失敗してもリカバリーすれば良いじゃない
「話は本当だったのか」
「マンティコアがアイシャに呼ばれて来た時点で疑問に思うことなどないはずです。それよりアイシャが」
「ああ、あの濃密な魔力のそばでいつまでもは無事ではいられぬ。気が狂うかもしれん」
マンティコアの言質がとれたところで問題はあそこで土下座するアイシャの身の安全である。
『お主、もう良さそうだぞ』
「本当に? 顔あげてもおかしくない?」
マンティコアはふと(この娘、この体勢で何も見えておらんのだな)と思い
『ああ、既に解散しておる』
そう嘘をついてみた。
「なあんだ、早く言ってよね。アリが私の身体で登山しだしたからこしょばくって仕方なかったんだから」
身体をパタパタと払い立ち上がったアイシャは、マンティコアをポンポンと叩いて馴れ馴れしく接する。
「アイシャ、あなた何してるの……?」
「は?」
そもそもマンティコアの宣言だけで、その畏れられている本人がこの場を離れていないのだ。当たり前にみんな片膝も地面と仲良くしているままだ。
『お主は本当に愉快なやつよの』
「……いっそ蹴ろうか?」
『それも一興。勘違いしておるようだが、我が愚息とてここにいる者だけでは簡単に討ち取れはせぬぞ? そのあたり語ってみるか?』
「仲良くしよう」
恐ろしい顔を歪ませて笑うマンティコアにアイシャも笑顔で降参する。
「マンティコアの笑顔なんぞ見たことあるか?」
「この世界で喜怒哀楽の怒以外を知らぬ生き物と伝えられる魔物ですよ。あるわけないです」
会話こそ聞こえないが、アイシャから見たなんか偉い人なバラダーとエルマーナの驚愕の顔にアイシャも固まるしかなかった。
『“我が友よ”。また用があればいつでも来るがいい。次は人面犬などと呼ぶでないぞ』
我が友のところをやけに強調し、マンティコアは満足してさっさと帰っていく。
「こんのやろーっ!」
アイシャはその背中目掛けて石を投げるがマンティコアはヒラリとかわし、森の奥へと姿を消していった。
「おおっ! 女神様! ありがとうございます!」
感激したショブージが声を上げ、周りのエルフも感謝の声をかけ砦から来た人間もみんな驚きその場に佇むばかりである。
その光景にアイシャは盛大に失敗したことを知る。
「もう、女神様ってのはやめてよねほんと」
「なら、“マンティコアの友”か?」
アイシャの肩に手を置いたバラダーは間髪入れずにそう詰め寄る。
「いえ、私はただのお昼寝士です」
「あのパジャマも特別製よね、きっと」
ニヤと笑うエルマーナが悪戯っぽく言う。
「何だパジャマとは」
先日にこの森から生還した際にアイシャとフェルパは何故かパジャマ姿であった。
赤く染まっているとはいえ銀色のパジャマは魔術士の火球を受け止めたのだ。そのときのエルマーナの追求は会議のうちにシャワーを浴びてしれっと着替えることで躱したはずなのだが。
「人面犬ーーっ!」
「ばかっ! 呼ぶな!」
「私は! 私はこれからもお昼寝ライフを過ごすの! もう安息の地は人面犬のとこにしかないのかも知れない!」
「分かったから。もう何も追求しないから、帰ろうアイシャ」
「本当に?」
「本当に、よ」
バラダーもエルマーナも、さっきまでこの子を特別視していたはずなのに、今はなんだか残念な子でしかなく、盲目的なエルフたちとは違い人間たちからはおかしな子を見る目を向けられている。
意図した形ではなかったようではあるが、無事にアイシャのお昼寝ライフは守られたようだ。
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