俺らんところはもう片付いたから休みに入る前にここからの景色を見に来ただけだし!」
「くすくす……」
マウントスイートポテトの時もそうだが、アルスは時折こうして現れる。そして例の如くにいちゃんネタで斬りかかってはコテンパンにされるのを繰り返す。
アルスはまだ9歳。13歳のアイシャからすればただの生意気なお子様で、基本的に自身の成長に自覚のないアイシャの返り討ちには肉体的接触が伴う。そう──アルスの思惑通りに。
要するに構って欲しいのだ。おそらくはアイシャ成分が切れて会いたい(卑しい)気持ちが勝った時にくるのだが、その度に返り討ちにあって、その手段に味をしめる。
このマセガキはいつも決まって袈裟斬りを繰り出す。そしてかわされれば手加減して打撃を除いた手段がやってくる。
武器を持たないアイシャはアルスを投げたこともある。背負いや足払いからの押して引いて転がす。
はじめはそれでもアルスは良かった。けれどある日背中から締められたのだ。チョークスリーパーというやつだ。
それはもう柔らかくていい匂いがしたらしい。
そうなるとこのお猿さんは病みつきだ。
締め技に入ると何故かギブアップせずに耐え出すアルスに困ったアイシャは投げてみるのだが、果敢に攻めてくる。
(剣術はダメダメなのになかなか根性あるじゃない)
元男のアイシャにはサヤたちのようなアプローチならいざ知らず、こうしてひた隠しにされた下心には気づかない。
関節をキメる。腕ひしぎ十字固めには絶対にギブしない。むしろ腕が暴れて抑え込むのにアイシャは腕も脚も胸も使ってしっかりとホールドする。
コブラツイストなんてのもやってみた。脚の形に戸惑って何度か(やけに協力的なアルスの補助もあり)やり直したりしたが、わめきはするもののギブしない。
袈裟固めの時などは顔を真っ赤にしてそれでも返そうと暴れるのを抑えたものだ。
そうしていつも締め落としてしまうのだが、その幸せそうな顔に(やり切った喜びかな。根っからの戦闘職なのかな)とアイシャは感心したものだ。
「勝負だ! いくぞ!」
待てないアルス。今日を逃せば次は年明けまでお預けなのだ。
いつもの誘いの袈裟斬りをアイシャは躱す。
(ウホッきたああぁ)
しかしそこに見舞ったのは鳩尾にめり込む膝蹴り。
「ぐほおっ、あうっふっ……ふぐぅ」
ご褒美しか求めていないアルスには痛すぎる打撃。
「掃除、したいんだったよね? 綺麗にしといてね」
ここのところ謎の根性を見せるアルスなら、と試しにかましたのだが、鍛えてるはずの者にしては柔らかすぎるお腹に一気に興味が失せてしまった。
アルスの作った水たまりを掃除するように言いつけて、アイシャはお昼寝館から去っていった。
アイシャは普通に可愛いんですよね。そんな子が全身をくっつけてくるんですから、痛みなんて気にならないのが男子、なのかな?
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